ゴーレムマスターズの光と影
…が、またしても転んだ! ずべしゃっ!
「ぬあぁぁぁぁぁぁっ!?」
俺は…焦り過ぎて自分の足に、
自分の足を引っ掛ける…と言う、失態を犯してしまった!
「あぁっ!?」
そうしてる間に…みどりちゃんの口から
『死を纏った光線』が放たれ…
チーム『エンペラーズ』のゴーレム達は、皆赤い光となって消滅してしまった…
いや、食われた。 …みどりちゃんに。
『ウ…ウィナァァァッ、チーム「ゼンバネンス帝国」!』
会場は静まり返っていた。 …余りの光景に。
実況解説の二人でさえ絶句しているのだ。
膝から崩れ落ち、茫然とリングを見つめるチーム『エンペラーズ』の選手達。
ニタニタ笑いながら…去って行く『ゼンバネンス帝国』の選手とゴーレム達。
…ちくしょうっ! 間に合わなかったっ!!
こんなの、ゴーレムマスターズであって…たまるかよ!!
「エル…大丈夫か?」
ライオットとプルルが、心配そうに駆け寄って来た。
「大丈夫だ…問題無い」
「嘘を吐くな…じゃあ、なんで泣いてるんだ?」
「え?」と言って気付いた、俺は…泣いていた。
如何やら、自分でも気づかない内に泣いていた様だった。
俺は、ゴシゴシと涙を拭った。
「少し…休んだ方が良いねぇ? 控室で横になると良いよ」
プルルが俺を気遣ってくれるが…彼女の顔も青かった。
大好きなゴーレムマスターズで、あんな事が起これば無理も無いだろう。
俺は、よろよろと立ち上がり…選手控室に向かおうとした。
「無理すんなって…」
ライオットが、俺を抱えてくれた。
普段なら、小っ恥ずかしくて爆発する所だが…
そんな気力も無く、されるがままで居た。
◆◆◆
「何だ!? アレはっ!! ゴーレムを…破壊する程の威力なら分かる!
だが…アレは、俺達が多くの犠牲を払って封じた『悪意』じゃないか!?」
「落ち着け…フォウロ。アレは別物だ」
俺は…大会関係者の控室で、親友でありライバルのザッキー・タケヤマに当たっていた。
筋違いなのは分かっている。 …昔からのやり取りだ。
俺事…フォウロ・キョウダは、熱くなると周りが見えなくなる。
それを何時も、冷静に止めてくれているのが…ザッキーだ。
「確かに、アレは『イビルハート』に酷似してるが…
もっと…そう、本能に近い物がある」
「本能?」
『イビルハート』ホビーゴーレムに寄生する、マジックウィルス。
開発したのは『ワールドピース』という秘密結社だ。
『イビルハート』は寄生したゴーレムを、意のままに操る事が出来る。
しかも寄生されたゴーレムは狂暴化し…主にも牙を剥く。
最終的には…人にすら感染する様に、改良を加えられていった。
…ザッキーは、その被害者だ。
ホビーゴーレムの有用性を見出した『ワールドピース』が
『イビルハート』を撒き散らし、世界を掌握しようとしたのは
今から十二年前…俺が十歳の時だ。
当時、流行っていたゴーレムマスターズにハマり…
本気でグランドゴーレムマスターズに、出場しようともがいていた。
そんな俺に、付いて来てくれたのが…ザッキーとリィカと言う娘だった。
俺達は無我夢中で戦い…強敵に勝利し続け
遂に、グランドゴーレムマスターズで優勝した。
だが…奴らはそれを狙っていた。
強いゴーレムと主なら…効率良く『イビルハート』を撒き散らせると考えたのだ。
それは…正しかった。
優勝した俺達チームは色々な、イベントに招かれ…各地を訪れる。
その度に起こる、ゴーレムの暴走。
そして、遂に…ザッキーが『イビルハート』に支配された。
その後は…幾度と無くザッキーと戦い続ける事になった。
その時、助けて貰ったのが二代目ゴーレムファイター…俺の師匠だ。
師匠は操られた、ザッキーを救う為に命を落とした。
ゴーレムマスターズを、それを愛する者の為に…病を押して戦い続けた結果だった。
そして、俺は三代目を襲名する事になる。
師匠の愛した…ゴーレムマスターズを守る為に。
その後…シアと言う少女を仲間に加え、『ワールドピース』を追い詰めていく事になる。
シアのセンスは…ずば抜けていた。 ザッキーが、舌を巻く程だ。
そして、遂に『ワールドピース』の本拠地に乗り込み…首領との決戦に勝利し
『イビルハート』を完全に封じ込めた。
もう二度と…ゴーレムマスターズを汚させない為に。
「本能とは…? アレは『イビルハート』じゃないって!?」
「あぁ…私は、操られていたから分かるが。
悪意の度合いが桁外れだ、そして…見ていたか?
