開花
「はぁぁぁぁっ!!」
全力を出したオスクリタの周りに漂う闇の魔力。
その禍々しさに苦戦しつつも、二人は果敢に闇の精霊に立ち向かっていた。
すべては、この世界のため。そして、精霊神のため。
精霊神フォルネアをこの世界から失くさない為にも。
今ここで彼らがオスクリタを止めるしか方法はないのだ。
「風の精霊よ!アネモス!」
ヴィリジアが叫ぶと、両手に風の魔力が集まってくる。
両腕を勢いよく広げ、オスクリタ目掛けて中級風魔法を飛ばす。
「ふんっ!」
だが、彼を包む禍々しい闇の魔力にその風魔法はかき消された。
「せやぁっ!」
ユーリルが剣を構え斬りかかる。
しかし、刃がオスクリタに触れる直前に、漂う魔力に毒されユーリルは倒れてしまう。
「ユーリル!」
「がぁっ・・・!」
ヴィリジアが咄嗟に駆け寄ろうとするも、オスクリタに蹴り飛ばされユーリルは瓦礫の山にぶつかり、埋められてしまう。
「ククッ・・・これでもう奴の身動きは取れまい。あとは貴様の息の根を止め、忌々しい精霊神を始末するだけだ・・・!」
「させるものか!」
ヴィリジアが大きく息を吸い込み、炎を吐き出す。
魔力に弾き返されると覚悟しての行動だったのだが、どうやら息は魔力の影響を受けないようで、彼が吐き出した火炎はわずかながら、オスクリタにタメージを与えたようだ。
「フン、無駄な足掻きを・・・!」
「僕のこの行動がすべて無駄だと言うのかな!」
そう、ヴィリジアには策があるのだ。
ユーリルがオスクリタの周りに漂う闇の魔力に毒された、ということは。
彼にはそれだけの魔力が眠っているということだと、ヴィリジアはそう考えていたのだ。
「だとしたら・・・あの程度で倒れるような力じゃないはずだ・・・!」
ヴィリジアは、その場しのぎの時間稼ぎをしているのだった。
ユーリルが生き埋めにされた瓦礫の山に目をやりつつ、彼が目を覚ますのをただ、時間を稼ぎながら待ち続ける。
精霊神も気を失ったまま動かない。今この場で戦えるのはヴィリジアただ一人。
ここで彼がやられてしまえばすべてが終わる。
そんなプレッシャーを抱えながら彼はただ、わずかな希望にかけて時間稼ぎをしているのだった。
「ククッ、どうした?貴様の実力はその程度ではあるまい!」
「ぐぅっ!」
オスクリタに薙ぎ払われ、地面に叩き付けられる。
「私を止めるつもりなら、全力で来るといい!どうせ貴様もすぐに死ぬのだからな!」
無慈悲な言葉が彼に降りかかる。だが、ヴィリジアはここで死ぬわけには行かないのだ。
魔力の波動をかすかに瓦礫の下から感じる。ユーリルも、まだ死んだわけではない。フォルネアも同じだ。気絶しているだけで、生きてはいる。
いざとなれば精霊族の回復力に賭け、フォルネアが動けるようになるのを待つこともできる。完全に手詰まりと言うわけでもない。
フォルネアとユーリルと交互に視線を動かして考え事をしているうち、彼の腹部を何かが貫いた。
「・・・!」
不意の激痛に声すら上がらない。
オスクリタに闇の魔力の槍を突き刺されたのだ。
「フン、観念したか。最初から大人しく身を預けていればよいものを・・・。」
彼を貫いた魔力の槍はすぐに跡形も無く消え去ったが、腹部を貫かれたヴィリジアの意識は既に暗闇へと落ちていた。
「・・・さて、と。」
全ての邪魔者を排除したオスクリタは、ゆっくりとフォルネアの前へと立つ。
先ほどの二人からはかすかに魔力の波動を感じるものの、ヴィリジアはほぼ消えかけており、ユーリルも瓦礫の下では身動きが取れない。そう考えたオスクリタはフォルネアを始末することを先決した。
「貴様との長い因縁もこれまでだな・・・。」
魔力を両手に溜め、フォルネアに向けた。
そして、その魔力を解き放とうとしたときだった。
「兄さん・・・。」
かすかに、フォルネアの口からそんな言葉が聞こえた。
だがその言葉は一度きりで、それ以降は何も聞こえなかった。ただフォルネアが弱々しい息遣いをしているだけだった。
だが、ただその一言で、オスクリタは豹変する。
「ええい、私をその名で呼ぶな!だから貴様は昔から嫌いだったのだ!」
そう叫ぶと、闇魔法を彼に放とうとする。
だが、その意思は瓦礫が崩れる音と共に消え去った。
「やれやれ・・・嫌なことを聞いちまったみたいだぜ・・・」
振り返ると、そこには剣を地面に刺し、左手をヴィリジアに向けて立っているユーリルの姿があった。
「馬鹿な・・・!?あの瓦礫の下からどうやって・・・」
「俺も最初は死んだと思っていたよ。どうやら俺には得体の知れない別の力が宿ってるみたいでね・・・!」
そう言ってユーリルはヴィリジアに向けられていた手を下ろす。
すると、そこにいたのは外傷をすっかり完治させた彼の姿だった。
まだ気絶してはいるものの、しばらくすれば意識も戻るだろう。
「へへっ・・・俺なんかでも魔法ってのは使えるもんなんだな。」
左手の握り開きを繰り返す。それはどこか自分が未だに、魔法を使えたことを不思議に思っているかのようでもあった。
「さてと、闇の精霊神とやら。」
地面から剣を抜き、オスクリタに突きつけて言い放った。
「この俺ともう一度、全力でやりあってみようじゃないか。」
態度にこそ示さないものの、彼の瞳は仲間を傷つけられた怒りに燃えていた。