行く者、去る者
◆◆◆
「…うがぁぁぁっ!」
選手控室で横になっていた俺は、雄叫びを上げて起き上がった!
うおぉぉっ! くっそムカつく!
何なんだ!? あいつ等は!! ゴーレムを殺して楽しんでやがる!!
「うわっ!? 食いしん坊…もう、大丈夫なのかい?」
プルルが、俺を心配して顔を覗き込んで来た。
「大丈夫だ! 今の俺は、圧倒的な怒りでスーパーモードに目覚めそうだ!」
そう! 愛と怒りと悲しみでな!!
…その内ガンズロックに、V字アンテナでも作って貰おうかしらん?
「無理すんなよ? エルは大丈夫だって言って
大丈夫だった試しが無いからな?」
「何気に、ひどぅい!」
ライオットが、ニヤリと笑いながら言った。
…良く分かっておられる。
でも、今は大丈夫だ。問題無い。
と…その時、ガチャリとドアが開き、野獣アニキ達が入って来た。
「よぉ? お嬢ちゃん…もう良いのか?」
「あぁ、もう大丈夫さ」
野獣アニキ達に抱かれたゴーレム達はえらく震えていた。
さっきの試合を、一緒に見ていたから…それが原因だろう。
「…俺達は、試合を棄権したよ」
「えっ…?」
悔しそうに、悲しそうにゴーレムの頭を撫でる。
「可哀想になぁ…すっかり怯えちまって、試合所じゃ無ぇんだよ。
あんなに猛特訓して、やっと此処まで来たんだがなぁ…」
「こんな状態じゃ、まともに戦えないわな?」
「悔しいが…今回、俺達は此処までさ。
お嬢ちゃん達と決勝で、戦ってみたかったけどな?」
そう言い残し、選手控室から出て行った『あにまるず』。
俺達は、黙って見送るしか出来なかった…
「これで、準決勝の組み合わせが決定した訳だけど…
僕達も大会から手を引くって、選択肢もあるよ?」
「その選択は、先程ムセル達が破壊した!」
「…そっか」とプルルが、諦めたように言った。
悪いな…俺もムセル達が怯えてる様なら、棄権も致し方無し! と思っていた。
でもな? ムセル達は逃げる所か、立ち向かおうとしていた。
コイツ等は分かっているんだ…絶対に、許してはいけない相手を!!
「それに…あの黒いのは、シアとエスザクがボコってくれるさ。
決勝で会おうって…約束したからな!」
調子ぶっこいた奴は、強者にボコられる。
…やり過ぎた結果だよ?
「その前に『ブラックスターズ』に勝たないとな?」
「おうっ! あのお姉さん達も、約束を守って勝ち上がって来たんだから
それに応えないとな! ふぉぉぉぉぉっ! 燃えて来たじぇっ!!」
そうだ! 先ずは決勝に勝ち進む事を考えよう! そうしよう!
俺は一先ず、あの不気味なゴーレム達の事を
頭の隅に「ぽいちょっ!」した。
◆◆◆
フードコートに居る『不確定名 ※白い珍獣※』…それは俺だ!
「ふぅ…フードコートは良い、人類が作った傑作だよ」
「大げさだな…」
午前中の試合が全て終わり、残りの試合は午後からだ。
そんな訳で…準決勝、決勝と勝ち抜く為に
エネルギーを満タンにする必要があったのだ!!(確信)
でも、悲しいかな! 俺達は此処で食べる事が出来ない!
何故なら…
「にゃーん」「わんわん」「チュチュ!」「め~」「も~」「むぅん!!」
…野良ビースト達と、筋肉の妖精が居るからである。
そこで、フードコートで食べ物を買って、外で食べようと言う訳である。
あんまり高い物は買えないが…(金欠中)
「お~居た居た! 食いしん坊や! こっちにおいで!
皆で、食べる物持って来たから!」
「ライゼンさん! リカードさんも!?」
リリーちゃんとジュリアンちゃんの、飼い主達がそこに居た。
そう言えば、応援に来てくれるって言ってたが…本当に来てくれたんだ!
…うれちぃ!
