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61話

 マリエルから宝箱の発見頻度と今後の授業計画の話を聞いた。

 色々思う所はあるが、俺に出来る事はほぼない。

 精々クロードを労わってあげようといった程度の話だろうか。




 明けて次の日。

 朝食の席で代理に呼び出しを食らった。

 昼食後の休憩時間に執務室に来るように、と。

 マリエルに心当たりがないか聞いてみると

 「ゴブリンの件に決まっているではありませんか。私からは報告出来ませんので、ギルドマスターからではないでしょうか。国に報告しないといけないといったような事も言われておられましたし」

 なるほど、確かに言ってたな。

 「しかし、てっきりマリエルからも報告しているものと思っていたが、出来ないとは?」

 「お忘れですか? 私は『契約魔法』により仕事中に知り得た秘密は、一切漏らすことが出来ないようになっているのですよ」

 「それ自体は忘れてはいないが、その様な報告しないといけなさそうな事まで漏らせなくなるのか?」

 「勿論です。でなければお客様に安心して通訳として利用していただけなくなるではありませんか」

 言ってる事はわかる。

 が、それは建前で、本音では監視役ってのが相場じゃないか?

 少なくとも、俺はそう思っていたのだが。

 となると監視は俺の邪推だったのか?

 いや、それなら何故あぁも付いて来ようとしたのかという疑問が残るのだが。

 ・・・・う~ん、わからん。

 強いて挙げれば、『駄目だこいつ・・・早くなんとかしないと・・・』と思われている可能性だが、流石にそんな事であんな行動はとらないだろうから違う気がする。

 まぁいい、監視であろうとそうでなかろうと、俺の行動に変わりはない。

 信頼するしないに関わらず、秘密は極力漏らさない。

 信頼して秘密を話すというのも信頼の証としてわかるが、その結果秘密が漏れるというのはよくある話だ。

 創作の中では、だが。

 別に裏切られると決めてかかっている訳ではない。

 だが、誰にだって大切な物や人はいる。

 それを盾に取られても尚秘密を守れと言われて守れる者など皆無だろう、と思っているだけだ。

 それなら最初から話さなければいい。

 知らない秘密は話しようがない。

 知られていない秘密もまた漏れようがない。

 それだけの話だ。

 ただ・・・そう、ただ思うのだが、それでも尚話してもいいと思えるような人物と巡り合えるのであれば、その一点だけでその人生は素晴らしいものであると言い切れるだろう。

 俺にとってはサクヤがそれに近いが、はたしてサクヤの境遇が今と違って普通に出歩けるものであったなら、俺は同じように秘密を打ち明けられたのだろうか。

 小心者の俺は打ち明けられなかったのではないか、と思ってしまうのだ。

 もっと言えば、今でも全てを打ち明けた訳でもないし。

 我ながら情けない話だ。

 幾らレベルが上がり能力値が上がっても、中身は大して変わっていない。

 弱い一般人のままだ。

 それが悪いとは言わないが、心も相応に強くなってくれればいいのにな。

 ・・・でも、それは最早別人か。

 強くはなりたいが、強くなった別人にはなりたくない。

 俺は一体どうしたいのだろうな。

 「ルイ様? どうかされましたか?」

 マリエルに声をかけられ、思考の海から帰還する。

 「いや、益体もない事を考えてしまっていただけだ、気にするな」

 本当に益体もない事だな。




 昼食を終え、代理の執務室に向かう。

 因みに午前に受けた教養の授業だが、何を習うのかと思えば歴史だった。

 と言っても絵本レベルのこの国の歴史なので、既に聞いていた程度の事しかわからなかったが。

 教養と言うと一般教養を連想するが、具体的に何を学ぶのかと言われると曖昧過ぎてわからなかったのだが、基礎的な知識を広く浅く学ぶらしい、当面は。

 その一環として今日は歴史だったようだ。

 しかし代理には何言われるのだろう。

 嫌な予感しかしない。




 「では、本当の事を話してもらおうか」

 代理の執務室で対面に座ってからの最初の一言がこれだった。

 マリエルが言っていた様に、わかる者にはわかってしまっているようである。

 「本当の事と言われましても、俺は嘘など一切言っておりませんが」

 嘘は言ってない、本当とも言い難いが。

 だが例えそうでも嘘は言っていないので、堂々とそう言い返せる。

 ここで重要な事は、『本当の事』に余り反応しない事だ。

 本当とも言い難い事を言っているのだ、そこに突っ込まれると困るからな。

 しかし俺の答えに不満があるようで、僅かに顔を顰めている。

 本当に僅かだが。

 これも代理の立場からすると致し方ないことだろう。

 今は貴族でも元々は王族、その元王族に真正面から嘘を、少なくとも代理は嘘と思っているであろう、ついているのだ、身元も定かではない平民風情が。

 王族や貴族など表情筋は感情ではなく理性で動かすものだろうが、平民風情が、今までそんな見え透いた嘘をつく者などいなかったであろう王族に、こうも堂々と嘘をついているのだ。

 余りの激情に怒鳴り散らしてもおかしくはないだろう。

 寧ろ極僅かに顔を顰める程度に抑えられているのなら、代理の自制心は相当なものであろう。

 こういう所から考えても、やはり代理とは上手くやっていきたいものである。

 言動と一致しないって?

 それはそれ、これはこれ、というものですよ。


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