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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
終章 全てを喰らう者
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797食目 世界の消失

 それは、一瞬の出来事であった。兵どもの亡骸が、戦いの跡が、星の輝きが、宇宙すらも消失してしまったのだ。

 無論、戦士たちが命懸けで守った惑星カーンテヒルの姿すら無い。


 後に残った物は真っ白な空間。目が痛くなるような穢れ無き白。あまりにも何も無さ過ぎて、人々は精神に異常をきたし始める。


 先人たちが護り、積み上げてきたもの。その全てが無に帰したのだ。


「嘘……宇宙が星までもない!」

「お、俺たちの帰る場所がっ!?」

「いったい何が起きているんだ!?」


 次元戦艦ヴァルハラ内部では、外の光景に大パニックに陥った。今まで散々に超常現象に遭遇してきた彼らも、これはない。そんな理解不能な状況に放り投げられたのだから、仕方がないと言えよう。


「コレハマタ、ハデニ、ヤッタモノダ」

「あはは! まっしろろろ! あははは!」


 その中でも平常運転である気の触れた者たち。元々壊れているので、こういう時は無類の強さを発揮する。


「……エル」


 そんな中、ヒュリティアはもう一人の自分たるエルティナを見守る。エルティナの夫エドワードも同様だ。

 彼らにとって、世界がどうこうなろうと、もはや関係のないものであった。ただ、ひたすらにエルティナが最後の戦いに勝利することだけを願う。


「最後の戦いが始まった。この戦いの勝者がかこかみらいを創る」

「そのとおりだ。そして、どちらが勝とうが、我らは勝者の世界へと生まれ変わる」


 エドワードの呟きに応えるのはブルトンだった。彼らの目にはエルティナと桃吉郎の激しい喰らい合いが映っている。しかし、その光景は同じではなかった。


「う……あ……なんだ!? 蛇と蛇が喰い合っている!? 二人はどうなったんだ!」

「いや、俺は、猫と猫とがじゃれ合っているように見えるぞ!?」

「ちょっ!? 気色の悪い触手が絡まり合ってるぅぅぅぅぅっ!」


 もはや、常識は通用しない。人々が定めた法則は冒涜され、踏みにじられ、完膚なきまでに破壊し尽くされる。

 そこは人が踏み入ることを許されぬ領域。踏み込めば、たちまちのうちに精神は破壊され、廃人へと至ってしまう狂気の戦場。


 二匹の竜は互いの全てを掛け、野生の戦いに没頭した。もう、二人は兄妹ではなく、食い繋ぐための餌にしか過ぎないのだ。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ぐるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 二匹の咆哮は次元戦艦ヴァルハラを蝕む。勇者タカアキの【波】の能力を以ってしても完全に防ぐことは不可能であった。だが、そこに女神の祈りが加われば話は別である。


「エルちゃん……私、信じてるよ」


 女神へと至ったプリエナは祈る。友が未来つぎへと歩めるように。自らは立ち止まり、彼女らを見守り続けんと。






 その戦いは一瞬にも思えたし、永劫に続いているようにも感じられた。その表現は全てが正しいし、正しくないともいえる。


 時間の概念は既に機能を果たしていない。人によっては戦いが逆再生されている者もいるし、場面が飛び飛びになって見えている者すらいた。

 まともに全てを喰らう者同士の戦いを見ることができる者は皆無に近い。


「ちっ……圧されているわね、エルティナ」


 そのまともに見ることのできる者の一人が、ユウユウ・カサラだ。彼女は苛立ちから親指の爪を無意識に齧り出す。このようなことは大変に珍しい。

 だが、それだけエルティナの状況がよろしくないものであったのだ。


「うん……力は互角だと思う。その差は精神力の差だと思うよ」


 エドワードが冷静に二人を分析、その差を口で説明する。

 彼が言うように、二人の力の差は精神力だけであった。身体能力も、神気も、想いも、枝たちの能力も互角。たった一つだけ誤差があるとすれば、その精神力だ。


「エルティナ! 俺は、こいつらと、過去を取り戻したい!」

「だからと言って、ハイどうぞ、って譲れるかよぉ!」


 エルティナの頭が食い千切られた。桃吉郎の下半身が吹き飛ぶ。絶命。だが、それすらも喰らう。事実を、結果を、その後の運命をも喰らい、絶命の訪れを妨げる。

 瞬時に再生、それを阻止せんとまた喰らう、喰らう、喰らう。延々とそれを繰り返す。


 全てを喰らう者同士の戦いは、どちらかを喰らい尽すまで終わらない。永遠に続く不毛な戦いは、それこそ精神に来るものがあった。だからこそ、精神力で僅かに劣るエルティナが押されるのも無理はない。


