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第13話『収納の真価:前編』

昨日は体調を崩してしまい、投稿できませんでした。本日もそれが少し残っていた為、遅めの投稿となります。申し訳ねぇ……()

「さてと、二回目の検証タイムだ」


「……?」


 デウスとの会談が終わり、エマに案内された宿のソファで一息ついた俺は、魔界に来る前――より細かく言うならば、襲撃の際の出来事について思い出していた。

 あの時、俺が「収納」によって取り出した盾は暗殺者の刃をへし折った。彼らとて魔族ならば相当なステータスを持っている筈だし、実際あのように金属が折れる程の衝撃なのだ。彼らが貧弱だった、という説はない。


 ならば、何故それを防ぎ切れたか。


 あの盾は出しっぱなしにしたまま落ちてきてしまったので、もう「収納」の中には無い。なので代わりになるかは分からないが、「収納」から一本の剣を抜き出した。空間に浮かんだノイズから柄の部分だけ表に出したそれを掴み、持ち上げる。

 しっかりとした剣の重さを感じたが、それでも剣を叩き割ってしまう程の質量では無い。何かしらの見落とした条件があるのか、それともあの盾が気付かなかっただけでそういった能力を持っていたのか。


 と、そんな具合に頭を捻っていると、横からエマがなにやら驚いたような様子でこちらを見ていたのに気付いた。


「……空間に、孔……?」


「……ん?ああ、俺の固有能力でさ。特殊な空間を形成して、そこに物を収納できる……みたいな感じの力。どうせならもうちょっ……と?」


 ガシッ、と。

 いきなりエマに胸倉を掴まれた。物凄い形相でこっちを見てくんだけど、えっ、なに、俺なんかした?能力解説しただけよね?えっ、もしかしてこっちじゃ固有能力とかは禁忌とかだったりする訳?それなんて初見殺し?

 とそんな具合に内心冷や汗を滝のように流しつつ、未だその紅い瞳でこちらをジッと見つめてくるエマを見返す。この至近距離でも聞こえない程の小声でなにやらブツブツと呟いた後、今まさに仕舞おうとノイズに戻していた剣を手にする。そしてノイズから引き抜こうと手に取った剣を上へ──


「……ん、く……ふん……っ!」


 ──持ち上げられなかった。

 何度か見た青白い紋様が再び彼女の肌に浮かび、更に力を込めて引っ張り出そうとする。が、ノイズに突き刺さったままの剣はビクともしない。先程の超跳躍は魔法の一種だったのかという考えも一瞬浮かんできたが、いかにも硬そうな石の床板が割れて彼女の両足が沈んだ事により一瞬で払拭される。うん、やっぱ身体能力からして人間辞めてるわ。

 となると剣の方が相当堅いという事になり、これまた新しい疑問が浮かぶ。クロが引き抜いた時は何の抵抗もなく抜けたのに、彼女の場合だとピクリとも動かない。

 魔森狼(フォレストウルフ)のドロップ品であるいかにも脆そうな剣が、軋む音すら出さないのだ。お前いつからそんなにタフになったし。


「……抜けない」


「何でだ……?さっきは普通に抜けたのに」


 疑問に思いつつも未だ苦戦する彼女の持つ柄の少し上を持ち、軽く力を込める。すると思いの外簡単に剣は抜け、全力で引っ張り出していた為かエマは「ふぁっ!?」などと剣に振り回されて尻餅をついた。カランカランと剣が部屋の端に転がっていき、呆然としていたエマが俺の手に視線を移す。

 ……うん、なんかすまんかった。


 などと心の中で謝っていると、エマが「……そうじゃなくて」と否定して剣を拾ってくる。ああ、そういえば心の表面はぼんやりと分かるんだっけか。……そうじゃなくてとはなんぞや。


「……多分、クロしか抜けない……固有能力だから、クロ以外には干渉できないんだと……思う」


「……ああ、そういう事か……!」


 よくよく考えてみればそれはそうか。精々防犯と荷物運びに使える程度の能力しかないのだから、その程度の能力はあるのかもしれない。それでもただ取り出し中には強奪されないという意味があるのか無いのか分からないような能力なのだが、まああるだけはマシか。纏めるならば『異次元への物質収納』と『門の視界内に於ける無制限展開』、そして『取り出し時に自身以外からの干渉を無効化』といったところか。


 ……ん?待てよ、周囲からの干渉無効化って事は要するに、取り出し中はその物質、無敵って事じゃ――?


