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クレイトリア物語  作者: ミラ
竜人アウルスと半竜族編
16/21

青年の苦悩

アウルスが目を覚ますと、窓から光が差し込んだ。どうやらここは宿屋らしい。

確か、ヴィリジアの背中で誰かにやられて私は気絶したような・・・?


そう彼女が考えながら身体を起こすと、前に座っていた少女に声をかけられた。


「おはよう。気分はどうかしら?」


その茶髪のロングヘアと、頭にぴんと生えたアンテナのようなアホ毛。

急に声をかけられたのと、目の前に彼以外の人物がいることに彼女は怯えてしまう。


「あっはは、大丈夫。あなた達をここまで連れてきたのは私たちなのよ。」

「私、たち・・・?」


少女のその言葉で、隣にヴィリジアが眠っていることに気づいた。

そして、扉を開けて誰かが入ってくる。


「よう、起きたのか?」

「・・・うん。」


髪を三つ編みに結んだ、彼女とはかなりの年の差がありそうな青年が、続いて部屋に入ってくる。彼の手には、ヴィリジアが持っていたはずの剣が握られていた。


「すまんな、お前らを襲った奴らを追い払うのに借りちまったんだ。」


そっと彼のそばに立てかけた。剣の柄の部分を見ないように。

その仕草にアウルスは不思議に思ったが、気にしないことにする。


「メーベル、もういいの?」

「・・・あぁ。俺も俺でちょっと用があるんでな。」


それに、と彼は続け


「その子の魔力に、覚えがあるんだ。」


と告げて、部屋をあとにした。

扉が閉じる音と共に、隣のベッドがもぞもぞと動く。


「う、ん・・・」

「ヴィリジア、おはよう。」


上体を起こしたヴィリジアに、アウルスが話しかけた。

自分が何故宿屋のベッドの上にいて、目の前にアウルス以外の少女がいるのかが理解できず、彼は混乱する。


「あれ・・・?僕はどうしてここに・・・?それと、君は・・・?」

「そういえば、そこの君にも紹介してなかったね。私はリリー・エルーシャ。リリーでいいわ。ここには弟のアルス、そしてさっきの子、メーベル・エールラーと一緒に連れてきたの。」


リリーと名乗る少女が二人に彼女の仲間を紹介した。二人はその後、リリーの話をずっと聞いていた。

彼女がメーベルと出会った経緯、ここにやってきた理由、そして、二人をここに連れてくるまでを。



「おい!メーベル!」

「・・・アルスか。」


宿屋の一室のベランダに立ち、地平線を眺めるメーベルに、アルスが話しかけた。

どうも、今日の彼は少し挙動不審である。


「・・・俺は、誰なんだ?」

「・・・はぇ?」


唐突なメーベルの発言に、変な声を出したアルス。

そんな彼をメーベルは気にも留めずに話し続ける。


「認めたくないんだ。俺は俺以外の誰でもないはずなんだ。なのに・・・。」

「なぁメーベル、どうしたんだよ?オレに言ってみなって!」


苦悩の表情を浮かべるメーベルに、アルスは自分に話すように促した。

すると彼は、アルスに自らの全てを話し始める。


そう、彼は既に記憶を取り戻していたのだ。


「俺は、全部思い出したんだ。あの子、ヴィリジアの持っていた剣を手にしてから、俺の中に流れるように記憶が溢れてきたんだ。」


彼の本当の名前は、ユーリル・ラウニーマ。あの少年、ヴィリジアとはかつての仲間だったそうで、

数年前に世界を支配しようとした精霊族を体を張って羽交い絞めにし、精霊神と彼、ヴィリジアによる上級魔法を同時にぶつけられて精霊族もろとも吹っ飛ばされ、自らも記憶喪失に陥るまでの重傷を負ったようだ。あの剣は、自分が生き残っていることに賭けて、あえて直前に鞘から抜いておいたそうだ。


「俺は、あいつに言わなきゃならねぇ。あいつに、心配かけたことを・・・っ!?」


そこまで言ったところで彼の身体がふらつき、その場に倒れ込む。

苦しそうな息遣いをしている辺り、何かにやられたようだ。

アルスが咄嗟に彼の身体を衣服の上から探ると、何かが手に触れた。場所はちょうど、横腹辺り。


「これは・・・ね、姉さん!」


彼なりの咄嗟の判断で、姉リリーを呼ぶ。

その切迫した声で何かが起きたと気づいたようで、彼女も慌てた様子で駆けつけてきた。

アルスが指差した場所に触れると、リリーは青ざめた顔をし、その物体を引き抜いた。


「これ・・・毒針じゃない!それもかなり時間をかけて身体を侵食していくタイプの・・・!」

「えぇ!?それってまさか・・・。」


リリーは、錬金術師でありながら、狩人だった祖父の持っていた麻痺・麻酔・毒針の種類を見ただけで判別することが出来るのだ。


「えぇ。身体に異常が現れるのは10時間以上もあとになるけど、その時にはもう・・・!」


リリーのその言葉を聞いて、アルスは絶句する。

そしてリリーは、昨夜の青年の様子を思い出す。


そう、あの時にこの毒針を撃ち込まれていたのだと。

自分が気づいていれば、こんなことにはならなかったと、少女は嘆く。


その騒ぎに、アウルスとヴィリジアも駆けつけた。


「あの、何かあったんです・・・!!」


アウルスも、彼らの様子を見るなり言葉を失う。

だが、それ以上にヴィリジアは、今の状況を見てショックを受けていた。


リリーの手にある遅延型毒針、そして、倒れている青年。

その横顔を見て、少年、ヴィリジアは確信したのだ。


「・・・ユー・・・リル・・・?」

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