783食目 ソウル・リジェネーション・システム
ASUKA中枢玉座の間。女神マイアスの駆る超魔導騎兵と、九十九代目桃太郎の戦いは一進一退の攻防を見せ優越決めかねない状況を作り上げた。しかし、それも闖入者が姿を見せるまでのこと。
シーマ、ケイオック、ゲルロイドの三人が奇妙な悪運に導かれ、玉座の間に出現したことにより状況は微妙に変化を始める。
「わばっ!?」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!? シーマの上半身が吹き飛んだっ!」
「き、気持ち悪いですよっ! ぷるぷる!」
「誰が気持ち悪いだっ!」
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
いくら肉体が粉砕しようと瞬時にして再生を果たす超変態生物に、味方であるケイオックとゲルロイドですら恐怖から悲鳴を上げて乙女チックな姿を晒す。
この超変態性に女神マイアスもラグナロクのコクピット内で眉を顰めた。
「(超再生能力? そんなものは与えた覚えはない。外部からの与えられた二次的な……)」
彼女の思考を邪魔するがごとく、木花桃吉郎が竜神剣フレイベクスを振るった。それを魔導光剣で受け止める。あまりにもサイズが違い過ぎるが、魔導光剣の破壊エネルギーは桃吉郎になんら影響を及ぼさなかった。
「女神マイアス!」
「ちぃ! 木花桃吉郎めっ!」
超魔導騎兵ラグナロクの頭部バルカン砲で桃吉郎をけん制する。サイズの違いから、打ち出された弾丸の一撃一撃は必殺となるため、彼は堪らず退避行動に移った。
そして、その余波でシーマが意味も無く砕け散り、瞬時に再生してケイオックとゲルロイドに悲鳴を上げさせた。こいつらは、なんの役にも立っていない。何をしに来たというのだろうか。
「くっそ~! 次元が違い過ぎてなんの役にも立たない!」
「いやぁ、流石にGDボールでは、手も足も出ませんね。ぷるぷる」
「それ以前に足なんて上等なもんはねぇけどな」
ふよふよと激しい戦いの場を漂う球体のGDボールは鬱陶しいことこの上ない。しかし、それよりも遥かにウザい存在が彼らを護っていたのだ。
それこそが、全裸で女神マイアスと木花桃吉郎の戦いを邪魔するシーマである。
「えぇい! 化け物かっ!」
「あぁもう! その言葉、そっくりお返しするわ!」
全裸の変態が超魔導騎兵ラグナロクに飛び掛かった。背筋に悪寒が走った女神マイアスは、ほんのりと胸部装甲に膨らみを持つ変態少女を魔導ライフルの閃光で焼き尽くす。
しかし、次の瞬間には何事もなかったかのように再生を果たしているシーマに深いため息を吐くことになった。
全てを喰らう者の能力をもってしても、シーマの再生を防ぐことができない。喰らっている側からすれば、食べているのは中身の無い【もなか】みたいなもの。
それは、言うなれば、精巧に作られたサンプル食品。偽物であって偽物ではない存在が、シーマを護っているような感覚。食べても味がしない食べ物など苦痛以外の何ものでもない。
まさに、シーマは全てを喰らう者にとって、そのような存在であった。
「ふはは、怖かろう」
「怖いというよりかは、呆れの方が強いわね」
高次元の存在との戦闘経験を持つ女神マイアスであったが、ここまでの再生能力を持つ存在との戦闘は記憶にない。
これで、それなりの戦闘能力を持つのであれば脅威と成り得ただろうが、彼女は極めて普通の戦闘能力しか持っていない。したがって、ひたすらに鬱陶しいだけの雑魚であった。
「ふはは、怖かろう」
「何故、真似た。言え、木花桃吉郎」
「よかれと思い」
ちゃっかり会話に木花桃吉郎が混ざり込む。真剣勝負の最中であってもユーモアを忘れない男は、超魔導騎兵ラグナロクが放った魔導ライフルの一撃を、シーマを盾にすることで防いだ。まさに外道。
「何をするかっ!?」
「うはっ、すっげぇ再生力。でも、胸が抉れたままだぞ?」
「少しくらいはある! 失敬な!」
無尽蔵に再生を果たす変態チックなシーマに、女神マイアスはある種の違和感を感じ取った。それは、シーマの魂に二つの魂が混在しているという点だ。
「あら……?」
あまりに類似しているため、一見一つの魂にしか見えない。しかし、ふとした拍子に女神マイアスは彼女の魂の中に差異を感じ取ったのだ。
「魂が二つ……? だとしたら、まさか【ソウル・リジェネーション・システム】! でも、あれは、実用段階では……」
女神マイアスはシーマの超再生能力の可能性の一つを示唆。その名を聞いて、シーマはピクリと眉を上げた。
