第46話『手に余る力』
お待たせしましたっ!!
「お、おぉぁーーッ!!」
即座に『収納』から無数の剣を出現させて、黒妃の周囲を無敵性を付与した剣で取り囲んでいく。例え殺す事が出来なくとも、動きさえ封じてしまえば後は逃げることは容易い。幸い、『真祖龍』との戦いであの馬火力ブレスを辛うじてとはいえ防いで見せたように、『収納』に収まる数多の武器は、確実に数百を超えている。
問題は、クロの感知外の範囲にまでこの空間が逃れてしまえば、『収納』も維持できないという事か。
『――LAaaaaaaaaaaaaaaaaーーッ!!』
そんなソプラノの美しい叫びが剣の隙間から漏れ、同時にとんでもない風圧がこちらへと届く。恐らく、黒妃が剣に攻撃したのだろう。無敵化した剣で受け止めてもこの風圧とは、一体どんな馬鹿力をしているのか。衝撃があの体から発生しうるレベルを完全に超えている。
「ちょっと失礼するわぁ」
「ぬぐおっ!?」
唐突にブルアドが俺の体を担ぎ上げて、一息に跳躍した。遺跡の大部屋から飛び出すと同時に景色が凄まじい勢いで流れ、視界の再奥で今まさに柱の影へと消えていこうとする無数の剣の壁を、寸前で『収納』へと仕舞い込む。
あくまで『収納』の展開可能な範囲は、視界の中に限る。視界の外に逃れてしまえば展開中の物体はそのまま放り出され、回収もその場に戻らない限りは不可能だ。
持てる武器の全てを使って壁を作り上げたために、これを失うことは、この先の事を考えても完全に悪手。いくら自由を許してしまうとはいえ、効果が切れれば壁は崩れる以上、回収は欠かせない。
『LAaaaaaaaaaaaーーッ!』
「うる……せぇッ!!」
即座に追い討ちを掛けて来る『黒妃』に対して、即座に収納から伸ばした剣を叩き付けた。ガチンッ!という金属音と共に火花が散り、『黒妃』が反射的に掲げた剣の腕ごと、その身体を大きく押し返す。
が、勿論それで四黒に名を連ねる者が止まるはずもなく、突き出た剣の隙間を縫うように避けて、コンマ数秒のラグもなく再び加速し始める。足止めにすらなったかどうか。理性を失っている割には状況判断が速過ぎるあたり、評価規格外の称号は伊達ではないらしい。
ブルアドは相変わらずその顔に余裕の笑みを浮かべて、その巨体に見合わぬ速度を出し続ける。それどころかどんどんと加速していき、今や新幹線に乗った時の車窓の景色のように、周囲の風景が急速に流れていくのだ。どんな速さだよ。
「今すぐ魔力抑えたら見失ってくれたりは……」
「流石に無理ねぇ。一瞬じゃ魔力の残滓がどうしても残るし、魔力強化を失って弱った所を一瞬でやられちゃうわぁ」
「ですよねー!」
くそっ、一時的に距離を離すか?いやダメだ、『収納』で抑え込もうにも、この遺跡じゃ障害物が多過ぎる。すぐに視界から『収納』が出て、ロクに離れられずに効果が切れるのがオチだ。すぐに追い付かれて即死までの未来が容易に見える。
であれば、速やかに遺跡を脱出して、街から引き剥がすのが最適か。
「ブラド、街から離すぞ!」
「了解よぉ」
流石に『禁術』無しでの俺の身体能力では、『黒妃』には到底及ばないだろう。勿論、なるべく『禁術』を使わない事に越したことは無いので、逃げ切れている現状からも鑑みて逃走はブルアドに任せる。ほんと何者なんだよこの人。
兎も角、今の俺が専念すべきは、『収納』を最大限用いて、出来る限り『黒妃』の行動を阻害する事。道を可能な限り塞ぎ、あの化け物が通過できるルートを狭める。
脳を出来る限りフル回転させ、次々に展開した収納から無数の剣を突き出していく。しかし『黒妃』も流石の反応速度の速さで、五感の全てを失っているとは到底信じられない動きで全て回避、事もなさげにこちらを追って来る。