「……エルが勝つ可能性は?」

「おそらく三割……いや、二割か」


 ヒュリティアの問いに、エドワードは苦々しい顔で答えた。しかも、エドワードの見立ては味方贔屓で出した結論だ。それほどまでにエルティナは劣勢を強いられている、ということになる。


「ここまできて、負けられるかよぉ!」


 エルティナから巨大な炎の腕が飛び出し桃吉郎を握る。そのまま握り潰さんとしたところで炎の手が爆散した。桃吉郎から濁流のベルンゼが飛び出し炎の枝チゲを撃退せしめたのである。


「それは、こっちのセリフだ!」


 今度は桃吉郎が仕掛ける。一斉に八つの枝を開放しエルティナにけし掛けたのだ。これに対抗しエルティナも枝を放出する。しかし、撃退されてしまった火の枝が再生に手間取り出遅れる。


「もらったぞ! エルティナ!」

「南無三っ!」


 迫る雷怒のジュリアナ。しかし、エルティナは自らこれを迎撃。彼女のブラを引っぺがし、おっぱいブルンブルンの刑に処した。



 がたっ。



「はいはい、あんたらは座ってなさいな」



 べしゃっ。べりべり。



「あの……物理的に座らされてんですが?」

「というか、床に陥没してます」

「なんで、わちきだけが素っ裸にされてるさね!? 酷いさね!」


 この期に及んでも変態トリオは平常運転をキープ。人妻の乳房にガッツポーズを取ったところでユウユウの制裁を受けた。


「ちっ、あと少しのところで」

「そう簡単にはやらせんよ」


 再び距離を置く両者。だが、圧倒的に劣勢なのは依然エルティナの方だ。


「(なんで、これほどに差が付くんだ? 俺じゃあ、兄貴に勝てないのか!?)」


 この僅かな間が、エルティナに致命的な思考を与えてしまった。


 確かにエルティナの精神力は人並み以上に強固で強力だ。しかし、地獄を見てきた桃吉郎の精神力はそれを遥かに上回る。そして、その記憶を妹に残さなかったのは、全てこの日のためである。


 そう、エルティナは最初から最後の戦いに勝てないように仕組まれていたのだ。


「(悪く思うな、エルティナ。俺はどうしても、過去をやり直したい。あいつらに幸せを、不幸だった過去を拭い去ってやりたい!)」


 桃吉郎は弱りつつある妹に対し苛烈な攻撃を加え始める。同時に閃光のバルドルに命じ、己の弱い心を喰らわせ続けた。

 今の彼に妹を想う心は一欠けらも残っていない。あるのは獲物を喰らい尽すという本能のみ。それが、桃吉郎の選択した道であった。


「やべぇ……! 意識が飛ぶ!」

『しっかりしろ! エルティナ!』

「と、トウヤ……!」

『戦っているのは、おまえだけじゃない! 一人がダメなら……!二人で、だ!』

「あぁ……そうだった、そうだったな。俺は一人じゃなかった」

『そうそう、事故でエルっちに食われちまったけど、ハードラック中のなんとやらだZE』

「マイク……そうだな、そのドジっ子で、俺はまだまだ戦える!」


 トウヤとマイクの励ましが、エルティナの闘志を再び燃え上がらせた。尚も抵抗するエルティナの姿に、今度は桃吉郎が僅かに動揺する。


「(まだ立ち上がる……か。いや、何を今更。分かりきっていたことじゃねぇか)」


 自嘲、そして大きく息を吐く。それは、己に残る甘えをすべて吐き出した証拠。


「エルティナ、終わらせてやる」


 桃吉郎は隙を晒してまでも神気を練り始めた。強大な力が空間をも侵食し始める。その力は白の世界に悲鳴を上げさせ、彼のものにヒビを生じさせたではないか。


「この力は……!?」

「どうやら、桃吉郎さんが勝負に打って出るようですね」


 次元戦艦ヴァルハラの艦橋で戦いを見守っていたマジェクトは、桃吉郎におぞましいまでの力が収束されてゆくのを感じ取り、悪寒を通り越した寒気を感じた。

 そして、力を行使し続け、びっしりと脂汗を流すタカアキは、決着の訪れを予期する。


 それは正しく、決着を付ける大技。果たして、全てを喰らうのはエルティナ、桃吉郎、どちらとなるのであろうか。


 無垢なる世界は、その訪れに恐怖した。

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