表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/107

第2話『ここまでテンプレ』

多量のテンプレ要素を含みます。ご注意下さい


※何をトチ狂っていたのか、途中から藤堂が五条にすり替わっていた為、修正しました

「──は?」


 ……オーケー、待て。ちょっと待て。すこし待て。しばらく待て。

 深呼吸だ。はい吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー。オールクリア、ワンモア挑戦だ。心の準備は良いな?さあ目を開くぞ、行くぞ、押すなよ?絶対押すなよ?はい1、2の……3。


「……待て、処理が追いつかん」


 相変わらず、眼前に広がるのは白亜の教会。

 大広間に呆然と立ち尽くすクラスメイト達の眼前には、俺達の倍はあろうかというほどの人数が――それも、全員が仰々しい法衣を纏っている。それはまるでファンタジーの世界のようで、そんな風景を久楼は知識を通して知っていた。


 ──クラス転移。


(んなアホな)


 そんな具合に呆然としていると、やがてやっと現状を認識し始めたのか、クラスメイト達から不安や苛立ちの声が漏れ始める。「何処だよここ」「さっきまで学校に居たのに」などと、至極当然の疑問が漏れだしてきた。

 それに対応するかのように、法衣の一団の中から一人の女性が歩み出てくる。

 その法衣は他の人々よりも一際豪華で、その女性が高い身分である事が一目でも読み取れた。

 女性はクラスの面々の前に立ち止まると、その顔を上げてゆっくりと話し始める。

 ……さて、もうほぼ確定ではあるがこの台詞で全てが決まる。そして──。


「――よくぞ召喚に応じて下さいました、勇者様方。どうか、この世界をお救い下さい」


 クラス転移で、確定した。






 ◇ ◇ ◇






 どうやらこの女性は、俺達が呼び出されたこの国の王女様らしい。

 名を、ルナヴィーネ・ノース・アハトマハト。王族であるアハトマハト家の長女であり、かなり高名な魔法使いだそうだ。

 そして、この世界の名は『アルタナ』。魔物ひしめくザ・ファンタジーな剣と魔法の世界。

 こういった異世界転移のお約束通り、魔王が率いる魔族と人間の戦争において人類が徐々に押され始め、このままでは人類が滅びてしまう。

『どうか我らをお救い下さい――。』

 この世界の創造神アルルマにそう願いを捧げると、女王の元に信託が下ったのだという。




 ――曰く。




『ああ、了解了解。んじゃどっかから適当に勇者軍団連れてくるから、受け入れの準備しといて』


『はっ!?えっ、アルルマ様ぁっ!?』


『む、ここのクラス適正高いの多いなぁ。よし、丸ごと連れてくるか。んじゃそういう事でよろしく』



 ――えらく愉快な神様だ事で。


「ふざけてんのかぁっ!」


 突如怒号が飛び出した。うん、まあ気持ちは分かる。

 ドスを効かせた声で前に出てきたのは、やはりというかなんというか、これまたテンプレ通りに藤堂と東。掴みかかるかのような勢いで歩いていき、ただひたすらに喚き立てる。

 ……が、俺の知るクラス転移モノのテンプレになぞるとするならば――。


「お気持ちは分かります。けれど、貴方方呼び出したのは我らが神のお力……我らの矮小な力では、送り返す事も出来ないのです。きっと魔王を倒す事が出来た暁には、帰る道も見つかる筈です!」


「魔王を倒す!?ざっけんな、こちとら一般人なんだよ!んなもん何年掛かっても出来るわけねぇだろうがっ!」


「いえ、そこは問題ない筈です。貴方方には、他の者達とは一線を画す強力な力をお持ちの筈です」


「……あ?」


 ほれこんなもん。

 自分が強いかもしれない、なんて聞いたらこの手の輩はすぐこうなる。まあ知ってた。まさにテンプレ。


「勇者様方、自身の心臓付近に手を当てて、『ステータス』と唱えてみてください。自分の能力が可視化され、大まかに把握出来る筈です」


 これまたテンプレ。まあある意味クラス転移の洗礼とも言えるのか。

 早速数人が指示通りに動作を終えて唱えており、その眼前にはステータスらしき半透明の光の板が浮き出ている。隣で戸惑いながらもステータスを開いていた和也の窓を覗いてみると――。






