ムキムキ
「ふふふ…我々など眼中に無いと? ふっ!」
「舐められた物だ…はっ!」
「それが、間違いだったと…教えてあげよう! しっ!!」
相手チームの『ラブリーゴーレムズ』だ。
…ラブリー? 何処にその要素があるんだ?
俺の目の前には、逆三角形のごついゴーレム達と
同じく…逆三角形の、筋肉達磨のおっさんが三人居た。
肌はテカテカ光っていて、肌は日焼けして黒くなっていた。
いずれも、実用的な筋肉では無く…見せる為の物だ。
喋る度にポーズを決めている。
胸の筋肉を、ぴくぴく動かすな。気持ち悪い。
筋肉なんて…実践的な稽古を積めば、そこまで膨れる事は無いんだ。
それじゃ、唯の筋肉太りだ…実戦じゃあ通用しないぜ?
「すばらしい!」
パンパンと、手を叩き三人に歩み寄る…エルティナ。
…如何した?
「ふっ! 如何したんだい? お嬢ちゃん!? はっ!」
一々、ポーズを決めるな…暑苦しい。
臆する事無く、エルティナは三人の元に歩み寄り…
三人の仲間の一人、スキンヘッドの男の腹筋をペタペタ触った。
「…! かっちかちだぞ!?」
「ふっ! 鍛えてるからね…はっ!」
「は~ん!」と、ウットリした表情で腹筋の感触を確かめるエルティナ。
…そんなに、筋肉が好きなら…俺のを触らせてやるぞ?
「お嬢ちゃんは、筋肉の! はっ! 素晴らしさがっ! ふっ!」
「分かる様だね! はっ!」
「良い子だ! ふっ!」
そんな事を、言って居た一人に…異変が起こる。
エルティナが腹筋を、触っていた男だ。
「はっ! …おぉ、何と言う『ぷにぷに』ハンド!
我らと、対極にある…至高の柔らかさ…! ふんっ!」
「兄者! シッカリしろ! しっ!」
「誘惑に負けては…ならない! はっ!」
そこで、エルティナ顔に邪悪な笑みが浮かぶ。
何か、しょうも無い事を考え付いたな…?
「ふぁ、ふぁ、ふぁ…寄越せ、その筋肉! 一つや、二つでは無い…全部だ!」
「な…なにぃぃぃぃぃぃぃっ!!? はっ!」
筋肉達に戦慄が巻き起こる。
台詞も掛け声も、三人同時かよ? ある意味凄いな。
エルティナは、尚も続ける。
「俺は、その筋肉を手に入れ…ツーハンドアックスを持つんだ!」
…まだ、諦めて無かったのか?
俺は収拾が付か無くなる前に、エルティナを回収した。
まったく…困った奴だ。
「あぁん! きんにくぅ~! きんにくぅ~…」
そんな、切なそうな声を出すな。
誤解されるぞ?
「あと少しで、ムキムキになれたものを…」
「無理だから諦めろ」
「ムキー!」と、プンプン怒るエルティナ。
まったく、絶対に諦めない奴だな…ま、そこが良い所なんだが。
さて…改めて、相手と向き合う。
相手のゴーレムは、三体ともストーンゴーレムだ。
だが、三体とも…極限まで筋肉を模った物になっていた。
…不気味だ。
「如何だ!? 我らのラブリーなゴーレムは!! はっ!」
「美しいだろっ! ふっ!」
「筋肉こそ! 世界を動かす! はっ!」
「お持ち帰り~!」
一体のゴーレムを、持って帰ろうとするエルティナ。
自由過ぎるだろ…お前。
慌てた審判が、エルティナをキャッチする。
審判の人まで迷惑をかけるな。
「俺は悪くない、この筋肉が…魅力過ぎるのが悪い」
「はいはい…そろそろ、始めようかねぇ?」
プルルが、体を震わせながら言った。
怒っているのを、我慢している様だ…
ん? いや、良く見ると…爆笑しそうなのを、堪えている様だった。
エル、お前って奴は…
「はい、そろそろ始めますよ?」
審判の人も、笑うのを堪えている様だった。
まったく、エルティナの居る所…笑いありだ。
…だが、それは一種の才能だ。
俺には無くて、エルにある才能。
俺は…壊すだけの才能。
エルは…幸せを生み出す才能。
…ならば、俺はエルに降りかかる災いを…壊そう。
それしか才能が無いのなら…その為に生きよう。
それは、エルの笑顔を見て…心が満たされた時に誓った物。
俺しか知らない誓い。
これは、天命だと思った。
後に、親父に打ち明けたら…ガッチリ肩を掴まれ「命をかけろ」と、言われた。
でも、親父に言われるでも無い。
ライオット・デイルが、自身に誓った誓い…絶対に、守ってみせる。
この笑顔を…俺が、守ってみせる!
恥ずかしくて、口に出して言えないけどな!
◆◆◆
「ふきゅ~ん、後…少しで筋肉を、手に入れられた物を…」
俺は、あのムッキムキな筋肉を羨望の眼差しで見ていた。
想像して欲しい、あの筋肉を手に入れた俺を。
「きゃ~~~!」
強敵に力及ばず、倒れるヒュリティア。
其処に触手の魔の手が伸びる!
「ら…らめぇ! そこは違うのぉ!!」
無数のウネウネに、体中をコチョコチョされるヒュリティア!
「まてい!」
「何奴!?」
ウネウネが驚き、辺りを見渡す!
