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第53話『神話の戦、顕現』

「……初めまして、ミスター・ツェルペス」


「ミス、よぉ。間違えちゃだめだからねぇ、ミスター・アンディート」


「……そ、そうかい。承知したよ」


 軽く頰を引きつらせつつも、馬車の荷台に腰掛けたヘルメスが苦々しい笑みを浮かべる。

 カチャリと眼鏡を押し上げた彼は、腰に差した剣を剣帯ごと引き抜いてガランと荷台に投げ捨てた。ブルアドもまた薄く笑って自身のベルトに手を伸ばすと、数本のナイフを足元に放る。それらは音すら立てずに石畳に突き刺さり、あっさりと赤色の液体に溶解した。


 その液体――ブルアドの肉体から生み出された血液は、石畳を這って彼の足元に集い、這い上がって指先の切り傷から取り込まれる。それは彼の吸血鬼としての能力、血の操作を行うヴァンパイアの秘術の一つだ。


 ヘルメスもまた薄ら笑いを浮かべると、自身の懐から取り出した腕輪を身に付ける。それは装着者の魔力を抑える為の拘束具であり、一般にはそこから転じて『自身に争うつもりが無い』という事の証明にもなる。

 同格の者同士が対話をする際に、話し合いを穏便に済ませたいという意志証明のようなものだ。ブルアドもまた同じように、魔力を封じ込める魔道具を身に付ける。


「……さて、一先ずはどういうつもりか、と聞いてもいいかな」


「それはどの事についてぇ?ガーディアン達のことぉ?それとも、彼のことぉ?」


「前者も気にはなるが、今は後者の事だね。わざわざアレを目覚めさせようというんだ、何か訳があるんだろう?」


 ヘルメスのそんな見透かしたような口調にブルアドが薄く頰を吊り上げて、くるりと指を円の形を描くよう回してみせる。それに応じて魔力とは別の力で形作られた透明なスクリーンが浮かび上がり、映像が投影され始めた。


 それはエイラの店の客間、床に敷かれた布団に寝かされて目覚める様子のない、旅をするにはあまりに若い人族の少年。


 遂にクロの左目にまで達してしまう程に範囲を広げたドス黒い侵蝕は、ドクン、ドクン、と、紅い輝きを脈動するように点滅させている。勿論ながら血管ではなく、染まった肌の下を通る魔力が『禁術』の効果によって際限なく増幅され、体内を暴れまわり、細胞を破壊しては再生し、破壊しては再生する、などという地獄を繰り返している証。


 今、彼の体に眠る『源流禁術』は、かつてないほど活性化している。ブルアドがそうなるように外部から介入した影響もあるのだが、今まさにクロは『源流禁術』の根源たる"それ"と接触している筈だ。


 ブルアドは、『禁術』という概念の根源に携わる者だ。いや、正確にはブルアドが、というよりは、ヴァンパイア族が、という方が正しい。

 もっとも、今現在生存しているヴァンパイアなど、世界中を探してもブルアドただ一人の筈だ。さほど相違はあるまい。


「ちょぉっと、約束があったのよぉ。彼と会う事があったら、力を伸ばしてやれってねぇ、あの子も無茶言うわぁ」


 ブルアドは形だけ憤慨しているかのように見せて言うと、すぐに穏やかな雰囲気を纏い直す。不意に彼が片手を上げてパチンと指を鳴らせば、彼の背後に魔力の結晶で組み上げられた椅子が出現した。

 ブルアドはそれにドサリと腰掛けると、長い前髪を掻き上げてオールバックにする。黄金色の瞳が懐かしんでいるかのように細まり、その唇に優雅な仕草で指を当てた。


「約束、というのは?」


「言えないわぁ。ただ、ヒントは与えてもいいって事になってるから、これだけは伝えておくわぁ。クロ君に伝えておいてぇ」


 ブルアドが一つ指先を振れば、半透明のスクリーンに映し出される風景が変化する。それは上空遥か彼方に存在する浮遊島の中心に位置する、『オーディンの槍』の本拠地。その中心部たる大広間の風景。

