791食目 思うがままに
エルティナの号令により、戦士たちは再び去りし地へと舞い戻る。まるで、それが当然であったかのように戦士たちには動揺の表情は無かった。
彼らが駆け抜けるであろう暗黒の空は嘘のような静けさが支配し、否応無しにも両陣営の緊張感を高める。それは、最後の激突が何より激しく苛烈で、凄惨なものであることを戦士たちに確信させた。
未来へ行くのか、ここで全てが途絶えるのか、全ては彼らの手に委ねられる。
「モモガーディアンズ、突撃せよ! 目標、魔導機神メサイア!」
「征け、心なき断罪者たちよ! 全てを滅ぼし、僕と共に甘美なる無へ向かわん!」
陰と陽の最後の戦いが始まった。
最早、両雄に語る事はない。語りかけることも無い。ただ、持てる力の全てを用いて叩き付ける。まるで、それが言葉であると言わんばかりに。
魂之守護者たちは、各々が最高の状態と思う姿を取る。それは、若者の姿であったり、老人の姿であったり、子供の姿も見受けられた。
「いやぁ、長かったさね」
「いや、なんで子供の姿なんだよ、アカネ」
「う~ん、乳とケツが揺れるのが慣れないさね」
暫くぶりに戦場へと舞い戻ったネズミ少女アカネは子供の姿を選択、ロフトとスラックを困惑させる。
このままでは連携に支障が出かねない、そう判断した彼らは仕方なくアカネの姿に合わせた。即ち変態トリオの復活である。
「取り敢えず、いっとく?」
「いいねぇ」
「あれなんか、いいんじゃないさね?」
彼らが目標に定めたのは、勇ましき女戦士であった。彼女も魔導機神メサイアのディスクデータから復元された英雄の一人である。
その姿はかなり過激な姿であり、ビキニアーマーに両手斧という、ほぼ裸も同然の恰好をしている。
「獲物が来たぜ」
「うほっ」
「んじゃ、行くとするさね」
邪悪なる笑みを浮かべ、一糸乱れぬ隊列を組む。そして、何気なく味方の後ろに付き姿を隠した。彼らは、その瞬間を虎視眈々と待ち侘びる。
やがて、その時は来た。変態トリオは仁義なき突撃を敢行、発育がやたらといい魂無き英雄に襲い掛かった。
「乳!」
「くびれ!」
「ケツっ!」
一瞬にして女戦士のビキニアーマーをひっぺがしダイレクトに抱き付く。その光景はまさに地獄絵図。破廉恥極まりない。
そんな、あんまりな攻撃、というかセクハラに魂無き女英雄はまさかの悲鳴。それを合図にして両陣営は激しい交戦状態へと移行した。
最後だからって遠慮が無さ過ぎる。こいつらには自重というものが無いのであろうか。
尚、女英雄は変態トリオの謎のテクニックにより昇天。全裸に向かれた状態で放置されてビクンビクンしている。これは酷い。
「何やってんだ、あいつら」
「まぁ、戦い方は人それぞれだよ、ライオット」
デイル夫婦は揃って戦場の先頭を行く。目指すは魔導機神メサイア。他の英雄には目もくれない。
その二人を援護する形で元祖モモガーディアンズメンバーが追従した。
とはいえ、全ての面子が追従しているわけではない。ユウユウ、リンダのいばらきーずは、やはりというか自由奔放に戦場を蹂躙している。
特にユウユウのご機嫌は有頂天を極めた。何故ならば、彼女の傍らには黄金の竜の姿があったからだ。
「うふふ。ねぇ、ダーリン。ハネムーンはどこがいいかしらねぇ?」
「どこでも構わぬ」
「あら、欲が無いわねぇ」
「汝は我が傍に居ればいいのであろう? 我もそれでいい」
「うふん、ダーリン、大好き」
戦場に場違いな惚気を持ち込むユウユウたちに、相方のリンダは宇宙の暗黒も裸足で逃げ出す嫉妬の炎を燃やす。その炎に巻き込まれて数名の英雄たちが炎上した。哀れ。
「リンダぁ! 油断してるんじゃあねぇぞぉ!」
「で、でも! ガンちゃん、あれ見てよっ! ずるい!」
リンダはぶんぶんと駄々っ子のように手を揺り回す。彼女に襲い掛かった英雄たちがその手に当たり砕け散った。不本意極まりないであろう最期だ。
「おめぇなぁ……最後の戦いだろうが」
「それでもっ!」
「まったく……」
幼馴染の行動に呆れるガンズロック。その彼に抱き付いて自称ラブラブパワーを強制吸収するリンダ。色々と面倒臭くなったガンズロックはリンダの好きにさせた。
「フォクベルト君! 私たちもっ!」
「アマンダ、僕らはしっかりと戦いましょう」
「きゅ~ん」
いばらきーずの行動に感化された狼少女アマンダは、自分たちもと夫フォクベルトに訴えたが、即座に釘を刺されてシュンとした。
