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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
790/800

790食目 可能性の珍獣~宇宙を駆ける黄金の毛の塊~

 尚も膨張する消滅の力、このままでは消滅してしまう。咄嗟にエルティナはカーンテヒルと支配権を交代、サイズダウンし消滅までの時間を稼がんとする。

 しかし、事態の解決には至らない。すでに周囲を消滅の力で囲まれて脱出不能となっている。

 だが、エルティナに諦めるという文字は無い。最後の時を迎えるまで彼女は抗い続けるのだ。


「ふきゅ~ん、ふきゅ~ん!」


 この危機的状況であるが、それでも逆転となるアイデアが浮かばない。この期に及んで思い浮かんでくるのは、ほかほかのご飯に乗ったイカの塩辛のイメージ。この絶体絶命の危機に何を考えているのか。

 だが、ある意味で凄いとも言えた。


「このままじゃ……」


 その時、彼女の脳裏に、青い仮面を付けた超人の神の姿が思い起こされた。

 エルティナと僅かな間だが行動を共にし、諦めない心の大切さを彼女に刻み込んだキララ九十七世の姿がだ。

 ほかほかのご飯が彼を思い起こさせたのであろうか。それは分からない。しかし、


「この記憶は……プルルの!?」


 キララ九十七世が影響を与えたのはエルティナだけではない。プルルもまた、桃使いとして覚醒する際に彼に世話になっていた。

 その記憶はエルティナが彼女を捕食した際に共有することとなっている。その記憶に映る獣の姿。それは、可能性そのものであった。そこに、エルティナは突破口を見いだす。


「チェェェェンジ! ビィィィィィストっ! スイッチ、オォン!」


 エルティナは速やかに珍獣モードへと移行。小さな黄金の毛の塊へと変化する。

 そして、放つは桃力と神気。今ここに、可能性の獣が奇跡の咆哮を上げる。


「ふっきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!」



 ぶおっ!



 それは、圧倒的な【屁】であった。珍獣を包み込む消滅の力は、その屁の臭いを消滅させるのに全ての力を使い果たし、屁の臭いと対消滅してしまう。

 しかし、同時に魔法障壁も屁の勢いに屈し、パリーン、なる音を立てて砕け散ってしまった。


 恐るべきは珍獣の【屁力】。まさかの大ピンチに、くっさい屁を炸裂させる度胸があってこその大逆転劇であった。


 ばかやろう、雰囲気が全部台無しだ。どうしてくれるのこれ。


「な、なんだとっ!?」


 勝利を確信していたミレットはこの事態に驚愕、わずかな隙を生み出してしまった。

 ピンチの後のチャンスを幾度となく経験しているエルティナは、この数少ないチャンスを見逃したりはしない。


「エルティナ! メサイアの右膝の部分だ!」

「トウヤ!? ふきゅん、小さな隙間っ……! この身体ならっ!」



 ぼむっ!



 トウヤの指示に、エルティナは迷うことなく行動に移る。屁の力を利用して宇宙空間を飛ぶ黄金の毛の塊。それは、魔導機神メサイアの防御膜に生じた、ほんの小さな穴をすり抜け内部へと進入。


