秋月のように
俺が秋月になろうと思ったのは、高校2年の夏が終わろうしていた時だった
その時俺はクラスの友人にいじめられていた
きっかけは些細な事
態度の大きい俺は友人らに余計な事を言ったり、やったりしてしまう
それでも許してくれていた友人だったが、その日は違った
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俺がまだ高校1年だった時
いつものように休み時間になると友人と一緒にゲームを隠れて遊んでいた
レーシングゲームでカセットを持っていなくてもゲーム機を持っていれば遊べたので
俺たちの間ではブームになっていた
ただ、ゲーム機は全員分あるわけではなく、順番に交代しなければならなかった
「よし!ゲームしようぜ!」
「おう!今日は全勝するぞ!!」
「俺もやるやる!」
「俺もやりてー!」
ユウキ、ヒロシ、タクマ、俺ケンタの4人は同じクラスで同じ部活
学校にいる間はほとんど4人でつるんでいた
4人集まってやるがゲーム機は3台、誰かが待たなければ行けない
「ケンタ俺初めにやりたいから貸してくれ」
ヒロシがそう言って、俺のゲーム機を持って行こうとした
「待て待て、この前俺が最後に交代しただろ。次変わるから待ってろ」
「頼むよ、今日は絶対にタクマを抜いて一位になりたいんだよ!」
「あー、分かった分かった。最初の設定だけしたら貸すから」
「サンキュ!!」
そうして、ゲームが進んでいく
この中でゲームが得意だったのは俺とタクマ、ユウキとヒロシは普通くらいだった
そうなると基本的に、一位になるのは俺かタクマ
そして、今日はヒロシは一度も一位になることは無かった
「あー、勝てなかった!」
「悪いけど、勝負には手加減しないから」
「俺は1回だけ一位になれたな」
「今日はタクマが3回、俺が2回、ユウキが1回か」
「くそー。ケンタ!今日一日ゲーム機貸してくれよ!!」
「えー、なんでだよ」
「特訓してくる!!」
「俺今日、充電器持ってきてないから充電出来ねぇよ?」
「電池切れるまで特訓出来ればいいから貸してくれ!」
「明日どうすんだよ。充電する暇ないぞ?」
「教室のコンセントに挿せばいいだろ?」
「いやいや、バレるから。バレたら俺が怒られるだろ」
「頼むよー、今日だけ貸してくれよー」
この時、俺は貸すつもりは無かった。帰るまでに戻してくれとか
部活終わった後までなら貸すとか、そう言って上手いこと言えば良かった
だが、俺はその時余計な事を言ってしまった
「ヒロシはいくら特訓しても勝てないから諦めろって」
軽口のつもりで言った。けどヒロシはそうは受け取らなかった
「・・・なんだよそれ」
「え?」
「お前ふざけんなよ!!何様のつもりだよ!?」
「え、いやだから、落ち着けって」
「お前っていつもそうだよな!?そうやって上から言って来やがって!!」
「は?おい冗談だって、貸すから怒んなよ」
「いらねぇよ!!」
ガシャン!・・・
俺が手渡そうとしたゲーム機をヒロシが振り払い落としてしまった
「おい!落とすこたねぇだろ!」
「・・・」
そして、俺がゲーム機を拾うとヒロシは一人で教室から出て行った
「おいヒロシ!!・・・ったく、何なんだよ」
その後、ヒロシは学校を無断早退した
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次の日、ヒロシがやって来たのを見て俺は近寄った
「よ、よお」
「・・・よ」
「あー、また部活でな・・・」
それ以降ヒロシとの会話は無くなってしまった
それから、休み時間になるとヒロシは別のクラスにいる同じ部活仲間の所へ行くようになった
その次の日もそのまた次の日も・・・
ヒロシとは部活で顔を合わせるが会話は一切ない
この時の俺は、ヒロシの態度に憤慨していた
---なんで俺が悪いみたいになってんだよ・・・
お前がワガママ言うからダメなんだろ。俺は謝らねぇぞ
そんなギクシャクした関係が2週間くらい続いた
ある日、部室に入って着替えていた時
---ん?ラケットがない?
