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クレイトリア物語  作者: ミラ
竜人アウルスと半竜族編
20/21

想い人

「アウルス・・・お前・・・」


背中から紅く暖かいものを流してただ青年を庇うように立つ竜人の少女は、かすれた声で彼に言う。


「彼は・・・ヴィリジアさんは、貴方を探して何年も命がけで旅をしていました。だから、そこまでして貴方を探すほど、彼にとって、貴方は大切な人なんです・・・。だから、貴方が彼を・・・」


彼女はそこまで言って、立つ力を失い、青年の前に倒れ伏した。

しかし、彼女を切り裂いた、暴れる少年の鋭い爪はなおも無防備なユーリルに襲いかかろうとする。


「グラキエース!」


その叫び声と共に彼の頭部に氷塊が飛んだ。

少年は横っ飛びに吹っ飛ばされる。ふと振り返ると、杖を構えた青髪の少女がそこに立っていた。


「ユーリル!」


彼女は叫んだ。しかし、ユーリルはその場を動こうとせずにアウルスを抱きかかえ、そっと呟いた。


「・・・いや、あいつを止める・・・止められるのはお前だけだ。だから、お前はこんなところで自らの灯火(ともしび)を消してちゃダメなんだ。だから・・・」


そして、青年は動かなくなった少女の胸に手を当てて、叫んだ。


「あいつはお前が止めなきゃ、俺なんかにこの仕事は勤まらねぇよ、リジェネレーション!!」


その魔法名を耳にして、アモーレは目を見開く。

ただでさえ手負いなのに、今の彼にそこまでできる魔力が残っているはずがない。


だが、そう思う反面、彼女は信じていたのかもしれない。

竜人の少女を蘇生させるのに全ての魔力を注ぎ込む彼に近づくヴィリジアを、二人の少年少女と共に追い払っていた。


青年と竜人を包み込む光が消えると共に、少女の背中の傷は癒え、そして青年は少女に突っ伏すように倒れ込む。


「あれ・・・ユーリル、さん・・・?」


疲れきったような息遣いをする彼に、アウルスは疑問を抱きながら尋ねる。

彼はそんな彼女に目を閉じたまま微笑みかけ、意識を遠くに飛ばした。


「彼を止められるのはあなたしかいない。だからユーリルは命をかけてあなたを蘇生させたのよ。」

「私しか、彼を止められない・・・?」


その言葉にアウルスは若干戸惑ったようにも見えたが、やがて決心したようで、なおも暴れる半竜族の彼に向かっていった。


「私の声、聞こえますか?ヴィリジアさん。」


無防備のまま彼の前に立ちふさがり、そっと語りかけるアウルス。


「思えば、あの日が私とあなたとの出会いでしたね。」


両翼と角を刈り取られ、今にも力尽きそうな様子の半竜族の少年。アウルスは過去を思い出しながら、彼との出会いを語る。


やがて少年は目を覚まし、会話も普通にできるようになった頃

彼は背負った剣を少女に見せ、持ち手に刻まれた名前を見せていた。

文字は古代クレトリア文字で刻まれており、彼女には読めなかったが、その少年が探している人の名前に間違いはないのだろうと彼女は思った。


半竜族の少年と会話をし、剣の持ち主を探して旅をするうち、少女は徐々に彼と打ち解けていき、父以外には完全に閉ざしていた心を徐々に開き始めた。


だからこそ、今ここに自分がいて、今こうして立っているのだと。


アウルスはそういった旨の事を、目の前で何かに悶え苦しむように暴れる少年に語る。


すると、今の今まで暴れていた彼が動きを止めた。

それを見計らったように、少女は彼をそっと抱きしめる。


「あなたは私をずっと、命の恩人だと言ってくれた。でも、あなたも私の恩人なんです。私を、今の私を作り出してくれた、たった一人の私の恩人。あなたがいなければ、きっと私はずっとあの小屋の中で父さんとふたりきりだった。あなたが、私に外の世界を見せてくれたから・・・」


アウルスがそこまで言うと、耳元で、今彼女が抱きしめている少年の声がかすかに聞こえた。


「アウ・・・ルス・・・」


その声と共に、少年に生えていた巨大な尾は塵となって消え去り、彼の瞳に光が戻る。


「ごめん・・・また、僕は君に助けられてしまったね・・・。」

「いいじゃないですか、だって、私とあなたはもう、友達なんですから。」


アウルスのその言葉でヴィリジアは涙を流した。

二人は互いを抱きあい、そのまま座りこむ。


「ヴィリジアさん、私・・・」

「言われなくても、僕は気づいてるよ、アウルス。」


全身を青系に包んだ魔導師の少女と、まだ幼い錬金術師の姉弟。

そして、壁際に力なく倒れたままの青年。


彼らに見守られたまま、同じ竜系半獣族の血を引く二人が抱き合ってから幾分が過ぎた。


「ねぇ、ヴィリジアさん。」

「何だい、アウルス。」

「私、前から思ってたんです。やっぱり、私・・・」


そこまで言ってアウルスは頬を染めて言葉を詰まらせる。

すると、ヴィリジアがそんな彼女にそっと言った。


「じゃあ、少しの間、目を閉じててくれるかな。」

「え・・・?」

「いいから、早く。」


ヴィリジアの言葉になされるまま、彼女はそっと目を閉じる。

それから間もなく、暖かく軟らかい感触が、自らの唇に触れるのを感じた。


「・・・!!」

「これが、僕からの答え、だよ。」


驚き戸惑う彼女を見て、ヴィリジアはくすっと笑った。

それに釣られるようにアウルスもくすくすと笑い出した。


そのほほえましい光景に、周りのアモーレやリリー達も笑い始める。

静寂に満ちていた、破壊された研究室は一瞬にして騒々しさに包まれた。

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