 まさか、この絶対無敵の防御膜内部に侵入される、とは思ってもいなかったミレットはパニック状態に陥る。


「貴様っ!」

「ふっきゅんきゅんきゅん……そんなのが当たるかよ」

「やはりだ! エルティナ、メサイアに取り付け!」

「応っ!」


 エルティナはトウヤの指示に従い、魔導機神メサイアの装甲に取り付き、かさかさと装甲を高速移動。【黄金のG】を思わせる動きはキモいの一言に尽きる。


「思った通り、装甲表面は消滅の力を浸透させることはできないようだ」

「意外な穴があったな。でも、これで……」


 エルティナは魔導機神メサイアの装甲を、せんべいでも食べているかのように喰い散らかし内部に侵入せんとした。

 無論、そのような事を許すミレットではない。


「調子に乗るなっ! ディスク起動! 出てこい、英雄ども!」


 魔導機神メサイアの背部ユニットに装備された円盤が高速回転を始めた。すると、そこから無数の戦士たちが生れ出てきたではないか。


「このディスクには、過去の英雄たちのデータが記録されているんだ」


 黄金の鎧を身に着けた一人の戦士がエルティナを掴み、魔導機神メサイアから引っこ抜いた。

 エルティナは「ふきゅん」と悔し鳴きを上げて放り投げられる。消滅の力を発生させる機関到達まで、あと少しの出来事であった。


 エルティナは姿勢を制御するために獣状態から人型へと戻る。

 宇宙空間に在って美しい白エルフの女性の白肌はよく映えた。ミレットはその姿に目を細めるも、頭を振って欲望を振り払う。


「ちくしょう、あと少しだったのに!」

「残念だったな。そして、これで終わりだ!」


 高速回転するディスクから、どんどんと生み出される英雄たち。力、数に置いてもエルティナは劣勢に追い込まれる。


「ふふ、エネルギー回復も順調だ。あと、三十分もすれば、完全回復する。その時、僕は全てを無に還す。はっはっはっ! その時が待ち遠しい!」


「あんにゃろう、わざわざタイムリミットを教えてくれたぞ。余裕だなぁ」

「制限時間は三十分か……もう出し惜しみをする必要もあるまい」

「それもそうだな、トウヤ。カーンテヒル様もいいよな?」

「無論だ」


 このタイミングで吉備津彦たちも合流する。そして、次々と生み出される過去の英雄たちの姿に驚愕することになった。


「これは、一筋縄ではいかないな。過去の英雄たちではないか」


 エルダーはアザトースを追いかける任務の他にも【観察】という仕事があった。世界の大きな出来事を観察し記録、上層部に提出するのである。


 その記録の中に登場する英雄たちの力は彼女をもってしても脅威であり、危険視せざるを得ない能力を持った者たちも多数いた。

 その英雄たちが敵として目の前に蘇っているのである。エルダーならずとも、彼らから放たれる能力の強大さを感じ取り、桃吉郎たちにも戦慄が走る。


「だからどうした、と言うんだ。やる事は何も変わらない」

「まぁ、そうなるな」


 吉備津彦と桃吉郎が、折れぬ闘志を刀に籠める。シーマも銀のレイピアを構えた。だが、彼女はそろそろ服を着るべきである。


「ヤレヤレ、メンドウクサイ、アイテダ」

「あはは! めんどくっさ? あははは!」

「遺憾ではありますが、ハスターの阿呆も呼びます」

「ウム。ラト、ヨシナニ」

「畏まりました」


 外宇宙の神々を高次元より呼び寄せるナイアルラトホテップ。その中には犬猿の仲であるハスターも含まれていた。


 彼の神はナイアルラトホテップに嫌悪感を示すも、源たる神に首を垂れ服従の構えを見せる。

 狂気の神々が服従を誓う光景は、見る者の理性を削った。


 通常なら、ここでSAN値チェックが入るがダイスを振る必要はない。直葬だからだ。 


「ふっ、カーニバルになってきやがったな」

「お祭りにはない殺気に満ち溢れているんですけど?」


 誠司郎のツッコミが決まるも、ガイリンクードは自重をしない。祭りを盛り上げるべく、大悪魔たちを次々に召喚。宇宙を再び悪魔の力で震撼させた。


「ケケケ! いよいよオーラスってかぁ?」

「ふん、気が早いぞ、レヴィアタン」

「蠅女は糞にでも集ってやがれ」

「先におまえを始末してやるぞ、駄蛇」


 相も変わらず仲の悪いレヴィアタンとベルゼブブであったが、英雄たちの中に怨敵がいることを認め一時的に休戦する。


「魔導王……ソロモン!」

「あの野郎、あの時の屈辱を万倍にして返してやる!」


 悪魔を強制使役し王となったソロモンは、レヴィアタンたちにとって払拭しなくてはならない過去であった。


ホットになるな、冷静クールにだ」

「で、でもよぅ!」

「最早あれは、ソロモンではない。ただの幻影ビジョン……力を持たされただけのシャドウだ」


 ガイリンクードが拳銃を構えた。それに従い、悪魔たちは構えを取る。突撃の瞬間を待ちわびたのだ。


「おやおや、随分と少ないな。そんな数で大丈夫か?」

「大丈夫じゃない、問題だ」

「ふん、それじゃあ、もっと数を集めるがいい。待っていてやる」

「そんな事言って、エネルギーをチャージする速度を上げる気なんだろ? きたない、堕天使、きたない」


 エルティナを挑発したミレットは逆にやり込められた。そんな自分が愉快で、魔導機神メサイアのコクピット内で独り大笑いをする。


 状況はミレットに優位であった。今も尚、英雄たちは絶えず生み出されている。

 英雄は異世界カーンテヒルにみならず、遠く離れた地球はもちろんの事、各世界の英雄のデータも収められていたのである。そして、既に英雄の数は二万人を超えようとしていた。


「はは、随分と酷い言われようだね」

「堕天使って言われているだけマシだと思え」

「これは怖い」


 完全に勝利を悟ったミレットは慢心をしている。その慢心をエルティナは見逃さない。


「確か、待ってやる、って言ったよな?」

「それが何か?」

「じゃ、仲間を呼ばせてもらおっかな~」

「どうぞ」


 ミレットはエルティナの発言を世迷言と断じた。しかし、そうではなかったのだ。

 少々予定は狂ったが、エルティナは切り札をここで切る。


 それは、一つの世界であった。一人の白エルフから途方もない力が溢れ出しているのだ。

 失われた太陽が再び姿を現す。消え去ったはずの戦士たちの轟が聞こえ始めた。


「こ、これはっ!?」


 魔導機神メサイアのモニター画面が赤く染まり、警告音がひっきりなしに鳴り続ける。

 この異常な現象に対応できる者はほぼ皆無。そんな中で、桃吉郎だけはエルティナが何をしているのか把握していた。


「さて、ここが正念場か」

「桃吉郎様」

「ウィルザーム、抜かりなくな」

「はっ」


 エルティナが真なる約束の子の能力を、全てを喰らう者の真の能力を解き放つ。


「来たれ! 魂の力で結ばれし友たちよ! 魂之守護者ソウルガーディアン! 緊急出撃ホットスクランブル!」


 エルティナの魂から輝ける戦士たちが飛び出してくる。それは、エルティナが今まで捕食してきた者たちだ。

 その数は到底数え切れるものではない。そして、その全てが真なる死を迎えた【永遠なる者】たちなのである。


「やっと出番かよ! エル!」

「待たせたな、ライ。思う存分に暴れていいぞぉ」


 ここに、最後之鬼退治さいしゅうせんそうが幕を上げる。勝つのは陰か陽か。鬼か、桃太郎か。


 世界の消滅まで……あと、二十三分。

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