それにしても、どういう事だ。ブルアドによれば、『黒妃』はここからは相当離れた場所に居たはずだ。
百歩譲って、『黒妃』がその"相当離れた場所"からここに辿り着くまで数秒も掛からなかったとする。あの『真祖龍』と同格の存在なのだ、それくらいしてきても……おかしくは無いんだろう、うん。そう思っておこう。
問題は、何故ここが割れたのか。いやまあ、さっき俺が魔力放出陣に魔力を流したのが原因なのは分かる。流石にそれほど馬鹿じゃない。ここでの問題は、"なぜそれを『黒妃』が感知できたのか"だ。
俺が流した魔力はほんの少量。放出陣に増幅能力等といった機能が付いていれば話は別だが、仮にそうだとしても必ず気付く。一応街を訪れる以前に、ブルアドから魔力の感じ方は習っている。先ほど空気中に放出された魔力は本当に微々たるものだったし、空気中を広がっていったとしても精々が2、30メートル。数十、数百キロも離れるような場所に届く訳がない。
となれば、原因は逆。『黒妃』の感知範囲がそれこそ数百キロにまで、しかもこれほど微弱な魔力に対してすら及ぶという事になる。だが、だとすればまた解せない。
これほど小さな魔力でもすぐに飛んで来るのなら、そもこんな陽動方法は成立しない。街でも常に微弱ながら魔力が使われるのだ。戦闘だってある以上、魔力など世界中で溢れかえっている。
なら、何故『黒妃』はここへ一直線に向かってきた?『黒妃』が居たらしい方角とこの遺跡はブラド曰く真反対であり、街を挟んでかなり離れている。わざわざ街を越えてここまで来たという事か?ならば何のために。
「くそっ、まるで分かんねぇ……!」
「考えても無駄でしょう、今は撒くのを優先ねぇ」
「うぐぉっ!?」
ぐい、と腹を下から引き上げられて、思わず呻き声が漏れる。視界に映る景色の流れが上へと急加速し、薄暗かった周囲に光が戻る。どうやら、遺跡からの脱出には成功したらしい。
数十分ぶりの地上の光に目を細めてから、即座に『黒妃』の動向に視線を注ぐ。落下と共に左右へと注意を振って、一瞬でそのドス黒い影を発見した。
「……っ」
本当に、つくづく気味が悪い。
恐らくは、人型ではあるのだろう。ドス黒い霧に全身を包み込んで、その輪郭すらハッキリと分からない。紅く輝く二つの瞳が黒霧の奥で不気味に漂い、辛うじて見える二振りの長剣が、その剣先を地面にカリカリと擦っていた。翼の骨組みのようなものが背の辺りから伸びて、その異様性をより際立たせている。
『黒妃』が一歩歩み出せば、足元の草木はすぐさま腐っていく。その内に眠る小さな生命を根こそぎ吸い上げているかのように、『黒妃』の周辺の魔力が取り込まれている。全て自身の魔力になるというなら、とんでもない魔力吸収速度だ。それこそ、封龍剣山で感じ取ったエマの驚くべき魔力吸収速度と匹敵、或いはそれ以上のものだろう。チートか。
微かに届くソプラノの声が嘆きを奏で、その美しい音色と、悍ましい姿のギャップに、独特の悪寒を感じずにはいられない。
『LAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaーーーーーーッッ!!』
「う、がぁ……っ!?」
突如としたあげられた叫びが爆発的に広がり、衝撃という形となって俺たちの全身を打つ。ブルアドが顔をしかめて体勢を崩し、草原が広がる大地へと落下した。同時にブルアドの腕から解放されて、受け身の体勢へと移行する。
くるりと横に回って衝撃を殺し、すぐさま『黒妃』の方角への道を遮るように剣の壁を形成すれば、コンマ数秒遅れて凄まじい風圧が全身を襲った。
掠りもしていないと言うのにこの威力とは、やはり『真祖龍』と戦った時のあの重い一撃を連想させる。最初こそ微妙だと思っていた『収納』ではあるが、これが無ければこれまで一体何度死んでいたか想像も付かない。
