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MIDNIGHT  作者: 赤良狐 詠
チャプター1 日常+非日常
3/16

『それぞれの力』

「サイコキネシス以外に何かできるのでしょうか?」


由真の疑問に千夏が率先して意気揚々と手を挙げた。


「はいはーい! じゃあまず私からちょっとやってみます! うーん……」


 千夏は目を閉じて集中して徐に彼女は両手を広げた。


「ん?」


千夏は何かを感じていた。湧き上がるような気がした。そして、その次の瞬間、手の平で火の玉、水の玉、丸い土の塊、目に見える渦巻の風、少し眩い光の玉が舞い上がった。目を開けた光景に彼女はうっとりとする。


「すごく綺麗――形が変われって思うとすぐにそれになる――すご!」


 千夏は火、水、風、土、光を自在に操り、作り出すことのできる力だった。その五つは、猫の形や円形など自在に形が変化できる能力が備わっていた。それはまるでお手玉をしているような光景だった。


「千夏スゲー! 俺にもできるかな? うーん……いでよ我が力! はぁぁぁぁー!」


 両腕を大きく広げた英明は瞬時に同じことができた。火、水、風、土、光の球体が英明の頭上でくるくると回っているのを見て由真とめぐみは拍手した。


「俺にもできた―! すげー!」


 その信じられない光景に由真は興奮して声に出す。


「すごいですね千夏ちゃん、英明君!」


 めぐみは羨望の眼差しで二人を見つめる。


「ヒデ先輩! 千夏先輩! カッコ良いです!」


 すぐにめぐみも由真も集中して試してみるが、できる気配はなく瞳の色も変化はない。


「うーん……私とめぐみちゃんではできないですね……何故でしょう?」


「めぐみもできないです。みんなが使える力ではないんですかね?」


「すごい! 何かこれってとんでもない事だよね? あ! あああああー!」


 千夏は目を輝かせながら話していたが、一大事をやらかした。 


「あ!」


 一同もそれを見て声を出した。


「壁が! やっちゃった! ごめんなさい! ごめんなさい! あー! 何とかごまかせないかなー?」


 千夏は手の平から五つ全てを溢してしまい、視聴覚室の壁を壊した――貫通した訳ではなかったが――慌てふためきながら二回頭を下げる姿の千夏を見て英明は嘲笑う。


「バカだなー千夏は。こんな簡単にできっあ! おっとっとっっっとぉ!」


 英明は五つのバランスを崩し、千夏と同じようにさらに近くの壁を破壊した。それを見て由真は深い溜息をついた。


「はぁー……英明君! 何をやっているんですか!」


「すいません……でも、千夏も同じことを……」


「それはそれ! これはこれです! 全くどうしようもありませんね英明君は!」


「ははは、は、は……は……は……お、俺にもできるんだなー? でも、由真先輩とめぐみちゃんができないってことは……どういうこと?」


「そんなことよりさ……この壁どうすんのよ……」


 千夏は自分の仕出かした過ちに項垂れていた。めぐみは何かを感じた。


「ん?」


引き寄せられるように、壊れた壁に向かって両手を翳す。そして意識を集中させた。元に戻れと願った訳ではなかったが、自分にできるのではないかと感じた。すると、淡い紫色の光が手の平に浮き出て床に飛び散った破片を吸い寄せて、瞬時に元に戻った壁は何事もなかったように直った。


