表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/107

第5話『原点回帰』

くそう……何回かデータ消えた……くそう……()

あと、二話に於いて藤堂だったのが何故か五条になるという何をトチ狂ったのかよく分からないミスをしてたので修正しました。五条君はもっと良い子(?)です。

 ……いや、予想はしてたけどさ


「紅を集わせ、従え、我が槌と為すは世界の理。――『炎王鉄槌』っ!」


「加速術式、一式、二式、三式、解放。輝きを齎せ――『光剣抜刀』ぉっ!!」


「奔れ、黒の魔槍。我が敵を穿ち、その肉を喰らえ――『一色万貫』ッ!」


 見るからに凶悪な魔物達の群れに灼熱の鉄槌が落ち、その生命を焼き尽くす。捉えきれない程の速さの光の軌跡が敵を薙ぎ、その胴を両断する。漆黒に塗り潰された大槍が、暴虐を伴って蔓延る魔物達を消し飛ばした。

 それでも尚際限なく溢れ出てくる魔物の群れを、更なる力の奔流(チート能力)を以て殲滅していく。


 氷柱が立ち、灼熱が広がり、大木が締め上げ、雷が落ちる。

 鮮やかな剣の乱舞は暴力的に命を蹂躙し、雅やかな弓の一射は破滅的に破壊を齎す。


 即ち、今現在クロの前に広がっているその光景は──世紀末(カオス)であった。


「これは酷い」


 歓迎会が終わり、ぐっすりと眠った次の日の事。ついに始まった衛兵団の団長によっての実戦訓練で、まずは実力を見定めるという趣旨らしいが……些かチートがインフレし過ぎてて測れているのかは微妙だ。実際、先ほどから俺と同じく外野からこの世紀末(カオス)を眺めていた衛兵団長――イサ、という名らしい――は、口を半開きにして呆然と固まっている。気持ちはわからんでもない。

 しかも彼らが討伐している魔物は『魔森狼(フォレストウルフ)』なるそこそこ強力な魔物らしく、群れとなると危険度ランクB+にもなる、かなり危険な魔物だそうだ。それをこうもあっさり群れごと始末しているというのだから、これだからチート共は。いいぞもっとやれ。

 ちなみに、魔物の危険度は細かくランク分けされており、下からF、E、D、C、C+、B、B+、A、A+、S、SS、SSSとなっている。S以上ともなると本当に強い人間しか相手にならず、今のこのチート勇者達でも相手取るのは難しいらしい。どんだけだ異世界ファンタジー。

 余談だが、S以上に掛けられる別称が個人的には気に入っている。下から三級討伐対象、二級討伐対象、そしてSSSともなると人類に相手になる者はほんの一握りである故に、一級接触禁忌対象、だそうだ。名前の響きが心の奥の厨二心をくすぐってくる。


 まあ当然S以上は滅多に出現しないらしいので、現状ではA+が最強クラス……という事になるのだろうか。


 まあそのA+ランクの魔物も、このチート軍団全員で掛かれば倒せるようなので、現状あまり危険性は無い。というか、この殲滅でチート集団のレベルが平均でも10以上は上がっている。『英雄よ、剣を抜けダウンロード・ブレイヴ』なんて如何にも勇者な能力持ちのイケメン、五条に至っては、既にレベル30を超えているらしい。なんだあれ、身体能力強化系の能力らしいけど、何処のワ○フォーオール?威力バグってるぞオイ。


 とまあそんな具合に魔物を見つけてはチート集団が殲滅していくため、こっちは一向にレベルが上がらない。

 唯一やれることと言えば、そうやって殲滅された魔物達が消滅――この世界では、魔物が死ぬと肉体は消滅し、何かしら素材や武具などがドロップするらしい――した際のドロップ品を落ちた側から遠距離並列発動の『収納』で回収するだけ。おかげで『収納』によって形成される『世界』の空間には物が流れ込み、感覚的には学校のグラウンド並に広かった空間の十分の一は埋まった。というか広いな収納先、レベルアップすりゃまだ広くなるとか書いてなかったか確か。