 白銀の髪をしたナタリスの少女と、黄金の槍を携えた赤髪の騎士姫が、己が獲物を構えて向かい合っている。正に一触即発といった雰囲気であり、今にも静寂は崩れそうだ。


 クロと共にこの地へ現れた少女、エマ。ヘルメスも彼女とは共に戦った仲だが、もう一人には見覚えがない。もしや彼女が今回の首謀者かとブルアドに問えば、ブルアドは「話は最後まで聞くものよぉ」と首を横に振った。


「彼女は確かにオーディンの槍とは関係あるけれど……オーディンの槍を仕切ってる訳でもなく、ただ目的が一時的に重なったから今回だけ協力しているだけ。そしてそれは、私の目的でもあるのよぉ」


「……続けて」


 ブルアドの説明に口を挟むでもなく、ヘルメスが静かに続きを促す。ブルアドは「学習能力が高い子は好きよぉ」などと呟くと、組んでいた両腕を大きく広げてみせる。

 鍛え上げられた筋肉でパンパンに膨れ上がった胸元のボタンを外し、左胸の心臓付近が露出すると、その表面に刻まれていた紋様が露わになった。


「――!」


「……私たちの目的は、『最低最悪の魔王』の再臨の阻止。そして、『最低最悪の英雄』を新たに創造すること。……だって、それがあの子達の望みなんだもの」


 ブルアドはそう言って、懐かしむように笑った。










 ◇ ◇ ◇













「っ、ぁ、ああっ!」


「技術は良いが……足りんな、まだ人を斬ろうとするというのは慣れんか?」


「ぎ、ぁ……!?」


 圧倒的な膂力と本体の大質量を以って振り抜かれた大剣は、しかしながらヒラリと寸前で躱されて空を斬る。それどころかキルアナは、大剣を振り抜く勢いを誘導してエマの脚に蹴りを入れ、力の支点を崩す事で一瞬にしてエマを地面に薙ぎ倒した。

『末端禁術』の身体能力増強によってすぐさまその場から離れようとしたエマの首に、金属質の冷たい籠手が押し当てられ、何が起きたのかを把握する暇すら無く一気に押し倒される。

 あまりに圧倒的で、絶望的で、明確過ぎる実力差。クロと戦っていた時とは比べ物にならない動きだ。やはり実力を隠していたのか。


 喉に掛かる多大な負担に思わず咳き込み、直後に腹部へと走る思い鈍痛に身をよじる暇すらなかった。

 一瞬の浮遊感の後、背中に硬い岩に激突したかのような激痛が走る。人族(ノルマン)ならば、加えて『末端禁術』によって全身を硬化させていなけれれば、これだけで致命傷だ。

 胃液が喉の奥から零れ落ちそうになるのを必死に呑み込んで、キッと眼前を睨み付ける。


 視線の先には相変わらず余裕の笑みを浮かべたキルアナが、肩に黄金の槍を担いでその全身に魔力を滾らせている。不意にその状態を揺らしたかと思えばその槍を背後に振り抜き、直前にその座標へと転移してきたナイアのこめかみを打った。

 短い悲鳴と共に小さな体が吹き飛んで、数度バウンドしてから転がっていく。即座に大理石の床に龍化した爪を立てて勢いを削ぎ、跳ね上がって翼を広げる事によりバランスを整える。


 ツー、と、一筋の血がナイアの頰を伝った。


「いっ、たぁ……っ、エマ……大丈夫……っ!?」


「けほっ、ゲホッ……わ、たし、は、大丈、夫……それ、よりも」


 視線の先で堂々と仁王立ちをするキルアナには、たった一つの傷跡すらない。それはつまりエマ、ナイアの二人掛かりですら傷一つ付けられていないという事であり、キルアナたった一人の戦力がエマ達二人掛かりの戦力を遥かに上回っているという事でもある。


 強い、幾ら何でも強過ぎる。ナタリスの村で最強を誇っていたラグですら、ここまで強くはなかった。

 動きが追えない訳ではない、素では厳しいにしても『末端禁術』を目に集めれば、その行動を見ることも出来るし、対応しようと体を動かす事も出来る。……出来るはずなのに、間に合わない。

 確かに適切な対応をしている筈なのに、何故か一撃一撃を防ぐ事が出来ないのだ。圧倒的なまでに磨き上げられた技能は、エマの防御などまるで存在しないかのように打ち破ってくる。


 これが、一つの流派を完全に極めた者の実力。例え剣でないとはいえ、その動きは洗練され尽くしている。エマのように未だ技を磨く身とは格が違う、武の道の完遂者――!


