ホビーゴーレムは家族だ!
皆、戦いの行方を…固唾を飲んで見守る。
…と、ドタバタ劇が終わった様だった。
「にゃ~ん…」
「ふにゅ~…」
「………」
ツツオウ、てっちゃ、わららが…纏めて、わららの体にこんがらがっていた。
ツツオウは頭だけ出ていた。
わららは動けなくて、悲しそうな顔だった。
てっちゃは…うん、あれだ。
SMの、あの縛られ方みたいになっていた。おぉ…エロぃエロぃ!
「テ…テスタロッサ!?」
「わ…わらら!? 直ぐに解けるんだ!」
頑張って絡まりを解こうと、もがく…わらら。
…駄目みたいですね!
そして、ムセルとイシヅカが動いた!
ローラーダッシュで距離を一気に詰めるムセル! …え?
俺達は驚いた。
ムセルの上に…イシヅカが乗っていたのだ!
何をするつもりだ!? と言うか良く運べるなムセル!?
スピードに乗った、ムセルとイシヅカ。
く…? 何だ!? 頭に何かのイメージが…
1千万、パンチパーマに角、髭のおっさん…う、頭が…
ダイブルトンに、迫って来た時…イシヅカが飛んだ。
ムセルは、急ブレーキをかけて止まった。
が…勢いが止まらず転がっている。
あぶね!? リングギリギリで止まったよ!?
良かった、良かった…
「うおっ!? イシヅカが飛んだ!?」
会場で、試合を見ていた全員が驚いた。
その、ありえない光景に…ストーンゴーレムが飛ぶ。
自分の重量のせいで、飛び跳ねる事が出来ないのが…ストーンゴーレムなのだそうだ。
だが…イシヅカは飛んだ。
ダイブルトン目がけて…ミサイルの様に!
ガスッ!! と言う音と共に、ダイブルトンを巻き込みながらリングアウトする両者。
イシヅカは…これを狙っていたのか!?
そして、その場に動けるのはムセルのみ!
ムセルは団子状態になった、わらら達を転がし…リング外に落とした。
「きゃん!」
「………」
てっちゃと、わららの敗北が決まった。
「にゃふん!」
そして、ちゃっかり落ちる前に、団子から抜け出しているツツオウ。
あぁ…ねこって、頭さえ抜ければ…スルッて抜けれたっけか?
ちゃっかりしているなぁ?
「勝者! チーム『モモガーディアンズ』!」
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
にゃ~ん! わんわん! め~! ぶひっ! ちゅちゅ! も~!
様々な、歓声が飛び交う!
良くやった! ムセル! イシヅカ ツツオウ!
皆、お前達を祝福してくれているぞ!
…も~? あー!? いつの間にか、リカードさん所の『牛のジュリアンちゃん』が来ている!
終わったら、リリーちゃんと一緒に送って行かなくては…やれやれだぜ。
「んふふ…ご苦労様。秘密兵器を予選で出しちゃった…て顔だねぇ?」
良し良しと…イシヅカの頭を、撫でてあげるプルル。
イシヅカは嬉しそうだ。
「シシオウ良くやった! 大金星だな!」
「にゃふ~ん!」
大威張りのツツオウ。
実際、大活躍なので当然だが…内容がアレなので、何とも言えない。
ランクとはいったい? うごごご…
当然、俺もムセルを褒めてあげる。
「良くやった、大した者だぞ! ムセル!」
腕を天に上げて「どんなもんだ!」と言った気がした。
ふふ…言う様になったな!
「あ~あ、負けちまったなぁ?」
しょぼんとしている、てっちゃ達。
あれ程のランク差が有っても、『SSSSS』が『C』に敗れるのだ。
運が良かったような気もするが、運も実力の内って言うし…
勝負事は恐ろしい物だ。ぶるぶる。
「まぁ…しょうがねぇさ、運が無かったって事で、な?」
わららを、労わるゴードン。
「………」
無言で、ダイブルトンの肩に手を置くブルトン。
ダイブルトンも、黙って頷いた。
この親子は本当に、寡黙だな…
「へへっ! やったな、おめぇ等!?」
マフティが、笑顔で俺達を祝福してくれた。
同様に、ゴードンとブルトンも同じく祝福してくれる。
「ありがとう! 必ず優勝するぞ!」
「「おー!」」とライオットとプルルが手を上げる。
ふひひ! まさか、本戦に出場出来るとは!
だが、これでエスザクと戦える可能性が出てきた訳だ!
「さて…マフティ、ゴードン。ちょっと良いかな?」
プルルが二人を、呼び寄せる。
何だろう? プルルが二人に関わるなんて…
「何だ、珍しいな? お前が、俺達に話しかけるなんて…」
「そうそう、普段は周りを避けてる感じだしな…食いしん坊と関わって変わったか?」
本当に珍しい事なのか、驚いた顔をする二人。
ふむ…プルルって、そう言う子だったのか…
唯の大人しい、ゴーレム大好きっ娘だと思ってた。
「んふふ…否定はしないよ」
「へぇ…そうか」
優しい顔をするマフティ、ふむ…気には、してたみたいだ。
普段、悪ぶっているけど…恐らくクラスの中で一番、優しいのはコイツだ。
本人はバレて無い、と思ってる様だが…もろバレですから! 残念!
