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第31話『魔界の複雑事情』

 ……いやいや、待て。

 《最低最悪の魔王》が俺の前世?なんじゃそりゃ、一番ダメなやつだろそれ。一気に将来が不安になったんだけど。俺人間に迫害されたりするフラグじゃないだろうな。いや確か《最低最悪の魔王》って全種族に被害出してたから、下手すりゃ世界中から迫害される?やべぇぞ、そうなったらもう帰る手段を探すどころじゃなくなる。


「なんだ、それすら気付いていなかったのか?その痣、見たところ『禁術』――それも源流のモノだろう?そんなもの、ただの一般人がすぐにでも使えるようになるとでも思うのか?」


 おい、『禁術』の事知ってんのかよ。アレ確かナタリスが情報を秘匿してるから、一般には出回ってないんじゃなかったっけ?なんで知ってんのさ、魔王軍と繋がりあるとかそういう感じ?早速魔王軍に睨まれるとか最悪のルートだぞ初見殺しも大概にしろ。

  歯噛みしつつも、彼女の言葉の思わぬ説得力に首を縦に振りそうになる。そりゃそうだ、こんな化け物みたいな力誰でもいきなり使えたらそれこそ世界中インフレし放題になる。確かに侵蝕の速度こそ早いが、使った瞬間にすぐさま自分の人格を失う程の速度では無い。一人一人を使い捨てに適当な雑兵へと付与してしまえば、たったそれだけで大量殺戮兵器の量産完了となる。

 そんなモノが存在するならば、誰かしらが何としてでも奪いに来るだろう。


 それが出来ないという事は、つまり何らかの制約があるという事になる。


「……ちなみに、俺の源流『禁術』を一般人が使ったら、どうなる?」


「発動した瞬間に人格を呑まれ、ただ人を襲うだけの化け物の出来上がりだ。『禁術』により身体能力を馬鹿みたいに強化している分、尚更質が悪い」


「うっわ……」


 一発アウトかよ、酷いな。

 というか、『禁術』自体謎が多すぎるのだ。魔法でもなければ、物理的な仕組みがある訳でも無い。俺のように適正(?)さえあれば人外の力を獲得出来る割に魔力消費は一切無く、使用者に強いるのは人格そのものの侵蝕と肉体に与える不快感。それはつまりそれさえ根性で耐え切ってしまえばいくらでもその化け物じみた力を振るう事を許されるという事になり、そのデメリットがメリットを殆ど打ち消さない。そんな都合の良い力が存在するものなのか。


 一応、仮説としてその力の出処に目処は立っている。あくまでも仮説ではあるが、使用者の削られた魂を出力として力を発揮しているという可能性だ。この場合当然ながら力の行使には限界があり、使い切ってしまえばその時点で俺という存在は消失する。後はきっと侵蝕によって再臨する《最低最悪の魔王》が俺の肉体を依代に好き勝手するのだろう。が、この場合はこの力を作ったとされる《最低最悪の魔王》もその原則には外れない筈なので、その魂が転生して俺になるなんて事もある筈がないのだが。


「……クロが、《最低最悪の魔王》の転生体……?」


 エマが少し不安げな声でそう漏らす。その名に込められた『悪』の重さを知る存在ならば当然の反応なのだが、エマは更にナタリスの一族に属する者だ。ナタリスと《最低最悪の魔王》は密接な関係にあり、その恐怖も色濃く残っている筈なのだ。ナタリスの本能に刻まれたその悪意が俺の中にあると知って、しかしそれでもエマは袖を握る手を離さない――どころか、繋がりを求めるかのように手を握ってくる。汗ばんではいるもののその手に込められた力は強く、決して離そうとはしない。

 多少照れ臭くはあるのだが、その顔に浮かぶ恐怖の感情は明らかに尋常ではない。青ざめ、肩を震わせながらも尚、その原因である俺からは離れようとしない。いや別にそんな無理しなくてもいいってのに。仕方ない事な訳だし。


 内心罪悪感に包まれつつも、一先ずエマの中で整理が付くのを待とうとキルアナに向き直る。エマの様子を生暖かい目で見ていたキルアナは俺の咎めるような視線に気付くと、取り繕うように肩を竦めた。おいこら、なに笑ってんだこいつ


