59話
代理の屋敷に戻ってから、魔剣の扱いについて話し合った。
話し合ったと言うか、押し切られただけとも言うが。
その際に変人扱いされたが、そこまで変ではないはずだ。
今日は晩餐に参加した。
屋敷に居て時間的に間に合うのに参加しないのも失礼だなと考えたからだが、やはり食事が余り美味しくない。
美味しくないと言っても味が薄いだけだが。
手持ちの幾つかの香辛料を使わせれば劇的に改善されるのはわかりきっているのだが、下手なことをして面倒事に巻き込まれるのが嫌なので、今のところ差し控えている。
と言ってもそう種類があるわけでもないが。
お勧めは、魅惑の調味料ハ・バ・ネ・ロ。
暴君で知ってから、これはお気に入りの一つである。
まぁ、共感を得られたことは実は一度もなかったりするのだが。
そして現在は自室でまったりしている。
「ルイ様、今日はごゆっくりされておられるようですので、お風呂に入られては如何でしょうか?」
「・・・・風呂があるのか?」
「勿論です、貴族のお屋敷でお風呂が備わっていない家は余りないと思いますよ。平民は流石に少ないですが、それでもない訳ではありませんし」
正直意外だ。
貴族ならまだわかるが、風呂とか薪を準備するのも一苦労・・・魔法か!
自分も魔法で風呂の準備をしているのだ、ここでもやっていておかしくはない。
いや、やっていない方がおかしいくらいだろう。
「やはり魔法で準備されているのか?」
「魔法でと言いますか、魔道具で、ですね」
おぉ、魔道具!
サクヤから大雑把には話を聞いていたが、かなり興味があったのだ。
「それは実に興味深い。魔道具とか接する機会が碌になかったから余り知らないのだが、魔力を通せば所定の効果が得られる道具の総称、で合っているだろうか?」
「魔石を代用しているものも多いですが、概ねその通りです。ただ、特殊なものが多いので余り一纏めに考えられない方がいいかと。高価な物が多いので、私も然程詳しい訳ではありませんが」
「やはり高いのか?」
「高いですね。平民などなら大半が一つも持っていないのではないでしょうか」
「例外的に冒険者は平民でも魔道具を持っている者も多くなりますが、買った物以外にもダンジョンなどで入手した物をそのまま使用している場合が多いですね」
「とは言え、そのような者は高ランク冒険者や極一部のPTだけであり、ダンジョンで宝箱が見つかること自体稀ですし、中身を選べる訳でもありませんので、必要ないから売ってお金にというPTも多いです」
「必要な物でも泣く泣く売ってしまうPTも少なくないですが。一つの高額な装備より、PTメンバー全員のそれなり以上の装備の方が有用ですから。死んでしまっては折角の装備も価値がありませんしね」
「こう言っては何だが、わかっていても売れない冒険者もいそうだな」
「いますね。でも、そういった適切な判断ができない、運が良かっただけの者は遅かれ早かれ死ぬことになります。危険はモンスターだけではありませんから」
それってつまり、俺がゴブリン相手にやったネタの事か。
だが、十分にありえる話だろうな。
当たり入りの宝箱なんて相当レアだろうし、それを見付けるより見付けた者から奪う方が明らかに早い。
当然犯罪行為だがそれでも尚って者もいるだろうし、それ所か犯罪とか気にもしないって者もいるだろう。
しかし宝箱か。
俺は一度もお目にかかったことがないんだよなぁ。
サクヤにも理由はわからず、運が悪かったのだろうという事になっているのだが・・・。
「因みに、どれくらい潜れば見付かるかという目安とかは知らないか?」
「目安、ですか?」
「あぁ、実は俺はダンジョン探索ばかりやっていたのだが、一度もお目にかかったことがなくてな。向こうでは余り大っぴらに動いていなかったので、そういった情報にも疎いしな」
「あぁ、なるほど。それで・・・」
それで?
「何かおかしかったか?」
「いえ、ルイ様が強さの割りに探索に余り慣れておられないようでしたので、どういった事なのかと疑問に思っておりました」
ばれているだろうなとは思っていたが、やはりばれているか。
「わかるか。俺の国ではモンスター退治は国の、こっちで言えば騎士や兵士の仕事で、それ以外の者が手を出す事はほとんどないのだ。その分騎士や兵士の人数も多いだろうし、税金も多いのだろうが」
「俺のように騎士でも兵士でもないのにモンスターと戦う者は、国の許可を得てダンジョンに潜る、こっちで言う冒険者だな、探宮者という仕事があって、その仕事に従事している者くらいなのだ。そしてダンジョンに潜るのが仕事なので、それ以外ではモンスターと戦う事もない」
嘘は言っていない。
戦う以前にいない訳だが。
「探宮者、ですか。でも、騎士様や兵士の方だけでモンスターの相手をするのは難しいでしょうに」
「だからこその探宮者なのだよ。騎士や兵士になれない者、なりたがらない者でもダンジョンに潜りたいという者は少なからずいる。そういった者達を少しでも取り込む為の処置が探宮者という訳だ」
「騎士様はともかく、兵士になら難しくはないのではないですか? ダンジョンに潜れる位に強いのであれば」
「それに関しては、国の在り方や国民の考え方の差だろうな。誰かがこちらの方がいいのにと考えるやり方を誰もがいいと考える訳ではないということだ」
俺の場合、年齢制限に引っかかっただけだが。
「それは、そうかもしれませんね」
「話が大分逸れてしまったな。風呂があるなら頂きたいのだが、いきなり行って大丈夫なのかな?」
「いえ、先ずは私が聞いて参りますので、少々お待ちください」
そう言って部屋から出て行くマリエル。
それを見送りながら、少し考え込む。
つい色々話してしまったが、不味かっただろうか?
・・・・大丈夫だろう。
何時も通りぼかした言い回しはしておいたし、『契約魔法』の効果で聞いた話は漏らせないはずだ。
仮にそれが嘘だったり抜け道があるのだとしても、あの程度なら問題にはならないだろう。
だが、余り気を許しすぎるのは危険かもしれない。
こういった雑談から、つい秘密にしなければならない事を漏らしてしまうなんていうのは、ありがちな事だろうから・・・。