相手の強さも弱さも関係無く、如何なる相手に対しても有効な、『収納』の展開途中に発生する無敵性。最初こそ必ず通る攻撃と考えてはいたが、むしろ防御寄りの能力と考えた方が良いのかもしれない。実質、これまで『収納』を使った用途の比率は、攻撃よりも防御に寄っている。いやまあナタリスの集落でのレベル上げの時は散々使ったが、ここぞと言う時では基本的に防御だ。
やはりこういった状況下では、防衛を主眼に置いて戦った方が良いのだろう。
剣の壁を左右に広げて、『黒妃』の周囲を取り囲んでいく。上空に逃げられれば簡単に脱出できてしまうため、即座に上へと繋がる空間は剣の屋根で覆い隠した。あとは僅かでも人一人が通り抜けられる可能性がある隙間を悉く埋めていけば、即席牢獄の完成だ。『収納』が持つ無敵性により、破壊による脱出は不可能。
いくら『黒妃』の化け物じみた力があるとはいえ、概念として無敵であるモノを破壊する事は出来ない……筈だ。少なくとも『真祖龍』は出来なかった。
『黒妃』を封じ込めた事にガッツポーズを決めて、即座に逃げの一手を選択する。こういった事で、余計な手出しをすれば墓穴を掘るというのはラノベの悪役なんかでもよくある話だ。そんな初歩的なミスは犯さない。
「ブラド、俺の視界がアレから外れないように俺を持ってってくれ。正直、後ろ歩きじゃ遅過ぎて俺の精神が持たない……」
「了解よぉ。それにしても……ソレ、便利な異能ねぇ」
「最初の頃に地味だとか散々言って悪かったと今は本気で思ってる」
この世界に於ける異能……『固有能力』というものは、何も俺のような異世界からの転移者のみが持つものでは無い。かつて俺の前世である(らしい)『最低最悪の魔王』を打ち倒した英雄、『勇気の担い手』の二つ名も、そのまま能力名から取ったものらしい。
勇気を持つ程に強くなる、などという、王道中の王道な主人公的能力。絶対解放式を使えば『相手が自分より強ければ強いほど力が増す』、などというチート性能も発揮する。
こう言った前例の通り、全員、という訳では無いが、稀に固有能力を持って生まれてくる人もこの世界には存在している。エマは持っていなかったようだが、ナイアは確実に『アレ』が該当するだろう。いや、エマの方もあの異様な魔力吸収速度はそれこそ異能クラスか。
ブルアドに再び担ぎ上げられて、凄まじい速度でその場を離脱する。急速に剣の牢獄が縮んでいき、視界の内に留まってはいるものの、映る面積は極小だ。
視界に入れている限り、『収納』の効果は続く。その特性は今もしっかりと発揮され、牢獄は今もしっかりと健在だ。アレが存在する限り、『黒妃』は俺達を追う事は出来ない。
後は、限界まで離れて出来る限り魔力を押し隠せば――
「――!?」
『A、aaaaaaaaaaーーーーーーッ!!』
嘘やん。
即座に、『収納』から一本の剣を展開する。その剣はしっかりと『黒妃』の一撃を受け止めはしたが、その一撃による風圧はモロにこちらへと飛んでくる。巨人の手のひらに殴り飛ばされたかのような衝撃が全身を襲い、ブルアドとは別方向へと弾き落とされた。
瞬間的に『禁術』を発動して、襲い来る極度の不快感に耐えつつも極力全身に掛かる衝撃を軽減する。それでもジーンと芯に残る痛みはあったが、行動不能になるほどでは無い。今はそれよりも、目の前の事に集中すべきだ。
この、目の前に降り立った、『黒妃』に。
どうやって抜け出して来た、と疑問を浮かべるが、その答えは直ぐに理解する。『黒妃』の降り立った直ぐ後ろの地面に、人一人分大程の穴が空いていたのだ。冗談のようだが、此処から推測出来る可能性は一つしかない。
