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0伝 始終まりはじまり 



 私の名前は六花(りっか)

 名前の理由は、生まれたのが寒い寒い雪の日で、窓ガラスにたくさんの花が咲いていたからというのが一つ。

 そしてもう一つ。私の故郷では生まれてくる子どものために花を育てるという慣習がある。その家族と繋がり合う人々が、生まれてくる子どものためだけに花を育てた。花の種類も、いつ植えるかも人それぞれで、そうして咲いた花を生まれた子に贈るのだ。


 あなたに幸あれ。あなたに幸咲け。あなたに幸降れ、と

 子どもの為に咲いた花に願いを込める。


 この子に美しい花咲く世界を。色鮮やかな日々を。花のように愛される生を、と。




 寒い寒い夜、日付が変わる寸前だったにも拘らず、両親の友人達は六本の花を届けてくれた。産まれたとの報が届いた翌日には数えきれない花で家が埋もれたという。

 そうして生まれたのがこんなので申し訳なかったとは思っている。



 あなたの生を鮮やかに彩りますように。

 花のように笑い、花のように愛され、花のように幸を与えますように。


 子を守るために贈られた六つの花が、千の花が、万の花が、どうかあなたを守りますように。



 その願いを形として、私は名づけてもらった。






 お母さん譲りの黒髪に、お父さん譲りの水色の瞳。お兄ちゃんが一人に、弟が二人、妹が一人。多いように思う国もあるかもしれないけど、私の国では別段珍しくはなかった。

 私は学校を卒業して、知り合いの雑貨屋さんで働き始めた。お店は最近『かふぇ』が併設されたし、お客さんもどんどん増えて絶好調だ。


 頭のいいお父さんには似なかったらしくて、勉強が苦手なお母さんにしっかり似て成績はあまり……全然、よくなかった。運動は嫌いじゃないけど苦手である残念具合。

 だから、お兄ちゃんが更に上の高等学院へと進学しても、自分には向いていないと働くことに決めたのだ。同級生達も、進学する人が三割、就職する人が七割と、それぞれがそれぞれに合った道を選んで進んでいった。

 ただそれだけの、これといった才もない普通の十五歳。並外れた才として強いてあげるならば、元気が取り柄の馬鹿な箇所しかない。これもお母さんに似た。


 だけど、ただ一つだけ。

 たった一つだけ、普通じゃないことがあった。



 今までは特に弊害を及ぼさなかったその事実が、今になって運命を回した。

 私の普通じゃなかった唯一が、今になって牙を剥いたのだ。




 選ぶことになるのだろうか。

 私は今日も必死に考える。


 私は選べるのだろうか。

 かつてのお母さんのように後悔なんてしてないよと笑って、ちゃんと選ぶことができるのだろうか。







 この前お母さんと一緒に買いにいった新しい羊革の靴は、柔らかくて軽くてとっても履きやすい。靴を履いている間に前にずり落ちてきた鞄を、よいしょと定位置に戻す。

 後ろからパタパタとスリッパの音がする。


「六花、お弁当所持した?」

「したー」


 くるりと後ろを向けば、両手いっぱいに洗濯物を抱えたお母さんがいた。昨日籠が壊れたのだ。私の職場は雑貨屋さんだから、仕事に行くついでに買ってこないと。

 お母さんは洗濯物の山から首だけを傾けて、いつもの笑顔を浮かべた。


「いってらっしゃい!」


 いつものように見送られて玄関を開く。

 今日のお弁当は何かな。今日は職場に新しく併設された「かふぇ」のレシピを教えてもらえるから楽しみだ!

 空は雲一つない青空、じゃなくて、ちゃんと雲がある暑くも寒くもない最高の天気。こんな日は何かいいことが起こりそうな気がして、特に根拠はないけどうきうきする。


「いってきまーす!」


 扉を閉めて、両拳を握って気合を入れる。

 よし、今日も一日頑張って働こう!

 意気込み充分な私は、ご機嫌で一歩踏み出した。






 気がついたら森だった。

 何故にして?





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