「……わたし、たちが目的なら、なんで、ルーシーを……っ!」


「あの子は別だよ、お前達との敵対とは別の目的だ。いくら一般市民と言えど、こればかりは少し我慢させざるを得ない領域でな、攫わせてもらった」


 剣を拾い上げると同時、立ち上がりの勢いに乗せて刃を走らせる。剣先が地面と擦れて火花を散らし、魔力を喰らうライヴによって形作られた剣がキルアナの肉体を断たんと、その大質量を以って薙ぎ払った。

 同時にナイアがキルアナの背後に転移し、彼女の退路を防ぐ様に龍鱗を纏った脚で回し蹴りを放つ。魔力によって身体能力を強化したその一撃は風を切り、常人ならば目で追う事すら不可能な程だ。


 ……にも関わらず、彼女はその二撃を当然のように見切ると、エマが前進する勢いを利用して一気に投げる。ぐるんとエマの視界が回転して、背後に跳んでいたナイアへと叩き付けられた。


「さて、まあこうして幾度か打ち合った訳だが、実力差はこの程度だ。それは理解したな?」


「……だか、らって……!」


 諦めて帰れ、とでも言うつもりか。

 エイラに連れて帰ると約束してきた、クロにこちらの事は任せて欲しいと主張した。そして何より、ルーシーを奪われたまま諦めて地上に帰るなど出来るはずも無い。

 キッと視線に力を込めて、涼しい顔を浮かべるキルアナを睨みつける。彼女は「やれやれ」と首を振ると、呆れた様な声音でエマに語り掛けた。


「あのなぁ、白の娘よ。もう少し自分で考えるという事をしろよ、まず一つと決めた事に囚われ過ぎだ」


「……囚、われ……?」


 肩で息をしながらも、呆然とその言葉を繰り返す。キルアナはつまらなさそうに溜息を吐くと、視線で背後のソファを指し示す。その先に視線を向ければ今も変わらず意識を失ったルーシーが横たわっており、心地よさげに寝息を立てていた。


「相手の傾向を把握しろ、今まで一度でも私がお前以外に、そこの半龍娘が攻撃を仕掛けて来た時以外で注意を向けたか?実力差がある事はハッキリ分かったろう。あの娘を助けたいのなら、お前が私の注意を引いてそこの半龍に連れて行かせればいい。守りに徹すれば、時間くらいは稼げる筈だろう、『私をどうにかする』という事に固執し過ぎだ」


「……?」


 言われてみれば、確かに道理だ。これまでキルアナは一度たりともエマから意識を外していない。いや、正確にはナイアが攻撃動作に移った時のみはそちらに反応して対処していたが、それ以外ではナイアに敵意すら向けていなかった。


 まるで、エマ以外には欠片も興味がないかのように。


 この女の事がまるで読めない。初めて出会ったあのギルド前の決闘でもそうだった、この女の行動は毎度毎度突拍子が無い。今回もルーシーを攫ったかと思えば、いざ来てみればルーシーにまるで興味を示さない。ルーシーは囮だったのか?何の為に?


 エマと戦いたかったから、とは到底思えない。キルアナの言う通り実力差など歴然だし、そもそもエマと戦った所で彼女にどんなメリットがある?というか、彼女の先程の言葉も妙だ。

 まるで、適切な行動を起こさなかったエマを咎めるかのような言動、それに攻めようと思えばいつでも攻められるだろうに、様子を伺うかのように対応にのみ徹している。最初の一合以外では、彼女から打ち込んできた事は一度たりとも無いのだ。


