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第74話『四大種族、第三階位。邂逅』

「……やっぱ、俺の知ってるスカイツリーよか遥かに高いよなぁ」


「スカイツリー、というのですか。この建造物は」


 紅葉達クラスメイトと別れてすぐの事。宿を出たクロ達が訪れたのは、街の中央に立つ巨大な塔――日本の記憶を持つクロから見れば、『東京スカイツリー』にしか見えないその建造物だった。

 見上げるソレは、目測にして恐らく1000m近い。だがその外観、構造はクロの知るスカイツリーそのものであり、遥か上方では大きな展望台から多くの魔族達が風景を楽しんでいた。


 こうして見るとまるで観光地のようだと思い、そしてこの街が魔界の首都であったことを思い出す。かつて居た日本で、クロを含む地方の住人達が東京に対する謎の憧れを抱いていたのと同じように、この世界の人々もここを訪れてみたくなったりするのだろうか。


 ひょいと近くの店の屋根に飛び乗って、周囲の光景を見渡す。辺りの空にはナイアの姿が見当たらず、しかし既に時刻は昼に差し掛かろうとしている。集合時間としてはそろそろの筈なのだが――どうにも、姿が見えない。


「……エマ、ナイアは近くに居るか?」


「はい、付近からナイア様の心理構成を検索します。五秒ほどお待ち下さい」


 エマはそう言って、その紅い瞳を大きく見開く。深い真紅の色彩に魔力が通って、紅の眼(リード)がその効果を発揮し始めた。彼女がくるりと回り視界を一周させて、街の光景を一望した。


 しかし、見れば見るほど日本とそっくりだ。住宅の建て方、デザイン、街並み、道の舗装、何から何まで日本と言われても何ら違和感は無い。一体『最低最悪の魔王』は何を考えてこんな街を作ったのか。

 いや、それとも『最低最悪の魔王』はこの風景を……『東京の街』を知っていたのか?だとすると、『最低最悪の魔王』の正体は自然と絞られて――。


「……該当、確認しました。塔の頂上です……向かいますか?(マスター)


「ん……あぁ、そうだな。行こう」


 エマの問いに小さく頷いて、左手に……より正確に言うならば、左手に纏う『殲滅鎧(イージス)』に意識を向ける。その黒銀の籠手はクロの意志に従うようにその身を解き、クロの足下に収束して板のように形状を変化させた。

 それはクロの知識に残るモノに例えて言うのならば、“サーフボード”と形容するのが一番近いだろうか。勿論ながら、この付近には一切波もなければ、そもそも海すら存在していない。


 しかしながら前提として、殲滅鎧(イージス)には自律飛行能力がある。このように殲滅鎧(イージス)を足場とすれば、空を飛ぶ事も不可能では無いのだ。ただ、それを細かく操作するために精神力が削られる。

 それ故に、あまり長くは乗れないのだ。……と言っても、たかだか1km程度ならば簡単に超えられる。それは確信して言えるだろう。


 ひょいと先にボードへ乗り込み、足場が安定していることを確認する。そこから一度振り返って、背後で佇んでいたエマにも乗るように指示した。彼女は「宜しいのですか?」と小さく呟くも、遠慮がちにクロの差し出した手を取る。


 勿論ながら、ここで彼女を落としてしまうなんて笑い話にもならない展開は避ける為、足場を形状変化で固定する。スペースもそうあるわけでは無いので、その小さな体を抱き寄せてから、ボードを一気に上昇させた。


「……ぁ」


「――?どうした」


「……いえ、何もありません。恐らく気の迷いでしょう」


 不意にエマが何か驚いたように小さな声を漏らしたので、疑問気に首を傾げてクロが問う。エマは少し考えるように黙ったが、しかしすぐに首を振ってそう否定した。


 きゅっと、クロの服を掴む力が強くなる。恐らくはここで落ちるリスクをなるべく下げる為だと考えて、特に気にする事もなく上昇速度を速めた。

 展望台の高度を一息に超えて、そのさらに上――日本だったならば立ち入り禁止の領域、スカイツリーの最上にまで辿り着く。その端にボードを付けて、エマを抱きかかえたまま乗り込めば、その中央で膝を抱える見慣れた相棒の姿を見つける事が出来た。