それでも「これが終わったらね」と耳元で囁かれ途端に元気になる。現金なわんこであった。
「ブ、ブルトン。し、神気はこうすればいいんだな? だな?」
「あぁ、それでいい。俺の後ろに付いて、それを注いでくれ」
「わ、分かったんだな」
「背中に張り付かなくとも……いや、そうしていてくれ」
ブルトンとグリシーヌはぴったりと身を寄せ合って戦う。ブルトンから放たれる雷霆は英雄のことごとくを黒炭へと変え霧散させていった。
その彼に勇気と力を与え続けるグリシーヌは、ブルトンの大きな背中に抱き付いて離れない。その豊満な肉体、特に乳房は圧迫されて凄い事になっていた。
ブルトンも男なので嬉しくないわけがない。いつもの三割増しで雷霆をバラ撒いた。
「わばっ!?」
「おっと、すまん、シーマ」
「バカ者っ! 気を付けろ!」
そして、当然と言わんばかりに雷霆に誤爆されるシーマ。全裸の変態は真っ黒焦げになってもピンピンしていた。
いくらソウル・リジェネーション・システムが発動するとはいえ、この耐久性は説明が付かないと思うのだが……考えたら負けなのであろうか。
「いや、なんというか……うちの連中は死んでも直らねぇよな」
「けけけ、つまりは皆、バカだってことだな」
「違いねぇ……あ、つまりは俺たちもか?」
「そういうこった」
兎少女マフティとゴブリン族のゴードンは、ブルトンとグリシーヌのバカップルぶりに呆れるも、同時に羨ましさを感じていた。
しかし、両者とも柄ではない、と悟っており、いつもの二人を演じている。だが、他者からしてみれば、それは十分過ぎるほどに恋人同士のいちゃつきであった。
「クリューテル、大丈夫ですか?」
「あ、はい。ミカエル様の状態の方は?」
「こちらも問題ありません」
若干、動きがぎこちないクリューテルの手を引き先頭集団との合流を急ぐミカエル。
幼い頃からの友人メルト、サンフォも、そんな二人に温かな視線を投げかける。
生きている間に結ばれることが無かった二人ではあるが、二人は十分過ぎるほどの幸せを噛み締めて最後の戦いに身を投じていたのだ。
「クリューテルさん、幸せそうな表情をしているね」
「そうだろうさ。きっと、俺も……メルシェ」
「なぁに? フォルテ」
「愛している」
「うん、私もだよ、フォルテ」
ここに至り、心を偽る事をしなくなったフォルテとメルシェの夫婦はGD・エクスカリバーへとドッキングを完了させ英雄たちを切り裂きながら宇宙を征く。
全てから解放された二人に、最早恐れるものは何一つ無いのだ。
「なぁ、ララァ。ひょっとして、俺にもアレをやれと?」
「……だめ?」
「ダメじゃねぇけどよ。あぁ、もう、分かったよ」
ダナンは、おねだり、と言わんばかりに見上げてくる妻ララァに口付けをした。その行動に彼女は大歓喜だ。
千の言葉よりも一の行動によって満たされた彼らは、万の闘志を秘めて魔導銃の引き金を引く。
「ひほほ! お姉様! あ、それとも、お兄様?」
「もう、どっちでもいい。なんで、両方ついているんだ」
「どっちも、できるじゃないですか、やった~!」
「やった、じゃない!」
双子の剣士、特に姉というか兄というかは大変な状態に陥っていた。二つの性を体験したばかりにそれが混濁し、一つの身体に二つの性が同時に備わってしまっていたのだ。
妹の方はそれを大歓迎し、兄? 姉? ああもう、面倒臭い、姉兄いいや。はげんなりとしている。当然であろう。
「相変わらず、賑やかな姉妹なことじゃのう」
「はい、咲爛様」
咲爛と景虎の主従は相も変わらずの関係を保っていた。周りがピンク色のオーラを放っていも、彼女らは無色透明な闘気を放っている。その無垢なる闘気は同時に冷酷さも孕んでいた。
彼女らに近付く者は誰かれ構わず切り捨てられる。剣豪と呼ばれた英雄たちも、彼女らの前に掛かれば有象無象のごとく真っ二つに切り裂かれた。
彼女らの視る能力と、斬る能力が合わさる時、斬れぬものは存在しなくなる。
「あ~、うちはカップルが多くて嫌になりますなぁ」
「きゅおん、まったくだ。怒りのあまり鬼に堕ちちゃいそうだぜ」
「なんで、あれくらいで怒るんだよ?」
「ケイオックはお子様だから分からねぇんだよ」
【その他色々】は、カップルたちに煉獄の嫉妬を無差別に振り撒いた。そのあまりの黒さに英雄たちも見て見ぬ振りをする。正しい判断と言えよう。
容姿が抜群に優れているのに縁がないキュウトは特にご立腹だ。そんな彼女に同意を示す鶏のオフォール。