 ちなみに、アイテムを全部回収してる事に関しては特に何も言われていない。素材なんて最初から最上級の装備一式を与えられているこのチート軍団には必要無いし、武具に関しても同様だ。群れでやっとB+に届く程度の魔物達が落とす装備など、彼らが持つ魔剣や魔具には遠く及ばない。故に、彼らはドロップ品には目もくれなかった。


 まあチート能力の一つも持っていない俺では何があるか分かったものではないので、後に備えるのならばいくら貯蔵しておいても困らないだろう。色々と面白そうなアイテムも手に入ったのだ。『死臭茸』、『魔力石』、『魂の紙片』、etc……

 最悪のパターンだと、俺のような無能系のクラス転移者は何かしらのきっかけでクラスから離れる可能性もあるのだ。なるべくそんなテンプレは回避したいが、無いとも言い切れない。


 加えて、俺はチート能力も無いどころか、どうにも魔法すら使えない。

 姫路のような応用が利く適正系統のスキルが無いのはもちろん、和也のようにレベルによって解放される魔法スキルすら持っていない。

 誰でも使えるとされる、応急処置程度の低燃費な治癒魔法ですら、二、三度使えばそれで枯渇。魔力値が低いのもあって効率が悪く、攻撃魔法なんて適正が無さ過ぎて、城下街に暮らしているような一般人よりも酷い。

 魔道具なんかとの親和性は妙にバカ高いようだが、大概の魔道具は持ち主の魔力を莫大に行使して効果を発揮するので、俺に使えるはずも無い。魔道具との親和性が干渉できるのはその影響の大小のみであり、その消費魔力には全く変化はないのだ。

 親和性を測ってみた時は「これで多少は巻き返せるか……!?」などと期待したものだが、その冷たい現実はとんだ期待外れだった。

 一応城を出る前に護身用として貰った『オーラルカ鉱石』という閃光弾代わりになるらしい鉱石なんかは、使い捨て故に魔力は要らないらしい。他にも常時効果を発揮するアイテムなんかもあるらしいが、それらは大抵効果がショボいのだという。手元には無いが知識だけでいうと、『拡音石』なんていうモノもその類らしい。効果は単純、音を増幅させる。終わり。


 ──と、視界の端でシート軍団の中から一人が抜け出し、荒い息を吐きながら倒れるように草原へ座り込んだ。


「はぁ……っ、はぁ……っ、っく……」


 ふと気になってその人影を見てみると、それは二日前にもあちら側(日本)で話した相手――つまりは、白城夏恋であった。


 確か聞いた話によると、彼女の固有能力は『聖域の極光オーロラ・オブ・ミーソン』という回復に特化したものらしい。魔力の持続する限り、自身の付近に降り注ぐ太陽の光に、味方と認識する者に対しての回復効果を与え、更に自身の魔力の質を高め、強化する……といった、完全にヒーラー職だ。加えて彼女自身、光属性の攻撃魔法が使えないこともないらしいので、レベル上げも順調に進んでいるらしい。が、その様子を見る限り、あまり好ましい状況ではなさそうだ。


「お、おい白城、大丈夫か?回復も兼任してるんだから、こんだけ戦ってるとそろそろ魔力も尽きてきたんじゃ……」


「……ぁ、五十嵐、君……?……いえ、大丈夫、です。MPはまだ、三割くらい、残ってますし……」


 この世界におけるMPというものは、単なる魔力の貯蔵量と考えてはいけない。

 MPとは簡単に言ってしまえば、精神力の残量のようなものだ。厳密には違うのかもしれないが、人の持つなにか大切な力を削って使用するのが魔法であり、魔道具であり、異能だ。MPを使い過ぎてしまえば体力が残っていようが気絶したり、体に悪影響が出たりする。実際、体内から魔力を失い過ぎて発症する恐ろしい病なんてものも存在するらしい。

 つまり、俺が魔法を使えないもう一つの理由もこれにある。かろうじて使えるからといって使ってしまえば、それだけで酷い目に遭いかねないのだ。


 白城はこちらを心配させるまいと笑みを浮かべるが、 その顔には明らかに無理が生じている。白城が座り込む前に見ていた方向に視線をやると、そこに居たのは一体の魔森狼(フォレストウルフ)だった。

 その個体は体に深い傷を負っており、その毛並みを血で真っ赤にして唸っている。血走った目クラスメイト達に向け、勇気を震わせるように一つ遠吠えを上げた。そうして覚悟を決めたように走り出し、そして――



 ズ――ガ――――ッ!!!!



