研究員
アウルスとアモーレは、目の前に迫る研究者たちに魔法を唱えて応戦していた。
中に狩人が混じっているのか、弓や麻痺針なども飛び交っている。
「おかしいわね・・・本気であの二人を連れて行くつもりなのかしら・・・?」
アモーレは、目の前の三人がとても本気で自分とアウルスを倒すつもりとは思えないほどに弱いのだ。
魔法がことごとく命中し、ふらつきながらもただ立ち向かうばかり。
「アモーレさん!何かの罠かもしれません!警戒してください!」
「ええ。分かってるわ。こう言う場面は私の方がよく経験するもの。」
そういって、二人は前の三人に警戒する。
いつ仕掛けてくるかわからないのだ。三人の動きを観察しつつ、ただ魔法を撃ち続ける。
しばらく彼らと交戦する中でふと、アウルスの脳裏に嫌な事がよぎった。
いつまで経っても仕掛けてこない、まさか。
そう思って振り向いた。
そこには。
「・・・あ、アモーレさん!」
「しまった・・・!」
前の三人は囮で、実はもう数人いたのだろう。
ヴィリジアとユーリルは連れ去られ、背後には気絶して倒れているリリーとアルス。
「私としたことが・・・敵は目の前だけじゃないかもしれないって思っていたのに・・・!」
自らの失態に悔しがり、杖を突き立てているアモーレ。
そんな彼女を見て、アウルスは彼女に言った。
「こんなところで悔しがってる時間なんかないと思います。まずはこの二人が目を覚ますのを待ちましょう!」
「・・・えぇ、そうね。一旦引き上げましょう。」
そして二人は気絶した姉弟を背負い、再びコニリオスへと向かった。
「おーい、連れてきたぞ。」
両手を縛られ、研究所に連れてこられた半竜族と青年。
どうやら彼らは、前から狙っていたあの二人だそうだ。
同じ研究仲間を見て、青年が口を開いた。
「俺をどうかしようってなら構わんが、せめてそいつだけでも解放してやってくれないか?」
「ユーリル!いきなり何を・・・」
「黙れ。折角確保した被検体だ。逃がすわけにはいかない。」
仲間の一人がそう言った。青年は、その言葉を聞くなり、やはりと言った顔で口を閉ざした。
「世界のために犠牲になることは決して悪いことじゃない。それは君たちも理解しているね?」
「ふんっ!解ってたまるものか!」
半竜族の少年が縛られた両手を開放させようと暴れた。
その様子を見て仲間の一人が彼に睡眠薬を注射する。
「う・・・あ・・・っ」
少年はそのまま眠ってしまい、その場に倒れた。
その様子を見た青年が、感情を高ぶらせる。
「てめぇ・・・ヴィリジアに何しやがった!」
「何って、研究するための下準備ですよ。」
「な・・・っ!?」
研究員が彼の言葉に答え、背後から殴って青年を気絶させる。
「さて・・・始めよう。」
意識を失った二人の拘束を解き、研究員たちは二人をカプセル状の機械の中に連れていった。
「どうしましょう、アモーレさん。」
「連れて行かれた研究所なら、いくつか心当たりがあるわ。」
気絶したリリーとアルスを部屋に寝かせ、机に地図を広げて話し合うアウルスとアモーレ。
今彼女達がいるのは、アモーレの家である。
「しかし・・・一度研究所に連れていかれればほぼ確実にもとの人格はないし、下手をすれば命を落としている可能性もあるわ・・・。遅くならないうちに助けに行きましょう。」
「アモーレさん、過去にも連れて行かれた人がいるんですか?」
妙に詳しいアモーレに、アウルスが尋ねた。
「ええ。何人もね。私の仲間に、彼らと同じように半竜族とソプデナンセがいたの。ある日研究者に見つかって、連れて行かれた研究所に皆で乗り込んだんだけど、隊はほぼ全滅。生き残りは私以外、皆被検体にされたわ。」
アモーレが過去を語る。その壮絶さにアウルスは思わず涙をこぼしそうになる。
話し終わった後、彼女もまた、自らの過去を語り始めた。
「私の家族は、人間の父と半竜族の母がいました。私はそのハーフ、竜人と呼ばれる人間の種族の一種。でも、ある日母さんと空の散歩をしていたときに、母が狩人に殺されてしまったんです。それ以来、私はずっと家にこもりきりで・・・」
「そう、そんなことがあったのね。」
「でも」
アモーレが相槌を打った。
アウルスはさらに、今の自分に至るまでを語り始める。
「今の私がいるのは、ヴィリジアさんがいたからなんです。翼や角を失って、今にも力尽きそうなあの人を助けたんです。だから、今の私がいて、こうやって他の人とも話すことができるんです。」
そこまで話すと、彼女は机を叩いて立ち上がる。
「やっぱり、こうしてはいられません!早くあの二人を助けに行きましょう!」
「・・・そうね。あなたの思いはすべてわかったわ。まずはこの二人が目を覚ますのを待って、そこから心当たりのある研究所を潰しに行くわよ!」
「はい!」
アモーレが彼女らしからぬ大きな声でアウルスに言った。
彼女の強い意志を感じ取ったのか、アウルスも負けない声で返事をする。
「・・・クロノス、クレア、ルーノ、セレーネ。奴らの犠牲になったあなた達のことは忘れていないわ。いつかきっと、あなた達の仇はとってみせる。」
天井を仰ぎ、アモーレは呟くようにそう言った。