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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
795/800

795食目 最後の桃力

 桃色の輝きに包まれ顕現したものとは、果たして人間であっただろうか。

 答えは否、それは人の姿を模した人ならざる者。しかし、その姿は正しく桃太郎。


「ふきゅん! 見ろぉ! これが、究極にして最強の桃太郎!」

「その名も、ウルトラ・どえらい・モモタロボだ!」




「「「(だせぇ!)」」」




 この宇宙に存在する全ての戦士たちの心が一致した瞬間であった。


 ただし、そのベースとなったのは勇魂の騎士ソウルレイトスであるので、外観は非常に洗練されたデザインとなっている。そのソウルレイトスにほんのりと桃太郎要素を加えたものが【ウルトラ・どえらい・モモタロボ】というわけだ。


 つまり、この兄妹のネーミングセンスが全てを台無しにしてしまった、ということになる。


「ふっきゅんきゅんきゅん……ソウルレイトスと桃太郎が合わさり最強に見える!」

「でも、操縦は勘弁な!」

「えぇ、まぁ……お任せください」


 そして、操縦すらもソウルレイトスのクラークに丸投げという有様。彼らの言う究極にして最強の桃太郎とはいったい、なんだったのであろうか。

 考えることもおこがましくなってきたところで、UDモモタロボが動いた。


 背部の大型スラスターを全開にし、一瞬の溜めの後に急速発進する。そのあまりの圧に内部に納まっているエルティナと桃吉郎が悲鳴を上げた。


「ふきゅん!? ちゅ、ちゅぶれるぅぅぅぅぅっ!」

「おいばかやめろ、こんなにGが掛かるとか、早くも試合終了ですね分かります」

「我慢してください」

「「ひぎぃ」」


 サラッとクラークに釘を刺されて悲鳴を上げた自称最高の桃太郎と最強の桃太郎は、宇宙の片隅で「ふきゅん」と鳴いた。今はもう大人しい。


「こ、こけおどしを!」


 ミレットは一斉に掛かってきたモモガーディアンズたちを丁寧に捌きながらUD・モモタロボを迎え撃つ。

 だが、形振り構わぬ戦士たちの全力の突撃に、魔導機神メサイアはじわじわと装甲を削られていった。


「何をしている! 木偶人形ども!」


 ミレットが期待した魔導王ソロモンはガイリンクードと誠司郎、大悪魔たちによって封じ込められて機能を果たしていない。他の英雄たちも予想外の戦士たちによって完全に封じ込められてしまっていた。

 それを成しているのが、ミケ大尉率いるコマンドボディ、ニャンガーNX隊だ。


「にゃ~ん! じゃんじゃんばりばり、うちまくってやるにゃ!」

「まかせるにゃ~ん!」

「にゃ~ん!」「にゃ~ん!」「にゃ~ん!」「にゃ~ん!」「にゃ~ん!」


 宇宙を飛び交うにゃんこたちの鳴き声と共に叩き潰される英雄たちは泣いても許されるだろう。だが、この宇宙を駆るにゃんこどもは、数々の戦場を駆け抜けてきたエースパイロットである。

 英雄たちが手も足も出ないのは宇宙用の装備を身に着けていないことと、にゃんこびとたちが、宇宙での戦いに慣れ過ぎているがためである。決して英雄たちが弱いわけではないのだ。


「へへっ、俺たちも負けてられねぇぞ!」

「あぁ、いくよ、ライオット!」

「おう!」


 デイル夫妻が宇宙を駆ける。先陣を切って魔導機神メサイアに攻撃を仕掛けた。先ほどのお返し、と言わんばかりに苛烈な攻撃を加える。


 胸部装甲を勇者タカアキによって破壊され、彼らの攻撃が直に見えることにより、ミレットは思考に混乱をきたし始めていた。

 彼は戦士ではないのだ。元々は天界を管理運営する天使の一人にすぎない。それは、彼に致命的な行動を促した。


「こ、この……! 溜まったエネルギーを少量使ってでも消し去ってやる!」


 モモガーディアンズの戦士たちは【しめた】と心の中でほくそ笑む。ミレットの行為はタイムリミットを延長し、モモガーディアンズたちの手助けをしていることに他ならないのだ。