 ソラから堕ちた魔法による大雷にその傷だらけの身を撃たれ、残り少なかった存在の残滓を消滅させた。


 代わりに出現した素材を『収納』で回収すると同時に、白城の方から奇妙な声が漏れる。再度そちらを向き直ると彼女は口元を押さえており、その様子で彼女の異様な消耗の――磨耗の原因を察した。

 というよりは、向こう(日本)だったならば、こうなるのは当然なのだ。ダメだ、やはりまだゲーム感覚が抜けきっていないらしい。


「多分苦手だよな、こういうのは」


「……はい」


 要するに、一方的に動物の虐殺を延々と続けるこの状況に、精神が磨耗したのであろう。


 元より白城は動物好きだった筈だ。それを除いたって、白城は優しい性格であり、あまりゲームや漫画なんかは見ないタイプだろう。俺のように多少耐性のある人間でも気分が良いとは言えないのに、そんな諸々の条件が噛み合った彼女が普通で居られる筈がない。よく先程まで白城も居たチート集団に目をやると、所々では白城と同じように無理をしたような顔が見られた。

 精神的な苦痛というものは、結構馬鹿にならないのだ。


 相手は魔獣。この世界の人間達にとっては、百害あって一利なし。他の動物達から魔力変異で生まれ、その後は息途絶えるその時までただ人を喰らうだけのバケモノ。


 魔獣を殺すという事は、その分人間を救うことに繋がる。


 と、頭では分かっていても呑み込めないのが、優しい人の宿命というモノか。


「……イサさん、そろそろ切り上げませんか?白城を筆頭に、どうやら何人か無理してる奴も居るようなので」


「……そうだな、これ以上の続行は危険だ。……全員!現在の戦闘を終わらせ、速やかに集合せよ!」


 白城が「まだ戦えます」とでも言いたげに杖を握りかけたが、何人か無理しているという言葉に反応したのか、そのまま素直に従った。イサの号令に従い、魔法職関連のチーター達は直ぐに、白兵戦担当は自身の目の前の魔獣を倒してから、直ぐに下がった。森からまた新たな魔獣が現れようとするも、イサの指示で他の兵士達が貼り直した結界により封じ込められる。

 ちなみに、聞いたところによると、この結界も魔道具の一種らしい。あとドロップアイテムは全て回収した。


 集合したクラスメイト達の様子を見ると、神経の図太い奴は「暴れ足んねぇなー……」などと怖いことを口走っていた。が、殆どの奴はかなり消耗したらしく、疲れた顔で深呼吸をしていた。


 ふむ、ではまあ戦えなくてずっと休んでた俺が、せめて収納を生かしてここで少しばかり気を利かせるとしますか。




 ――脳裏に、広大なる世界を想定する。



 概念を設定、材質を選択、『世界検索』。該当物資、発見。

 抽出開始。概念を再構成し、物体を再編成し、合成し、再度同じモノとして現世に顕現させる。


 と、大層な事をしているように見えても、やっている事を挙げればただ収納空間から王城で貰ったコップを取り出しているだけである。

『門』を疲労しているらしいクラスメイト達の前にそれぞれ展開し、そのコップを目の前の地面に置く。再度『門』から物質を抽出し、今度は井戸で汲んできた天然水を注いだ。

 事前に城の人達に聞き、俺自身も飲んで確認したので、安全性はバッチリだ。見た目も透き通っていて悪くないどころか、キッチリと冷えていて美味しい。日本の自販機で売られている天然水を飲んだ気分だった。


