『事件』
ニュース番組の女性アナウンサー千倉綾子は事件の概要を伝える。
「では次のニュースです。目的やその方法は? 渋谷近辺で起きている連続放火事件の続報です。昨日未明、東京都渋谷区道玄坂にある雑居ビルの一階にあったカフェ店が、何者かによって放火される事件が起きました。また、現場から半径二百五十メートル近辺の駐車場で自動車二台が放火される被害にあいました。駐車場に設置してあった防犯カメラの映像には、恐らく火炎放射器のような物で炎を車に浴びせる映像が映っていました。事件はここ数日渋谷近辺で五件確認されており、警察は同一犯の犯行とみて捜査しています――」
夜。東京都渋谷区道玄坂某所。七時半過ぎ。カフェの事件現場。
所轄の鑑識がいなくなった頃を見計らって、三人の男女がやって来た。角刈りの中年の男が、現場前に立っている警察官に手帳を見せる。
「警視庁公安部特殊公安第一課、異態特別事件対策係の後藤だ。現場をちょっと見せてもらう」
「お疲れ様です! どうぞ!」
三人はテープを潜り、焼け焦げた店内へと入って行く。店内に入る前から微かな力の痕を彼女は感じていた。それは中に入ると確信に変わる。
「間違いないです。同一犯の犯行です」
彼女が店内に足を踏み入れた瞬間だった。長い黒髪をポニーテールに結んだ木村陽菜は二人にそう伝えた。
「木村警部、それは確かか? さっき行った駐車場とも同一犯か?」
角刈りで鋭い目つきをした後藤辰巳は陽菜に問い出した。
「はい。後藤係長。他の事件と同様の力の痕を感じます。間違いありません」
二人の会話に爽やかな印象を受ける野原哲夫が入ってきた。
「陽菜さん、後藤さん。やはり能力者の仕業なんですね?」
後藤は頭を右手で掻きながら答える。
「そうだ野原警部。この渋谷近辺で今晩も車両で張り込みだ。気合い入れておけ。今日こそ尻尾を掴んでやる! その前に一度本庁に戻るぞ。」
後藤はそう言うと車へと向かって行った。哲夫は現場にしゃがみ込んで、焼けただれた店内を見渡す陽菜の右肩を叩いた。
「行きましょう陽菜さん。今夜も徹夜ですかねー? 全く、まさかこの『異態』に配属されるなんて、僕は思っていませんでしたよ」
「哲夫君。それは仕方ないよ。何せこの私があなたを『見抜いた』んだからね。それと係長は一度決めたら岩のように動かないからねー。今夜もきっと徹夜。それに、私がいないと相手がいざ力を使った時『どこにいる』か分からないしね。じゃあ行こっか?」
「はい!」
陽菜は立ち上がり、哲夫と共に後藤の待つ車へと向かった――。