悪意を回す者
「そろそろ、次の試合が始まるけど…見に行くかい?」
プルルが、次の試合を観戦するか聞いて来たのは
俺がプルルに飛びついて、じゃれついてた時の事だ。
プルルは、中々のもち肌だった。(ご満悦)
「確か…全部ランクCのゴーレムと、戦車チームだったっけ?」
「うん、そうだね」
…なんだか、凄惨な結果が待ってそうだな。
果敢に攻める、ランクCゴーレム達!
戦車から放たれる、無慈悲な鉄の塊!
…哀れ! ランクCゴーレムは爆発四散!!
「…南無」
俺は手を合わせた…合掌。
「…如何したんだ? エル?」
ライオットが、手を合わせた俺を心配そうに見て来た。
別に変な事は…してたかも。
「いや、何でもにぃ」
と、言って誤魔化して置く。
…まぁ、取り敢えずは見に行ってみるか。
どんな戦い方をするのか…興味があるしな!
「よし! 見に行くか!」
「それじゃ、会場に行こうかねぇ? そろそろ始まるよ」
「お? それじゃ急いだ方が良いな!?」
俺達は三人揃って、試合を観戦しに行った。
…例によって、大行列になったのは言うまでも無い。
◆◆◆
「ほぅ…これは良い席だ、見事と感心するな」
リング近くの、特等席に座る事が出来た俺は…とてもご満悦だった。
すかさず、フリースペースから売店で買ったポップコーンを取り出す。
「こらこら、相手の対策をする為に見に来てるんだよ?」
「観戦にはポップコーンと、決まってるんだるるぉ!?」
「ま…エルと俺じゃ、対策なんて無いと同じだしな?
少し、貰うぞ? エル」
少しと言って、がっぽりと取って行くライオット。
半分以上持って行って、少しとはいったい…うごごご。
「試合が始まるみたいだよ?」
俺がライオットに文句を言おうとした時
絶妙なタイミングで、プルルが話しかけて来た。
…ちっ! 命拾いしたなライオット!
次やったら…耳毛を、コチョコチョしてやる!!
『第三試合はチーム「ゼンバネンス帝国」対チーム「エンペラーズ」です!
フィールドは…山岳地帯! これは中々に戦い辛いフィールドだ!!』
『チーム「ゼンバネンス帝国」は不利かもしれませんね?
チーム「エンペラーズ」は、強力な遠距離の攻撃方法を持っています。
如何やって、近付くかが勝利の鍵になるでしょう』
…と言うか、圧倒的に『エンペラーズ』が有利過ぎる。
あの『ゼンバネンス帝国』のゴーレム達が爆発四散するのは
時間の問題じゃないのかな…?
俺はゼンバネンス帝国のゴーレム達を見た。
…!? 何だ! この…悪寒は!?
俺の背中に、冷汗が流れるのを感じた。
これは、予選の時に感じた…嫌な気配!!
どいつだ…!?
俺は、ジッとゼンバネンス帝国のゴーレム達を、食い入る様に見つめた…
…アイツか! でも、気配が弱い様な?
だが、間違いない! 中央の…黒い恐竜型のゴーレムからだ!
「ど…如何したんだ!? エル…顔色が悪いぞ!?」
「あ…あぁ、だ、大丈夫だ」
ライオットが、心配そうに俺の顔を見ている。
そんなに、顔色が悪くなっていたのか?
「なぁ、ライ? あの真ん中の黒いゴーレムを見て…何か感じないか?」
「嫌な雰囲気のゴーレム、だとしか感じないが…
シシオウは、何か感じ取っているみたいだな」
ツツオウを見ると「フーーーーーーーーッ!!」と、威嚇していた。
明らかに、敵対心を持っている。
あの温厚なツツオウが、これ程までに警戒するとは…
「あのゴーレム…何かあるねぇ?」
イシヅカを、なだめながら黒いゴーレム達を注意深く観察するプルル。
ムセルも俺の前に陣取り、最大限の警戒を持って待機して居た。
「…試合が、始まる」
俺が独り言の様に言った後…試合は始まった。
何時もの通り、ゴーレムファイターが暑苦しい実況をし
ザッキー・タケヤマが的確な解説をして、試合が盛り上がる…筈だった。
先ずは『エンペラーズ』のゴーレム達が
巨大な大砲から、次々と砲弾を『ゼンバネンス帝国』のゴーレム達に撃ち込む。
それは、ほぼ全てゴーレム達に命中していた。
素晴らしい命中精度だ。
「我軍のぉぉぉゴーレムはぁぁぁ世界ぃぃぃ一ぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
普段なら「ウルサイ」とかツッコミを入れる所だが…
俺は…信じられない物を見て固まっていた。
…中央の黒いゴーレム「みどりちゃん」は、砲弾を食べていた。
それ所か『爆発』も、食べていた。
「何だよ? アレは…!?」
ライオットが、驚くのも無理はない。
砲弾を食べるのは…まだ「そうなのかー」と言ってやり過ごせるが…
『爆発』を食べる、なんて物は理解の範疇を超える。
アレも、ゴーレムのスキルなのか!?