「えるちゃーん! …あら? お知り合い?」
其処に、デッカイお弁当箱を持ったリンダが達が合流して
ちょっとした、パーティーの様な昼食会になるのだった…
「ふぅ、外で食べるご飯は美味しいなぁ」
外の芝生に座り、皆で昼食を摂る。
野良ビースト達も、ちゃっかりご飯を頂戴している。
「うんまぁぁぁぁぁい!!」
このジュリアンちゃんから搾って、作ったチーズがまた美味い!
普通にパンに挟んで食べてるだけなのに、後引く美味さなのだ!
「ははは…喜んで貰えて何よりだ」
リカードさんも、嬉しそうだった!
「こっちのヒツジのチーズも良いぜ? …酒のつまみに最高だ」
…うん。ちょっと癖あるけど、お酒には癖がある方が良いもんね?
もう、俺も飲んじゃおうかしらん!?
真昼間からお酒を飲んでいるガンズロックに、ジェラシーを感じずにはいられなかった…
「リンダお前、料理上手くなったなぁ?」
「えっへん! 練習してるからね!?」
ライオットが、モリモリとリンダの弁当を食べていた。
リンダのお弁当は、鶏の唐揚げや野菜炒め、煮物ポテトフライ等…
色々な物が詰まっていて、とても食欲が湧く物だった。
「どれどれ…?」
俺は煮物を、一口食べた。
ジュワッと、口に広がる甘じょっぱさの塩梅が丁度良い。
味付けも悪くない。これなら及第点を上げられる。
俺はリンダに、親指を立てて「ぐっ!」っとやって笑った。
リンダも同じく「ぐっ!」っとやって笑う。
皆に、これだけの物を御馳走になったからには
俺も何かご馳走しなければ…まあ、アレしか無いけどね!!
「皆に、桃先生を奢ってやろう」
「待ってました! 桃先生!」
海に行った時に、皆に桃先生を食べさせた時。
リンダがとっても、気に入ってたのを思い出した。
…泣きながら食ってたけどな。
食後のデザートに、素晴らしく合う桃先生マジステキ!
皆、美味しそうに平らげていた…
勿論、野良ビースト達も奢ってやった。
いもいも坊やは、葉っぱの方を上げたがな!
◆◆◆
選手控室に、戻って来た俺達。
控室には、俺達以外誰も居ない。
「静かだな…」
「野良ビースト達は、観客席で待機中だからな」
「ある意味凄い事だよ?」
確かに…凄い光景だよな?
野良ビースト達がお利口さんに、観客席に座っている…シュールだな!
そんな事を、思っていると…
コンコン! と、音がしてドアが開いた。
「はぁい、試合十分前ですよ~? 試合フィールドはぁ…『荒野』で~す。
頑張ってくださいね~?」
と、今にも寝そうなお姉さんが入って来て…倒れた。
俺は倒れたお姉さんを、ツンツンした!
「…残念ながら、もう寝ている」
「見れば分かる」
このお姉さんは、フリーダムすぐる…
何はともあれ…次のフィールドが分かった訳だが。
寝てしまったお姉さんを、皆で控室のソファーにブン投げる。っぽい!
…これで良い。
「さて、ちょっと不味いフィールドに当たったねぇ?」
「マジで!?」
「どんな風に不味いんだ?」
プルルが、ちょっと苦虫を噛み潰した顔で言ったのを見て
俺とライオットが、プルルを問い詰める。
「このフィールドは『ブラックスターズ』が『アークジオ』を
破って優勝したフィールドさ」
「「えっ?」」
…と言う事は、相手にくっそ有利だって事か!?
でも、勝負は水物! やってみなくちゃ、分かんないだるるぉ!?
「ふん! どの道『ブラックスターズ』にも『アークジオ』にも
勝つ…つもりだ! どんなフィールドでも、ムセル達が勝つさ!!」
「そうだな…勝とうぜ! シシオウ!!」
「にゃーーーーーーーーーん!!」
そんな俺達を見て、優しげに笑うプルル。
傍らに控えるイシヅカを、優しく撫でて…
「んふふ…頼んだよ? イシヅカ…」
その言葉に…任せろと言わんばかりに、体でアピールするイシヅカ。
戦いの時は、刻々と迫っていた…
だが…俺達は負けん! 必ず勝利して…決勝に進むのだ!!