スッポトライトが俺に当たり…素晴らしい肉体が、あらわになる!
「のー! 触手! いえす! ところてん!!」
「す…素晴らしい、筋肉だ! ごめんなさい、ゆるしてくだしあ!」
わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
全ての命から、喝采の賛辞を受ける。
世界は永久の平和が訪れた…
ほらな? こんなもんよ?
俺に筋肉があれば、世界平和なんてチョロいもんよ!
だから…俺に筋肉を分けてくれ!
「ほら…いい加減諦めろ、エルには筋肉は似合わないぞ?」
「一部のマニアには、受け入れられるかも知れない!」
「少数過ぎるよ? 食いしん坊」
うぐぐ…筋肉が、ある奴は分からんのですよ!
ああ…俺に力があれば、あの時…
うん、分かってる…分かって居るんだ。
IFは無い。
どんなに悔やんでも、願っても…ヤドカリ君は生き返らない。
俺に、ライオット程の筋力があっても。
結果は、変わらなかったと思う。
「はぁ…せめて、もう少し筋肉がほちぃ」
ぷにぷにの腕を触り、ため息を吐く。
俺も皆と、前線に立ちたいんだよぅ…
「はい! それでは、対戦を始めます!」
審判の人が、試合を始めると言った。
イカンイカン…今は、それ所じゃ無かった!
気を引き締めなければ! きりっ!
「チーム『モモガーディアンズ』対『ラブリーゴーレムズ』の試合を始めます!
ルールは、分かってますね?」
頷く俺達、相手チームも同様に頷く。
「はい、それでは…試合開始です!」
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! と歓声が飛ぶ。
…良く聞くと「わんわん!」「にゃ~ん!」「チュチュ!」とか聞こえる。
野良ビースト達の応援だ。
「いけー! ムセル! マシンガンを、ぶっぱなして差し上げろ!」
ムセルがマシンガンを、相手ゴーレムの一体に撃ち込む。
高速で魔法弾が、ガンガンと発射され…命中する!
「ふふ! 先ずは牽制かな? はっ!」
「その程度、蚊に刺された程度! ふっ!」
「我らがラブリーなゴーレムには…効かん! はんっ!」
なぬ!? やはりマシンガンは、あんまり威力無いのか!?
俺は命中したゴーレムを見た。
ムキムキゴーレムは、無傷だった。
「そんな~」
これでは、唯の飾りジャマイカ!?
俺はショックを受けた! HPゲージ半分位、減る程度に!
だが…その時、ゴーレムは動いた!
バタン!
倒れた。
牽制で撃ったマシンガンで、ムキムキゴーレムが倒れたのだ!
ピクリとも、動かないムキムキゴーレム。
ポカーンとする、ムキムキ達。
俺達も同じく、ポカーンとしていた。
だが…ムセル達だけは、冷静に行動していた。
動揺したもう一体の、ムキムキゴーレムにイシヅカがぶちかましを喰らわせて
リングアウトにする。
もう一体に、ツツオウがじゃれつき…
振り払おうと、もがいている内にリング外に落ちてしまった。
ちゃっかりツツオウはリングに、飛び移って難を逃れている。
「勝者! チーム『モモガーディアンズ』!」
…勝った! 勝ったぞ!!
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
凄い歓声! 勿論、野良ビースト達の声も聞こえる!
その声に、ムセル達が手を振って応える。
…一瞬の出来事だった。
まるで、予め計画されていたかの様に…
ムセルとツツオウが、イシヅカの元に歩み寄り…互いの拳を合わせた。
これは、イシヅカが考えた作戦だと言うのだろうか…?
だとすれば…何と言う策士なのだろうか!
イシヅカ…恐ろしい子!
「んふふ…良い子だね? イシヅカ」
「良くやった! シシオウ! 流石俺の子だ!」
おっと! 俺もムセルを、褒めてあげないと!
「ムセル! 大活躍だな! えらいぞ~!」
ムセルの頭を、撫でてあげる。
とっても、嬉しそうだ!
「おお…マイベイビー、よく頑張ったね! 次は頑張ろう! はっ!」
「大丈夫さ! 我々はまだ羽ばたける! しっ!」
「だから、また立ち上がろう! 涙を拭いて! ふんっ!」
ムキムキのおっちゃん達も、ゴーレムの健闘を称えている。
何か、良いな! これぞスポーツマンシップって奴だ!
おっちゃん達が、俺達を見て言った。
「我々の完敗だ! 如何か、我々の分まで…グランドゴーレムマスターズを! はっ!」
「楽しんで…ふっ!」
「くれっ! しっ!」
おっちゃん達に合わせて、ムキムキゴーレム達もポーズを決める。
「ああ、分かった! でも…おっちゃん、それは違うぜ!」
俺の言葉に、首をかしげる…おっちゃん達。
俺は、満面の笑みで言ってやった。
「最後まで…一緒に楽しもう!」
おっちゃん達も、笑顔で答えてくれた。
「そうだな! はっ!」
「折角の祭りだ! ふんっ!」
「楽しまなくてはなっ! ぬんっ!」
そして、俺達は互いの健闘を称え、握手を交わした。
この人達の思いを、夢を引き継いで俺達は優勝を目指す。
無様な戦いは出来ないぞ! ムセル!
俺は、改めてゴーレムマスターズの素晴らしさを、実感したのだった…
誤字 絶対に、守って見せる を
絶対に、守ってみせる に訂正。
収集が付か無くなる前に を
収拾が付か無くなる前に に訂正。