episode:2 ノーマルステージ
マックでガチャを引くことになった春哉と和樹。
先に席を取りに行った和樹の元に行くと、ノーマルステージで苦戦する姿があった。
春哉は代わりに指揮をとることになり…
「席とっといて」
「おう、俺、クリスプな」
「はいよ」
店員さんにバーガーと飲み物を注文し、二階の席へと向かう。
座席に座る学生や会社員が可視モードにしている画面には、宇宙をイメージしたという『フリー・コマンド』の画面が揃って映し出されている。
「おーいハル!こっちだこっち」
親友の和樹が席から身を乗り出して手を振っている。
「おう、お待たせ」
和樹は手で簡単に礼を言うと、コーラを飲みながら手早く可視モードにしてプレイ画面を見せてきた。
「ここ、どーしよ」
「……ステージ9-3か。森林だるいよなあ」
「視界悪くて狙撃ユニットが使いもんになんねえからなあ」
「けどお前、パーティ揃ってなかった?」
「ん、まあガチャ引いてるしな」
「ちょい見せてみ」
『フリー・コマンド』の戦闘はリアルタイムに移り変わる。コマンドに沿って自軍も敵軍も動き続ける。そのためプレイヤーは『全体地図』『自軍戦力』『指示リスト』の3つの画面を随時切り替えて戦況を把握し的確に自分のコマを動かしていく必要があるのだ。
「やっべえな、西側のアリノ部隊がやられてる」
和樹が横でぼやく。
確かに森林の切れ目である西方に配置された銃器を装備した歩兵戦士【アリノ】の部隊が攻撃を受けている。
「いや、アリノは囮にしよう。お前【マール】当ててたよな、どこに置いた?」
『司令官、私東側森林部の川添いにいるよ!』
「…てことだ」
【マール】のような『人工知能型戦士』はある程度の自我を持ち会話ができる。このゲームのウリの1つだ。
「【マール】川沿いに《高速移動》を行い、東方草原部の【トリノ】部隊に合流しろ」
『ラジャーコマンダー』
画面の上の方に小さな四角の中で、あたかも本当に通信しているかのような錯覚を起こすほど良くできた、愛くるしい天使が敬礼していた。
「どーすんのハル」
「まあ見てなって」
そう言うと俺は画面を『指示リスト』を開いて幾つかのコマンドを実行した。
『こちら【アリノ】部隊。《突撃》します』
『こちら【トリノ】部隊。《爆撃》を《待機》します』
西側の【アリノ】部隊が西側草原部に《突撃》をし、西側草原部に敵の歩兵部隊・狙撃部隊を集中させる。東側の飛行ユニット【トリノ】は【マール】の到着まで待機命令を出しておいた。
『こちら【アンドレス】。司令官、俺はどうすりゃいい?』
「【アンドレス】はその場で《待機》だ」
「……《待機》か?」
「あぁ」
「俺も戦える!」
「わかってるよ。だから《待機》だ」
あとは【マール】待ちだな。
画面を切り替えると美しい白い羽が光の軌跡を描きながら敵の攻撃をかわして突き進む姿が映っていた。
「なあハル。なんでアンドレス待機なの?」
「ん、アンドレスの場所はアリノとトリノのほぼ中間地点。しかも森林の切れ目に置いてあるよな」
「あぁ、これならどっちにも支援できるしな」
「【アンドレス】は火力型の魔法砲撃戦士。しかもユニークに恥じない現状火力トップクラスのキャラだ。こいつを使う」
「俺もそのつもりだったんだけどさ。敵のボスは草原部越えた先の崖の上で直接狙えないぜ」
「おう、まあ見とけって」
『司令官!ついたよ!』
「よし」
【マール】は《天使》なので飛行と治癒が可能な戦士だ。
だが『指示リスト』には使えそうなのが何個かあった。そのうちの1つを使う。
「【トリノ】部隊は崖上の敵本隊に《爆撃》を敢行。【マール】は《守護神ノ使イ》で【トリノ】部隊を保護しろ」
『了解』
マールの後ろに透き通るような美しい女神が現れ、守護の言葉を紡ぐ。それに合わせてマールが下級ユニットらしい速度で進むトリノの周りを飛び、青みがかった透明の壁を創り出す。
「おお!!これで本陣に攻撃できるな!【マール】でかした!」
和樹が嬉々として言う。
『嬉しいです』
マールがとびきり可愛い笑顔で言う。金髪の癖っ毛をショートカットにして青い目大きな目をクリッと光らせる色白小柄な天使は、幼げな顔に似合わぬ豊満なボディで飛び回る。
「和樹」
「ん?」
「マールちゃんを俺によこせ」
「へっ。やなこった。お前ゴミとか言ってたろうが」
「るせ!《守護神ノ使イ》なんてなかったぞ」
「最近覚えたんだよね〜」
『ね〜』
「仲良しか!」
《守護神ノ使イ》は範囲内の自分ユニットに対し、【マール】の攻撃力の3倍までの攻撃を無効化する指示だ。
正直、強いぞ。《天使》は上位ステータスで移動速度が速いし回復出来る。上手く使えば超強い。和樹め。くそめ。
「お、おい、トリノすげえ集中放火食らってるぞ」
「平気さ。アリノが引きつけてたからそんな数じゃない。それにストーリーモードの雑魚相手じゃマールのバリアは貫けない」
「じゃ、これでしまいか」
「うんにゃ。ここのボスは逃げ足が速くてHP半分切ると崖から降りてくる」
「トリノじゃ追いつけないのか?」
「まず無理」
「おいおい、じゃ、どーすんのよ」
画面では鷲に乗った戦士【トリノ】が爆弾を落として通過していく。そしてそのまま二手に別れて敵をを東西から挟む。《挟撃隊列》という指示をこのタイミングで打ち込んだからだ。
「【アンドレス】《マグマバースト》」
『やっとかよ、司令官」
色黒赤髪の目つきの悪い少年が両手を合わせて正面に向ける。
『こ、コマンダー。敵本隊が平野部に逃げちゃってるよ!』
『こちら【トリノ】敵本隊に《爆撃》を完了しました。《挟撃隊列》で南下中』
「ああ、ご苦労。【トリノ】は敵本隊に追随。【マール】は西側【アリノ】部隊に《高速移動》で合流してくれ」
『了解だよ!』
『了解』
敵はトリノが作った直線の道を通って草原部に降りてくる。そう仕向けた。
「おいハル、画面切換えろ、めっちゃかっけえぞマグマバースト」
「え、まじ?」
ノーマルステージはレアリティの高いキャラでゴリ推せる。そんなに手の込んだ戦いじゃない。
『くたばれカスがぁぁ!!!!』
大きな魔法陣が両手の前に描かれ、そして、真っ赤なレーザーが真っ直ぐに敵を貫いた。レーザーの通った道は溶けて(・・・)いた。
「うお、ぱねえ」
「だろ?うちのユニットは強えんだからな」
「だったらこんなステージで苦戦すんな」
そう言って笑いながら画面を和樹の前に返す。
「いやーだって焦るやんあんな集中砲火飛んできたらさあ」
「まあわかるけど」
「いやー、助かったわ。時間もちょうどいいし」
「時間?」
「お前の爆死タイム」
時計は3時を指していた。