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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
789/800

789食目 魔導機神メサイア

 女神マイアスのあまりにも呆気ない最期に、戦士たちは凍り付いてしまった。


 実は魔導機神メサイアの消滅の能力に【殺傷能力は無い】。例え首と胴が分けられて別々の世界に飛ばされようが【死なない】のだ。

 だが、その両者が出会う事は二度とない。別々の世界で生きてゆかなければならないのだ。


 生首と、首の無い胴体の末路など、モンスターと認識されて退治されてしまうのがオチであろう。


「……汝ぃ!」

「悔しいか、カーンテヒル。悔しいだろう? 僕も同じ思いを味わった」

「だからと言って、同じ思いをする者を増やす理由にはならないんだぜ」


 カーンテヒルの頭部に、豆粒サイズのエルティナがぴょこっと飛び出てきた。身長十センチメートル程度の小人形態だ。


「理由? 理由なんて、もう意味はない。そもそもが、この世の全てに意味なんてない」

「何を言ってんだ、おまえ。脳みそが、ちゃんこ鍋になっているんですかねぇ?」

「そう、母さんがいたからこそ、世界には意味があった」

「そんなことより、ちゃんこ鍋の締めは、ラーメンだよな」

「異議あり! ちゃんこ鍋の締めは、うどんだるるぉ!?」

「だから、こんな世界に理由を求めるわけにはいかない!」

「「やってやんよ!」」

「一人残らず消えるがいい!」


 恐ろしいほどに話が噛み合っていなかった。ちゃんこ鍋の締めに何を入れるか、で揉めるエルティナと桃吉郎は互いの意見を一歩も譲らない。

 そして、自分の世界にどっぷりと浸かってしまているミレットは持論をナルシストっぽく語る。完全に中二病患者のそれだ。

 そして、話が微妙に纏まったところで、双方は戦闘状態に移る。世界を消去せんと目論むミレット。ちゃんこ鍋の締めはラーメンのエルティナ、カーンテヒル。ちゃんこ鍋の締めはうどんの桃吉郎だ。

 尚、吉備津彦はちゃんこ鍋の締めはご飯なので中立を保つもよう。


「おい、鍋の締めは時間が経ってカチコチになったパンだろ」

「しぃっ! シーマ、余計な事を言うんじゃない」


「「あ?」」


 ここでシーマが余計な事を言ってしまい、まさかの四つどもえとなってしまった。

 戦いは混沌を極め、先ほどまでのシリアスぶりは瀕死の状態へと陥ってしまっている。


 どうしてこうなってしまったのだろうか。


 エルティナはほんのりと嘆くも、全部自分の発言のせいであることを思い出し、都合の悪い記憶をミレットに消してもらおうかな、と画策したところでカーンテヒルにお説教をされて白目痙攣状態へと移行した。

 今はもう大人しい。


「やけに大人しい動き方だな。怒りから、もっと激しく攻撃してくるものだと思ったが」

「エネルギーの問題を抱えているからだろう。だが、モタモタはしていられんぞ。エネルギーの道を修復され始めている」

「くっそ面倒臭い事をしてくれてんなぁ」


 トウヤの忠告をカーンテヒルに伝えるエルティナは、白金の竜の頭部からエネルギーの道を観察する。トウヤの言うとおり、徹底的に修復不能状態にまで追いやったエネルギーの道が修復され始めているのだ。