 ―――――――――――――


 名前:カズヤ・カンナギ


 Lv:1

 種族:人族(ノルマン)

 性別:男

 職業:無し

 年齢:16歳

 HP:1500 A

 MP:2400 S

 筋力:1900 A++

 敏捷:3400 SSS+

 魔力:2400 S

 知力:1600 A


 スキル

『剣術Lv.7』『炎魔法Lv.6』『自動回復Lv.4』

『意識加速Lv.6』『身体能力強化Lv.8』


 固有能力:『過度加速(オーバーロード)無間歩(ノットリミット)

 概要:五分間、自身の知覚能力と反射神経、全ステータスを五倍に引き上げ、加えて速度をさらに二倍にする。


 称号

『神速』:敏捷値の成長率がSSSを超えた者に贈られる称号。その速度は光に届き、何者も捉えることは叶わない。


 ―――――――――――――






 ドチートじゃねぇかっ!?


 いやまあ予想はしてた、予想はしてたさ。でもいくらなんでも強過ぎませんかね!?やべぇな和也。あと固有能力名が厨二臭いのはグッド。

 ってか俺もこんなのになってんのか今。いや待て、こういったクラス転移のテンプレ通りなら逆に俺一人が無能パターンもありえるのだ。

 大概、こういう話ではそういった奴が主人公だ。場合によっては最強キャラになったりも出来る。けれど、それは主人公の謎な努力と発想の豊かさなんかから生まれるモノであり、そんなもの欠片も持ち合わせていない俺がそんな状態になってもただ無能なだけだ。


 無論主人公になりたいなんて欠片も思わないし、なれるとも思わない。故に、とりあえず今はチート能力を持っている事を願って──


「『ステータス』」




 ―――――――――――――


 名前:クロ・イガラシ


 Lv:1

 種族:人族(ノルマン)

 性別:男

 職業:無し

 年齢:16歳

 HP:450 D

 MP:320 E

 筋力:120 F-

 敏捷:220 E-

 魔力:460 D

 知力:2500 SS


 スキル

 無し


 固有能力:『収納』

 概要:物質を特殊な空間に収納する。収納可能な物は非生物のみであり、レベルに応じて収容可能質量最大値が上がる。


 称号

『無し』:無し


 ―――――――――――――





 フラグ回収乙。

 ってかおい待て、ふざけんな。『収納』ってなんだ『収納』って。えっ、なに。地雷チート系?いや収納はどう足掻いても収納だろ。ステータスは低いしこの成長率?とやらも最悪──おい待て、本格的にヤバイぞ。なんだこれ、成長率F-とかあるぞ。相当じゃねぇのかこれ。ってか和也と差があり過ぎんだろ。

 えっ何、和也が突出して高過ぎるだけなの?俺が低過ぎるの?この世界の平均が分からないからなんとも……


「各自、確認して頂けましたか?この世界の人間では500前後が平均であり、成長率も良くてA+……といったところでしょうか。……ふふ、その様子から見るに、さぞ強力なステータスをお持ちでしょう」


 待ってください王女様、俺クッソ弱いんですが。精々知力が飛び抜けて高いくらいなんですがそこんところどうなんでしょうかね王女様。強力なステータス用意されてるんじゃなかったんですか王女様。


「……和也、お前は英雄の器だよ……クッ」


「何を言ってんだよ突然。お前だって…………うわっ」


 和也がこちらのステータスを覗き、その頬を引き攣らせる。無言でステータス欄を何度も見返し、暫らくするとこちらに同情の視線を送ってきた。

 それにまた溜息を吐き、へたりこんでしまったのが間違いだったか。先程まで自身のさぞ高かったのであろうステータスを見てはしゃいでいた藤堂達が、こちらの様子を見て面白そうに寄ってくる。

