イシヅカ
「アーク! いけるな!?」
ミカエルがアークに指示を出す!
「エイン! 攻撃用意…!」
メルトだったけ?
が、エインに攻撃の準備をさせる。
「ジュエル~? アーク達に合わせて~」
サンフォが怠そうに、ジュエルに指示を出す。
コイツだけ、妙に熱が無いなぁ?
三人に指示を受けた『ホーリー』のゴーレム達。
空を旋回しながら、タイミングを伺っている。
くそぅ…まさか雪山などというリングが来ようとは…
このエルティナの目を持ってしても、見抜けなんだ…!
すまない! ムセル…不甲斐無い俺を許せ!
でもムセルは、文句一つ言わず…自分の出来る事をしようとしていた。
すなわち…囮である。
その時、ムセルが雪に足を取られた。
積みまくった武器の重量が、仇となったか!?
『あぁぁぁぁぁぁと!? ムセル! 雪に足を取られたかぁっ!?』
ゴーレムファイターの暑苦しい実況。
観戦してる分には、良いのだが…戦っている時は鬱陶しい。(失礼)
「今だ! アーク! 聖光弾連射!!」
「続け! エイン!!」
「ジュエル~適当にばら撒いて~」
様々な色の綺麗な聖光弾が、ムセルに向かって放たれた。
わぁお、綺麗!
…じゃ無くて!! 危ないぃぃぃっ! ムセル避け…れないかっ!?
今、ムセルは雪に足を取られ移動が儘ならない!
…絶体絶命だ!!
『ここで、チーム『ホーリー』ラッシュをかけて来たぁぁぁぁぁっ!?
ムセルは動けない! 絶体絶命だぞぉぉぉぉっ!!?』
「ムセルぅ!!」
思わず…ムセルの名を叫ぶ。…だが、ムセルは冷静だった。
自分の致命傷になる弾のみを、ヘビィマシガンで撃ち落としている。
それ以外は所々、被弾しているが…問題無さそうだった。
『ムセルは冷静ですね…致命傷になる弾以外は
被弾覚悟でダメージを最小限に抑えましたよ?
これは、やりにくい相手ですね?』
ザッキー・タケヤマの的確な解説。
彼の解説は、戦いのヒントになるかもしれない…良く聞いておこう。
「流石は…それでこそ、全力で戦えると言う物! アーク!」
アークが、腰に差してあった剣を抜いた。
エインとジュエルも、同じく剣を抜く。
「良し…アーク! 今こそ…」
ミカエルがアークに、指示を出そうとした時…!
「にゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!」
ツツオウの、特大の鳴き声が響いた!
…何事だ!?
雪山の天辺に辿り着いた、黄色い防寒具を着こんだツツオウは…
ドヤ顔でアーク達を見据え、丸くなって…寝た。
「………」
『………』
「ツツオウぇ」
前代未聞の出来事だろう。
グランドゴーレムマスターズ本戦で、まさかの睡眠!!
誰がこの様な行動を予測出来ようか!?
「シシオウ!?」
「ライオット…ツツオウは、良くやったよ…?」
「防寒具…暖かかったんだな?」
会場が、し~ん…となる。
ツツオウ…お前が寝るだけで、会場が静まり返ったぞ!?
ある意味、凄い奴だ!!
『ツ…ツツオウ! 寝てしまいましたぁぁぁぁぁぁっ!?
この行動は果たして…!!?』
『分かりませんね…相手チームの動揺を誘っているのか?
或は、本当に眠たかったのか…?』
…眠かっただけですね! ツツオウは本当にフリーダムだな!(呆れ)
ゴーレムファイターとザッキー・タケヤマが驚いている。
相当の、珍行動みたいだぞ!?
燦々と降り注ぐ、お日様の光を浴びて気持ち良さげに寝るツツオウ。
…こりゃ、だみだぁ!!
…だが! これで十分、時間は稼げた!
ムセルは雪から抜け出している!
「…!? しまった! アーク! 突撃だ!!」
『おぉぉぉぉぉっと!? チーム『ホーリー』のゴーレム達が、一斉にムセルに襲いかかる!
ムセル! これを凌げるかっ!!?』
ムセルは身に着けている武器を、一斉に発射した!
最早、移動武器庫と化したムセルから、凄まじい量の弾が発射される!
『こ…これは、凄まじい! とても一体のゴーレムから放たれる量の弾じゃ無いぞっ!?』
『成程「モモガーディアンズ」はムセルを囮として、先行させていますね…
未だ姿を現さない、イシヅカが不気味ですね』
おびただしい弾が、アーク達に襲いかかる!
…しかし!
当たった弾は、何か障壁の様な物で弾かれた!
なんじゃありゃぁぁぁぁぁっ!?
「分かっていた…とは言え、改めて凄いですね」
「うむ…流石は聖女の祝福」
「はは…これって反則に近いよね?」
…無傷だった。
あれ程の弾を、ほぼ…全て直撃したにも関わらず!!
これは、酷い! 聖女の祝福したの誰よ!? 出て来い!!
…あ、俺だ!
『な…なんとぉぉぉぉ!? あれ程の攻撃を受けて無傷のアーク達!
いったい、如何なっているんだぁぁぁぁぁっ!?』
「弾が着弾する時に、障壁の様な物が見えましたが…
それにしても、異常な防御力です! これは、ピンチですよ…ムセルは!?』
ひぃぃぃぃっ!? 俺のせいでムセルが絶体絶命だ!?
