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第15話『はじめてのレベルアップ』

お待たせ……しました……っ(白目)

 鈴のような音色と共に、ステータスウィンドウが開かれる。

 半透明の薄紫色に輝くその光の板には相変わらずの文字列が書かれていたのだが、レベルアップの影響でその内容もゴッソリと変わっている。5~6Lvは一気に上がってると良いな的な期待を持ちつつ、内容を確認──っ!?





 ―――――――――――――


 名前:クロ・イガラシ


 Lv:27

 種族:人族(ノルマン)

 性別:男

 職業:狩人

 年齢:16歳

 HP:450(2500) D

 MP:320(1100) E

 筋力:540 F-

 敏捷:720 E-

 魔力:2100 D

 知力:9300 SS


 スキル

 『観察Lv.6』『幸運Lv.-』『思考加速Lv.4』『獣殺しLv.3』


 固有能力:『収納』(Lv.27相当)

 概要:物質を特殊な空間に収納する。収納可能な物は非生物のみであり、レベルに応じて収容可能質量最大値が上がる。


 称号

『王級獣殺し』:A+ランク以上の獣カテゴリに当てはまる存在を倒した者に送られる称号。その腕前があれば、大抵の困難は乗り越えられるだろう。


 ―――――――――――――





 一気に上がり過ぎじゃねぇっ!?

 レベル27って……おまっ、ちょっ、ええっ?今そんな労力掛けてないのよ?いいの?そんなオーバー経験値与えちゃっていいの?いやまあ本来こんなレベル1から一気にランクA+の魔獣を大量虐殺とかありえないんだろうし、結果だけ見たら妥当なのかもしれないんだろうけどさ。それでいいのか経験値、お前仮にも『経験』値だろ。俺全然経験してないぞ。


 そしてレベルの他にも、見ての通り色々と変化している所はある。

 まず前々からある謎スキル『観察』。今ではLv.6になっているが、相変わらずその効果は全く分からない。今の所何かしら資格に絡む能力だとは思っているのだが、その片鱗すら拝めていないのが現状だ。全く意味が分からん。

 そして次、『思考加速Lv.4』とやら。これは確か和也や姫路も持っているスキルだった筈だ。レベルは確かあちらの方が高かったが──ん?そういえば和也の方は微妙に違ったっけか。確か和也が『意識加速』で姫路が『思考加速』……どう違うんだこれ。


 字面だけ見れば和也の意識加速の方が良さそうではあるんだが……まあ何しろ姫路が持っているだけあって、個人的には思考加速の方が強いというイメージが湧いてくる。和也には悪いのだが、姫路が別格過ぎるので仕方ない。


 そんで『獣殺しLv.3』とやらと、前までは無かった称号欄の『王級獣殺し』……まあ今の十文字熊(クロスベア)を殲滅した影響なんだろうが、いきなり王級て……いやまあA+だから相当強いのは分かるんだけど……それもチートのせいであんまり実感湧かないというか……ねぇ?でも油断は断じて禁物であり、こういった話で慢心だの油断だのをした奴は真っ先に死んでいくのがオチだ。断じて油断はしない……まあ頼もしいのに変わりは無いが。


 そして最後、ステータスが当然だが伸びた。

 HPやMPの最大値も増え、その他基礎ステータスも伸びている。筋力と敏捷はやはり伸びは悪いが、変わりに知力の伸び方は異常だ。なんだ9300って、熊を何匹か殺したくらいでいきなりそんな賢くなるわけ無いだろいい加減にしろ。魔力も成長度Dとはいえ、2000代にまでは到達している。これならまあLv27と言われれば妥当か。


 と、変化はそのぐらいか。自分で言うのもなんだが何があったお前。


「……クロ、どう?」


「……あ、あぁ……思いの外簡単に事が運んでてビビってるところ」


 何も言わず無言になっていた俺に訝しげな顔を浮かべて訪ねてきたエマにそう返して、確認の終わったステータスを掻き消す。今さっきの感想が自然と漏れたような台詞と、あまり嬉しいとは素直に感じられない俺の仕草にさらなる疑問を浮かべたのか、エマがますます不思議そうにしている。眉を潜めてその真紅の瞳を瞬かせるエマのその後ろから、今まさに十文字熊(クロスベア)の血をその愛刀から拭い取ったラグが歩いてくる。彼は疑問気なエマの様子に首を傾げると、なんとも直球に分かりやすく質問を出してくれた。


「どうだクロ、一つはレベル上がったか?」


「一つも何も、元がレベル1だったからな……お陰様で一気にレベル27だよ、流石はA+の魔獣」


 なんとも言い難い状況をそんな具合に答えると、ラグはその人の良さそうな目を見開いて驚愕の視線を作っていた。なんぞ変な事を言うたかと若干テンパりつつも自分の発言を見返し、一応思い当たる節を上げていく。一つはレベル上がったか……と言っていたという事は、本来レベルってそう簡単に上がらないもんなのか?異世界召喚された勇者の特典的な?だとしたら嘘、私の場合レベリング、速過ぎ……!?