「……クロ、それってどのくらいの量、入るの?」


 と、エマのさらなる問いによって、ハッと我に帰った。今の思い至った考えは後に保留するとして、一先ずその質問に答える。


「へ?あ、あぁ……えっと、この集落がすっぽり入るくらいの容量はある……か?」


「……!」


 エマは衝撃を受けたように仰け反り、未だ空中に開いたままのノイズを見つめる。目を輝かせるとはまさにこの事かとでも言いたくなるほどにその紅い瞳にキラキラと輝きを浮かべて、すぐにこちらに向き直る。その勢いに少しビビって半歩下がるも、大きく一歩踏み出してきたエマの手は再び俺の胸倉を掴んでいた。


「……お願い、来て……!」


「へっ?……ってちょっ、おまっ、どわぁッ!!?」


 エマはすぐに窓を開け放つとその枠に足を掛け、俺を思いっきり引き寄せた。何事かと身構えようとするも間に合わず、次の瞬間にはあの洞窟を出てすぐの移動と同じような浮遊感に襲われる。視界を青い空が埋め尽くしていき、耳には風を振り切る轟音が響き続けていた。これまた凄まじい速度で落下し、どうやったのかエマは衝撃を残さずに着地すると、同じく勢いを削がれた俺の襟元を離す。背中から硬めの土に落ち、情けなく漏れた「ぐえっ」という声と共に、僅かな痛みを感じた。


 背をさすりつつも立ち上がり、周りを見渡してみると、そこではエマと同じく銀髪赤眼……要するにナタリスの面々で埋め尽くされていた。

 その中でも飛び抜けてガタイのいい男が前に出てくると、人の良さそうな笑顔を浮かべてエマに声を掛ける。


「おうエマ、お前さんが狩りに参加するとは珍しいな」


「……緊急、事態。クロ……連れて行く……!」


「はぁっ!?」


 待て、今狩りとか言ってたよな。俺を、連れてく?何言ってんのこの子?俺レベル1よ?クソステよ?素人よ?なんで発想がそこまで飛躍したし、「収納」の話聞いてた?俺大して強力な力でもないって言ったよね?

 というか、そんなこといきなり言ったって認められる訳も……


「いいぜ」


「いいのかよっ!?」


「おういいさ、なんたってエマの言う事だからな」


 ガッハッハッといういかにもな笑い方で快く承諾してくれる。いやまあ集落内が堅い絆で繋がってるって事ならそれはいい事なんだろうけども、俺行っても役立たずにしかならないと思うんですが。失礼ですがおたくのエマさんの考えがお兄さん分かりません。

 そんな具合に混乱していると、当のエマがこちらの顔を覗き込んできた。なんのつもりかという疑念を乗せて軽く睨むと、エマはなんの悪びれもなく俺の肩に手を置いた。


「……連れてきた理由だけど」


「……聞かせてもらおうか」


 淡々と何事もなかったかのように状況説明を開始しようとするエマに若干頬を引き攣らせながらも、一先ずは流して言葉の先を促す。滞在を許された礼はこれからの生活で返すとはいったが、俺に狩りなんぞ出来る訳もなく、足手まといになるのはエマとて目に見えているだろうに。

 それでも欲しいとなれば、まあ目的は自ずと見えてこない訳でもないが。


「……その『収納』、これまでの狩りの問題だった荷物の運搬、全部解決出来る」


「そんなことだろうとは思ったけど……問題?」


 まあ案の定荷物運びのようだが、問題とはなんぞや。狩りの荷物運びに問題もクソもあるものなのか、と疑問を浮かべていると、エマは一つこくりと頷いて更に話を続ける。


「……狩りの途中で、集める物もあるの。特殊魔鉱石『ライヴ』。天然のマナが永い年月を掛けて固形化し、結晶となったもの……それが必要なんだけれど、回収作業が少し危ないから」


「危ない?」


 聞き返すと、再びエマはこくりと頷いて話を再開する。

 どうにもその『ライヴ』なる結晶は回収作業の際、過度の衝撃を与えると魔力が暴走し、空気中、付近の生物の持つ魔力を全て巻き込んで暴発するらしい。生物は魔力を失い過ぎると体に重度の障害を及ぼすのは知っての通りだが、そのライヴは文字通り全ての魔力をごっそりと持って行ってしまう。更にその際の暴発によって物理的な威力もあり、大気中と体内魔力の両面からの爆発を受ける事になる。更に魔力も完全に枯渇するわで、まず生きては帰れないらしい。故に回収作業では慎重にならざるを得ず、しかしそうなると効率もガタ落ちになり、需要に供給が間に合わない状態になっているそうだ。