まぁ…兎に角、気遣いが半端無い。
何で、悪ぶっているのか分からんが…色々、あるんだろうな。
で、なければ…マフティを慕って、付いて来る奴は居ないだろう。
「うん、それで話なんだけど…二人のゴーレムの事だ」
顔を見合わせるマフティとゴードン。
「テスタロッサとわららが、如何したって?」
「うん、その子達のランクの事だよ」
確か…馬鹿みたいにSが並んで居たよな。
能力も高かったけど…ツツオウに、良い様にやられてたな…(呆れ)
「基本、最高ランクは『SSS』なんだ。
極々稀に…それを超えるゴーレムが誕生する、その子達のようにね」
てっちゃとわらら、共に『SSS』越えのゴーレムだ。
正直、能力見た時は吃驚したぜ!
「能力も高いし、特殊スキルもあるけど…実は、使いこなせない事が殆どだ。
何故なら…ゴーレム自身が能力に、振り回されてしまうからだよ」
…おっふ、耳が痛い。
俺の事じゃないですか、やだー!?
「てことは…テスタロッサとわららは、実力を発揮出来ないと?」
「そう言う事、故に『SSS』が最高クラスって訳さ」
つまりは…ダイブルトンが、一番強かったと。良く倒せたな?
ムセルとイシヅカの突撃が無ければ、負けていた可能性が高いと言う訳だ。
「んふふ…此処からが本番さ! 『SSS』以上のゴーレムは珍しい!
特に、テスタロッサは近年、稀に見る最高峰のゴーレムだ!」
「そ…そうか?」と、自分の事の様に喜ぶマフティ。
ゴードンは、逆に警戒した表情になる。
「くうぃ~ひっひっひ!! 最高の研究対象さ!
じきにゴーレムギルドから招集状が届くよ!
『SSS』以上の宿命さ!
色んな実験が待って居るよ~!? あんな事や、そんな事も平気でヤル奴等さ!!」
うわぁ…プルルの顔が、ヤバい事になってる。
そんな顔! 修正してやる!
「ちょいやっ!」
「きゃん!?」
安心と信頼の、斜め45度チョップだ。
これで直んねぇ奴は…いねぇぜ!
「はひゅ…ん、んん…すまない、興奮し過ぎたようだ」
「それって、テスタロッサと離ればなれ…に、なるって事か!?」
キュッと、てっちゃを抱きしめてプルルを睨むマフティ。
俺もマフティと同じ立場だったら、同じ事をしたかもしれない。
子と離ればなれ…に、なるなんて嫌だしな!
「んふふ…焦らない。
二つの道があるよ、一つは研究を受けながら生活する道。
もう一つは…ゴーレムマスターズを捨てるか…だ」
うわ…極端だな!?
俺は、どっちも嫌だな…
そこで、もう一つの方法…ゴーレムギルド爆破を提案するぜ!
「それならば…ゴーレムギルドを、ばく…はもも!?」
ライオットに口を、手で塞がれた。
「話が、ややこしくなるから黙ってような?」
先読みするとは、ちょこざいな!
でも、一理あるな! うん、黙ってます!
「なんだ、そんな事か! なら、ゴーレムマスターズを止めるぜ!」
「俺もだ、わららは…家族だしな?」
即、決断する二人。
良い決断だぁ…ゴーレムは家族! はっきりわかんだね!
「うん! そう言うと思ったよ!
じゃ、ハッスルボビーにある、登録機で登録を抹消しておいで?」
「おう!」と言って、駆け出す二人。
まったく、迷いが無かった。
「んふふ…やっぱり、そっちの道を選んだねぇ」
「…登録抹消だけで良いのか?」
と、聞いて来たブルトン。…彼の表情は険しい。
「ああ、大丈夫だよ。登録中はゴーレムギルドに従わないとイケないけど…
抹消すればホビーゴーレムは唯の、玩具として扱われる。
ゴーレムマスターズには、出れなくなるけどね…」
「…経験があるのか?」
その質問に、プルルは無言の笑みで返した。
「…そうか、すまん」
バツが悪そうに、謝るブルトン。
…子供がする会話じゃないと思った。
そして、無性に寂びれたバーで…バーボンが飲みたくなった。
早く、大人になりたいぜ…ちくせう。
「登録消して来たぞっ!」
二人が戻って来た。
いや、そんなに急いで帰って来なくても…
二人とも、肩で息をしていた。…どんだけ急いでたんだよ?
「うん! これで、ゴーレムギルドは…ちょっかい出せなくなったよ!
後は、盗難に気を付けてね? 玩具扱いだから…冒険者ギルドも探してくれないよ?」
「分かった」と返事をする二人。
これで、ずっと一緒に居られる訳だ。良かったな!
マフティと、ゴードンの笑顔に…俺達も釣られて笑顔になった。