病気の国
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自由都市ディアン・ケヒトは、医療が優れていることで有名である。
その噂を聞きつけたシルフィード・アムドゥスキアスとエマ・アイリスは、ディアン・ケヒトにやって来た。
現地の人が言うには、ディアン・ケヒトで治せない病気はないと言う。
それもそのはず、ディアン・ケヒトでは、ヴァンパイアの中でも最上位であるQV(クイーンヴァンパイアの略称)であるエマすらも、素晴らしい秘薬の原料になると言う薬草が、町のあちこちにも群生しており、優秀な医療魔法に精通した魔法使いも数多く配属されているからである。
そんなわけでシルフィードとエマは、ディアン・ケヒトの医療に期待して、日々の旅の疲れにより、身体を病んでいるか確かめる為に、ディアン・ケヒトが、ディアン・ケヒトの国民だけではなく、旅人にも積極的に行っていると言う人間ドックに参加することにした。
人間ドックでは、シルフィードとエマは、見たことのない機械によって身体中の隅々を精密検査された。
その人間の独自の文化には、エマも感嘆の吐息を上げていた。
エマが、シルフィードに言うには、
「そもそも、ヴァンパイアが身体を病むことはないから、それゆえに私は、医療魔法に関しては、それほど詳しくない。だとしても、この私が一目見ても完璧に理解することが出来ないとは、これらの機械はなかなかのものだ」
とのことらしい。
そして、一日がかりの人間ドックが終わり、シルフィードとエマは、医師によって診断の結果を告げられた。
それは、シルフィードとエマにとって、ネガティブなものだった。
医師は、シルフィードとエマに言う。
「大変、申し上げにくいことなのですが、重病でございます。身体中どこを見ても、疲労が蓄積されており、いつ病を患ってもおかしくない危険な状況でございます。また、精神的にも、かなりの疲労が溜まっているようです。特に、そちらの女性に至っては、人間の身体では許容以上の魔力が渦巻いていて、今、命があるのが、不思議なくらいです」
「そうですか」
「それは、困ったな。どうすればよい?」
「今すぐ入院されることを、おすすめします」
「しかし、あまりお金を持っていませんよ。僕たち、旅人ですし」
「確かに、正直人間ドックを受けるだけでも、きつかったからな」
「それは、大丈夫ですよ。ディアン・ケヒトでは、旅人さんであっても、ディアン・ケヒトの国民と同じ金額で、同じ治療を受けられますよ」
「それで、いくらですか?」
「確かに、そこが重要だね」
「その点は、ご安心下さい。ディアン・ケヒトでは、人種、国籍関わらず、すべての人は、最高の健康な生活を送る権利があります。治療の金額は、人間ドックの時に払った金額で間に合っていますよ」
「それは、助かる」
「ここは、素晴らしい国だな」
「それほどでも。ただ、この国は、とても豊かな土地に囲まれていて、税金の多くを福祉に当てているので、旅人にも最高クラスの治療を施すことが出来るのです」
「助かります」
それから、シルフィードとエマは、看護婦に、重篤患者が集められる病棟へ案内された。
そして、シルフィードとエマは、そこのベッドに寝かされて、点滴を打たれて、看護婦に「絶対安静にして下さいね。かわいそうに」と言われた。
シルフィードとエマは、看護婦に言われたように、安静にベッドに寝転がっていると、向かいのベッドにいた男に声をかけられた。
男は、シルフィードに言う。
「お前らも、福祉目当ての旅人か?」
「なんのことですか?」
「別に、しらばっくれなくてもいいぜ」
「一体、なんのことですか?」
「お前、俺の言っていることが分からねえのか。馬鹿だな。要するに、俺は、ただ飯を食う為に、病院に入院しているのさ」
「と言うことは、あなたは、病気を患っていないのですか?」
「患うもなにも、お前らだって、別に病気を患っているわけではないだろ? この国では、ただ咳を吐くだけで、重病人扱いだぜ。熱を出そうものならば、まるで危篤の時のような扱いだ」
「確かに、そう考えてみれば、旅の疲れで重病扱いと言うのは、変わっているね」
「変わっているんじゃねえ。もはや、病気の域だ。その点、この国は、国レヴェルで病気に犯されている。医療技術の水準が上がり過ぎて、どんな小さな病気も見逃さないようになったからな」
「けれども、最高の健康を求めることは、いいことなんじゃないのかい?」
「確かに、最高の健康を求めることは、悪いことじゃない。しかし、最高の健康と言うのは、本当に有り得るのか? 本当に求める価値があるのか? 笑えるよな。この国の健康の基準は、肉体的にも、精神的にも、社会的にも、全てに満たされている状態を表すらしい。皮肉にも、他の自由都市では、一日の食事にありつくことすら難しいことだってあるのに、ちとこの国は贅沢過ぎるよな。まあ、この国に寄生している俺が言えた義理はないがな、がはは。ところで、お前はここがどこだか分るか?」
