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第二章「急襲」①

 時刻は昼下がり、吸血鬼にとってはあまり活動したくない時間帯。

 ここは聖王国王都の宿屋。

 俺は隣で寝ているアイシアをぼーっと眺めていた。


(やっちまったぁ……)


 ああ、もちろんそっちの意味でやっちまったわけじゃない。そんなことをすれば放送禁止になってしまう。

 俺がやっちまったと言うのは昨夜の一件全てである。


 あのあと――魔人を倒したあと、異常に気付いた人間達が押し寄せてきたため、アイシアを連れて逃走した。

 眷属になったアイシアは、もう魔族と変わりは無いため人の輪に戻すことはできない。さらに聖女は有名人らしいので今は認識阻害魔法で顔を隠している。

 それから俺たちは王都に降りた。もう日が昇る頃だったために、深夜でも受付している宿屋を見つけたが、勇者召喚の話は広く知られているらしく、ほとんどの宿屋は満員。一人部屋が奇跡的に空いていたので仕方なくそこに泊まった。明日の朝には破壊された神殿を見て、かなりの騒ぎになるだろう。

 造りも調度品もそこそこの部屋に入ると、疲れていたのかすぐにアイシアはベッドに潜り込み寝息をたて始めたので、俺も面倒になって隣で寝てしまった、というのが顛末だ。

 ちなみに宿代は、影に取り込んだ奴らの装備品を剥いだ。肉体以外はそのまま消化するか吐き出すかを自在にできるのである。

 

(さすがに眷属化はやりすぎたよなぁ……)


 彼女の可愛い寝顔を見ていると罪悪感が湧き上がってくる。日差しを遮るために締め切った窓から漏れた光が、銀の髪に反射した。

 自分でいうのもなんだが、俺は人並みの正義感と倫理観くらいは備えていると自信をもって言える。

 なぜなら日本に転生してからというもの、しばらくは表に出ずひたすら常識を学び取り、一般的な価値観を獲得したからである。

 しかし、昨晩のはまずかった。

 完全に魔族的思考に汚染されていた。

 途中からは多少ましだったかと思うが、アイシアを眷属化してしまったのがピークで、しかも魔人及び魔族を虐殺したのも、思い返してみれば「なんかウザかったから」である。

 それに少し聞いただけだが、勇者召喚は国の総意であり、聖女として俺を召喚したからといって彼女一人が悪いわけじゃないらしい。自分でやっといてなんだが、彼女は生贄にされたようなもんだ。


(結局俺もただの魔族ってことか)


 罪悪感の上に自己嫌悪が積みあがる。重さで潰れてしまいそうだ。

(謝ってもどうしようもないとはいえ、とりあえず謝って、できる限り彼女には優しくすべきか)

 たぶん謝るなら魔王を倒せと言ってくるのは予想できるが、それもいいかもしれない。

 彼女への罪悪感はもちろんあるが、それとは別に俺は考えを改めていたことがあった。

 

 俺にとっては異世界は別段珍しくない。人類は滅んでいたが、俺は異世界出身だ。

 だからすぐにでも日本に帰りたかった。

 しかし、今の俺はオタクである。

 ならば異世界転移したこの状況をむしろ楽しむべきなのではないかと思うのだ。

 それに異世界モノのお約束として、異世界で数ヶ月過ごしても、元の世界に戻ったら数時間しかたっていないというのはよくある話で。


 これらのことから、ある程度自由にはやらせてもらうが、最終的にアイシアの望むようにしようという結論に至った。


(そのためには世界観の把握と、帰還方法の確保だな)


 今後の方針を決め一つ頷くと、俺はアイシアが起きるまで彼女の寝顔を眺める作業に戻った。

 吸血鬼は――俺だけかもしれないが――久遠の時を生きるため、ぼーっとするのが得意なのである。


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