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第二章「急襲」②

 巨体が崩れ落ち、砂塵が舞い上がる。嘗めるように巨影が滑り私の体が太陽に照らされ眩しさに目を細めた。この砂漠地帯にあっても対熱耐性を持つ私は汗一つかかない。

「敵性反応なし! 撤収します!」

 王都から連れてきた騎士達に号令をかけるとテキパキと撤収準備をはじめてくれる。私が選抜した騎士達は誰も優秀だ。

 私は振り返り、今回私が討伐任務に駆り出される原因となった魔獣――「デスストーカー」と聖典によって呼称された――をしげしげと観察する。

 見た目はサソリに似ているが、体長は15メートル尾の長さは12メートルもする異貌。砂漠にまぎれる迷彩柄の甲殻と岩石すら断ち切るであろう鋏。力なく垂れ下がった尾針には死を運ぶ猛毒が今なお滴り落ちてる。

 魔獣デスストーカーは、グランファル聖王国が保有する筆頭英雄に比肩する武力を持つ私「リッカ・アルベリーカ」には問題ない相手だったが、他の人だったら苦戦していたと思う。1匹ならまだしも5匹いたのだから。

(やはり聖典は正しい……)

 リッカはこの聖王国の人間なら、生まれてから死ぬまで抱くであろう感慨にひたる。


(だけど――)


 今回私に言い渡された任務は、勇者召喚に合わせるように襲来すると予言された新種の魔獣の撃破だ。


 魔獣とは人族、魔族にも属さない害獣のことであり、その一部、人族に従うものを聖獣あるいは幻獣、魔族に従うものを魔物あるいは悪魔と呼び分けている。

 魔獣は強大であればあるほど人にも魔族にも従わず、両者からは天災とされ忌避または利用される。

 ドラゴンみたいに知性を持つ魔獣もいて、人族、魔族の他に第3勢力を興しているのではという研究もあった。


 巨大サソリが炭化するように黒くなって消え去ったのを確認して、仲間達と合流する。


(王都に帰るころには夕刻になるかな。シアはちゃんとやってるといいけど)


 リッカは幼馴染であり妹のように思っている聖女アイシアの顔を思い浮かべた。


 筆頭英雄と同レベルの力を持つリッカの役職は聖女騎士である。

 どんなに魔族との戦線が激化しても聖女の傍を離れることのないリッカが魔獣の相手などをさせられたのは、無論それが聖典の指示だったからだ。


(確かに今回の魔獣は強敵だった。でもこんな時に――勇者召喚というシアの大舞台の時に、わざわざ聖女騎士の私を魔獣討伐に使うなんて)


 リッカは聖典の指令を受けた時から、小さな棘のような不安を抱えていた。それはじくじくと痛みを増し、ついには出血するように。


(――いや、違う)


 今回からじゃない、もっとずっと前からだ。


 もっとずっと前にその棘は刺さっていた。


 そうそれは確か、先代聖女――アイシアの姉が死んだ時から――。


『緊急事態です』

「――!? どうした!?」

 それは王都からの通信魔法だった。

 緊急と言いつつも、相手に焦った様子はない。

 当然だ。

 聖典に従う限り聖王国に、そして国民に不利益が生じるはずが無いと誰もが確信して疑わないからだ。

 あるいはその緊急事態すら聖典には折り込み済みかも知れないと思っているのだろう。


 リッカが信じきれなくなった聖典に。


「神殿が破壊され――聖女が行方不明になりました」

転移テレポート!! 王都ナグルジア!!」

 

 リッカは全てを置き去りにして転移魔法を起動した。


 速く! 速く! 彼女の元へ! 


 私はお姉ちゃんに、シアを頼まれたのだから――!!


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