「重篤患者が集められている病棟かい?」
「残念。その解答では、五十点しか与えることが出来ないな。答えは、サナトリウムだ。要するに、長期的な治療が必要な患者や、治る見込みのない患者の為の療養所だ。もう、気が狂っているとしか思えないよな。二日三日寝れば元気になる程度の旅の疲労で、不治の病を患った患者扱いだ。俺から言わせて見れば、その程度のことで、病気、病気と喚くこの国のモヤシどもの方が、よっぽど不健康だっつーの」
「…………」
シルフィードは、男になにも返すことが出来なかった。
シルフィードとエマは、ディアン・ケヒトを出ることにした。
病院を抜け出したところで、エマはシルフィードに問う。
「折角、あの場所はゆっくり休める場所だったのに、せめて食事だけでも済ませてから、抜け出せばよかったのではないのか?」
「そうしたいところだけれども、一刻も早く、この国から出たくてね」
「どうしてだ? シルフィードが帰りたいと思う国だなんて、相当珍しいと思うのだが」
「まあね。僕は、ほとんど最高の健康になることを強制されているこの国が、我慢出来なくなったんだ」
「確かに、咳を吐いただけで重病人は、たまらないからな」
「自由になる為に旅人になったのに、身体の調子まで管理されるのは、冗談じゃない」
「しかし、そう考えてみると、なぜ、あの病院にいた旅人は、旅をすることを止めたのだろうな」
「それは、あれだろう。旅人には、自由の代わりに、義務と権利はないからね。あの旅人にとって、病院で過ごし、ただ飯を食べることが出来ると言う権利は、魅力的だったのだろう」
「確かに、旅と言うのは疲れるし、面倒臭いこともあるけれども、こうして自由に旅をした方が、病院でひっそり暮らすよりも楽しいと思うのだが」
「それは、人と言う生き物が、総じて楽な方に流れる生き物だからだよ」
「では、なぜシルフィードは、比較的に生活することが大変な、旅人なんかを続けているんだ?」
「それは、僕にとって、旅人が一番楽な生き方だからだよ」
『病気の国』を読んでくださった方、本当にありがとうございます。
この小説は、うp主が、WHOが定めている健康の定義と言うのを、大学の授業で聞いて、「実際に、誰もが健康な世界や国があれば、そこに住んでいる人はどのような人だろう」と思って書き上げた、ファンタジー小説と言うよりもSFよりの小説です。
どうやら、WHOが定めている健康の定義によると、健康とは、ただたんに病気をしていない状態のことを指し示すのではなくて、身体的にはもちろん、社会的にも精神的にも満たされていて、人種などによる差別がなく、宗教や思想の自由を認められているなどの、厳しい条件を満たした人間が、やっと、健康な人間だそうです。
けれども、うp主は、世界中どこを探しても、WHOの定めている定義の条件を満たしているような、健康な人間はいないと思います。
だって、そうでしょう?
なん度も言うようですけれども、WHOが定めている健康の定義では、突き詰めて言うと、朝、眼が覚めて、「学校に行きたくないな」とか「会社に行きたくないな」とか感じている人は、身体的にも精神的にも満たされていないわけで、不健康と言うことになります。
けれども、ディアン・ケヒトに住んでいる人々は、違います。
ディアン・ケヒトは、とても医療が発展しているので、どんなに小さくて些細な病気でさえ、見逃しません。
それゆえに、精神的にはともかく、身体的には、完璧な身体の状態を保っています。
それは、一般的に考えてみれば、とてもよいことなのかもしれませんが、うp主は、それが本当によいことなのか、よく分かりません。
結局、どれだけ医療技術上がって、ディアン・ケヒトのように、現実のこの世界から、病気と言うものが消え去っても、人の心だけは、その人の気持ちの持ちようであって、自分は他人ではないゆえに、治すことが出来ないからです。
けれども、ディアン・ケヒトの人々は、精神面よりも、身体面の健康を注意しがちな傾向にあると思います。
作中のシルフィードは、「自由になる為に旅人になったのに、身体の調子まで管理されるのは、冗談じゃない」と言いましたが、うp主は、ここでシルフィードが言った、「自由になる為」と言うのは、たかが現世の、人間の持つ身体の健康と言う枠を外れた、さらにその先にある、魂の解放を求めているのだと、そう思います。
といろいろべらべら書いてしまいましたが、これからもじゃんじゃん小説をうpするので、応援よろしくお願いします。
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