未だに『エンペラーズ』の砲撃は止まない。
砲弾も、爆発も…みどりちゃんが食べてしまっている。
砲弾や爆発が食べられていく度に…赤い光が、悲しげに飛び散っていた。
「あの光は…でも!?」
プルルが何かを、思い出そうとしている。
俺には…プルルが、思い出そうとしている事が分かってしまった。
「身魂融合だ…!」
ギョッ、とした顔で俺を見る二人。
あぁ…分かるよ、俺も同じ気持ちだ。
大切な物を…汚された気分だ!!
「多分、アイツは…攻撃を食っているんだ。
それだけじゃない…如何言う訳か、砲弾自体がアイツに当たりたくない様だぜ?」
さっきから見ていたが…当たる直前で砲弾が、それて行っていた。
まるで、当たりたくないって言う様に…
やがて、砲撃が終わる。
其処には…無傷の『ゼンバネンス帝国』のゴーレム達の姿が在った。
「何だとぉっ!?」
これに驚く『エンペラーズ』の選手達。
無理も無い、あれだけの砲撃…普通なら耐えられるはずも無い。
そして、みどりちゃんが動いた。
背中にある…扇風機みたいな羽を回し始めたのだ。
「爆発を食べ過ぎて、体が熱くなったのかな?」
ライオットの一見…呑気そうな台詞。
だが…顔には、一切の油断も無い緊張感が張り付いている。
「けど…回転が逆だよ? あれじゃ、外から中に風が入って来るよ?」
プルルが、それに気付いた。
俺も気付いていた…あれは、何かを体内に入れる為の物だ。
一体何を…うっ!?
あの野郎!! 何て物を…取り込んでやがる!!
俺は思わず…吐きそうになった!
みどりちゃんが、取り込んで居る物は…恐怖! 怒り! 絶望! 憎しみ…!
ありとあらゆる…負の感情!
それを…体内で回してやがるっ!!
これじゃあ、まるで…『桃力』だ! …悪意の『桃力』だ!!
やがて…増幅した力が、みどりちゃんの口に集中していく。
まさか…ダメだ! それは、放っては…いけない力だっ!!
「止めろっ!!」
思わず口に出してしまうが…遅かった。
みどりちゃんの口から…黒い光線が、赤い雷を纏って発射された!
それは山を貫通して…ガンダーⅢに直撃した!
ガンダーⅢは…赤い光を撒き散らし消滅した!!
「なっ…なにぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
余りの出来事に『エンペラーズ』の選手が驚愕する。
「う…ぐぅっ!?」
俺は、ガンダーⅢの感情を…感じ取ってしまった。
恐怖、絶望、悲しみ…「ご主人様…」と言う、切ない最後の言葉…も。
「こんなの…ゴーレムマスターズじゃねぇっ! 試合を止めさせないとっ!!」
「エルッ!! 落ち着け! …俺達じゃ、試合を止められねぇよ!?」
ライオットが俺を止める。
分かってるけど…! このままじゃ…『エンペラーズ』のゴーレム達が!!
「お、落ち着けぇぇぇっ! 『エンペラーズ』は狼狽えない!!」
「ガンダーⅡ! 仇を討て! 砲撃…撃ちまくれ!!」
必死の抵抗をするも…まったく効果無しだった。
これじゃあ、皆死んじまうぞっ!?
「…くっ!」
「食いしん坊!?」
俺は『エンペラーズ』の、選手の元に…走り出した!