「まぁその転生後が『人族(ノルマン)』とは驚いたがな。お前ほどの力の持ち主が、人の身を保ったままか」


「いやそんな簡単に人を捨てれる訳ないだろ、何を……な、に……を?」


 言いかけて、キルアナが平然と言って見せた言葉を脳裏にリピートさせる。おい待て、ちょっと待てやキルアナさんよ、今お前なんつった。なんか思いっきり秘密事項がバレてなかったかオイ。

 そんな具合に内心ダラダラと汗を掻きつつも、声を絞ってひっそりとキルアナを問い詰める。


「ちょっ、待てっ!何時気付いた!?」


「うん?なんだ、秘密のつもりだったのか?フードも先の戦闘で落ちてしまって、耳も隠れていないというのに」


「思いっきり惜しげも無く晒してんじゃねぇか俺の馬鹿ぁーーっ!」


 フード落ちてくる事ぐらい気付けよ馬鹿じゃねぇのっ!?耳隠さなきゃ一瞬でバレるんだからさぁっ!

 と盛大な凡ミスに嫌気がさして自己嫌悪に陥っていると、不意にキルアナがその眉をひそめて訝しむような視線を俺に向けてきた。いきなり向けられたその不躾な視線に若干俺の中のコミュ症がビビりつつも、しかしなんとか睨み返す。

 キルアナは俺の視線に気付いたのかフッと笑うと、「すまないな」とすぐに謝罪してきた。


「いやなに、随分とちぐはぐだなと思ってな」


「あぁ?ちぐはぐ?」


「お前の思考回路がだよ」


「喧嘩売ってんのか」


 あまりにもあんまりな言い草に光の速さで返せばキルアナが噴き出すように笑い、ホールドアップでもするように両手を上げてみせる。手をひらひらと振って降伏の意思を伝えるその適当な仕草ですら妙に絵になっているのが地味にイラついた。殴りたい、その笑顔。

 キルアナはすぐに手を下ろして、平均よりは大きいであろうその胸の下に両腕を組む。思いっきり自爆してしまった先程までの俺をぶん殴りたいなどと自己嫌悪に駆られている俺を見かねたのか、彼女は助け舟を出してきた。


「案ずるな、別に人族(ノルマン)だと分かったからといってすぐに迫害されたりはしないさ。あくまでも魔族(グァトラ)の……魔王軍の目的は、戦場に於いて真正面から人族(ノルマン)を叩き潰す事だ。そうする事によって、魔族(グァトラ)人族(ノルマン)に劣っていないという事を証明する。故に、個人を攻撃するなんて事はないし、お前という存在の有用性は、そちらの彼がよく分かっているだろうさ」


 キルアナが裏返した手で指差したのは、俺の背後。その指につられて俺もまた視線を背後に向けると、そこにはいつの間にやら白髪の老人が立っていた。新しい人物の登場にエマが警戒したのか、握られていた手に更なる力が込められる。

 が、俺としてはちょっとばかし罪悪感が湧いた。如何にも礼服らしき服装の彼の正体は大まかに予想できるので、思いっきり忘れてしまっていた事に苦笑いする他ない。


 まあ彼は恐らく、というか当然ながら――


「久しい再会ですな、キルアナ殿。そして初めまして、クロ殿。そちらの美しいお嬢さんは、エマ殿で宜しかったかな?私、この村のギルド支部のギルドマスターを務めております、ハレルヤ・アグロトスと申します」


 ――受付のお姉さんが呼んでくると言っていた、ギルドマスターという訳だ。









 ◇ ◇ ◇








「すいませんでした」


「お気になさらず。キルアナ殿の気まぐれには慣れたものです」


「随分な言われようだ」


 俺の謝罪に対して実際慣れたようた様子で返すハレルヤに、キルアナが不服そうに言ってみせる。どうやらこの二人は古い友人だったようで、大分気を許して話せる間柄らしい。ジライヤの方もどうやらハレルヤとは旧知の仲とようで、薄く微笑みを浮かべながらハレルヤと話すキルアナを見守っていた。っていうか何歳なんだよキルアナ、なんで明らかに60は回ってるであろう外見のハレルヤと古い友人なんだよ、どういう事なの。