ちなみに、彼は鶏の雌から多数のラブコールを受けている。実のところ密かな勝ち組なのだ。
そんな彼らが嫉妬する理由をフェアリーのケイオックは理解できない。
ある意味で純粋な心を持ち得ている彼女の姿に、スライムのゲルロイドは温かな眼差しを送る。どうかこのまま、純粋な心を保ち続けてほしいと。
「おあ~、カップルっすか。最後まで、恋人ができなかったっす」
「まぁ、仕方がないさ。俺たちって戦い続けた人生だったしな」
「リックは、それでよかったんすか?」
「よかねぇよ」
「それじゃあ、最後くらいは恋人ごっこでもしてみないっすか?」
「モルティーナ、ごっこはいらねぇだろ」
ここで、意外なカップルが誕生。蜥蜴人間リックとモグラ少女モルティーナのカップルだ。どうやら、生前から気になっていたようだが、お互いに奥手だったもようである。
というか、こいつらは最後の戦いで何をやっているのであろうか。滅びよ、リア充ども。我が嫉妬の炎で燃やし尽してくれん。
私の嫉妬心に勢い付いたキュウトたちがヤケクソの突撃を開始、英雄たちに理不尽な怒りを叩き付ける。私は何も悪くない。
「あいつら……何をやってんだぁ?」
「う~ん、最後の決戦だから、やり残したことを一気にって感じかな?」
「……本当に、ある意味で真っ直ぐな人たちよね」
そんな彼らを後方より見守るエルティナとエドワード、ヒュリティア。彼らは一様にやりたい放題の元祖モモガーディアンズの姿に呆れと、色々な意味での頼もしさを感じ取る。
「まぁまぁ、最後なのですから、やりたいようにさせてあげましょう」
「ふきゅん、ま、ブランナの言うとおりだな。最後なんだし、何かに縛り付けるのはキャンセルだ。思うがままに突撃して良し!」
「ありがたき幸せにてござる。ところで……御屋形様」
「何か用かな?」
「何故に拙者は女子の姿のまま、なのでござりましょうか?」
「ザインちゃんは女の子」
ザインは咽び泣いた。
「あはは! ざっいいん! おんなな! あははは!」
「オンナモ、イイゾ。ニクガ、ヤワラカイシ、カワイケレバ、オトコガ、カッテニ、ミツイデクレル」
「なんの慰めにもなっていないでござるよ!」
「ふきゅん、そんなザインちゃんは水着姿の刑だ」
「ご無体なっ!?」
こうして、ザインは危険極まりない紐みたいな水着を着させられてしまった。日本刀を片手にほぼ裸で宇宙を疾走する姿は紛う事なき痴女。
ヤケクソ状態に突入したザインちゃんの活躍は目覚ましく注目の的になった。
「……拙者、目覚めてはいけない快感に目覚めてしまったでござろうか?」
注目される度に快感を覚え、危険な領域へと突入する彼女は、エッチな変態へとクラスアップした。
それ以上行くと取り返しがつかなくなるので、早急に戻って来てほしいものだ。
「ガイリンクードさん」
「なんだ、誠司郎」
「僕らも、色々な意味で目立ってますよね」
「……服は用意するべきだったか」
彼らは誠司郎の肉体をベースにしているため、とにかく発育の良い部分が目立つ。タオルを巻いているとはいえ、圧迫された肉がはみ出す様は欲情を駆り立てられるに違いなかった。
それとは別に平たい族の嫉妬の集中砲火を浴び、気まずい気分を十二分に堪能している。
「おのれ、巨乳族め。もげろ」
「邪悪なる乳は、滅せよ」
リンダと星熊童子などは、平たい族の代表格である。その怒りは英雄たちに思う存分叩き付けられ、彼らは涙目となった。
「やれやれ、最後まで騒がしいことだ」
「おや、桃吉郎様はお嫌いで?」
「バカを言うな、モーベン。大好物だ」
祭り好きの桃吉郎は、この馬鹿げた騒ぎが嫌いではなかった。竜神剣フレイベクスに桃力を注ぎ込み英雄たちを一閃する。英雄と呼ばれた者は呆気なく霧散してしまった。
「だが、しょせんは魂無き者。データのみの中身の無いモナカなんて、味気無くて仕方がないな」
「まったくで」
獄炎の炎が英雄たちを焼き払う。だが、焼き払った先から英雄たちはディスクから再誕する。明らかな時間稼ぎに桃吉郎は不快感を示した。
同時にライオットの頭を潰すという咄嗟の判断力に称賛を示す。
「兄貴!」
「エルティナ、最後の協力だ。一丁やってやるか!」
「応! やってやんよ!」
桃吉郎にエルティナたちが合流。先んじて魔導機神メサイアと戦闘を始めたライオットとの合流を急ぐ。
戦闘開始から八分が経過。魔導機神メサイアが消滅の能力を最大限に開放するまで、あと十五分。
両者の戦いは過酷さを増すばかりであった。