 何人かが困惑したようにこちらを見てきたので、ジェスチャーで『飲め』と伝えてやると、嬉しそうに飲み始めた。うむ、苦しゅうない。


「夏恋、途中で抜けたみたいだけど、大丈夫だったか?」


 と声を上げつつ、白城の下に二人が駆け足でやってくる。イケメン(五条)兄貴(奈霧)だ。

 五条は今や完全に装備も勇者一式で、コスプレ感はあまり無く、キッチリ似合っている辺りやはりイケメンか……

 奈霧の方は何やらワイルドな衣装で、その鍛えられた肉体も合わさり中々に格好良い。ザ・兄貴分といった雰囲気だ。


「あ、うん、もう大丈夫。五十嵐君にお水貰ったし、大分楽になったかな」


「……そうか、なら良いんだ」


 ……おいおい五条さんや、こちらを軽く睨まれても。アンタが白城好きなのは知ってるし、手を出すつもりもなければアンタが心配してるような事になることもないから……


 なんて軽口を発しかけるも、話がこじれると思い吞み込む。奈霧の方が察して軽く謝るジェスチャーをしてくれていたので、『気にするな』的なジェスチャーも交えて改めて辺りを見回した。


 ――ん?


「おい、藤堂と東どこ行った」


 二日前に多少揉めた二人が、集団の中に居ない事に気付く。

 軽く辺りを周回してみるも二人の姿が見当たらず、まさかとは思い警戒しつつ森の奥を伺う。


 ヒュッ──


「……っ!」


 強烈な寒気を感じて、全力で跳び退りつつ『収納』からドロップ品の盾を取り出す。それを掴んで身を守ろうかと思ったのだが指先が滑り、『門』から半分出たあたりの状態の盾は掴めず、続いて響く破砕音にビクンと身を縮こまらせた。


「……っぶねぇ」


 足元には濡れた盾が転がっており、恐らくは森の奥から放たれた水魔法を何とか逸らせたのだと安心する。

 そしてすぐに切り替え、森の奥を睨むと、わざとらしい笑みを浮かべた藤堂と東が軽く舌打ちをしつつ出てきた。その指先には魔法陣が浮かんでおり、彼らの後ろには魔森狼(フォレストウルフ)の死体が転がっていた。それもすぐに消失し、その素材が出現する。


「いやぁ悪いな五十嵐、ちょっと勢い強め過ぎちまったわ。無事で良かったぜ」


「しかし五十嵐も危ねぇぞ?自分から(・・・・)魔法の射線上に入ってくるなんてよ」


 ……古っ。

 何世代前の言い訳だよ馬鹿かよテンプレかよそういやこいつら存在がテンプレみたいな奴だったわ忘れてた。

 ニヤニヤと笑みを浮かべる藤堂に二日前の反省は無いらしく、相変わらずだと逆に安心する。決して褒めてはない。普通に貶してる。


「……まあいいや、もう集合だぞ。さっさと来いよ」


「分かってるっての、ほら行くぜ祐樹」


「おう。役立たず君こそ……さっさと来いよ?」


 ドンっ、と。


 すれ違いざまに、背を蹴飛ばされた。

 強力なステータス補正により数メートル吹っ飛ばされ、木に叩きつけられてようやく止まる。幸いHPはそう減っておらず、「またアイツらは……!」なんて思いつつ急いで帰ろうと――。


 したところで、魔森狼(フォレストウルフ)に囲まれた。









 これでようやく話は最初の最初へ戻る。……つまりは、時間が追い付いた訳だ。









「……で、どうやって切り抜けたものか……」


 周囲には約10体の魔森狼(フォレストウルフ)。隙間は無し、というよりあるけど通ったら食われる。却下。

 なんとかドロップ品の盾だの布だのを出したりして目眩しをし、時間稼ぎをしているがいつまで保つかは分からない。どうにか外に自分がここに居ると気付かせられないものかと考えるが、ここから何かを投げようにも俺の腕力では届かないし、木々に阻まれて視認も出来ないから『収納』で物を届ける事も出来ない。