いつものロッカーにラケットをしまっていたはずだが無くなっていた
俺は部室内を探したが無かった。もしかしてコート内にあるのか?と思いコートへ走った
しかし、視線の端で何かが目に入り立ち止まった
部室とコートまでの間に水飲み場があり、そこの洗面台に変わった物が落ちている
俺はそれに近づいた時に思い当たった
---俺のラケットだ・・・
ラケットのフレームは傷だらけで歪んでおり、網目状の線は所々千切れて使い物にならない
そんなのを見た俺は脳の血管がブチブチと切れる音を聞きながら
コート内に足を踏み入れた
「おい!俺のラケットめちゃくちゃにした奴誰だ!?出てこい!?」
コートには1年生しかいない
「どうしたケンタ?な!?それはひどいな!」
明らかにいつもと違う俺にすぐに寄って来てくれたのは、一年のリーダーであるマサシ
「ああ、めちゃくちゃにした挙句水飲み場に捨ててやがった」
「ふむ、俺は一番にコートに来たがその時は無かったと思うぞ」
「ってことはその後に置かれたのか・・・」
「他のみんなにも聞いてみよう」
「ああ、頼む」
そうして、すでにコートにいる部員に聞いて回った。すると一人が
「確か、アキラ達が水飲み場で騒いでたのを体育館の上から見たよ」
「何!?本当か?」
「うん、その時ケンタがどうとか言ってたよ」
「あの野郎・・・」
「ケンタ、分かっているとは思うが殴るのは無しだぞ?」
「・・・ちっ、分かったよ」
少しすると、アキラ達がやって来た
アキラ、レンジ、シュン、サトシ、ヒロシの5人がいた
「なぁアキラ、俺のラケット知らねぇか?どっかに言っちまったんだよ」
「あ?んなの知らねーよ」
「知らねぇ?マジで?」
「ああ、マジだよ」
「そうか、んじゃてめぇらが水飲み場でギャーギャー騒ぎながら俺のラケットを捨てたのを他の部活の奴が見たって聞いたんだが・・・知らねぇのか」
「・・・ちっ、どこから見てたんだよ」
「てめぇ!ふざけんなゴラァー!」
俺はガマンの限界で殴りかかろうとするが、マサシと他の部員に抑えられる
「落ち着けケンタ!!殴るのは不味い!!」
「何が不味いだ!あの野郎を殴らせろ!!」
そんな事が起こり、俺はその日は帰るようにマサシから言われた
その時、アキラ達に混じってヒロシが一緒になって笑ってたのが傷ついた・・・
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それ以降、アキラ達による嫌がらせは続いた
一番初めにやられた日は、2年3年がたまたま別の学校に合同練習していた
それに部活の先生方も付いていき、1年は自主トレで休んでもいい日だった
先輩や先生の目を盗んで行っていたイジメは2年になるとエスカレートする
ラケット、ジャージを汚されたり捨てられたりなんてのはしょっちゅう
エスカレートしてくるとケータイを壊したり、サイフからお金を盗んだりされた
部活の練習中もボールを当てて遊ぶようになっていった
そう言った事を部活の顧問である先生に言ったが聞き入れてくれなかった
なぜ聞き入れてくれないのか、理由は簡単だった
アキラ達は1年の時でも強い部類に入り、2年になるとレギュラー争いで勝ち取れる事もあるほどだ
それに比べて俺は弱く、ずっと応援する側だった
レギュラーになれるアキラ達の方を優先したのだ
一緒に練習している先輩方は見かけたら怒ってくれるのだが、同期ではマサシしかいなかった
俺の心が折れて部活に出なくなるようになった
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2年になってようやく本格的に練習出来るようになったと思っていたが
予想以上に心はボロボロになっていた
学校には頑張って出ていた。アキラ達が別のクラスだったから授業は受けれたが
休み時間はずっと一人で過ごした。その時の俺は人が怖かった
周りに見える人が人の皮を被った化物だと本気で思っていた
授業が終わるとすぐに家に帰り自分の部屋に逃げ込む
夜中に何度も何度も死のうと思った
実際に夜中に外を歩いて車に引かれようとした事が何回かある
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ずっと心に闇を抱えたままの俺が唯一落ち着ける時がある
夜になり、部屋の電気を消して俺は窓から空を眺める
窓から見えるのは小さな星々と大きな月だった
俺は窓から空の景色を眺めていると不思議と心が安らいだ
そんな事をしていたある日
母親がご飯を食べ終えた俺に食べ物を出してきた
「ケンタ、今日はお月見だから団子食べなさい」
「お月見?」
「そう、十五夜とも言ってね。その日は月がキレイだから団子を食べながら月を見ましょうってね」
「なんで団子を食べるの?」
「なんでって、月の中には兎が餅を付いてるように見えるでしょ?