あのゴーレム、食べていたんだよ…弾丸も爆発も、ゴーレムですら
食欲の塊だ…本能で行動している様にしか見えなかったよ」
俺は絶句した。
ホビーゴーレムに…食欲!? ありえない!
本来、ホビーゴーレムのエネルギーは主の魔力。
すなわち…優しさ、愛情だ! …それを、他者を食らって得るなどっ!?
「それが可能な、何かを持っているのだろう。
そして、それはスキルとして認められている」
「…!? 何だよ、それはっ!!」
ふぅ…と、ため息を吐いてザッキーが続ける。
「大会責任者に問い詰めた所だ…如何やら上の連中が絡んでいる様だ。
いくら問い詰めても、下っ端じゃ如何にもならなかったよ」
「上って…上級貴族か!? 何で、そんな連中が!?」
そんな事して、何のメリットがあるんだ!?
これは、子供と大人が楽しめる遊びだぞ!
シアがどれ程…苦労して再び人気を、取り戻したと思ってるんだ!!
…五年! 五年だぞ!!
「兎に角…私達も黙ってみてる訳にはいかない事は確かだ」
鋭い眼光。
今も、昔も変わらない…強い意志を持った目。
「もちろんだぜ…皆で守ったゴーレムマスターズだ!
絶対に、あんな連中に好きにさせないぜ!」
俺は強く拳を握った。
「フォウロさん! ザッキーさん!!」
勢い良くドアが開き、シアが入って来た。
「あ…あれは!? まさか…!!」
「落ち着けシア…アレは『イビルハート』じゃ無い」
ザッキーに肩を、掴まれ我に返るシア。
彼女は決戦で、かつての相棒を失っている。
その原因である『イビルハート』を極端に恐れていた。
「で…では!?」
「私達にも分からないが…『イビルハート』で無い事は確かだ」
「けど…見過ごせねぇよな?」
あのゴーレムの狂暴性…その主の歪んだ感情。
笑ってやがった…崩れ落ちる『エンペラーズ』の選手を見て。
楽しんでやがった! ゴーレム達が、死んでいく様を!!
「…チクショウ! 今回、実況解説に俺達を選んだのは…!」
「…だろうな? 邪魔をさせない為だろう」
「そ、そんな…」
当然、俺達が大会に出ていれば…ああ言った輩は、叩きのめしてやる。
でも…大会運営側では、それが出来ない。
唯一、シアが参戦しているが…
「シア、大会を棄権するんだ」
「え!?」
ザッキーが、シアに棄権を進めて来た。
俺も、その案に賛成だった。
危険すぎる、いくらシアのエスザクが強くても…
アレは異常だ…普通じゃ無い。
「…出来ません。 約束があるんです…決勝で会おうと、約束した子が!
エスザクも、再戦を強く希望している子が居るんです!
あんなに、楽しみにしてる…エスザクを見た事が無いんです!」
そう言って、走って部屋から出て行くシア。
「シア!!」
「…やはり、駄目だったか」
俺もザッキーも、シアの気持ちは…痛い程分かる。
だが…
「後はシアとエスザクを、信じるしかないな…」
「だが…私達も出来る限りの事はしよう。
これは、先輩である私達の使命だ」
俺とザッキーは、互いに頷いた。
俺達が守り、シアが蘇らせたゴーレムマスターズ。
絶対に連中の好きにはさせない…!
誤字 …決勝で合おうと
訂正 …決勝で会おうと