「……地面潜って来たってか。チートめ……」
『LA、aaaaaaaーーっ、Aaaaaaaaaaaaaaaーーーーーーーーッッ!!』
『黒妃』が叫びと共に飛び出し、それを認識したと同時に俺の眼前へと踏み込んで来る。たった十数メートルの距離だったとはいえ、一切認識出来なかった。今その動きを目視出来たのだって、咄嗟に『禁術』を目に集中させたからだ。
必然的に、『黒妃』が纏う黒い霧が全身を覆っていく。駄目だ、『禁術』により強化された視界だけが頼りなこの状況で、目を潰される訳にはいかない。両足に『禁術』を装填して、直ぐに後ろへと後退する。
「……っ、嘘だろ……ッ!」
付いて来る。『禁術』の速度だろうと御構い無しに、平然と追い付いてくる。駄目だ、流石に同じ『源流禁術』では、『黒妃』の方が出力は上なのか。確かに後ろ向きに進んだ為に力はセーブしていたかもしれないが、それでも速い。
思わず体が強張り、判断が遅れる。その隙に『黒妃』が眼前にまで踏み込み、付随する黒霧がすぐさま視界を閉ざしていく。
まずい、まずい、まずい。どうする、『禁術』で逃げるにしても、しっかりと足が地面に付いていない。全力で下がろうにも、今の体勢では踏ん張りが利かない。勢いが足りず、そのまま殺されるのがオチだ。
『収納』で身を守るか?いや駄目だ、距離が近すぎる。俺に触れたら効果が切れてしまう……いや、そんな事を言っている場合じゃない。一か八かでも可能性があるなら賭けるしかない。
すぐさま脳内に剣の構成をイメージする。イメージは現実に形となって侵食し、物体として顕現しようとする。
――が、遅い。
『黒妃』がその漆黒の腕を伸ばすのが、黒霧越しにぼんやりと見える。速い、『収納』の展開速度では到底追い付かない。黒い手のひらは俺の首辺りへと伸びて、この首を捩じ切ろうとそのまま握り込む……事はせずに。
俺の肩上を通過して、そのまま両腕で俺の体を抱き寄せた。
「――は?」
ふわりと、長い黒髪が視界に掛かる。一瞬だけ見えた二本の大角はそのまま視界を外れて、全身に冷たい重みが加わる。
硬い肌が全身に擦れて、少しばかり痛い。しかしその痛みは本来想定していたものと比べれば、あまりにも拍子抜けといったレベル……いや、そも同じ痛みとして分類しても良いものかという程小さなものだ。
いや待て、何が起こった。
『A、Aa――』
耳元で囁くように、小さな声が黒霧の奥から溢れ出る。先程の空間そのものを揺るがすような大音量ではなく、ただ無意識に声が漏れ出てしまったような――そんな小さな声。
硬い表皮越しに、歪なリズムの鼓動音がどく、どく、どく、と、少しばかり高い頻度で伝わって来る。こんな化け物でも同じ生命なのかと当たり前ながらも心の奥では信じられなかった事実が判明して、そんな事が分かってしまうこの現状を見つめ直す。
ゼロ距離。文字通りのゼロ距離だ。
布数枚越しに肌と肌が密着し、『黒妃』の周囲にしか漂わない筈の黒霧が視界を……否、全身を覆い隠している。『黒妃』の左腕と一体化しているらしい巨剣が、右腕に持つ直剣と擦れ合って不快な音を立てた。
肩に小さな顎が乗せられて、悍ましい程に冷たい体温を間近で感じる。これ以上このままで居ればロクな事にならないと、回らない頭ながら一瞬で確信した。
だが、その冷たい抱擁が解かれる事はなく、出力で押し負けている以上どうしようもない。
ふと、耳にか細い声が届く。これまでの意味をなさない嘆きとは違って、しっかりと意味を持つ言葉。
――やっと、おいついた。
「――ッ、お、アァァあッ!!」
悪寒がした。
これ以上、その声を聞いてはいけない。これ以上、ここに居てはいけない。これ以上、『黒妃』と共に在ってはいけない。例えようのない不快感が全身を舐め回し、冷や汗と鳥肌が全身に浮かぶ。
