ドス黒い何か
「チーム『モモガーディアンズ』の皆さん、宜しいですか~?」
審判の人が、呼びかけて来た。なんじゃらほい?
俺達の前まで来ると、金色のカードを差し出して来た。
「はい、おめでとうございます! これは本戦で登録時に使うカードですよ!
絶対に、無くさない様にしてくださいね?」
差し出された、金色のカードを受け取り…ジックリと眺める。
カードには『グランドゴーレムマスターズ本戦出場』と表記されている。
裏には…チーム名『モモガーディアンズ』と俺の名前。
そして、ムセルの名前が書いてあった。
「うおぉ…かっちょえぇ!!」
俺は、年甲斐も無く興奮した!
…ん? 適正年齢か? まぁ、良いか! 誤差だよ、誤差!!
「んふふ…これは、ちょっとした物だよ? 実は身分証明にもなる。
特にゴーレムギルドには、効果バッチリさ!」
「へ~大した物だなコレ!」
ほっぺにカードを、スリスリして大喜びのプルル。
喜んでいる様で良かった。俺も嬉しいぜ!
「うん…嬉しいんだが、シシオウの名前がなぁ…」
諦めろ! その子は既に『ツツオウ』として、ライバル達にマークされているぞ!
自分より格上のゴーレム達に、一歩も引けを取らないツツオウは何時の間にか…
「凄いゴーレムだ!」と、絶賛され一目置かれている…らしい。
遠くから、ヒソヒソ話している声を拾っただけだから、何とも言えないが…
実際、ツツオウの戦績は凄まじいからな。
内容は兎も角…うん、アレな内容ばっかりだけど!
勝てば、良かろうなのだぁぁぁぁぁぁっ!!(確信)
「さて、これでグランドゴーレムマスターズ本戦に出れる訳だよ!
まさか、新造チームでいきなり本戦とは…ついてるね!?」
と、言って…「いや、違うね」と、言うプルル。
「このメンバーだから…本戦に進めたって事かねぇ?」
プルルは俺とライオット、ムセルとツツオウを見渡す。
そして…俺とライオットを抱きかかえた。
「ありがとう! 僕の念願が叶ったよ!」
「それ程でも無い」
「へへ…何だか照れるぜ」
此処は、尊敬するあの方に習い…謙虚に答えて置く。
プルル、本当に良かったな!
予選も、終わり…そろそろ帰る事にした。
野良ビースト達も連れて帰らないと…
その前にリリーちゃんと、ジュリアンちゃんを送って行かなければ。
試合を見終わったリリーちゃんと、ジュリアンちゃんは凄く満足そうだった。
野良ビースト達も、試合の感想を話し合っている。
…俺は何時から、こいつ等の話が分かる様になったんだ…?
まぁ、未だに何となく…なのだが。
「んじゃ、帰るか~?」
「そうだねぇ? 今日は色々、疲れただろうし…戻って休もうか?」
「そうだな! 親父には自慢出来ねぇが、かーちゃんなら…言っても良いかもな!?」
ライオット! それは…ばれるフラグだ!
ウキウキしながら、ツツオウを肩に乗せ帰り支度をするライオット。
おとんに認めて貰うには、優勝しかないな!
結果を見せれば、文句を言われまいて!
周りを見れば、観客達も帰り支度をしている。
如何やら、全ての試合が終わった様だ。
「俺達も帰るぞ…!?」
不意に…俺を襲う、何か…
何だ? これは…!?
憎しみ? 怒り? 悲しみ? 妬み? …殺意!? 猛烈な…飢え!?
ドス黒い何か、異常な気配。
この場にあってはならない、何かを…俺は察知した。
「………!?」
キョロキョロと辺りを見渡すが…それらしき者は居なかった。
やがて、気配はしなくなる。
「エル~帰ろうぜ…如何した? エル?
汗でびっしょり、じゃねぇか!?」
「…え?」
言われるまで、気が付かなかったが…俺は、汗だくになっていた。
極度の緊張…に、よる物だろう。
「だ…大丈夫だ、何でも無いよ」
努めて、平気な振りをするが…実際は、まだ動揺している。
あんなドス黒い、感情の様な物を感じたのは…初めて? …かな?
分からん、昔…あった様な…無い様な?
「おいおい…大丈夫かよ? また、おんぶしていくか?」
「…おんぶ? ……!!」
おいぃぃぃっ!? ライオット! 俺の黒歴史を、思い出させるんじゃねぇ!!
もう絶対に、あ~ん。は、しないからな! 絶対だぞっ!?
「だだだだ…大丈夫だ! 問題無いです! はい!」
俺はムセルを抱えて、試合会場を走って出て行った。
ひ~! なんて物を思い出させるんだよ!? うぎぎ…!