「くらえ! 救済の閃光!」


 魔導機神メサイアが合掌をおこなう。そして、その全身が神々しく輝き始めた。

 そこから放たれる輝きは彼が生み出した英雄、そしてモモガーディアンズの戦士たちを誰かれ構わず消滅させてゆく。


 恐るべき無差攻撃に戦士たちは戦慄した。だが、それだけの事であった。何故ならば、彼らは消滅……すなわち、この世界よりの追放を受けても、自壊することによって即座にエルティナの魂に帰還することができるのだ。


 そして、再び彼女の下に召喚される。よって、ミレットの行為はただ単純に自分を追い込む行為に他ならない。

 しかし、追い詰められる一方の彼は、それに気が付くことがないのだ。


「やっこさん、だいぶ焦っているな」

「えぇ、そろそろ仕上げに掛かる時です。エルティナ、桃吉郎さん、準備はよろしいですか?」


 勇者タカアキが【波】の力を行使し、消滅の閃光からUD・モモタロボをガードする。

 モモガーディアンズの戦士たちは蘇ることができても、エルティナたちはそうもいかないからだ。


 もし、ミレットが歴戦の戦士であり、沈着冷静な状態であったのならば、この作戦は厳しいものとなっていただろう。しかし、ミレットの精神状況はよろしくない。最悪と言えよう。

 彼は妄執に囚われ、事を成すことが自分の全てである、と錯覚し感情的になってしまっている。これでは、みすみすチャンスを潰してしまうのと同義だ。


 それを踏まえてのエルティナの作戦。数々の戦いが、経験が、彼女に沈着冷静な行動を取らせる事を可能にした。そして、生来の大胆な行動。一度決めたら真っ直ぐに突き進む性格が奇跡を起こす。


「どうだ! お前らの頼みの綱……はぁ!?」


 そして、当然と言わんばかりにエルティナから再生されるモモガーディアンズの戦士たち。その理不尽な現象にミレットは絶句した。

 そこを畳みかけるようにして桃太郎兄弟が彼を煽る。


「ねぇねぇ、今どんな気持ち?」

「ふっきゅんきゅんきゅん……絶望が鬼になる。鬼なだけに」

「じゃけん、鬼は退治しちゃいましょうね~」


 これに慌てたミレットは背部ユニットを起動させて英雄たちを生み出さんとする。しかし、その行動は彼の者に先読みされていた。


 異形の神アザトース、その依り代になっている白き少女アルアから、混沌の神々の肉体の一部が伸び、魔導機神メサイアの背部ユニットを蹂躙。完膚なきまでに破壊してしまったのだ。