 ……あぁ、魔族なら仕方ないのか。俺下手したらこの場にいるメンバーの中で最年少かもしれない訳だし。


 実際、ここに居るメンバーは俺以外の皆が魔族であり、その詳しい年齢までは本人もわかっていないようだ。寿命の短い俺達人間と違って数えるのも面倒になる程長く生きているから仕方のない事なのだが、つまりそれは一番若いであろうエマですら俺の十数倍は歳上という事に――いや、考えるのはやめよう。エマに怒られる。


 流石にナタリスの読心能力ではそこまで細かいイメージは伝わらないのか、ただ疑問を浮かべているだけとしか取れなかったらしい。ちらりとこちらの様子を伺いはしたものの、すぐに視線を目の前に座るハレルヤに戻して姿勢を正した。相手がお偉いさんという事もあって緊張しているのか、その表情は固い。かくいう俺も人の事は言えないのだが、デウスとの交流で多少は慣れた。今ではもうお爺ちゃん的ポジションに収まってこそいるものの、最初の方はデウスの集落の長的な威厳と只ならぬ雰囲気の為にひどく緊張してしまったものだ。


 場所は移り、ギルド受付の係員専用扉を入った再奥。如何にもお偉いさんの部屋といった雰囲気のその豪勢な部屋はやはり、ハレルヤのギルドマスターとしての私室だそうだ。彼自身は「このような部屋を与えられても、扱い方に困るだけなのですがな」と謙虚な姿勢だが、どうにも"人の上に立つ者として、外見くらいは整えておけ"という上役からの命令だそうだ。ギルドマスターといえどもやはりこのような村の支部という事もあり、本部の意向には逆らえないのだとか。面倒な話だ。実際この部屋に入る前に面倒な検査も必要なようで、少しばかり時間を取られた。


 ちなみにその際エマのステータスも計測したのだが、結果は以下の通りである。







 ―――――――――――――


 名前:エマ


 Lv:137

 種族:魔族(グァトラ)

 性別:女

 年齢:(エマによって隠された)

 HP:123580 A

 MP:365700 SS

 筋力:12290 B+

 敏捷:38950 A+

 魔力:129800 SS+

 知力:87900 A++


 スキル

 『心透視Lv.-』『末端禁術Lv.-』『五感強化Lv.8』『森の民Lv.MAX』『アクロバットLv.9』『思考加速Lv.8』『獣王殺しLv.MAX』『騎乗Lv.7』『狩人の勘Lv.9』『剣術・火ノ型Lv.9』『剣術・焼ノ型Lv.7』『剣術・燃ノ型Lv.8』


 総評:ランクSS


 ―――――――――――――






 どうやらこの総評とやら、スキルのレベルや単純なステータスのみで決定される訳ではなく、ステータスには表示されない個人の異能やスキルの質にも左右されるらしい。ステータスが全体的に俺を上回り、スキルの量も殆ど変わらない上に高レベルのものが多いエマでもその総評はSSだ。それでも勿論ながらこれまでの常識を覆すステータスであるのは変わらないので散々ギルド内が騒がしくなった訳だが、そこは長くなるので割愛しよう。


「さて、クロ殿にエマ殿、まずは遠方よりの長旅お疲れ様です。恐らくは宿が幾つか空いていた筈なので、そちらに泊まられると宜しい。流石にランクが高いというだけで優遇する訳にもいかないので宿代までは出せませんが、質は保証しましょう」


「いえ、十分です。というよりそこまでされると逆に悪い気がするので、むしろありがたいくらいですよ」


 改まったハレルヤの言葉に苦笑いしつつ答えて、壁に備え付けられた分厚いガラスの窓から外を見る。相変わらず村を行き交う人達には何処か活気が感じられず、何処か重い雰囲気を感じさせてくる。ハレルヤに聞けばわかるかと思い、思い切って聞く事にした。


「そういえばどうにも村の雰囲気が暗いようなんですが、何かあったんですか?」


「えぇ。情報が確かならば、どうやらそれも解決したようですがね」


 おぉ、解決したならよかった。早い所村のみんなに知らせてやった方が良いんじゃないのだろうか。

 とそんな具合に呑気な思考を浮かべていると、不意にハレルヤがその視線をキルアナに向ける。その視線を受けた当のキルアナも意味深にこくりと頷き、俺に視線を移した。彼女の側に控えるジライヤも何か重々しい視線でこちらを射抜いてくるので、当然ながら三人の大物の視線を一身に浴びたコミュ症な俺は当然ながら縮こまる事に。あの、出来れば注目とかはやめて頂きたいのですが駄目ですかそうですかごめんなさい。


 内心ビクビクしながらも状況が動くのを待っていると、唐突にハレルヤがその頭を下げた。コミュ症故のストレスに押し潰されそうになっていた所からの思わぬ行動に度肝を抜かれ、思わず変な声が出かける。唐突に何ぞや……!?