 これもまた……テンプレか。


「おいおいおいおい、どうしたんだよ五十嵐ぃ。浮かねぇ顔してんじゃねぇか、さぞお前の大好きな厨二臭いチート貰って喜んでんじゃねぇのかぁ?」


 そう言ってこちらのステータスを無理矢理覗き込み、数秒と経たぬうちに「ぶはっ!」とわざとらしく吹き出した。

 ああ……見事なまでのテンプレ。


「ギャハハハハハッ!!ざっけぇ!コイツクッソ雑魚いぞ!殆ど平均値にすら届いてねぇどころか、なんだよこの能力!『収納』だとよぉ!」


「マジで!?うっわ悲しっ!もうコイツ荷物持ち確定じゃん!残念だったなぁ五十嵐ィ?」


 バシバシと肩を叩かれて耳元で騒いでくる。正直死ぬほど五月蝿い。まあ知ってた。で、テンプレ通りに沿って行くとこの後コイツらに……


「丁度いいや、死なない程度にしてやるからちょっと的になれよ五十嵐ィ。どうせテメェなんぞ居ても居なくても変わんねぇんだしよぉ!」


 ですよね、知ってた。

 というかなんだコイツ、テンプレ過ぎかよ。逆にハマり過ぎて笑えてくるわ、チート得た瞬間に調子に乗って絡んでくるとかこのご時世にそんな奴いるとは思わなんだ。コイツはぜったい早死するタイプだと予言しておこう。


「嫌だよ、なんでお前の憂さ晴らしの為に俺が体張らなきゃならん。ってかお前ただ単に俺が嫌いなだけだろうが頭の中お花畑め、俺はお前らのサンドバッグじゃねぇしその言動からテンプレ過ぎて逆に笑いすら出てくるしそもそもチート得た瞬間に調子に乗るとか後の死亡フラグ確定だからな?あーあ、御愁傷様Mr.お花畑。来世は精々いい子ちゃんになれよ?」


 おっとつい本音が。


「な……ッ!て、テメェ……ッ、ぶっ殺して欲しけりゃ何時でもそう言えや!何時でも殺してやるからよぉッ!」


 あっやべ煽り過ぎたか。

 藤堂は何やら光を纏わせた指先を動かし、魔法陣らしき何かを構築していく。光の軌跡がその形を成していき、俺は内心で『すげぇ、リアル魔法陣だ……やべぇ……』などと呑気に考えつつも『えっ待て、待って、ウェイト、これ死ぬんじゃね?』などと焦り、背筋に一筋の冷や汗を流す。

 結構本気でヤバイ。おうおう痛いのは勘弁だぞ


「――蒼を集わせ、従え、我が剣と成すは世界の理。『水刃断絶』」


 厨二詠唱ご馳走様です。

 とそんな阿呆な考えをしてる内に魔法が完成したらしく、何処からともなく水が集まり、収縮し、その内に宿す力の荒ぶりを目視出来る程迄に殺意を高めていた。

 うっわやべぇ、あれ喰らったら割とガチめに死ぬんじゃね?胴体一刀両断されんじゃね?えっ待って死にたくないぞ。


「い、痛くしないでね?」


「いいぜ、最大出力で殺ってやるよ」


「話通じないこの人ーーーっ!」


 情けなく悲鳴を上げて全力で逃げ出すも、あそこまで溜め込まれた力の奔流から逃げ出せる筈もなく……


 ドパンッッッ!!


 その水槍が、放たれる。

 地球でも見た事のあるウォーターカッターを、更に数十倍にまで高水圧にしたイメージ、といえば伝わるだろうか。

 その刃は一瞬出距離を詰め、最初は敢えて外し、そのまま横にズラして少しずつ俺の胴体を両断しようとし──


 ──一瞬で、凍り付いた。


「んなっ!?」


 それは藤堂の声だったようで、突如動きを止めたウォーターカッターに安心しつつ、そちらの方を向き直る。

 そして、度肝を抜かれた。


「……ふぁっ!?」


 マヒャ○……だと……!?

