第5話-3
その時、誰かがあたしの体を会長の方へ突き飛ばした。会長はあたしを抱き支える。
え? 誰があたしを助けてくれたの? 与謝野さん? ううん、与謝野さんはあそこでぐったりと座り込んでいる。
じゃあ一体誰が……。
あたしは自分がさっきまでいた場所に目を向けた。
「き、霧原さん?」
霧原さんの体は天井の瓦礫の下敷きになっていた。見えるのは顔半分だけ。
「どうして……?」
霧原さんなら能力を使えば、あたしなんかどこへでも飛ばすことができるのに。
あたしが疑問の眼差しを向けると、霧原さんが残った右目の目線を動かしてあたしの顔
を見て微苦笑する。
「君を選んだのは失敗だったかもしれませんね」
「霧原さん!」
あたしの足は霧原さんを助けるため自然と動き出す。
「やめろ、つぐみくん。もう彼は助からない」
「そんなのやってみなきゃわかんないじゃなですか!」
止める会長の手を振り払う。
(さっさと逃げなさい)
霧原さんの声が聞こえてきた。
「彼の言うとおりだ。早く逃げないとここにいる全員が死んでしまう」
あたしは眠らされている他の超能力者のことを思い出した。
「……はい」
あたしは小さく呟いた。
「結子、皆を連れてテレポートする。まだ能力は残っているな?」
「当然よ!」
与謝野さんは傷ついた体を引きずりながら気丈に返事をする。
会長と与謝野さんのテレポート能力によって、あたしたちは研究所の外に出た。上にいた伊能センパイもしっかり避難していたみたい。
力尽きた与謝野さんはその場に倒れこむ。伊能センパイが与謝野さんの体を支える。
研究所は地下に沈下し、まさに音を立てて倒壊していった。
あたしはしばしその光景を呆然と見つめていた。
霧原さんはどうして最後にあたしを助けてくれたりしたんだろう。
霧原さんのことだから、何とかして脱出したかもしれない。無事逃げ延びてどこかに隠れているのかもしれない。
あたしはそう思うことにした。
「今回は少し危なかったみたいだね」
伊能センパイが会長の肩をぽんと叩く。その口ぶりからすると、伊能センパイは知ってたんだ、会長の正体を。
知らなかったのはあたしだけ?
「危ない目に合わせて悪かったな」
あたしは無言で首を横に振った。
「でも、良かった。つぐみくんが無事で」
あたしは会長の顔を見つめた。これがいつもへらへら笑っていたおバカな人間と同一人物とは思えなかった。
「ホントに会長なの?」
「いやだなー、つぐみくーん。ボクですよー」
コロッといつものニコニコ顔の会長に戻る。
「あはは……」
あたしは乾いた笑い声をもらす。
「あれぇ?」
会長の顔がピカソの絵みたいにぐにゅうって崩れ始めている。いや、会長だけじゃない。伊能センパイも与謝野さんも、そして、周りの木々も皆ぐにゃぐにゃ。
「つぐみくーん?」
会長の声がどんどん遠くなっていく。
そこからもうあたしはどうなったか覚えていなかった。