 そんな俺の内心が伝わる筈もなく、ハレルヤはゆっくりと頭を上げると、厳かな声でその理由――というには些か説明不足ではあるが、その行動の根元を話す。


「よくぞ、真祖龍を打ち倒して下さった」


「……やっぱそこに行き着くか」


 若干予想はしていたものの、やはりこの異様に暗い雰囲気は真祖龍のせいか。

 確か真祖龍が封印から解き放たれた時、精神を直接萎縮させてくるかのような咆哮を上げていた。アレがただの音ではなく何か異能的な力を含んでいたのだとすれば、距離も関係なく魔界、いや、全世界に広がっている可能性だってある。つまりは真祖龍という存在の恐怖を遺伝子に刷り込まれた魔族達にその咆哮を叩き込んだという事になり、その恐ろしさは魔族ではない俺には計り知れない。

 無論、真祖龍を目の前にして感じた恐怖がそれに劣るものだったのかと言われれば否定はさせてもらうが、その恐怖の質が違う。俺は、単純に死の恐怖を。魔族達は、自身の存在に深く刻まれた本能的な恐怖を。それぞれの重みは違えど、同じく身を震わすほどの恐怖である事には変わりない。


 そんなものが魔界に解き放たれたというのならば、それはもうパニックにもなった事だろう。逆に今の状況を見ると驚くほど落ち着いているくらいだ、村長はよくここまで立て直したものだと素直に感心する。


 真祖龍はかつて神代と呼ばれた時代に於いて、世界中を焼き尽くし、《最低最悪の魔王》と並んで世界の人々を絶望の海に沈めた滅びの象徴。その龍鱗は最高クラスの魔法すら弾き切り、勇者の持つ聖剣ですら歯が立たぬ堅牢さ。その爪は、人類がその叡智の限りを尽くして展開した結界すら容易く引き裂く鋭利さ。その翼は、たった一度の羽ばたきで暴風を引き起こし、地上の全てを薙ぐほどの剛力。その極限まで鍛え上げられた顎門の内側から放たれる、膨大なまでの灼熱。そして、それらの力を全て把握し、全てを利用せんと働く高い知能。


 それら全てが真祖龍の力であり、その万能性こそが強さ。更に、俺が戦った時は何故か機能していなかったが、戦う者からすれば絶望的なまでの不死性がその命を繋げてくる。かつて『英雄』と呼ばれた者が何度か挑んだ事もあったようだが、結局真祖龍を殺すとはいかずとも、封印に成功したのは例の『神』ただ一柱のみ。それ以外の存在は皆敗れ、やがて真祖龍は《最低最悪の魔王》に次ぐ忌避存在として恐れられるようになった。


 そこで分からないのが、それ程の存在ですらまだ及ばないとされる《最低最悪の魔王》だ。キルアナ曰く俺の前世であるその存在は、全世界の歴史の中でも最も『悪』に近しい、絶望の担い手とも言われている。なんたる厨二かと思っていると実は全く誇張でも何でもなく、なんとそのたった一騎だけで人族(ノルマン)精霊族(エルヴィ)獣人族(ビースタ)、更には同族である筈の魔族(グァトラ)、それら全ての軍勢を滅ぼし、数多の英雄達を叩き潰して、この世界の最高神格『アルルマ』と互角に戦ったという程だ。

 それも彼の三英雄によって討たれてはしまったが、しかしそれぞれがEX評価クラスだった三英雄の全力を以ってしても尚、真正面からでは歯が立たなかった。ナタリスの先祖の助力と奇襲があってやっと滅ぼす事に成功した《最低最悪の魔王》は、この世界に呪いを吐いて死んでいったという。