 まるで、エマに正しい戦い方を教えているかの様な――。



「……キルアナ。正直に、答えて」


「言ってみろ」


 エマの問いを初めから予想していたかの様に、殆どタイムラグも無くそう言ってくるキルアナに寒気を覚える。本当に、どこまでも底が知れない、どこまでも得体の知れない、おぞましい相手だ。

 相変わらず紅の眼(リード)には、ただただ冷静な感情のみが映り込んでいる。


「……何が、目的?」


「『最低最悪の魔王』再誕の阻止だ」


「……話に、ならない」


「ああ、そうだな」


 直接問い質しても意味を成さない。ならば、先程キルアナ自身が言っていた通りの教えに従う事にしよう。


『もう少し自分で考える』。キルアナの言動に引き摺られずに、自分の頭で物事の本質を見極める。彼女の本意を読むには、そうする以外に無いらしい。

 エマは心理戦が苦手だ。何故ならば言葉だけで無く、心でも繋がり合うナタリスの集落で生まれ育ったエマにとって、嘘つきなどという者が居るはずもなく、心理戦など意味を成さなかったからだ。ナタリスの集落から出た今も、心を少しばかり読み取れるエマにとって、その事実は揺るがない。


 だが、今初めて『心を読めても意味がない』相手が目の前に居る。感情を完全に制御できる相手に、エマの『紅の眼』は意味を成さない。読み取れるのは、意思と乖離したダミーの感情でしか無いのだから。


「……ナイア。"あのブレス"、今撃てる?」


「あの、ぶれす?」


 エマの言葉にナイアが不思議そうに首を傾げたが、数秒考えて思い当たる節があったのか、目を見開いて驚いたような視線をエマに向ける。しかし少しばかり考えてから「一回だけなら、いけるよ」と小さく答えて、エマが小さく微笑んだ。


「……私は、キルアナを抑える。ナイアは、ルーシーを奪い返したら、そこの窓から外に出て一気に上に……合図をしたら、お願い」


「……うん、分かった。エマは、大丈夫なんだよね」


「大丈夫。一つだけ、奥の手があるから」


 キュッと、両手の中に収まる大剣の塚を握り締める。指を一本だけ這わせて『それ』がすぐにでも展開可能である事を確認すると、一気にその場から飛び出した。

 エマが大剣を掲げてキルアナに肉薄すると同時、ナイアが一瞬の内にルーシーの元へと転移する。彼女の小さな体をその細腕からは想像も出来ないような怪力で持ち上げると、大きく広げた龍翼を一息に羽ばたかせた。


 キルアナもそれを把握こそしているらしいがつまらなさそうに一瞥しただけで、それを追おうとはしない。予想通りの反応にエマが内心苦笑して、しかし想定通りに事が運んでいる事実に一先ず安堵する。

 狙いに気付いていないのか、それとも敢えて見逃しているのか、真意こそ読めないが、今のエマ達にはこれしか出来ない。キルアナの真意を、この策で暴く事ができれば――


「私が指摘した事をすぐに直そうとするのは結構だが、そのままか。自分の頭で考えろとも言わなかったか?」


「……考えた、よ。考えて、考えた結果に、こうしようと思ったの」


 にっと笑顔を浮かべて、少しばかり不安が残るエマ自身の鼓舞する。大丈夫だ、きっと出来る。自分だけならともかく、おじいちゃん(デウス)が打ったこの剣があるならば、きっと。


 ガシャリ、という音が鳴った。


「……っ!」


「……は、ぁッ!」


 敢えて鍔迫り合いの均衡を崩して、その衝撃で一気に背後へ飛び退く。何かを感じ取ったらしいキルアナが、少しばかりの焦りを覚えたのか瞬時に踏み込んで来る。

 その超速にて距離を詰めて来るキルアナに反応出来るほどの技量は無く、このまま槍を振るわれれば無様に吹き飛んでしまうだろう。そのような状況に追い込まれたエマは、眼前から迫り来る黄金槍に眼を走らせて――



 ――にぃ、と、笑った。



「……すぅ」


「な……!」


 大きく、深呼吸。しかも、槍を受けねばならない筈の大剣を、真上に放り投げて。

 一瞬のみ、キルアナの意識が大剣に向く。僅かな動揺が小さな焦りと絡み合って、決定的な隙を生む。だが、それもほんの一瞬だ。武の道の完遂者たるキルアナの隙は、エマが2本目の武器を抜く隙も与えない。


 "だから、武器は必要ない"。


 膨大な水が、水圧で穴を押し拡げるように。一瞬でも、ほんの少しの隙があれば。こうしてそれを『拡大してやればいい』――!




「Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」




 普段のエマの声とは違う、特殊な音域だ。人の意識に最も届きやすい音域、音波、周波数。エマ自身がそれを意識しているわけでは無いが、人の意識に普段からよく触れるエマは、それを無意識に調節出来る。

 無口な彼女からは想像も出来ない程の大音量は、人の意識に入り込みやすい声域と相まってキルアナの耳に届き、神経を伝って、脳に伝達し、そのほんの一瞬の隙を突くように、脳内へ音波を叩き込む。

 極限状態の集中にある脳に生まれた隙へ、突然突き刺すような刺激を与えれば、当然ながら人は驚くだろう。


 だから、驚かしてやるのだ。そうすれば、その間だけは、人は何も考えられない。そしてそれは、決定的な隙となる。


「……や、ぁッ!!」


「っ、が……!?」


 キルアナが踏み込んで来た勢いを利用して、その軽鎧の隙間にブーツの爪先を叩き込む。『末端禁術』でブーストを掛けたその蹴りはキルアナの芯を捉えると、一息の間に彼女を向かいの壁へと叩き付ける。

 衝撃を殺しつつ地面に降りて、すぐに落ちて来る大剣をパシリと受け止める。そして即座に、その柄を捻った。


 同時に、鍔に施されていた拘束のロックが外れる。"それ"が外気に触れて熱を宿し、一気にエマの両手から魔力を取り込んでいく。常人ならばすぐに干からびてしまう程の速度ではあるが、圧倒的なまでの魔力回復速度を誇るエマには、その時何が起きていたのかさえ把握していない。


 突然だが、ライヴという鉱石は、あらゆる面でナタリスを支えている。


 登城の際に使ったような用途もあれば、『末端禁術』による侵蝕のリセット。更には、ナタリスの長にのみ伝わる特殊な技術による加工によって、武具の材料にもなる。

 術式によって特殊な性質を付与されたライヴによって形作られた武器は、皆とある性質を持ち合わせるようになる。それは、使い手や斬り付けた相手からの魔力の搾取、貯蔵。そして、放出。


 ライヴそのもののように不規則的な、ただ魔力の暴発を起こすのでは無く、武器という形に当てはめる事によって、規則性を持たせて放出する。


 そしてエマは、この剣でここに来るまで何人もの相手を無力化して来た。加えてエマから供給される膨大な魔力を加えれば、その威力は、一時的にならばだが。



 ――『源流禁術』すら、超える。




 エマはその膨大な魔力を蓄えた大剣を下段に構えると、キッと上を見据える。キルアナがそれに続いてその"違和感"に気付いて、上を見上げた。

 音だ、何かが空気を突き破って落ちて来るかのような、そんな音。世界を震わせ、大地は萎縮し、空は怯えたようにその色を曇らせる。かつて神々すら恐れさせたその吐息はかつて、エマも見た覚えがある。


 あの山での決戦でナイアが取り込んだ、『真祖龍』のブレス。その一片。


 オリジナルにこそ及ばないが、神々すら恐怖する一撃の断片は、ただそれだけであらゆる不条理を上から叩き潰せるだけの力を持つ。星を分かち、天を焼くその一閃は、上空に昇ったナイアが一息に解き放ったモノだ。

 そしてこの場に於いてそれを防ぐ手段を持つのは、『源流禁術』すら超える一撃を携えたエマのみ。


 自身に降りかかる危険のみを相殺し、この浮遊島を消し飛ばす。まるでかつての神話の再現のような状況だ。これに対してキルアナがどう対応するかによって、ある一点のみならば看破出来る。それさえ分かれば、後はいい。


 故に。




「……チェック」


 エマは、王手を掛けた。







二章もようやくクライマックスに突入。

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