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クレイトリア物語  作者: ミラ
竜人アウルスと半竜族編
17/21

ソプデナンセの紋章

「嘘・・・だよね・・・」


瞳にうっすらと涙を浮かべ、かすかな息をしている青年に近づく。

彼こそが、ヴィリジアの探していた、ユーリルその人だった。


「こんなの・・・ないよ・・・」

「遅延型毒針は身体に異常が見られれば完全に毒が回ってる証拠・・・彼はもう・・・。」


リリーもその場に膝をつき、針を持っていない方の拳を握り締めて地面に叩き付ける。その気持ちは誰もが同じであり、ヴィリジアの次にショックを受けているのはアルスだった。


さっきまで、そこで話をしていたのに。

本当の彼を知るチャンスだったのに。


毒に冒され、目の前で苦しむ青年をただ彼らは見ていることしかできなかった。

こうなってしまえば、もはや解毒薬も解毒魔法も効かない。


次第に弱っていく青年を、ただそこで見ていることしか出来なかった。

そして、彼の呼吸が完全に止まろうとしていたその時。


彼の額に何かが浮かび上がった。その紋章のようなものは眩しく光り輝くと、彼の額にしっかりと刻まれた。

紋章が額に刻まれると、彼のさっきまでの苦しそうな息遣いはなくなり、まるで深き眠りに落ちたような、そんな息遣いをしている。


今の現象が理解できない4人。

やがてアウルスが口を開いた。


「今のは・・・?」

「ソプデナンセ・・・」


彼女の言葉に応えるようにヴィリジアが呟いた。


「ソプ・・・なんだって?」

「ソプデナンセ。人間が生まれつき持っている能力とは別の力を宿した人間。」


まだ何がなんだか分かっていなさそうなアルスに、ヴィリジアが説明をし始める。


人間が生まれつき持っている能力とは別の、特殊な力を宿した人間。

ソプデナンセとは、すなわち神の使い魔の意。


瀕死になると額に紋章が浮かび上がり、何かの力で瀕死から復帰するという。

また、時々いつもよりも強力な力を出すこともあるそうだ。


「ソプデナンセって・・・彼が?」

「僕も最初は推測の域だったけれど、これで本当に確信したよ。彼はやっぱりソプデナンセなんだ。」


しかし、そうと分かれば彼をこのままにしておくわけにはいかない。

額の紋章を隠さねばすぐさま研究者たちに見つかってしまうだろう。


ひとまず4人は青年をベッドの上に寝かせ、なおも光り輝く額の紋章を隠そうと、バンダナを巻いた。

彼には目を覚ましたときにちゃんと説明しておかなければ。


だが、その選択が間違いであることなど、今の彼らは知る由もなかった。

彼はとうの昔から、既に目を付けられていたのだから・・・



彼が目を覚ましてから数日経った。

バンダナを巻いた理由を話し、さらに彼からも全て話してもらった。


彼の本当の名は、ユーリル・ラウニーマ。かつて、この世界を支配しようとしていた闇の精霊を倒したという青年。


「私たち、そんな英雄を助けてたんだ・・・」

「やめてくれよ、英雄とはいえ一度は死にかけたんだぜ?」

「でも、私たちにとっては英雄です。命がけで、この世界を守ったんですから。」


彼らはそのような会話を交わしながら、当てもなくただ歩いていた。

竜人と、半竜族と、人間と、ソプデナンセの英雄。


3種族の5人は、ただ平和に、時々魔物との戦闘を交えながらも笑いあいながらただ歩いていた。

どこに向かうのかも、決めぬまま。


「当てのない旅ってのもいいですね。」

「だろ?俺はずっとこんな旅をしてきたんだぜ。」


アウルスがユーリルに言った。

そう、この旅の提案者は当然彼だ。何せ、今の彼やヴィリジアを一人でどこかに行かせる訳にもいかないからだ。


「ユーリルはずっとこんな旅をしてきたんだよね。」

「あぁ。まさか、こんなところで自分の正体に気づくなんて思いもしなかったけどな。」


そう言って、彼らは笑いあった。

彼らに危険が迫っていることも知らずに。


「あなた達ー!」


背後で声が聞こえた。その声に気づいたリリーが後ろを振り向くと、こちらに駆けて来るアモーレの姿があった。


「アモーレ?どうしてここに?」

「どうしたこうしたも無いの!どうやら、感づかれたみたいなの。」


アモーレが息を上げながら言うと、アウルスが誰に?と尋ねる。


「誰に、ですって?言わなくてもあなた達には分かると思いますけれど・・・!」


彼女がそこまで言って、突然ヴィリジアとユーリルを庇うように抱き寄せ、地面に伏せた。

直後、彼らがいた場所を一直線に細いレーザーのようなものが走る。


「まさか、既に感づかれていたって言うんですか・・・?!」

「どうやら、そういうことみたいね。」


二人を伏せさせたまま、アモーレは立ち上がって目の前の白衣の人々に言った。


「どうしても二人を連れて行くなら、氷と水の魔女と呼ばれるこの私、アモーレ・ヨルティシアを倒してからにしてもらえるかしら?」

「待ってください!」


アモーレがそこまで言うと、アウルスが彼女の肩に手を置き、そう言った。


「大切な、私の仲間なんです。私も助太刀します、アモーレさん!」

「ふふ、分かったわ。ただし、足を引っ張るようなことはしないでね?」

「了解しました!」


二人はそう言葉を交わし、互いに武器を構えてこう言い放つ。


「あなたなんかに彼らは渡しません!」「私の知り合いに手を出すってんなら容赦しないわよ!」

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