 曰く。



『呪いは既に放たれた。いずれ『次』の私が現れるだろう。数万、数億年の彼方であろうと、その時は――必ず殺してやるぞ、アルルマ(世界)



 その次が、俺でない事を祈るしかない。きっと《最低最悪の魔王》の言う『次』は禁術により侵食されきった誰かの成れの果ての事だろうが、キルアナの言葉がいやに耳に残って不安になる。もしも俺がその『次』だったとするならば、そんな化け物を内に宿して精神を保っていられる自信は流石に無い。俺自身は一介の高校生でしかなく、そんな魔王を抑えきれるほど強い意志を持っている訳がないのだ。


「真祖龍を倒したのは、必要だからした事です。俺は自分勝手であの龍を解き放ったから、自分勝手でケリを付けただけ。完全なマッチポンプだ」


「それでも、長きに渡り人々を怯えさせてきた真祖龍を打ち倒したのは事実だ」


「運が良かっただけですよ」


 確信を持って言うハレルヤに、少しばかり複雑な表情で相対する。アレは自分の身勝手で真祖龍をわざわざ解放し、運が良かったから倒せただけに過ぎないのだ。一歩間違えれば、きっとエマも俺もナタリスの皆も死んでいた。下手をすれば、姫路ですら倒せないかもしれない。

 あれは正真正銘化け物だ、レベルアップした万全な状態で今戦えと言われても正直勝てる気がしない。アレを倒せたのは完全な運だ。それこそ『幸運』スキルが力を発揮したのだろう、もう二度と戦いたくない相手だ。アレより強いとかどんだけ化け物なんだよ《最低最悪の魔王》。


 ――魔王と、いえば。


「感謝は、まあ一先ず受け取ります。色々と聞きたい事があるので、まずはそちらを聞いていいですか?」


「無論ですよ。なんなりと」


 思いの外高い評価に対する照れ臭さから話を強引に終わらせた俺に嫌な顔一つする事なく、ハレルヤは笑顔で俺の言葉に耳を傾ける。人が出来てんなこの人。


「以前新しく現れた『魔王』によって、新しく『魔王』の概念が出来たと聞きました。《最低最悪の魔王》と『魔王』の概念は別物なんですか?」


 強引に終わらせた割にはショボい質問ではあるが、気になってはいた事だ。《最低最悪の魔王》という概念があるにも関わらず、『魔王』という概念が新たに生まれたという。魔王という言葉が神代から存在していたのならば『魔王』という概念が新たに生まれたなどという事がある筈もないのだが、けれど魔族達は当然のようにそう言うのだ。エマに聞いてもよく分からないらしいので、彼に聞いてみようという単純思考。

 が、そんな質問にも律儀に答えてくれるようで。


「《最低最悪の魔王》という名は、《最低最悪の魔王》本人が名乗った名のようなものです。故に、その中に含まれる『魔王』という単語も名の一部でしかなかった。けれど新たに現れた今の魔王が自身を『魔王』と名乗る事により、『魔王』という概念を確立させたのです」


「あー、《最低最悪の魔王》の名前からもじって威厳を付けようって魂胆か。中々恐れ知らずというかなんというか……」


 流石は評価EX(規格外)。そんな化け物の名を使おう何ぞよく考えつくものだ、いくら魔族とはいえどんなクソ度胸してんだよ、地球出身の生温い俺には全く理解できない範疇だ。

 とそんな具合に勝手に納得していると、「いえ」とハレルヤが訂正してきた。どうやら知ったかをしていたらしい。恥ずかし恥ずかし。


「どうにも《最低最悪の魔王》からもじった、という訳ではないようなのです。ただ『魔王』と名乗った、というだけで」


「魔族の王だから魔王って名乗るか。そのまんまなネーミングだけどよく名乗るわ」


「いえ、それがですね」


「あれっ!?」


 また何か違ったようだ。クソ恥ずかしい。

 そんな激しい勘違いの連続に頭を抱えていると、ハレルヤが宥めるように手を掲げつつ言葉を続ける。違うとはまたどういう事なのか。





「『魔王』は魔族(グァトラ)ではありません。人族(ノルマン)なのです」





 ――。


 ――――。


 ――――――。





 ――はぁっ!?

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