 が、何やらその様子が妙だ。いつもの元気な彼女らしくもない。


「……どうした?ナイア」


「……クロ?」


 弱々しいその声がクロの名を呼んで、蒼色の瞳がその紅い眼を見つめる。何かあったのかとクロがその横に屈み込むと、ナイアは慌てたように「な、なんでもないっ!なんでもないよ!」と、ブンブンと首を振って否定した。

 バッと立ち上がって平静を取り戻そうとするその様子に首を傾げるも、下手に詮索するのも避けるべきかと判断して、特に追求はしない。何も聞かないでほしいと、その表情にあからさまな程浮かんでいたからだ。


 あのナイアがこうも大人しくなるなど、只事ではないのは分かる。それ故に、彼女の意志に従うべきだろうと判断した。エマの心を失うという大きな間違いを犯してしまった今のクロには、何が正しいのか、如何すればいいのか、分からなくなってしまった故に。


 ナイアは空元気でニッと笑顔を作ると、ちらりとエマの方に視線を向ける。当のエマは疑問気に首を傾げており、その様子を見たナイアがホッとしたように溜息を吐いた。


「手掛かりが見つかった、俺の昔の仲間がこの街に居たんだ。あいつらの力を借りれば、『白の巫女』を見つけられる可能性がある」


「……!じゃあ、エマを元に戻せるの……!?」


「まだ確証はないけど……そう信じるしかない」


 クロがそう呟くと共に、ナイアの顔色が少しばかり晴れる。パッと彼女はエマの方へと向き直ると、その目の前にまで駆け寄って彼女の胸に飛び込んだ。

 少しばかり眼を見開いて驚きつつも、しかし流石の反応でエマはその小さな体を抱き止める。ぎゅうっとその細い腰に手を回したナイアは、嬉しそうにニマっという笑顔を浮かべた。


 そんな彼女の様子に困惑した様子のエマだったが、しかしぎこちないながらもその金色の髪を優しく撫でる。ナイアが心地よさ気に頰を緩めて、エマが小さく微笑んだ。


 あの状態のエマでも笑う事があるのかと、その光景を眺めながらにふと思う。それがエマ自身による笑顔でないというのがクロの心情に複雑な感情を齎すが、今気にしてもしょうがないと振り切った。


 ――と。


(マスター)、下層からこちらへと人が登ってきます。如何致しますか」


 不意にエマが、足元付近の地面に視線を向けてそんな事を言う。一瞬その警告に内心警戒を浮かべたが、よくよく冷静になってみればここは何処からどう見ても観光地。しかも見渡せば日本とは違って、ここまで登る用の階段まで設置されている。


 関係者以外立ち入り禁止区域、とかそういう訳でもないらしく、階段前に設置された階段にはご丁寧に『最上層・フィフストーム展望台』なんて名が書かれていた。こんな柵も何も無いのに安全的な問題は良いのか、と一瞬思ったが、そもそもこんな所に居るのはほぼ魔族だろうから、足を滑らせたとしても案外自力でなんとかしてしまうかもしれない。


「……ちなみに、性別とかは分かるか?」


「思考パターンから男女一組と小さな少女が一人、男女は夫婦の様ですね」


「ただの家族連れの観光客じゃねぇか……」


 紛らわしい警告に無駄な緊張をしたとげんなりして、一つ大きな溜息を吐く。エマが意味を分かっていなさげに眼をパチパチと瞬かせ、ナイアが苦々しい笑みを浮かべた。


 ひとまずこの塔を降りようかとするとナイアが「塔の中まだ見てない!」と文句を出してきたので、飛び降りる事はなく、塔の中を下る事にする。殲滅鎧(イージス)を呼び寄せて普段通りの籠手の形に変化させ、腕に再度纏い直してから、妙に警戒した様子のエマと、こちらは妙に神妙な顔付きのナイアを引き連れて、二人の様子に疑問を浮かべつつも階段に向かった。