「イクラ、ヨリシロガ、ヨクテモナァ」

「あはは! こっこわわわし! あははは!」


 アザトースは尚も冒涜的な神々をけし掛ける。それは自分の手足だ、と言わんばかりに自在に彼らを操って見せた。

 この苛烈な攻撃に、ミレットは更に焦りを見せる。そして、モニター画面に表示されるエネルギーゲージを確認し、ミレットはようやく己の迂闊さを認識した。


「ぐ……だからって!」


 ここでようやく頭が冷えたのか、魔導機神メサイアのボロボロの片手剣を振るって、異形の神々を切り払う。爆炎の支配者クトゥグアが消滅した。


「ムダムダ、コノヨノスベテハ、ワレガミル、ムジョウノ、ユメ」

「あはは! くっくとあ! こい! あははは!」


 ずるりとアルアの腹から炎の塊が飛び出してきた。彼女の黒い服は腹の部分が炭化し大きな穴を見せている。しかし、アルアの白い腹はシミ一つ無く、美しい白を保っていた。


「化け物め!」

「メガミマイアスハ、ソノバケモノヲアイテニ、ヒトリデタタカッテイタ」

「だ、黙れ!」

「……クックック、ナラ、ダマルトシヨウ。モウ、カタルコトモ、ナイシナ」

「っ!」


 その時、ミレットの背中に走る悪寒のようなものが走った。目の前に迫るUD・モモタロボ。だが原因はそれであっただろうか。


「ミレット!」

「う、うわぁっ!?」


 巨大ロボットの胸部から白金の巨竜が飛び出してきた。その頭部に乗るのはエドワードだ。


「カーンテヒル様!」

「エドワード! 抜かるでないぞ!」


 始祖竜カーンテヒルの肉体が解けエドワードと融合する。彼は人としてのカーンテヒルへと変化し、手にする始祖竜の剣に大いなる力が宿ったことを理解した。


「エル!」

「エドっ!」


 エドワードはそこから更なる変化をおこなう。人と竜の心を、そして魂をも一つとし、大いなる牙を生み出すのだ。


 それこそが、この戦いの決着を付ける大いなる剣【竜神剣カーンテヒル】。それを、UD・モモタロボはエルティナと桃吉郎の力を合わせ手に取った。


 瞬間、度し難い力がUD・モモタロボを駆け抜ける。それだけで、負荷に耐えきれず機体にひびが走った。


「エルティナ様! 長くは持ちません!」

「クラーク、分かってるんだぜ!」


「長引かせるつもりもない。これで決着を付ける! トウヤ、頼めるか!?」

「元よりそのつもりだ。もうロックオンは済ませてある。いけ……桃太郎!」


「「上等!」」


 UD・モモタロボのコクピット内が桃色の輝きで満たされた。エルティナと桃吉郎は魂に満たされる桃力の全てを放出する。彼らに桃力はもう必要ないのだ。


「さよなら……桃力」

「今まで世話になったな。でも、最後にもう一人、救ってやりたいヤツがいるんだ」

「「だからっ!」」


 崩れ行く桃太郎。二人は桃力を全て放出し桃太郎ではなくなったのだ。だが、決して後悔などしていない。桃力も全てを理解し、この行為を許した。


「見えるか、ミレット!」

「この宇宙に輝く星々が!」


 暗黒の空間が輝きに満ちる。それは目を開けられないほどの輝き。ミレットは、この輝きに恐怖し、わなわなと震える手で顔を覆った。


「な、なんだ!? この輝きはっ! 桃力じゃない! いったい、なんなんだ!?」


 桃力でも、鬼力でも、ましてや神気でもない。理解できない力に、ミレットはただただ恐怖を覚える。しかし、彼は忘れているだけであった。

 この力を、この輝きを、彼は確かに知っていた。彼の母と共に何度も迎え、送り出してきたのだから。


「この輝きは全て魂!」

「そして、お前の還る場所だ!」

「「最後の輪廻の輪を、その目に、魂に焼き付けろ!」」


 エルティナと桃吉郎はミレットのために桃太郎を捨て、桃力を捨て、それでも尚、彼を救わんがために、最終桃戦技を発動したのだ。


「「桃戦技が最終奥義! 輪・廻・転生斬っ!」」


 砕け行くUD・モモタロボ。振り上げるは真なる救済の剣。振り下ろされる剣の先には、世界を救い続けてきた魔導機神メサイア。


 彼は動かない。救済し続けてきた彼は救済を求めていた。今、その時が訪れたことを理解していたのだ。


 そして、ミレットもまた、この暖かい力を思い出していた。それは、母と共に過ごしてきた大切な記憶と共に。


「あぁ……僕は、なんという過ちを」


 溢れる涙は自らの血で彩った顔を洗い流してゆく。そして、彼は見た。コントロールレバーに添えられている自分の手に、見慣れた女性の手が重なっていることに。


「お母さん……」


 それはミレットの母マイリフの手であった。そして彼は気づく。マイリフの想いは肉体を失っても尚、彼と共にあったことを。怒りと復讐の心に囚われ、今の今まで気が付くことができなかったのだ。


 マイリフの子を想う心が、ミレットを守り続けてきた。そして、今、ミレットは己の過ちに気が付き救われる。

 救済の剣が魔導機神メサイアを両断した。瞬間、時間はゆっくりと流れる。輝く星々はミレットを歓迎した。最後の救われし者として。


「ありがとう……お母さん。そして……桃太郎」


 ゆっくりと流れていた時間が元に戻る。そして、ミレットは母の想いと共に光へと溶けていった。


「ミレット! 汝に罪なし!」

「希望を抱いて逝け!」


 激しい閃光を伴い魔導機神メサイアは爆散、ミレット共々輝きの中に姿を消し去った。


「……最後に母ちゃんと会えたか? ミレット」


 ここに女神マイアスを巡る戦いは終止符を打たれた。そして、真なる約束の日は、遂に訪れたのである。

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