それぞれの道
例の出来事があってから半年が過ぎた。
彼らは、あの出来事などなかったかのように平和に暮らしていた。
アウルスは一度家に戻り、父に独り立ちする事を告げた。
彼女は、同じ半竜族の血を引く者同士として、ヴィリジアと共に行動する事を決めたのだ。
ユーリルは相も変わらず、ふらふらと旅を続けていた。
あてもなく、ただこの世界じゅうを旅するさすらいの旅人として。
ある日、アウルスたち宛に手紙が届いた。それは、ユーリルが別の大陸に渡るという知らせだった。
しばらく彼とは会えなくなると知って、彼女は落胆していたが、ヴィリジアの言葉が彼女を奮い立たせた。
リリーとアルスは、家に一人置いてきてしまった妹のためにも帰ることにした。
両親のいない彼らにはいくらなんでも幼すぎた妹のために、彼らはあまり外出することができなかった。
だが、この体験は、二人の思い出に深く刻まれたことだろう。
彼らが両親を失ったことは、今回の出来事にも深く関わっていることなのだが、それはまた別の機会。
ユーリルが別の大陸に旅立った事を聞いて、アウルスとヴィリジアも、旅の支度をしていた。
「アウルス、そっちはいい?」
「はい、こっちはもう大丈夫です!」
荷物を入れたキャリーバッグを引きながら、二人は港町ペルセトゥナから出る定期船に乗り込んだ。
「ユーリル、僕はやっぱり、君の事を放っておけないんだ。だって、君は僕よりも狙われやすい種族なんだもの。」
彼らを乗せた船はゆっくりと波を立てて前に進み始める。
目指すは、東の大陸イスフィリア。
彼らが生まれ育った南の大陸サウドベーダを離れ、未知の大陸に足を踏み入れる。
「船って、とっても大きいんですね!」
「僕も乗るのは初めてだけど、思っていたより中は大きいみたいだね。」
周りの人々の声に、二人の話し声は溶け込んでいく。
そのころアモーレは、南の大陸に残り、イスフィリアへと向かう定期船を見つめていた。
あの中にちらりと見えた、二人の竜の子の姿をしっかりと視界に捉えたまま。
「正直、あの二人だけで向かわせるのは危険すぎるわ。でも、」
そこで一息いれ、こう続ける。
「あの二人ならきっと、どんな苦難も飛び越えてみせるわ。ね、そうでしょう?」
振り向きざまに彼女は言った。
そこに見えた小さな人影に語りかけるように・・・
定期船を降り、東の大陸イスフィリアへと足を降ろした二人。
見た事のない風景に、二人は興奮した。
「すごい・・・!僕らがいた大陸では見たこともないよ、こんな街!」
都会的だったサウドベーダではまず見る事の出来ない、オリエンタルな町並み。
この町並みが特徴的なイスフィリアの港町、ヴィシュトリア。
「さてと、まだそれほど遠くには行っていないはずだよ。ユーリルを探さなきゃ。ね?アウルス。」
「そうですね、知らせが来てからまだ1時間くらいしか建ってませんし、そう遠くには・・・」
アウルスがそこまで言った時、彼女は視線の奥になにかを見つけ、突然走り出した。
「あっ、ちょっとアウルス!待ってよー!」
旅に出たユーリルを追うように東の大陸へとやってきたアウルスとヴィリジア、
そして、南の大陸に残り、魔法の修行に励むアモーレ、そして、3姉弟揃って研究所跡のある家で暮らすリリーとアルス。
かつて一つになって戦った彼らは今、それぞれの道を歩き始めた―
実はまだまだ続けるつもりでした。でもこれ以上長々と書き続けるとなんとなくマンネリ化しそうだったので、中途半端ですがこれで完結とさせていただきます。
ありがとうございました。