ソウル・リジェネーション・システムとは、二つの魂を呪いによって統合し、そこに超再生システムを組み込んだものである。
これは、例え肉片一つも残らない状態となり死亡状態に陥ったとしたとしても、片方の魂が負荷状態を受け持ち、もう片方が肉体の超再生を可能にし、死亡を回避する非常識なシステムだ。
驚異的なシステムであるが欠点も存在する。魂の調和性が99.999999%でなければ、システムは誤作動をおこし共倒れになる、という点である。
高次元においても、このシステムは世迷言、机上の妄想、とまで言われ実現は不可能であるとされていた。
「(おい、あの女、言い当てたぞ?)」
「(意外に遅かったくらいだ。超魔導騎兵ラグナロクのデータ収集まで、あと二分弱。なんとか踏ん張ってくれ)」
「(ふふん、余裕だ。私を誰だと思っている?)」
ここから、シーマの動きが変わった。無限とも言える再生能力を十二分に活かす動きだ。
「……え? ちょっ!? シーマの姿が消えたっ!」
「は、早過ぎて見えません! ぷるぷる!」
肉体の限界を超える動きは音速、そして、光速へと突入する。当然だが、生身の人間では光速に入った時点で肉体は砕け散る。
しかし、シーマはその超再生能力を活かし、肉体を光速再生させながら光の領域へと足を踏み入れていた。
「ちぃ! 本性を現した!? ラグナロクっ!」
突如として豹変したシーマに、女神マイアスは僅かに動揺した。冷徹な判断能力にひびが入ったのだ。
それを好機と見た桃吉郎が行動に移る。彼女の精神を揺さぶるのだ。
「マイアス、理解しているか? カーンテヒルの神気が殆ど失われていることに」
「なんですって!? そんな、ことは……! 嘘、まさかっ!?」
桃吉郎に指摘され女神マイアスはカーンテヒルの神気を探る。確かに先ほどまで感じられた我が子の神気は微かな名残を残して消え失せてしまっていた。
理由は簡単だ。エルティナがカーンテヒルを喰らってしまったがためである。
これに女神マイアスは激しく動揺した。その隙を突き、桃吉郎は超魔導騎兵ラグナロクに苛烈な攻撃を加える。
重大なダメージを負う鋼の巨人であるが、宇宙要塞ASUKAからのエネルギー供給により、破損部分は瞬く間に再生された。
「クソったれ、きりがねぇ!」
「カーンテヒルがっ! あの子の力が感じられないっ! そんなっ!?」
だが、この動揺はある意味で女神マイアスの冷静さを呼び覚ます。なんとか、カーンテヒルを感じ取らんと意識を宇宙の隅々にまで伸ばした。その結果、惑星カーンテヒルは健在であることを認識する。
「あの子の神気は消えた……でも、惑星カーンテヒルは健在! ならばっ!」
もう一つの可能性、エルティナが我が子を受け入れた、という可能性に辿り着く。
「うふふ、エルティナ! いい子ねぇ! あの子のための器に、ようやく至った!」
「それは、見当違いというものだ!」
桃吉郎の目論見は半ばで終わった。動揺を誘い超魔導騎兵ラグナロクに甚大なダメージを与えることには成功したものの、それは超再生能力にて無効化されている。
やはり、一撃必殺でのみ超魔導騎兵ラグナロクは破壊せしめる可能性があるのだ。
「(データ収集完了)」
「(それで?)」
「(やはり、宇宙要塞ASUKAからのエネルギー供給を受けているな。これを止めない限り、勝ち目などありはしない)」
「(止める方法は?)」
「(無い)」
「(酷い返答だ)」
シーマは内なる相棒との情報交換にて絶望的な知らせを受けた。
女神ヘラを開放した今となってはエネルギーを生産できなくなってはいるものの、それまでに搾取した膨大なエネルギーが宇宙要塞ASUKAに貯蔵されている。
それは、超魔導騎兵ラグナロクが全力で活動しても三年は持つ貯蓄量であった。
「(エネルギー切れは期待できない。別の方法が必要だ)」
「(その別の方法とはなんだ?)」
「(アザトースがいれば、容易なのだが……あの馬鹿、里帰りしている)」
「(決戦だというのに何をしているんだ、アルアは)」
「(その前に、こちらの要請を……シーマっ!)」
光速の領域のシーマの身体に魔導光剣の刃が掠る。それだけで左腕が消し飛んだ。
「なんとぉっ!?」
「光の領域が、あなたたちだけのもの、とは思わないことね」
光の速さで動く超魔導騎兵ラグナロク。その巨体は無限の可能性を秘めていた。打つ手が無くなった戦士たちは防戦一方となる。
しかし、そこに旋風を巻き起こす可能性の獣が訪れた。