 で、その『需要』の理由だが。


「……私達は、『禁術』って呼ばれてる術式の効果を弱めたものを使って、日々を生き抜いてる。けど、いくら弱めているとはいえ、『禁術』は使用者を侵食していく」


「うぉい、いきなりダークなファンタジーしてきたなオイ」


 その『禁術』とやらは、過去に存在した《最低最悪の魔王》なる存在が編み出した、魔力を必要としない強力な術式なのだそうだ。ごく一般的な属性は使えないが、エマ達ナタリスの使う『禁術』の劣化版でも簡単な重力軽減、身体強化、魂魔法は行えるらしい……っておい待て、魂魔法ってなんだ。見るからに物騒な名前してんぞオイ、元の使用者が《最低最悪の魔王》なんて呼ばれ方してる時点で元より嫌な予感しかしないけどさ。

 で、まあその禁術を薄めに薄めたものを行使しているらしいのだが、その『禁術』、どうにも使用者の思考を侵食していくそうだ。聞くところによれば《最低最悪の魔王》が残した呪いだそうだが、それに対抗する為のものがこの『ライヴ』らしい。


 簡単に言えば、ライヴを触媒として綺麗な状態の自分をコピーしておき、侵食が始まったと自認できるようになった辺りで、そのコピーを自身の肉体にペーストするのだという。傷なんかは治せないそうだが、その精神や肉体に取り憑いた不浄を清め、ほんの少しではあるが免疫をつける効果もあるそうだ。

 まあ免疫と言っても本当に少しで、これまで代々一族に引き継がれてきた免疫をもってしても、未だ『禁術』を極限まで薄めた術式の侵食ですらレジスト出来ないのだという。これでも、先祖達が『禁術』を使い始めた初期に比べればかなり削げるようになったらしい。


 そして、そんな危なっかしい術式をわざわざ使っている理由としては──


「……《最低最悪の魔王》を倒した三英雄。『勇気の担い手(リトルブレイヴ)』、『光の大賢者(マハトマハト)』、『断罪王(アルマ)』。彼らの魔王殺しを援助したのが、私達の先祖だったから……裏切りに気付いた魔王が、ナタリスに呪いを遺した」


「……成る程、それで『禁術』しか使えなくなった……みたいな話か」


 ありがちな話だ。何かしらの理由で勇者達に味方し、裏切りに気付いた魔王がその種族に未来永劫残り続ける呪いを与える。元いた世界でもそんな感じの話は割とメジャーだったと思う。まあその『禁術』とやらの凶悪性から考えれば、対抗手段が見つかっただけ幸運と思うべきか。

 で、話を戻して、その『ライヴ』なる魔鉱石は衝撃を与えないよう回収には慎重になる必要がある。そこで俺の『収納』が出てくる訳だ。


 俺の「収納」は、直接物質を異空間に放り込む。衝撃の一つも与える事なく、異空間の中では概念として分解され、中でぶつかるという事もない。加えて取り出す際に再形成する時も、その機能が失われる事もなく、慎重に下ろす事だって可能だ。むしろ人の手で下ろすよりも楽だろう。加えて一気に大量に運べるから、回収できるだけ回収してしまえば、俺が出て行った後も暫くは集めずに済む。


 成る程、俺が適任という訳だ。


 駄菓子菓子(だがしかし)、それでも問題はある。


「……他にも魔族だとか、魔物だとかも居るよな?」


「……うん」


「多分、何かの拍子に不意打ちだとかで襲われたら即死なんだけど」


「……多分、大丈夫」


「多分!?」


 目を逸らして小さく答えるエマに愕然としつつ、今一度考え直す。

 一応、自衛くらいなら先程の検証でわかった能力を使えば出来るかもしれない。だが、それだけでは少し不安もある。故に、ここらでステータスを底上げしておきたいという気持ちもあるのだ。俺もいずれこの集落を出るのだから、その程度の実力は身に付けねばならないだろう。

 ……寄生みたいで気は引けるが、こうするしかないか。


「……条件、一つ出していいか?」


「……条件?」


 首をかしげるエマに、指を一本立てて「ああ、一つだけ」と返す。どうにも聞けば狩りは食料集めが主なようだし、それならばついで程度にこなせる程度の条件だ。そう前置きしてから、一介のネトゲプレイヤーとしてはまあまあ恥ずべき行為(完全な寄生)なのを自覚しつつも、苦笑しながらソレを口にした。

 


「いやまあ、簡単な事だよ。俺レベル1だからさ。……レベリング、手伝ってくんね?」




 ――エマはその条件を聞くと、少しばかり拍子抜けしたように表情を緩めて、こくりと、一つ頷いたのだった。

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