 藤堂の周囲から急に現れた小さな氷山は、藤堂の動きを封じ込めるようにその巨体を伸ばしている。藤堂の体はその間に挟まれ、身動きの取れない状態だ。更に呆然としているとその山から突如氷柱が飛び出し、その切っ先を藤堂の瞳の直前で停止させる。

 当の藤堂が顔を青ざめさせ、その全身から力が抜けたようにガクンと身を落とす。が、氷山がそれを許さず、藤堂の体は半ば吊るされる形となった。


「何を、してるの」


 ──鈴のような美しい声が、広間に響いた。


「ひ、姫路……」


「貴方、今がどういう状況か理解しているの?」


 何の感情も孕んでいないかのような、冷たい声。

 コツ、コツ、と静寂に包まれた広間に靴音が響き、姫路は指先に広がっていた巨大な魔法陣を掻き消した。彼女が氷山の一角へと歩いて行くと、丁度その辺りの氷がまるで道を譲るように溶け始め、その道は未だ全身を氷に囚われた藤堂へと繋がった。

 藤堂の表情には未だ困惑の色が浮かんでおり、何が起きたのか分からないとでも言いたげに周囲を見渡している。

 ――氷の隙間から、彼女のステータスが開きっぱなしになっているのを見つけ、つい覗いてしまった。






 ―――――――――――――


 名前:ミノリ・ヒメジ


 Lv:1

 種族:人族(ノルマン)

 性別:女

 職業:無し

 年齢:16歳

 HP:4200 SSS+

 MP:170000000 EX

 筋力:5500 SSS+++

 敏捷:5100 SSS+++

 魔力: 80000000 EX

 知力:780000 EX


 スキル

 『魔術適正(全)Lv.MAX』『神の加護Lv.-』『思考加速Lv.9』『世界の落とし子Lv.-』『全能Lv.MAX』『自己強化Lv.8』『感知Lv.MAX』『心理障壁Lv.9』『対物理Lv.9』『対魔法Lv.9』etc……


 固有能力:『天照らす大いなる御神(アルティメット・ゼロ)

 概要:自身の神性を原初の形まで復元し、太陽神の権能を解放する。全ステータスを20倍にし、幾つかの神宝を使用可能に。スキルに『神の加護』を追加。


 称号

『太陽の現し身』:太陽の系譜の末席であり直結であり同一である存在。太陽神をその身に宿す神の御子。その権能は天そのものの力であり、あらゆる生物の頂点である。


 ―――――――――――――







 チートもチートじゃねぇかふざけんなぁっ!

 とでも叫びたい気分だが、相手が姫路だと何故かそれも引っ込んだ。アイツなら仕方ないという常識が根付いてしまっているこの心境が恐ろしい。というか太陽の系譜ってなんだ、実は神の血を継いでるとかそんなのか。しかもEXとか桁から違うじゃねぇかリアルチートかよ。

 というかオイサラッと紛れ込んでる『世界の落とし子』、明らかにヤバいスキルだろお前なに平然と居座ってんだアホか。これ以上姫路を鬼強化して何がしたいというのか。


 そんな事を思っている内に姫路が氷山に手を触れ、何やら今度は炎を発生させる。炎は一瞬で氷山を溶かしきり、滴り始めた水滴すら地面に落ちる前に蒸発させた。その割には藤堂は火傷一つ無いというのだから、魔力のコントロールの精度からおかしいのだろう。なんだあれ。

 氷から解放されて腰が抜けたらしく、へたり込む藤堂に姫路が屈んで語り掛けた。


「今はそんなくだらないことしてる場合じゃないのが分からない?異世界に呼ばれたのよ?何処にも帰る道が無い、もう二度と帰れないかもしれない。そんな場所に連れてこられたの。ここは日本じゃない、あの平和な世界と違って、生き死にが突然決まるような世界なんでしょ?お願いだから、帰る方法を探すのが最優先事項だって分かってよ」


「……う、うっせぇッ!俺の人生は俺が決めンだよ!俺が何しようがテメェには関係ねぇだろうが!」


 徹底的なまでの正論にたじろぎ、醜く喚き散らす藤堂に、姫路が溜息を吐いて更に口を開く。それは普段の彼女の様子とは比べ物にならないほど必死の形相で、そのただならぬ雰囲気に遠く離れている俺ですら息を呑む。この世界に来たばかりの俺に分かるはずもないのだが、何か巨大な力が彼女を中心に渦巻いているように感じたのだ。