 とまあそんな具合に頭の中では口元に手を当てて馬鹿やっていると、当のラグがすぐにその驚きの理由を話してくれた。


「嘘だろ、レベル1だったのか?てっきり120くらいはあるもんかと……」


「さっき俺レベル1だって言っただろ、聞き流してんじゃ……待て、待って、想定がおかしい。なんでさも平均値のようにレベル120が出てくるの」


「……ラグ、クロは人間。全員が全員、戦って生きてきてる訳じゃない」


 鼻の頭を押さえつつ首を振って突っ込んでいると、ラグの前でさっきまで首をかしげていたエマが口を挟んだ。えっなにそれ、魔族ってみんなそんな世紀末して生きてんの?それともナタリスが異常なだけなの?もう最初の『ナタリスはそう強い種族というわけじゃ無い』発言が信じられないんだけど俺。えっ、何、つまり俺がナタリスの人らよりもレベル低いのはわかりきってた事だろうから、ナタリスの人らもっとレベル高いの?200とか行ってんの?なにそれパワーインフレ酷いぞオイ。


 ちなみに、王城で読んだ知識じゃS級冒険者でレベル130とかその辺りだった筈だ。つまりナタリス、殆どが人間で言うS級冒険者を軽く上回ってる訳?SSランク?SSSランク?なにそれこわい。


 確か、世界の果てに最も近い場所みたいな事言ってたっけか?そこに住んでる魔族ってだけあって、やっぱ皆が皆チート級って訳?人界に居た頃の『S級以上は殆ど見つかっていない』って話はどこ行ったんだよ、ここに約200人いるじゃねぇかふざけやがって。想定甘すぎんぞ人界組……

 けど、それじゃああの時の戦争でなんでS級連れて来なかった?S級がナタリスしか居ない……って訳じゃないだろ。似たような環境なら幾らでもあるだろうし……それか、これも《最低最悪の魔王》の呪いだってか?ヤベェな《最低最悪の魔王》。


 と、レベルアップから妙に違和感を感じる、自身の体を見下ろしてみる。半袖のボディスーツじみたその上着から伸びる、普段からロクに運動もしていないのが祟った細い腕は相変わらず――いや、何処か前の脂肪も筋肉も無かった細いものと違い、しっかりと芯を感じさせる腕になっていた。

 前のいかにも軟弱そうな腕は、今や常に部活に勤しんでいる奴の体つきくらいにはなっているか。こんな事いっつも体を鍛えてる奴が知れば怒られそうでもあるが、まあ今は異世界なんて緊急どころではない状況に巻き込まれているので気にしない。

 これも、まあこういったレベル制の異世界召喚、転移、転生モノにはよくある事だ。筋力値やその他ステータスなんかで肉体構造も変わったりする。今みたいな突然の大レベルアップともなると最早変身の領域で、体の構造がゴッソリと作り変えられるのだ。


 そんな新たな世界の常識に苦笑しつつも、空を見上げる。真昼間の真っ青な空には雲が掛かっており、燦々と輝く太陽をその美しい絵画のような白が覆い隠していた。細やかな雲の隙間から漏れ出る光に目を細めつつ、そこまで行ってやっとその違和感に気付く。


 ──天高くに輝く太陽が、僅かに蒼を孕んでいるのだ。


 その極光はこれまでと変わらず、その輝きで世界を照らし出している。俺の知っている魔界のイメージとは違って晴天の広がるこの大地は、俺のよく知る世界と同じく、たった一つの太陽とたった一つの月、その両方に見守られた世界だった。

 けれど、その太陽が何か『違う』。いや、太陽だけでなく、ほぼ同色であるが故に気が付かなかっただけで空全体をその蒼が覆い尽くしていた。ほんの少し、けれど確かに、その蒼はこの大地を見下ろすソラを覆っている。神々しくも禍々しいその光景に、俺は何故か不安を感じて立ち尽くした。この風景自体は俺がこの大地で目を覚ました時から何も変わっていないのだが、それでもたった今気付いたその異常性に戦慄せざるをえない。


「……なんだ、あれ」


 思わず、そんな声が漏れた。

 突如天を見上げて呆然と呟いた俺に気付き、一つ眉をひそめたエマが同じく上空を見上げる。それに従って、ラグもまた空を見上げ、ソレに気付いた。そのエマと同色の赤眼を見開き、刈り込まれた短髪を手でガシガシと掻いて「……神星幕(ハルハ)……!」などと呟いていた。新たに出た単語に冷や汗を垂らしながらも俺はなんとか反応し、ラグにその神星幕(ハルハ)とやらの説明を求める。

 するとコロッと表情を笑顔に変えたラグがこちらに視線を戻し、さも当然のようにその事実を明かした。


神星幕(ハルハ)ってのは、この時期になると流れる流星雨の前兆の事さ。もうそんな時期か。毎年流星祈願の祭りもあるから、大分待ってたぜ」


「ってぇ、ただの自然現象かよっ!?さっきの悪寒は何っ!?」


 散々警戒しておいて帰ってきた返答がただの祭りの前兆だった為、恥ずかしさやら不安の空振りやらで八つ当たりの体勢に入る。何?さっきのシリアスムードはなんだったの?俺が馬鹿だったの?神経質過ぎたの?そういう感じなの?

