78食目 プルルと珍獣達
そして時間は過ぎ、遂にグランドゴーレムマスターズ予選の日となった。
俺達は朝早くから桃の聖域に集合。
予選に向けての準備に取り掛かっている。
「今日は! 遂に! 予選の日だ! 勝つぞぉぉぉぉぉぉっ!!」
無駄に気合が入った俺の掛け声に合わせて、ムセル達も腕を天に突き上げ気合を入れる。
何故か周りの野良ビースト達も気合が入っているのはご愛敬だ
その光景に腕を組み、うんうん、と満足する俺。
ホビーゴーレム達が桃先生の芽の前で互いの武器を掲げ、何やら誓いを立てている様子を窺わせる。
ムセルはマシンガンを、イシヅカは槍を、ツツオウは、にくきゅうを合わせていた。
「んふふ、気合入ってるねぇ。良い事だよ」
「ああ! 俺も早く、こういった大会に出たいぜ!」
ライオットが言ってるのは、自分自身が戦う大会の事だろう。
この国には【武闘大会】があって、余程のことがない限り毎年開催されている。
だが、出場条件に八歳以上とあるため、現在のライオットには資格が無いのだ。
他にも色々規定があるらしいが、今はそんな事よりもコッチである。
この予選を突破しないと、何にも壮大に始まらないのだから。
「よし! それじゃ、野郎共……デッパツじゃぁぁぁぁっ!」
気合も入った事なので、桃先生の芽に挨拶をして出発する。
一匹のいもいも坊やが、俺の肩に上がって来た。
他のいもいも坊や達は桃の聖域に残り、桃先生の芽の御世話をするようだ。
「……多い」
そして、ぞろぞろ、と付いて来る野良ビースト達。
彼らも果たして、ゴーレムマスターズに興味があるのであろうか。
「ふきゅん、こいつら連れて行っても良いのかなぁ?」
「どうだろうねぇ?」
「いもいも坊やも、中に連れて行けたから大丈夫だろ。いける、いける」
ライオットの適当な主張を信じ、野良ビーストたちも連れてゆくことにした。
そして、再び謎の軍団が爆誕することになる。
当然ながら、人々の注目を一身に浴びることになるのだ。
「流石に目立つねぇ」
プルルは恥ずかしいのか、俯きながらの行進となる。
逆に俺とライオットは堂々と胸を張って行進中。
慣れれば、どうという事はない! 慣れろっ!
やがて、ハッスルボビーの隣、グランドゴーレムマスターズの予選会場に到着する。
この頃には気合も良い感じに熟成し、今にもはち切れそうになっていた。
「おいぃぃ! これから中に入るが……野良ビースト共! お利口さんにするんだぞぉ?」
野良ビースト達は俺の注意に理解を示し、思い思いの行動で返事を返してきた。
これならば問題は無さそうである。
「よし! ではユクゾッ」
扉を潜り建物内に入ると、受付案内係のお姉さんが、ギョ! とした顔で俺たちに駆け寄ってくる。
「あ、あの~?」
「予選に参加しにきますた! はい! 参加させて!」
はやくっ! はやくっ! と、テンション高めに告げる。
こうやって、事態を有耶無耶にし、この難所を乗り越えんとする策である。
まさに必勝。これで乗り越えられなかった事など、割と沢山ある。
「後ろの動物達は……」
「我がチームの応援団だ! 大丈夫だ、問題ない!!」
俺の説明に一斉に頷く、野良ビースト達。
それを見た受付案内のお姉さんは、たらり、と大粒の汗を流した。
「良いのかなぁ?」の後の「ま、良いか……」というコンボを炸裂させたお姉さんは、ポリポリ頭を掻きながら奥へと案内してくれた。
普通なら、出会い頭にお帰れコースである。
しかし、ここに俺の急かす行動が加わればこんなもん。
大勝利に酔いしれつつ、俺達は予選会場に辿り着いたのであった。
◆◆◆ プルル ◆◆◆
僕がまさかグランドゴーレムマスターズに参加出来るとはねぇ。
僕、プルル・ドゥランダは人付き合いが苦手だ。
別に人が嫌いな訳じゃない。
