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クレイトリア物語  作者: ミラ
ユーリルの故郷編
5/21

精霊神と半獣族

窓から光が差し込み、朝の訪れを知らせる。

その光が宿屋の一室に横たわるユーリルの背中をやさしく照らし、影を作る。


部屋にぽつりと置かれたベッドの布団がもぞもぞと動く。どうやら目を覚ましたようだ。

彼が身体を起こそうと仰向けになった途端、朝日が顔を照らし、思わず目を瞑る。


「ん・・・っ!」


とっさに顔を窓から背け、そのまま反対側の床に足をつける。


「どうも宿屋で迎える朝は慣れねぇな。」


眠そうに目をこすりながらつぶやいた。

が、昨日あった出来事を思い出し、のんびりしていられないと考えそそくさと支度を始める。


壁にかけておいた鎧を着、剣の収まった鞘を背負い、机の上に置いてあった鞄の中身を確認してから肩に掛ける。


ビン一杯詰められた赤いジェル、マンドラメイジの茎が9本、サクラマイマイの殻が5個とかなりの収穫ができたようだ。


が、生憎パイルンに錬金術師はいないようで、少し肩を落とす。


「こうしちゃいられねぇ、陽が昇りきる前に精霊の塔に行くか!」


こんな些細なことで落ち込んではいられないと思ったのか、布団などをきれいに片付け、宿屋をあとにした。


「おはようございます、ユーリル殿。」

「おっはよ、ユーリル!」

「ああ、おはよう二人とも。おかげでよく眠れた気がするよ。」


昨日の精霊族二人に挨拶をされ、ユーリルも挨拶を返す。


「その様子だと、もう行くんだね。」

「あぁ、一刻も早く精霊神の様子を見に行きたいからな。」


彼がフェリオナの言葉を肯定すると、フェリオナが手を振って以降、それからは一切言葉を交わさず街の外へと走り去って行った。


再びあの道を通ることになる。

この街に来る時に駆けた、魔物がいるあの道を引き返し、さらにあの街から

南に進んだ場所に行くのだ。


当然、塔の中にも魔物はいるだろう。

それも考えれば、頂上にたどり着くまでにかなりの戦闘があるとみえる。


「油断大敵、だな。」


そうぽつりとつぶやき、街から街へと続くこのあぜ道を駆け抜けていく。


どれほどの魔物を退け、どれほどの時間道を走り続けていただろうか。

彼はいつの間にか、高くそびえ立つ精霊の塔の前へとやって来ていた。


全体的に怪しい雰囲気の塔は、頂上と思しき場所のみ、神聖な空気が漂っているように見えた。

どうやら、本当に精霊神、フォルネアがあの頂上にいるようだ。


「・・・行くぞ。」


自分に言い聞かせるように言うと、ユーリルはそっと、塔の中へと足を踏み入れた。


予想通り、塔の中にはブルードロップと言うスライムの一種と、さらにそれの上位種であるサンダーグミ、夜行性であるガーゴイルが生息していた。


「こりゃ、戦闘を回避するってのは難しそうだな。」


頭上を飛行するガーゴイルに、地面を徘徊するスライムたち。

ガーゴイルを避けようとすればスライムを踏み、スライムを避けようとすればガーゴイルに奇襲される。


「だったら。」


何かを思いついたように彼はにやりと微笑むと、剣を天井に突き上げ、風を斬るように身体ごと大回転する。


「ウィンドソード!」


彼は魔法が使えない。だからこそ、このように剣での特技を生み出しているのだ。

それ相応の体力は使うが、仕方がないことである。


大半の魔物が彼の周り半径2メートルくらいは一掃されたようだが、その大回転ゆえに、しばらく目を回し座り込んでいた。


「はぁ・・・この技もまだ未完成なんだよな。とはいえ、俺に魔力がない限り、永遠に未完成だろうが。」


剣を杖代わりにしてようやく立ち上がり、魔物たちを華麗に回避しながら階段へと向かう。


「しかし変だよな。魔力を持たないのに精霊族が見えたり、印を持つ上位の精霊族・・・あいつだけだが、目視できたりと。普通魔力がねぇと一人も見えないはずなんだが・・・。」


ためしに、剣を鞘にしまい、手を構えて魔法を唱えようとしてみる。

だが、何も起こらない。


精霊族が周りにいないというのもあるのだが、だとしても魔法のような力は一切起こらなかった。


「・・・当たり前だ、ははっ。」


そうやって苦笑すると、剣を再び抜き、次の階層へと向かった。

精霊の塔は全部で5階層。そのうち、魔物が出現する層は3層までで、それ以降は

神聖な力に満ち、魔物が近寄れないのだとか。


なんとか第4層にたどり着き、ふと壁際にぽつりと置かれた石碑に目が行く。


「なんだ・・・これ・・・?」


彼にはその石碑の内容は読めなかった。だが、古代文字のような何かで記されたものだと言うことは理解できた。

だが、読めないのであればこれ以上ここで時間は使えない。

頂上には精霊神がいる。


だからこそ、彼は目の前に見える階段を駆け上ることを選択した。


頂上だということを知らせるように日差しが強くなるにつれて、幼い少年の声がかすかに聞き取れるようになる。それはひとつではなく、ふたつ。


「他にも誰かいるのか・・・?」


階段を登りきると、壁際で話している、緑の羽衣に身を包んだ少年。そして彼の向かいにいるのは、黄色の角に緑の翼。変異した耳と、特徴的な青緑のロングヘア。


間違いなくもう一人の彼は半獣族で、それもかなり希少な半竜族であることが伺える。


「誰だっ!」


半竜族の彼に気づかれた。半竜族に限らず、半獣族の一部は人間を極度に嫌っている。半竜族ならばなおさらだ。彼の外見はまだ13にも満たない少年に見えるが、人間の3倍の寿命を持つ彼はこれでも数十~百年の時を生きてきている。