 その時。




「――此処を通りたくば、俺の屍を越えて行けごっはぁっ!?」


「わーーぁぁぁぁっっ!?」


 ……辛うじてクロの目に映ったのは、エマが振るった剣により殴り飛ばされた禿頭の男だった。


 突如階段の下から飛び出してきた男は、何を思ったのか急にクロ達の前に立ちはだかったのだ。何処ぞの漫画を思い出すセリフを吐きながら転がり込んできた男にナイアが驚いて思わず大声を上げてしまった直後、割り込んだエマが剣の腹で男を殴り飛ばす。

 男はきりもみ回転しながら吹き飛んで、数メートルは飛んでから鉄板で造られた床を滑っていく。やがて心配そうに、階段の下から小さな少女と手を繋いだ女性が……いや、心配そうなのは娘だけか。女性の方はニコニコと、その行く先を見つめていた。


 そう、現状からついさっき起こった事を推測してみる。が、自分で推理していながら訳が分からない。まるで意味が分からない。具体的には男が飛び出してきた辺りから。


 ちらりと殴り飛ばした張本人たるエマに視線を向ければ、どこか満足げな表情で剣を納めていた。「妙な気配があったので、警戒していたのです」とドヤ顔に見えなくもない無表情で告げた彼女は、依然禿頭の男に警戒の視線を向けている。

 そこから視線を横にずらせば階段を登ってきた母子らしき二人が立っており、母の方が「ごめんなさいねぇ、あの人いっつもああなのよ」と頰に手を当てて笑っていた。


 殴られた当人である男の方も「うはははははははっ!痛い!凄く痛いぞぅ!頭がカチ割れそうだ!」などと、ちっとも痛くなさそうにひょっこりと立ち上がる。もはや訳が分からなさ過ぎてホラーだ。


「な、なにっ!なにっ!?」


「ごめんね……お父さん、昔っから変なの」


 なにやら考え事をしていたらしい所に今の状況だっだ為、必要以上に驚いてしまったらしい。クロの後ろに隠れて慌てるナイアに、唯一の常識人らしい少女が謝っていた。


「いやぁスマンな!昨日酒の席でやった賭けの罰ゲームなんだ!今の一発で許してくれても構わんのだぞ?」


「あらやだあなた、それは許してあげる側の言い方よ?それを言うなら『許してくれてありがとう』、ね」


「どっちも違う!お父さんは言い方態度大っきいし、お母さんはまだ許して貰ってないから!」


 ああそうだったと、どうやら素らしい表情でポンと手を打った夫妻は、二人して何が可笑しいのか笑い出す。二人の子らしい少女が涙目でこちらに向き直って、何度もペコペコと頭を下げているのが段々不憫になってきた。


 まさか今のが素なのかと、クロが戦慄したような表情を浮かべる。と、不意に三人の一部に目が行って、そんなクロの様子に男が物珍しそうに目を見開いた。


 クロが見ていたのは、三人の耳だ。長いのは魔族ならば当然なのだが、通常の魔族よりもさらに長い。これはまるで、彼の有名なエルフ耳――


「おや、精霊族(エルヴィ)を見るのは初めてかい?……しかも兄ちゃん、人族か。そりゃあ俺らは珍しいわなぁ」



 そう言ってその男――いや、精霊族(エルヴィ)たるその家族は、興味深そうにクロを見返したのだ。









近々体育祭や定期試験があるため、毎日更新は難しくなりそうです……

なるべく高頻度で更新はするようにしますが、日時は不定期になりますので、御容赦下さい……すまねぇ……

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