『禁術』を起動する。瞬間的に全ての出力を両腕に回し、その抱擁を振りほどく。手加減など不要だ、殺す気で撃て。いや、殺せ。これ以上、この化け物に――『黒妃』に、俺の精神を犯される前に。
右腕を握り込む。ただそれだけのアクションで意識を叩き潰す程の風圧が発生し、ただでさえ『禁術』の侵蝕によって壊れかけの精神が持っていかれそうになる。だが、それを確固とした意志で耐え切って、全身のバネを右腕に力を込めるためだけに使う。
殴れ。一発でいい、一度吹き飛ばせれば再び『収納』で、今度こそ全方位から囲い込む。だから、頼むから、通じてくれ。大人しく、殴られてくれ。一度だけでいい、頼むから。
半ば願掛けのように念じて、黒く染まった拳を振るう。最初の一瞬で音を突き破り、次の一瞬で光が捻れた。歪んだように見えた拳はそのまま『黒妃』の下腹部へと突き刺さり、勢いを落とさず殴り飛ばす。
瞬間。
ド――――――――――――――――――――――――。
「……は?」
思わず、声が漏れた。
別に、『黒妃』が理不尽な避け方をしたとか、ダメージが全く通らなかっただとか、そんな話ではない。俺の願い通りに、拳は確かに『黒妃』に命中し、その体を大きく吹き飛ばす事に成功した。
反動で右腕の内側はグチャグチャに崩れて、とんでもない激痛が終わる事なく伝わって来る。が、そんな現状も、この目の前に起こっている状況の所為で若干薄れてしまっていた。
『禁術』の特徴としては、精神の侵蝕と引き換えにした超高速の再生能力、同じく精神汚染を代償にした身体能力の増強。後は慣れれば、エマ曰く魂への干渉や重力軽減、物質構成への干渉など、その効果は多岐に渡る。
だがやはりメインとしての能力は、身体能力の増強が大きいだろう。その強化倍率はエマ達ナタリスが扱う『末端禁術』の比ではなく、あの『真祖龍』の重厚な鱗を叩き割った程なのだ。
レベル90前後のあの時点で十分に身体能力も化け物じみていた為に、確かにレベルが上がった事で更にとんでもない事になっているだろうとは予測していた。
だが、流石にここまでは予想しているわけがなかった。
「――嘘だろ」
拳を振り抜いた、その先。
衝撃の余波で、大地は抉れてしまっていた。ただそれだけ言うならば『真祖龍』との戦いでも十分周囲の地形は滅茶苦茶になったものだが、あれは殆どが『真祖龍』の攻撃によるものだし、俺の行動で破壊された地形も、精々触れた周囲が砕ける程度のものだ。
だが、これは文字通り、規模が違い過ぎる。
もはや、これは谷だ。
円状の衝撃に大地がくり抜かれたように、直径数十メートルはあるかという程の大穴が、地面を抉り取っていくように奥へと続いている。更にそれも近距離に限り、と言う話ではない。
広がる草原の最奥――遥か彼方に広がる地平線に達するかと言う程までに、その惨状は広がっていたのだ。
美しかった風景は見る影もない、無残に荒れた土塊の山がそこらに積み上がっている。未だ巻き起こる風圧が無数の竜巻となって、周囲の砂埃を更に巻き上げていった。
一瞬、何が起きたのか、本気で理解が追いつかなかった。
僅かな硬直の後に自身の腕に視線を向けて、次に視界に映る風景を見る。これは、当然ながら、『黒妃』が齎した災害などでは無く――
――俺が放った、力が原因で。
『源流禁術』の強化倍率は、『末端禁術』とはレベルが違う。
アルタナ神話に残る逸話曰く、拳一つで天候を変え、蹴り一つで大地を揺るがす、圧倒的なまでの力。それは神代から数千、数億と歴史を重ねた今でも、問題無く伝承通りの効果を発揮する。
俺が得た禁忌の力は、余りにも、想定以上に。
持て余すほどに、大き過ぎたらしい。