 女神マイアスを失ってもプログラムで動く機械には関係が無い。与えられた命令を淡々とこなすだけなのだ。

 これは、エルティナたちにとって都合が悪く、ミレットにとっては好都合。


 何よりも、三貴人は既にこの場には居らず、伊邪那岐、伊邪那美を降ろすことはもう叶わない。

 したがって、もう一度、エネルギーの道を修復されればエルティナたちに勝機は無くなる。時間との戦いが始まった。


「兄貴っ!」

「どうしたぁ? うどん派に鞍替えする気になったかぁ?」

「あ?」

「お?」


「そんな事をしている場合かぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「「ふきゅん」」


 くだらない言い争いを続けたばかりに、エルティナと桃吉郎は、遂にトウヤに雷を落とされてしまった。今は猛烈に反省している。


「いずれにしても、あれを撃破しないことには【真なる約束の日】を迎えられないのは確定的明らか」

「だから俺は、あれを撃破するだろうな」

「ほぅ、桃太郎さん、自信満々ですね」

「それほどでもない」

「謙虚だな~、憧れちゃうな~」


 文字だけだと、どちらが喋っているのか分からなくなる。しかし、二人は双子であり、違うのは性別だけなので割とどうでもいいかなと思う。


 そんな二人は、ちょっとだけ実験をおこなってみることにした。全てを喰らう者の力を魔導機神メサイアの消滅の力にぶつけて見たのである。

 結果として、全てを喰らう者の力は、消滅の力に消し飛ばされた。


「ふきゅん、負けた?」

「いや、負けたというよりかは、包み込んで場外に放り投げたが正しいな」

「一応は食ってた、と?」

「そうなる。だが、喰い尽す前にぽいっちょされたら、どうにもならん」

「厄介極まりないじゃないですかやだ~」

「俺もやだ~」


 白エルフの兄妹は尻をふりふりさせて駄々を捏ねる。エルティナはともかく、桃吉郎の見た目は傷だらけの少年なので見た目がよろしくない。


「遊んでないで、攻撃しろ!」

「「あっはい」」


 そして、エルダーに叱られる。この兄妹は反省というものを知らなかった。


 その間にもガイリンクードと吉備津彦は果敢に魔導機神メサイアを責めたてる。しかし、決定打には程遠い。そもそもが、攻撃が届いていない。

 いかなる強力な攻撃も届かなければ効果を成さないのだ。


「無駄なことをする!」 


 それはまるで、絶対に貫けない膜に包まれているかのようだった。魔導機神メサイアは、自らを消滅の力を持つ見えない膜で完全に覆っていたのである。


「魔導機神メサイアは何者にも屈しない。神たる僕に跪け! 許しを乞え! さすれば、救済してやろう!」

「救済という名の楽園追放ですね分かります」

「鬼~さん、許してっ! てか? そんなんじゃ甘いよ」


 虚勢を張る白エルフの兄妹ではあるが、旗色が悪いのは彼らの方だ。下手に全てを喰らう者の枝を向かわせれば最悪、永遠に枝が失われかねない。

 使える攻撃手段は間接攻撃、それも射撃のみ。それ以外の攻撃はリスクが高過ぎる。しかし、それでは魔導機神メサイアの防御膜を貫けなかった。


「何か強力な攻撃手段が必要だ」

「ふきゅん、でも、カーンテヒル様、基本的に俺は遠距離攻撃はできないんだぜ」

「そうだな、我も基本的に肉弾戦だ。吐息も吐けるが、それは無差別に対象を喰らう」

「だめじゃないですかやだ~」

「いや、方法はある。それは、汝の魂の中に、確かに存在するはずだ」

「俺の魂の中に……?」


 魔導機神メサイアの力が放たれた。全てを消す衝撃波だ。桃吉郎たちはサイズが小さいのでなんとか回避する。しかし、巨大なカーンテヒルは回避することが困難であった。


「うぬっ!」

「やらせるかよ! 多重魔法障壁……百連っ!」


 しかし、エルティナは魔法障壁を連続行使。百枚もの魔法障壁を生み出し、これに対抗。辛うじて防ぎきる事に成功する。


「あっぶねぇ!」

「ふむ、面白い戦い方だ。どれ」


 カーンテヒルはエルティナより魔法障壁の可能性を学んだ。そして、魔法障壁でもって自身を分厚く包み込む。それは、巨大な鉄球を思わせた。


「ゆくぞっ!」


 カーンテヒルが攻勢に出た。その方法とは、まさかの【ぶちかまし】だ。強固な魔法障壁で身を包み、魔導機神メサイアに体当りを敢行したのである。

 この予想外の行動にミレットは反応できず、まともに攻撃を受けてしまった。


「そ、そんなものが通用するかっ!」


 強がりを言ったものの、ミレットはこの衝撃を受けて多大なダメージを被った。だが、魔導機神メサイア自体に損傷はない。

 もう一度、カーンテヒルの体当りが炸裂する。やはり、防御膜は破れない。削れゆく魔法障壁は連続的な生産により防御壁を維持。

 消滅させる膜はその処理に追われ、カーンテヒルの巨体を包み込むのに四苦八苦している。


 そうしている間に、魔導機神メサイアは機械の壁に押し付けられる。防御膜が圧迫されて弾けそうになった。


「こ、このままでは!」


 これに対処するため、ミレットは機械の壁を優先的に消滅させる。両者は機械の壁を破壊しながら拮抗し合い、遂には宇宙要塞ASUKAから飛び出した。


 黒い空間で二体の巨大な存在が睨みあう。カーンテヒルの後方には月の姿。周囲に漂うは兵どもの夢の後。

 生き足掻き、明日を掴まんとした者たちの躯が両者の訪れを歓迎した。


「こいつらっ!」

「機械人形か!」


 小さな機械に操られる躯たちはカーンテヒルを、正確にはエルティナの気配を感じ取り攻撃を開始する。

 削れゆく魔法障壁、すぐに再生可能だとしても、それは躯兵たちの攻撃だけ、という条件が付く。


「カーンテヒル!」

「うぬっ!」


 この隙を突いて、魔導機神メサイアの片手剣が魔法障壁を貫いた。そして、剣の先から消滅の力が生じる。

 僅かな油断を決して見逃さない、それがミレットの強さであった。


「拙い! カーンテヒル様!」


 魔法障壁内で消滅の魔法が満ちる。このままではカーンテヒルごとエルティナも消滅する。

 果たして、彼らは魂絶体絶命を切り抜けることができるのであろうか。

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