 頭を押さえて呻く俺を見て、遠くからこちらの様子を伺っていたイサナが大袈裟に笑っている。オイ、「早とちりー!はっずかしーのー!」とか言ってんじゃねぇよシバくぞやんちゃ坊主め、似たような名前の衛兵団長(イサ)の紳士さを見習えお前。いやまあここに居ないし無理なんだけどさ。


「あの様子じゃあ、流れんのはまだ先だな……普通はもっと濃くなってから気付くもんなんだが、目が良いんだなぁクロ」

 

「視力は両目共に0.3だよ……眼鏡がなきゃあんま遠くの文字は見えねぇし」


 こっちの世界には多分存在しないであろう概念を話して、「……れいてんさん?」だの「めがね?」だの混乱させる。あまりにもささやかで子供みたいな意趣返しという名の八つ当たりを済ませ、一先ずは満足して話を戻す。とりあえず暫くはここで暮らすのだから、ここの事ももう少し知っておきたい。

 十文字熊(クロスベア)の素材を収納で回収し、ライヴの存在していた空間を抜けて草一つ生えない封龍剣山を背にして、収納で空中に展開したラウンドシールドに座り込む……と、スカッと落ちて尻餅をついた。イサナに笑われた。シバいた。そういや俺が触ると無敵は解除されるんだった。とりあえず自身は地面に座り込み、魔森狼(フォレストウルフ)のドロップ品であるボロ盾の数々を展開し、俺以外の面々の椅子代わりに設けていく。休憩だとすぐに察してくれたらしいナタリスの面々は武器を収めると、それぞれ手頃な盾にドサリと座り込んだ。エマやイサナなんかは高さが合わなかったらしく、少し低めに出してやった。その時二人はなんか不満げな顔をしていたが、まあいい。


 ある程度『収納』に貯蓄していた向こう(人界)の井戸水を、同じく貯蓄していたコップに注いでいく。どうやらコップの方は森に入った冒険者から奪ったものらしく、魔森狼(フォレストウルフ)からドロップした。前に勇者軍団相手に振る舞ったものと同じではあるが、『収納』の世界では物質は概念となって分解されるので無論不潔などという事はない。それはもう無駄にピッカピカ。全自動食洗機かよ。

 ちなみに、これで武具類の錆は治らないのかと思ったら、そういったものは耐久度喪失と同じ扱いになるらしい。流石に直せなかった。


 そんじゃあ本題と行きまして……


「ちなみに、それってどういう祭りなんだよ」


「うん?ああ、正式には『神威彗星祭』っつってな。例の真祖龍をこの山に封印した神様を、丁度この時期に流れ始めるようになった彗星と共に祀っちまおう……ってのが事の始まりなんだよ」



 ──神威彗星祭、または流星祈願祭。

 その趣旨は至極簡単で、ただその日1日は飲んで食って騒いでバカ騒ぎして、その日の(シメ)に流れる流星群を見ながら願いを捧げようっていう祭りだそうだ。同時に、真祖龍を封印したというその神様に感謝を捧げて崇めよう、という祭りでもある。祭り中は集落中の人達が中央広場に出てきてどんちゃん騒ぎ。正にザ・異世界ファンタジーな祭りだ。色々と遊戯も用意されていたりするそうなので、何気に面白そうだった。

 本来のルーツならばそれだけなのだが、彼らナタリスはその仲間意識の強さから、これからも家族(一族)全員が仲良く、幸せに暮らす事のできる世界が続きますように──そんな意味も込めて、この祭りを行っているらしい。彼らの願いという『全種族の恒久的な世界平和』も、おそらくはその考えの派生か。……そういえば、そんな大層な願いは何処から出て来たのだろうか――そんな小さな疑問が浮かぶが。未だ続くラグの祭りの話に流され、すぐに消えてしまった。

 なんでもこの神威彗星祭。最後に魔界の外の存在から見ればもの凄い光景が待っているらしい。実際は見てのお楽しみ等と言われたが、結構気にはなっている。そのサプライズ(驚き)を楽しみにしつつ、楽しそうに祭りの話をするナタリスの面々を見渡していく。いくつもの笑顔は見ていて心地よい暖かさがあり、どこか落ち着ける雰囲気があるのだ。

 ナタリスは皆、血の繋がりなんて関係なく家族なのだそうだ。全二百人近い彼らは皆お互いが兄弟であり、姉妹であり、親であり、子である。そのつながりは強固で、何があろうと家族は助ける……それが、ナタリスの誇りらしい。


 ……不意に、両親の顔が浮かんだ。


 ――――――。


 ――――。


 ――。



 ──帰るのは、いつになるんだろうな。





 浮かんできたそんな小さな想いは、今は心の奥にしまいこむ事にした。

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