「すごいめぐちゃん! これで証拠隠滅できたね! あぁー。良かった―!」


 千夏はその壁が直っていくのを見て安堵しめぐみの能力に心から感謝し安堵したようだった。めぐみが壁を直したのを見た英明が光の玉を作った。


「お! できた。よーし」


英明はにやりと笑って光の玉をそのまま壁に向かって投げ壊した。それに一同茫然としたが、すぐに気持ちを切り替えた千夏が英明に怒りをぶつける。


「な、なんてことすんのバカ! せっっかく今直したばっかなのに!」


「まぁまぁ。ちょっと見てろよ」


 英明は自分で壊した壁に手を翳すと瞬時に紫色の光が現れ修復された。それを見て一同はまた驚嘆した。


「英明君にもできるんですね。どうしてでしょう?」


 由真が冷静に分析しようとする。壁を直した英明は得意満面な顔でみんなを見た。


「どんなもんだい!」


左手でピースした英明の人差し指に血の滲んだ絆創膏があった。めぐみは首を傾げた。


「ヒデ先輩、その指の傷はどうしたんですか?」


「ん? これ? 昨日久しぶりに家事手伝ってたら、包丁で指切っちゃってさぁ。何で?」


「ちょっと……良いですか?」


 めぐみはやけに顔を赤らめながら英明に近づいて絆創膏を剥がした。綺麗にぱっくりと切れた傷が痛々しかった。


「え!? どうしたのめぐみちゃん!?」


 めぐみは緊張し震えながら英明の左人差し指を両手で覆った。紫色の光が瞬時に現れた。彼女が手を退けると痛々しかった英明の傷は跡形もなかった。


「おぉぉぉ! めぐちゃんすごい! つまりこれって――」


 千夏が興奮気味に言う前に由真が答える。


「めぐみちゃんは、どんな物でも傷であろうと再生させる能力、ではないでしょか?」


「めぐちゃんすごいすごい!」


 千夏はめぐみに駆け寄って抱きしめた。めぐみは照れくさそうにしながら頬を掻いた。由真は顎に右手を当てた。


「では、最後に私ですね……どうやるのでしょう? めぐみちゃん、さっきはどうして自分の力が分かったのですか?」


 めぐみは人差し指を突き合いながら返答する。


「なんていうか……自然と頭のどこかで感じたというか……そのー……良く分かりません! すいません由真先輩!」


「めぐみちゃん、謝らなくても良いですよ。こんな事で怒ったりなんてしません……自然と頭で感じる……」


 由真は自分の力が何か確かめるように、目を閉じて神経を集中する。すると由真は、ふわっとした感覚に襲われた。


「ん?」


 由真が目を開いた先に映っていたのは、時間が止まっている光景だった。自分の能力は時を止めるのかと思った。信じられない程に静寂した中、みんなのペットボトルの場所を移動させてみた。

 その時、微かにみんなの瞼が動いている事に気が付いた。由真は能力を止めようと集中する。それはすぐにできて、彼女は安堵した。一生そのままの世界だったらどうしようかと思ったのだ。

 そんな由真の心配を上回る一同の驚き具合はすごかった。何せさっきまで隣にいた由真が、その場所から一瞬で移動したのだから。


「うわー!! 由真先輩の能力って瞬間移動ですか!?」


 千夏がまた興奮気味に言ったが、由真はそれに対しての答えを出した。


「いえ、そうではないようです。超高速での移動ができる能力のようです。まるで時が止まったような感じの光景でした。その証拠に皆さんのペットボトルが移動してるでしょ?」


 三人は自分達のペットボトルが移動されているのに気付いた。


「おぉぉぉぉ!!!!」


 一同が驚き、そして英明が一応声を出した。


「じゃあ、ちょっと俺もやってみようかな」


 英明は目を閉じて集中した。それは一瞬ふわっとした感覚に襲われ、由真が言っていた時が止まったような光景を見ている。不思議な感覚だと英明は思った。そして、元に戻ろうと目を閉じて集中する。


「何だよこれ……静かすぎる……」


 何も音のない静寂が少し気持ちを不安にさせていた。周囲の雑音が耳に入ってきた。英明は目を開け、すぐにみんなに伝えた。


「……俺にも……できました」


 千夏とめぐみも集中してもできなかった。そこに由真が一つの可能性を提示した。


「恐らくです。推測ですが、英明君は相手の能力を見ることによって、その力を使うことができる万能な物ではないですか? それは一度見てしまえば、自在に操ることのできる能力なのでは?」


 一同はその意見に納得した。


「おぉぉぉー! 何か映画の主役みたいだな。俺……」


 そして、全員が適当に腰を下ろす。今さっきまでのことが現実で夢でないことを確認するように、また自分の力を使ってみた。それは現実で夢ではなかった。真剣な表情でこの事態を考える。由真が(うそぶ)く。


「この力を使うことは無意味です! ですから、私達だけの秘密です。誰にも話してはいけません! これは絶対です! 特に英明君! 特に気を付けてください! 他の皆さんも慎重に行動してください。では、気を付けて帰りましょう」


 時刻は六時を過ぎていた。それぞれが言葉にできない思いがあった。なぜこんな力を手に入れたのだろうと――誰も由真の話の後に発言することはなかった。


「では、皆さん賛成ですね?」


「……はい」


 三人はまるで親に怒られた子供の様に顔を俯きながら答えた。こんな力を何かの為に使うことなどあるのだろうかと英明は思った。それはみんな同じ気持ちだと思う。

 こんな力を持っていて得でもあるのだろうか? しかし、今はこの現実をただ受け入れるしかないのだった。


 下校する為に三階から下駄箱に向かう途中で誰も口が開くことはなかった。靴を履きかえて学校を後にする。千夏と由真は自転車置き場に向かって、英明とめぐみは少し二人を待ってから校門でそれぞれが別れる。


 英明が――。


「じゃあ」


 千夏が――。


「また」


 めぐみが――。


「明日」


 由真が――。


「気を付けて」


 それぞれが帰路につく。何か言いようのない不安を抱えながら帰路の景色を見る。その景色はいつもと変わらない。変わってしまったのは自分なのだ。突然彼らは非日常の世界へ足を踏み入れた。