でも、ただの餅よりもまんまるのお月さんみたいな形がいいって事でお団子になったの」
「そんな理由で食べるの?」
「もういいじゃない何だって、ほら一本食べていいから」
「・・・」
「早くしないと固くなって美味しくないから、ほら」
「分かった」
俺はみたらしのかかった串団子を一本取って微妙な顔をしながら食べた
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その日の夜中も月を眺めていた。いや、見惚れていた
空はとても澄んでいて雲ひとつない
あるのはたくさんの星と大きくてまんまるの月
ずっと見ていたいと思っていた
ふと、窓から下に目を向ける
いつもなら見えない道路の路面状態が明るく照らされていた
それを見ると無償に外に出たくなった
外に出て見ると夜中だと言うのに周りが明るかった
田舎だから外灯の数が少なく、暗いはずなのにその日は暗さを全く感じなかった
夏の蒸し暑さが弱まっており、秋の涼しい夜風が当たる
夜中に月を眺めながら外を散歩した
過ごしやすい気温、涼しい風、闇を照らす光
俺は歩いている中で、何か雫が腕にかかるのに気づいた
---え?あれ?俺、泣いてるの?
俺は泣いていた
自分の心が闇に閉ざされ、光が見えなくなっていた
そんな状態の時、月は闇を照らしていた
月は太陽のように強くはない。でもしっかりと闇を照らしている
---ああ、自分の心の闇も照らされているようだ
俺は優しく包み込むような月の光がまるで自分を優しく包んでくれているように感じた
秋の夜風が自分を優しく撫でてくれているように感じた
「ありがとう・・・ありがとう・・・」
小さく、囁くような声で何度も月に向かって感謝した
---僕もあの月のようになろう
---秋の夜風のようになろう
「僕は秋の月みたいな人になりたい。そして、人々を優しく照らし、優しく触れるような人に」
『秋月になりたい』
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次の日から、僕は少しずつ少しずつ人との接し方を変えていった
そうすると、周りの人も優しくなった
イジメをしていたアキラ達も何もしなくなった
ヒロシにも謝る事が出来た。ヒロシも謝ってくれた
部活にも戻れるようになった
3年になって一度だけレギュラーに入れた。結果は県大会で終わったけど嬉しかった
高校を卒業出来た。入りたいと思っていた大学が決まって親も安心していた
僕は高校での出来事を一生忘れないだろう
自分が大きく変化した出来事だ。忘れようとしても忘れないだろう
忘れるはずがない。毎年、その時期がくれば必ず思い出す
『秋月になりたい』
稚拙な文を最後まで読んで頂きありがとうございます
投稿日の前日、22時頃に書こうという気力が起こり一先ず終わりまで一気に書かせて頂きました
そもそも書こうとした理由が、もう一度自分が秋月という名を使おうと思った出来事を思いだしたからです。
実際に高校の頃に月を見て、夜中に外を散歩して泣きながら感謝していました
その時に、秋月って名前をネットで使うようになりました
さすがに苗字を変えるのは難しいので諦めましたよ(役所でやり方は聞きました)
そんな思いれの強い名ですので皆さんに知ってもらおうと書いたわけです
書き終わった後に思った事は、
皆さんにも何かしら名を付ける事があるでしょう
その時に、どうなりたいのか?どうなってほしいのか?
願いを込めて名付けてくれたら良いなと思います
ここまで読んで読んで頂きありがとうございました