 そして、その奔流を直に受けている藤堂は当然ながら、顔を青ざめさせて、足をガタガタと震えさせていた。


「じゃあ、死にたいの?そんなに油断してちゃ、いくら凄い才能を貰ったっていつか絶対に足元をすくわれる。その時にソレを覚悟してなきゃ、最悪惨たらしく死んでしまう。剣で心臓を一突き?魔獣なんかに全身を食い荒らされる?何かの魔法で全身丸焦げ?なんにせよ、向こう(日本)じゃ味わえないような救いようもないほど酷い死に方でしょうね。――それでいいの?」


 想像する。

 人の悪意を受けて、鋭い刃が自分の体を串刺しにしてくる。血肉が裂け、神経は断たれ、耐え難い痛みが走り、絶叫しながら、恐怖に心を蝕まれながら死んでいく。

 悪意なき純粋な食欲に晒され、小さな無数の牙が全身を惨たらしく食い荒らしていく。自らの肉は獣たちの糧となり、慈悲の欠片もない痛みが全身に走り続け、誰も助けてくれる事なく絶命する。

 巨大な質量を伴った炎が飛来し、逃げる事も叶わず全身を焼き尽くす。どうする事も出来ず、地面を醜く転がって、灼熱に身を焼かれながら、苦しみ続けた果てに命を終える。


 それは余りに、酷い。


「……う、く……っ」


 藤堂も想像したらしく、吐き気を催したように口を押さえる。今の彼の状態もあるのだ、より鮮明にその光景を思い浮かべた事だろう。

 姫路もそれを察したらしく、スッと立ち上がると、先程から呆然と姫路を眺めていた王女に向き直る。


「王女様、私達は魔王を倒せば元の世界に帰れるのですか?」


「は、はいっ!恐らくは、アルルマ様も世界を救った勇者の願いとあらば、聞き届けてくれる筈です!」


 ──無いな。

 こういったものの定石だ。神に勇者達を現実へ返す気なんて無く、ただ俺達が異世界で生き抜くために足掻く様を見て楽しんでいる、なんて話ありがちな事だ。故に神が俺達を現実に返す理由なんて無く、帰りたいのなら自力でその方法を見つける他無い。


 そして、そうして現実へ帰還出来た話を、俺は片手で数えられる程度しか知らない。


 それに加えてそういった話は、最後には必ずその『神』が敵となるのだ。故に、帰還に求められる最低条件は――


(『神殺し』、ね。出来るわけねぇだろ馬鹿かよ)


 浮かんだ結論を鼻で笑い、一蹴する。

 仮に神が存在するとするならば、ソレは恐らくあの教室に突如現れたあの白い青年だ。突如現れて、俺達を皆殺しにして、こっちに送った張本人。あの『どうにもならない』と一瞬で理解させられるかのような恐怖心は、今でも憶えている。

 ダメだ、アレは殺せない。たとえ姫路であっても、彼女が人間(神の下位種族)である限り、絶対に。


「……そうですか。では、私達はまずどうすれば?」


「明後日より、戦闘に関しての訓練を行います。こちらの世界の常識や立ち回り、能力のより詳細な扱いなども、其処で解説いたします。明日は歓迎の印として宴を催すつもりですか、今日は色々あってお疲れでしょう。部屋を用意させましたので、一先ずはゆっくりとお休み下さい」


 そう言うと背後に控えていた側近達が前に出て、そのうち数人が広間の端に存在する大きな扉を開ける。こちら側にやってきた側近達はクラスメイト達を集めると、部屋へと案内してくれるらしく、「こちらです」と扉を指し示していた。

 その時になってやっと自分が全員から離れた所で呆然と立ち尽くしていた事を思い出し、そちら側に駆け寄る。

 ……そういえばまだ、礼を言っていなかった。


「悪い姫路、助かった。ありがとな」


 合流の前にポンと肩を叩いて礼を言う。が、姫路は気付いていないかのように反応を返さない。

 不審に思って何度か肩を叩いてみるも、やはり反応は無い――と。


 不意に、彼女が膝を着いた。


「姫路?」


 よく見れば、彼女の手が震えている。

 顔色も悪い。荒い息を繰り返し、翡翠の視線は虚空を彷徨い、やがて耐え切れなくなったようにその半身を大理石の床に投げ出した。






 姫路が倒れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