#15
予約投稿です
二人の男が消えた後、三人と一匹はそのまま霧切たちの家で一夜を過ごした。
「アリスにちょっと聞きたい事があるんだけど」
「あの二人の事?」
「そう」
ユーリカとフェンリルが眠りについた後、
陽歌は窓で外の景色を見ていたアリスに問いを投げかける。
「あの二人は使い魔だってアリスはいったよね」
「……そうね。彼らは使い魔よ」
「ならさ」
陽歌はそこで言葉を切って起き上がる。
「あれは、誰の使い魔?」
「……私がなぜ旅をしているか、知ってる?」
「なぁに突然? 知識を広げたりとかそんなんじゃないの?」
話題を急に変えたアリスを不思議に思いつつも、陽歌は答える。
陽歌の答えを聞いてアリスは小さく笑う。
「ふふっ……それもあるけど本当の目的はちがうわ」
「本当の目的?」
「私が旅をしてる本当の理由はね、『妹から逃げるため』よ」
「アリスの妹って……あっちのほうのアリスの事……だよね?」
陽歌の脳裏に浮かんだのは幼い頃、母親と共に童話に語られる者たちの集会で出会った、
二人の姉妹の姿。姉は金髪で活発で、妹は銀髪で大人しい印象の少女。
元気に走り回る姉を必死に涙目になりながらも、追いかける健気な妹。
二人は性格は正反対ながらも、とても仲の良い姉妹だったはずだ。
「陽歌は……いや、誰も彼女の本質に気づいていなかったのね」
アリスはゆっくりと窓を開けて夜風に当たる。
「彼女は危険よ。あろうことか、私たちの両親を殺したのよ」
その言葉を聞いて陽歌に緊張が走る。彼女たち童話に語られる者には三つの禁忌がある。
一つは『能力を容易な使用は禁ずる』。
陽歌が依頼などで普通の銃弾を使っていたのはこの禁忌に触れるため。
もう一つは『特定の条件以外での能力の譲渡を禁ずる』。
死の直前やどうしようもない不測の事態の時以外の能力の譲渡もご法度なのだ。
そして最後の一つが『能力の強奪を禁ずる』。
譲渡ではない強奪。つまり先代の能力保有者の殺害だ。
「私の母親は殺される少し前に私に密かに力を譲渡したわ。変化に気づいていたのね」
「あの子が禁忌を破るなんて……」
「実は昔から少し狂気的な思考は持っていたの。あまり人に見せることはなかったけど」
アリスは夜空を見上げながらつぶやく。
「そういえば、質問への返答……してなかったわね」
陽歌は再び横になると小さく笑っていった。
「もう答えを言ったようなものでしょ。明日クルソアルに向かうんだからアリスも早く寝なよ?」
「それもそうね。お休み、陽歌」
「うん。お休み、アリス」
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「居場所を見つけたって……本当?」
「はい。この目でしっかりと確かめました」
「……魔剣の存在も確認したので、間違いなく本物です」
角を片方なくした羊男と真っ黒い翼を持つ鴉男がある少女に跪いている。
二人がいるのは小さな小屋。小屋の奥の椅子に少女は腰を掛けている。
美しい銀髪の髪に赤と黒を基調としたエプロンドレス。
顔はアリスと瓜二つ。目の色は妖しく光る紅色をしている。
「やっと見つけたよ……おねぇちゃん……」
彼女はポツリと呟き。口の両端を吊り上げる。
彼女は『鏡の国のアリス』。不思議の国のアリスの妹。
「あぁ……早くおねぇちゃんに会いたい…………会って『殺したい』わ……」