「これからホントにどうなんだろ?」


 英明は陽が落ちる空を見上げながら、ふと心の声を口に出した。駅に着き定期で改札を通って電車に乗り込む。いつもと変わらないくらいの人混みの中。つり革を握りながら、電車の窓から見える景色が、いつもと変わらないことに安堵した。


 千夏は自転車でいつも通りの帰り道をただひたすらに、住宅街の家まで漕いでいた。信号待ちになった時に、立ち止まるとふと空を見る。日は沈み、もう夜が来る。変哲もない日常を少しでも感じながら、信号が青になるを待っていた。


 めぐみは徒歩で帰り道の空を見た。夜の闇が太陽と入れ替わろうとしている景色を少し立ち止まって眺めた。自分の両手を見つめ、何度か握っては開くを繰り返すと、また自宅へ歩き出した。


 由真は自転車で雑踏とした人混みを通り抜ける。時には人の多さから自転車を押したりしながら、マンションまでの道を周りなど気にも止めずに、ひたすら一心不乱に走っていた。


 四人はそれぞれ家に帰るとすぐに自室へと向かった。夕飯まで心の整理をしたかったのかもしれない。


 英明は二階の自分の部屋で手の平に火を出した。


「現実なんだな」


 千夏も時を同じく二階の自分の部屋で手の平に光の球体を出し、それを眺めながら今日の現実に向き合う。


「これって何のための力なの?」


 めぐみは平屋の家に帰ると、すぐさま自室のベッドになだれ込み、枕に顔を埋めていた。


「なんだか怖いよ――ヒデ先輩――」


 由真は二階にある部屋で、ベッドに横になって天井をただ眺めていた。


「こんな力が役に立つ時が来るのでしょうか?」


 それぞれが普段通りに夕食を家族と食べる。


 英明は両親と中学二年の妹の杏里(あんり)と。


 千夏は両親と中学二年の弟の広大(こうだい)、小学五年の妹の葉月(はづき)の五人で。


 めぐみは母親と、大学三年の姉のみゆき、おじいちゃん、おばあちゃんの五人で。父親は仕事でまだ帰宅していなかった。


 由真は両親と三人で普段通りに食事した。


 その後、四人それぞれ家族と他愛もない雑談を交わした。そして、それぞれの時間でお風呂に入った。自分の身体を脱衣所で見つめる。由真が心に思ってる事を声に出した。


「何も変わってない」


 千夏はまた少し大きくなってきた胸を心配した。


「――そろそろ新しくブラ買いに行こう」


 そう呟くとお風呂に入る。


「誰にも言わない。決めたことでしょ? めぐみ。自分をしっかりと保って!」


 めぐみは鏡の前でそう自分に言い聞かせた。


 英明は湯船に浸かりながら、お湯を操ってみた。


「お! すご!」


 自分から作り出すこともできれば、既存の物も動かせるのかと新しい発見をした。普段通りにお風呂から出ると、英明は明日の予習をし始める。


 千夏は自分の部屋でテレビを見始める。


 めぐみは家族全員で松田優作主演の映画『人間の証明』を見始める。


 由真は自室で予習と復習を始める。


 時刻が十一時頃になると英明は一階に下りて、洗面所で歯磨きをして自室に戻りベッドに横になった。


「今日って現実だったのか?」


 英明は手に入れた力のことで頭がいっぱいでなかなか寝付けなった――。暫くは寝返りを繰り返していたが、一時頃には眠りについた。

 

 千夏は十二時になるとテレビを消して歯磨きをして眠ろうとした。しかし、今日のことで頭が独占され目を閉じると脳裏に浮かぶ。


「うーん――ダメだ。考えちゃうなぁー。もう――」


 何度も寝返りを打ってなかなか寝付けずにいた。だが、ある程度の時間目を閉じていると、いつの間にか彼女は寝ていた。


 めぐみは物語に感動し涙を流していた。隣で見ていた姉のみゆきも同じく涙を流していた。映画を見終えると時刻は零時を超えていた。歯磨きをして自室に向かいすぐに眠くなり、今日の事が嘘であると願いながら就寝する。


「めぐみ――これからそうなるんだろ?」


 由真は零時過ぎには予習と復習を終わらせ、歯磨きをしてすぐに自分の部屋に戻る。明かりを全て消して暗闇の中で目をつぶるが、今日起きた事件を信じることができず何度も思い返す。


「――何があっても時間は進むのね――」


 目をつぶったままで、どれだけの時間が過ぎたか分からない程、彼女は長く寝付けずにいた――。時計を確認するともう二時半を回っていた。目を閉じていても頭が稼働している。今日の出来事が影響していることは間違いない。


 ――不安――。

 ――恐怖――。


 彼女の頭から、この言葉がずっと浮かんで消えることはなかった――。

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