今まで生きてきた中で、彼は何度死にかけたのだろうか。

そんな考えが頭をよぎる。それに続き、精霊神の声も聞こえた。


「安心して、ヴィリジア。彼は敵じゃない。味方だよ。」

「味方だって・・・?そんなの、僕は信じない!第一、人間が僕の味方だなんて・・・」


半竜族の彼はヴィリジア、と言う名前のようだ。

やはり、人間である自分のことを極度に警戒している。


「落ち着くんだ、ヴィリジア。彼が、さっきも話した僕の村から旅に出た若者のひとりでね。名は、ユーリル。ユーリル・ラウニーマだよ。」

「彼が、ユーリル・・・。」

「そこに立ってないで、君もこっちに来たらどうだい?」


どうやら半竜族は精霊神の言葉で落ち着いたようだ。

ユーリルは精霊神フォルネアに呼ばれ、彼らに近づく。


「じゃあ、彼も来た事だし、今回僕がここに篭ることになった元凶のことを話そう。」


そうして、フォルネアは、ユーリルがここに来るきっかけとなったすべての元凶、そしてヴィリジアが追う人物について話し始めた。


話の内容としてはだいたいこうだ。


数年前に、フォルネアが拠点としていた精霊村フォルセイアの地下に封印されていた闇の精霊、オスクリタが覚醒した。

そして、今に至るまで力を蓄え続け、数日前に村を壊滅させた、とのことだ。

力を蓄えた闇の精霊は、精霊神であるフォルネアですら押さえ込むことができず、彼を精霊の塔に離脱させるまで追い込み、ついに村まで壊滅させた。


村人たちはフォルネアの力でどこか遠くの別の街に飛ばされ、全員無事だそうだが、それによってオスクリタに敗北したとのことだ。


ヴィリジアは、ここ数年で狩人たちに襲われるケースが増え、未だにその傷が完治していないようだった。フォルネアがヴィリジアに言うと、彼は躊躇いながらも、縄できつく締め上げられたような腕や足首の跡、首もとにはっきりと残った切り傷をユーリルに見せた。


ユーリルはともかく、ヴィリジアがオスクリタを追う理由としては、彼が人間たちを唆し、半竜族である彼を襲わせたのではないかとフォルネアが踏んでいるからとのこと。


さらに、闇の精霊オスクリタは、フォルネアが即位する前の先代精霊神であり、

世界を自分の思うのままに動かしたことから彼が見張りもかねて村の地下に力を奪い封印したらしい。


「あいつがこれ以上暴れれば、ヴィリジアは間違いなく間接的に殺されてしまうし、僕だって無事じゃすまない。なんたって、あいつを封じたのは僕だ。あいつが恨むとしたら僕しかいないんだ。」


かみ締めるように、フォルネアは言った。

しかし謎だ。彼が恨まれるのは分かるが、何故半竜族であるヴィリジアが教われなければならないのか。


そう考えていると、ヴィリジアがその謎に答えるように言う。


「半獣族の中でも、一番脅威なのは僕だし、何せその昔フォルネア様に手を貸して封印の手助けをしたのは僕だからね。あいつの手で殺されるなら僕はかまわないよ。」


最後の言葉を聞き、フォルネアが彼を心配するような反応をする。

だが、ヴィリジアはさらに続けた。


「でも、どうしてわざわざ狩人を唆して間接的に僕を追い詰めるのかが理解できない、あいつはとことん他人の望まぬ最期を求めているんだな・・・!!」


怒りのあまり、彼は拳を強く握り締め、壁に叩きつける。


「そういうわけだ。どうだい、ここは僕ら3人で結託して、あいつを完全に消滅させないか?」


フォルネアの口から思いがけない言葉が飛び出す。

そう、消滅させる、と。

いくら封印してもまた覚醒するのであれば、消すしかないという彼なりの判断だろう。


「そうだね。フォルネア様がそこまで言うなら、僕も手伝おう。」

「俺も、喜んで協力させてもらうぜ!何せ、精霊神様じきじきのお願いだからな!」


二人はそろってそう言った。


「ありがとう、助かるよ。じゃあ僕はあいつの居場所を突き止める。見つけしだい、君たちに伝えるから、君たちはあいつと戦う準備でもしておくといいよ。」


フォルネアがそう言うと、ヴィリジアはユーリルの方を向き、改まって頭を下げた。


「ユーリル、と言ったね。僕はヴィリジア・ラックハート。よろしく。」

「こちらこそ、よろしく頼むぞ、ヴィリジア。」


ヴィリジア・ラックハート。それが彼の本名だ。

ラックハート。どこかで聞いたことがあるような・・・?


ユーリルは記憶を探ったものの、手がかりはつかめずにすぐに断念した。


「さぁ、まずは僕の故郷である半獣族たちが住む村、カマルスに行こう。そこでまずはコンディションを整えていかないとね。」


こうして二人はヴィリジアの故郷である半獣族の村カマルスへと向かうことになった。

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