走って行った、俺の後を追う野良ビースト達。
プルルも、悪い顔をして追いかけて来る。
ライオットはキョトンとした表情で追いかけて来る。
あ~! この時だけは、足の遅い自分が恨めしい!
俺の怒りの咆哮が、空に吸い込まれて行った…
◆◆◆
「ライゼンさん、リリーちゃん連れて来たよー?」
「おやおや? 姿が見えないと思ったら、食いしん坊の所におったんかい?」
町の中央に位置する商店街から、東にある放牧地帯にライゼンさんの家がある。
リリーちゃんは何故か、俺がお気に入りなのだそうな。
「め~」
「はは…随分と満足気だなぁ? 良い事でもあったか?」
俺は今までの、経緯を説明した。
ライゼンさんは、ニコニコしながら俺達の話を聞いてくれた。
「いやぁ、大したもんだ! 俺も小さい時、良くやったが…本戦には、一度も出れなかったよ!」
俺の頭を、ワシワシ撫でながら笑うライゼンさん。
うへへ…うれしいなぁ!
「こりゃぁ…本戦は応援に行かないとなぁ! チーズいっぱい持って駆け付けるよ!」
手を振って、見送ってくれるライゼンさんと、リリーちゃん。
俺達も手を振って、次の目的地…リカードさん家に向かう。
時間は、午後二時頃かな? 太陽が燦々と輝いて…暑い事、暑い事。
このままでは、干からびてしまう!
「よし! 水分補給を、せざるを得ない!」
俺は、フリースペースから桃先生を取り出し、食べやすい様に切り分けた。
んん~瑞々しい果肉が、太陽の光に照らされて輝いている! 美味しそう!!
「召し上がれぃ!」
「頂きます!」
と、次々に桃先生を頬張って行く皆。
無論、野良ビースト達の分も切った。当然だな!
皆、尻尾をブンブン振って…大喜びで食べていた。
全員、桃先生に感謝するように!
その後、大きな木の下で休憩する。
日影が出来ているので涼しい。
いもいも坊やには、桃先生の葉っぱを食べさせた。果肉の方は食べれないらしい…残念!
…美味しそうに食べている! 良かったな!
「ふぃ~…良い風だぁ」
吹き抜ける風が、上昇した体温を下げてくれる。
周りを見れば、辺り一面緑色。
空を見上げれば、目が冴えるような青空。
「…自然って良いなぁ」
思わず出た言葉に、クスクスと笑うライオットとプルル。
「何、当然の事を言ってるんだよ?」
「んふふ…そうだねぇ? 自然って、良い物さね」
二人とも、空を見上げる。
野良ビースト達も、同じく見上げていた。
広大な牧草地の緑、天を染める青。時々、雲の白。
昔の記憶では…こんな光景を見た事が無い。
灰色の石と、黒い道。淀んだ空に臭い空気。
今思うと、便利さと引き換えの、つまらない世界に見えた。
人は、無くしてはならない物がある。
それを、無くしちゃったのが…元の俺の世界だったのかな?
「ふぅ、良し! そろそろ行くか!」
俺は背伸びをして、元気良く立ち上がり…バランスを崩して坂を転げ落ちた。
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
慌てて、俺を追いかける野良ビースト達。
幸いにも、転がった先はリカードさん家だった。
ふ…計画通りだ!(震え声)
「ん? お~ジュリアン! ま~た食いしん坊の所に行ってたか~?」
「リカードさん、ジュリアンちゃん連れて来たよ?」
「も~」と言って、リカードさんの元に駆け寄るジュリアンちゃん。
やっぱり、家族の元が一番なんだな。
「わるいねぇ、何時もジュリアンがお邪魔して?」
「いや、良い子にしてるから問題無い」
そして、ライゼンさんにした説明を、同じくリカードさんにもする。
「うんうん」と、笑顔で聞いてくれた。
「こりゃぁ、俺も応援に行かないとな!」
手を振って、見送ってくれるリカードさんとジュリアンちゃん。
俺達も、手を振ってその場を後にする。
ヒーラー協会に着いた時には、日も傾き薄暗くなっていた。
「またな」「お疲れ様だよ」と言って、ライオットとプルルも家に帰って行った。
友達が帰って、普通なら寂しい所だが…
俺には、ムセル達ホビーゴーレムと、野良ビースト達が居るので大丈夫だ。
「よし、俺達も帰ろう」
こうして、長い一日が終わりを迎えようとしていた。
だが…あの時、感じたドス黒い何かが…俺の頭から離れなかった。
いったい、何だったのだろうか?
俺は考えながら、歩き…ヒーラー協会の壁に、おでこをブツけた。…いたひ。
誤字 …熱い事、熱い事。
訂正 …暑い事、暑い事。