 下手に大声を出して更に魔森狼(フォレストウルフ)を呼んでしまったら、それこそ目も当てられない事になる。


「……そろそろ見逃しちゃくれませんかね、俺美味しくないよ?」


「ガルァッ!」


「危ねぇっ!!お構い無しかっ!?」


 理性無き獣に何を言っているのかは自分でもよく分からないが、取り敢えず打開策を探す。強行突破は不可能、『収納』による救援要請も無理、大声なんて以ての外。


 何か、何か無いか。おう知力SS、それがお前の唯一の長所だろうが考えろ馬鹿、情報全部引っ張り出せ、何でもいい、一瞬でも気を引ければまだ勝ち目はある。


 観察しろ、魔森狼(フォレストウルフ)から逃げるのなら……そうだ、某針ーポタージュのバ○リスクプランで行こう。感覚器官を潰せ、目を潰して、鼻を潰して、音で誘導する。確かその為のアイテムは一部はあった筈だ。匂いと目なら多分潰せる。ただ音が無い。小石を投げる程度では足りない。何か、何か――




 あ。




 馬鹿め、自分で脱出口を用意してくれおって。持ってて良かった『収納』様々だ。


『門』から、二つのアイテムを実体化させる。

 確か名は、『死臭茸』と『オーラルカ鉱石』。死臭茸に関しては茸を集める習性があるらしい魔物からのドロップ品、オーラルカ鉱石は城の人達から賊に襲われた時の目眩し用として渡された擬似閃光弾だ。

 まずは息を止めて、茸を剣で刺す。同時にその傷から尋常では無い刺激臭が発され、息を止めている俺ですら目が痛くなった。


 同時に狼達が怯むように後ろに下がり、混乱する。全員が茸を警戒するように視線が集まっているのを確認してから、オーラルカ鉱石を隣に落とした。

 すぐに目を瞑り、再度振り上げた剣で叩き割る。


 同時に、太陽の光にも勝るとも劣らぬ光の奔流が溢れ出した。瞼の皮膚越しに視界が明るくなるのが見え、その光が収まってから、遠く離れた地面に落ちる『ソレ』を『門』を開いて回収した。


 先程、クロを事故に見せかけて攻撃する為に殺した、魔森狼(フォレストウルフ)のドロップ品、『拡音石』を。



 手元に拡音石を実体化させ、握り込む。ただそれだけの動作で手の中に生じた軽い音が、『ゴンっ!』と大きめな音となってしまい、過度な性能に若干焦る。が、これで条件は整った。


「……ほら、狼共。ボール投げだ、取って来いっ!」


 拡音石を思いっきり投げ飛ばし、森の奥へと落とす。同時に森の奥から『ガァァ――――ンッ!』という大きな音が響き、音しか頼りを無くした狼達はそちらへと走っていく。

 その隙を突いて、ダッシュで逆方向へと走り出し──


「うっそだろ」


 その内一体が、その足音に気付いて追ってきた。





 マズイ、マズイマズイマズイ。

 最後の最後でしくじった、やらかした、絶対逃げ切れない。足の速さじゃ数倍近くあっちの方が速い。くそッ、馬鹿野郎が。上手くいったと思って調子に乗ったか阿呆。畜生、逃げ切れねぇぞ。どうする、どうする、どうする。


「……死んでたまるか……っ!」


『門』を開き、あるだけドロップを垂れ流しにする。剣やら鎧やらが次々と放出され、狼の道を塞いでいく。が、少し警戒はしたらしいがすぐに乗り越えてきた。ダメだ、多少の時間稼ぎにしかならなかった。次、何か手は……!




「いやもうバレてるんだし、普通に助けを呼べば良いんじゃない?」


 狼が、空中で静止した。

 どこまでも透き通った氷が森を凍てつかせ、クロを囲むようにその彫像が組み上がる。一気に辺りの気温が下がり、更に首根っこが何処からか引っ張られた。

 その衝撃に思わず目を瞑り、再び目を開けると、そこは既に森の外。呆然と振り返り、連れ出してくれたその人影をやっと目視する。


「大丈夫?やっと出来たマトモな友達をすぐ失くすとか、絶対嫌だからね」



 ──つまりは、俺はまたも姫路に助けられたという訳だ。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