こうなれば…!!
「今行くぞ! ムセル!!」
「こらこら!? 何処に行く!」
ライオットに止められた。
「何処って…ムセルを助けに行くに、決まってるだろう!!」
「落ち着け…これはゴーレムマスターズだ。
お前が割って入ったら、逆にムセルに嫌われるぞ?」
はぅん! そうだった!
うごごご…黙って見てろって言うのか!?
あぁ…いったい如何すれば!?
「んふふ…何時もの、食いしん坊らしくないねぇ?
ゴーレムマスターの、やる事は何時でも一つ…自分のゴーレムを、信じてやる事さ」
「…!?」
そうだった! ムセルを信じてやらんで如何する!!
俺は、バシンと…実際には「ぺちっ」と、情けない音だが…
自分に気合をくれてやる。
「ムセル! 俺はお前を信じているぞ!!」
その言葉に…ありったけの思いを込めた!
ムセルが一丁の、ヘビィマシガン以外をパージする。
そして…ムセルの身体から、桃色のオーラが薄っすらと滲み出ていた。
こ…これは!?
やがて、そのオーラは足へと集まり…
『チーム『ホーリー』! 一斉に、ムセルに襲いかかった!
ムセル…万事休すかぁぁぁぁっ!?』
ゴゥンッ!! と、音がし…ムセルは雪上を、ローラーダッシュしていた!
足元に桃色のオーラが集まっている。
『な…なんとぉぉぉぉぉっ!? 何の装備も無く、雪上をローラーダッシュしたぁっ!?』
「こ…これは!? スキルにこの様な仕様はありません!
ムセルのこの力は…いったい!?』
…! この力は!? …桃先生の力だ!
今、ムセルの足元には桃力が充満している。
それが、雪上で不可能だったローラーダッシュを可能にしている!
流石、桃先生だぁ…
雪煙を、巻き起こしながら爆走するムセル!
手に持ったヘビィマシガンで、アーク達に攻撃を加える!
慌てふためくアーク達!
「落ち着け!? アーク!! たかが動きが少し早くなっただけだ!
お前達には『聖女の加護』がある! 負ける筈が無いんだ!!」
その言葉に、たちまちに落ち着くアーク達。
再び、ムセルを攻撃しようとした時…
ジャーン! ジャーン!
けたたましい銅鑼の音!
鳴らしてるのは…げぇ!? イシヅカ!!
何処から出したのか? 手に持った銅鑼を鳴らし、登場したイシヅカ!
出現場所は、飛んでいるアーク達より上の位置。
『この謎の怪音を、放っていたのは…何とイシヅカだったぁっ!
この行動は、いったい…!?』
『ここで、姿を現しましたね!? 「モモガーディアンズ」勝負を賭けてきましたよ!?』
イシヅカは、此処が正念場と判断したか!?
ならば、間違い無いだろう!
何時も…皆を導いて来たのはイシヅカだ!
「…何だ!? ランクCが出て来た所で…!?」
問題無い…と、言った風のミカエル。
だが! その油断は命取りだ!
イシヅカは手に持った投げ網を、アーク達に投げた!
それは、見事にアーク達…三体を絡め取り、行動不能にした!
「な…!? アーク! 直ぐに剣で…!」
再び、銅鑼を鳴らすイシヅカ!
力強く! 何度も! …何度も!!
「にゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!」
その音に、応える声…!
ツツオウだ! …起きたのか?
何時の間にか…ツツオウの傍には、仕掛けが施されていた!!
恐らく…イシヅカが設置した物だろうが、隙を作ったのはツツオウ!
そして、囮になったムセル! …何と言う、チームワーク!!
ツツオウは一本の杭を、引っこ抜いた!
少し雪が、下に流れて行く…
やがて…それは、大きな生物の様に大きくなって行った!
…『雪崩』である!!
『あぁ~っと!? ツツオウ! 雪崩を引き起こしたぁぁぁぁぁっ!!』
『こ…これは!? いや、これはイシヅカが弄した策でしょう。
このチームで気を付けるのは…ムセルでは無く、イシヅカと言う事でしょうね!』
ザッキー・タケヤマに一筋の汗が流れる。
其処までのゴーレムなのかイシヅカ!?
「ア…アーク!?」
アーク達は動けず、雪崩に巻き込まれリングアウトした!
だが…ムセルは!?
「あ…!?」
ムセルは宙を飛んでいた!
正確には…釣られていた。…イシヅカの釣竿で!
完全勝利である! モモガーディアンズの!!
『ウィナァァァァァァァァッ!! モモガーディアンズッ!!』
審判のお姉さんが、モモガーディアンズの勝利を告げる!
…勝ったのだ! ムセル、イシヅカ、ツツオウが!!
『これは、劇的な勝利だぁぁぁぁぁぁっ!!
地形の圧倒的不利を、知恵と勇気で補ったチームワーク!
ゴーレムマスターズに、新たな新星が誕生したぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
『特にイシヅカの作戦が、最大の武器の様ですね。
能力的にはパッとしませんが…成程、能力が全てでは無い。
改めて、奥の深さを思い知らされた試合でした』
やったぞ! 一回戦突破だ!!
俺は、全力で戦ったムセル達の元に駆けだした…!
いっぱい…いっぱい! 褒めてあげるんだ!!