でも、どういう理由かはわからないけど人を避ける傾向にある。
性格、というものが関係しているのは間違いないと思う。
クラスにいても基本的には一人で行動する。
それは一人の方が、気が楽で良いから。
失敗しても自分のせいだ。成功すれば自分の実力だ。
誰にも迷惑が掛からない。
家にいる時も一人さ。
両親は僕が二歳の時に亡くなっている。
今は、お祖父ちゃんと二人暮らしだ。
でも家には普段、僕しかいない。
お祖母ちゃんもいたが二年前に他界した。
ゴーレム職人のお祖父ちゃんは、泊りがけで製造や整備をするから滅多に家にいる事がない。
だから自然と、一人が気楽で落ち着く、と言う事になる。
こう言う、自分だから学校の授業でパーティーを組む時は非常に困る事になる。
僕が、こういう奴だ、と理解してくれるまで苦労したよ。
理解してない子達もいるが。
「うほっ! すっげー熱気だ!」
「うおぉぉ! やるぞ、ばかやろう! 俺はやるぞ、ばかやろう!」
うん、実はこの二人なんだ。
ゴーレムマスターズのチームメイト。
ライオット・デイルとエルティナ・ランフォーリ・エティル。
ライオットは、獅子型の獣人の男の子で活発。
その分、お頭が残念な子だが悪い子じゃない。
クラス一のずば抜けた体力と瞬発力。そして行動力。
後先考えてないだけ、と言われているが、それを実行できるのが凄いねぇ。
容姿は悪くないと思う。整った顔立ちだし。
今も大きな体だけど、まだまだ大きくなりそうだよ。
エルティナは、珍しい白エルフの女の子で、こっちも活発。
でも、運動神経は切れている。
魔力は高いけど、まともに発動しない。
頭は良い方だと思う。
筆記試験はいつも上位だし。
そして容姿端麗。
黙って大人しくしていれば、人形と間違える程の綺麗な子だよ。
あとは小柄だという事。本人は気にしているみたいだねぇ。
彼女の通称は『食いしん坊』。
食べ物に、執着してる事から付いた二つ名だ。
親しい子は単に『エル』と言っているようだけど、僕は柄じゃないねぇ。
食いしん坊は、いつも妙ちくりんな事を考えて、しかもそれを実行に移すので油断が出来ない。
動物達の一団を会場に入れてしまうのだって普通は考えないだろう。
僕は、ぞろぞろ、と後を付いて来る動物達をチラッと確認した。
不思議なことに、彼らは大人しく付いて来ているではないか。
これはもう食いしん坊の言ってる事が理解出来ている、としか考えられない。
食いしん坊は獣を操る能力を所有しているのだろうか。
能力と言えば、この子は『聖女様』でもある。
治癒魔法がズバ抜けていて、素質はなんと最高のSだ。
それ以外は最低のEランクというのだから、なんとも極端なはなしである。
でも、それで多くの人々を救って来たのだから、大したものだよ。
それよりも、だ。
食いしん坊が創った、ホビーゴーレムだよ。
本当に面白い子が生まれてきた。
目が三つある変わった頭に、五本指の手。ローラーダッシュまで標準搭載されている。
緑色のいかにも戦いしか知りません、という姿をしたホビーゴーレムだ。
名前はムセル。素直で良い子。
格上のエスザクに負けて以来、彼をライバル視している。
向上心がとっても高い子だ。
あぁ、そうそう……ライオットの創ったツツオウも、面白い子だねぇ。
珍しい獣型のゴーレム。
凄く小さくて、可愛らしいネコ……獅子型って言ってたねぇ。
本人はやる気があるのかないのか分からないけど、デビュー戦で格上を撃破している。
相手の自爆って事もあるけど、大したものだよ。
そんなツツオウの頭には、ぴょこんと緑色の小さな芽が生えている。
土で出来たゴーレムだから、どこからか飛んで来た種が頭に付いたんだろうね。
そんな、少しお間抜けな姿が良く似合うのがツツオウだよ。
で……僕が創ったゴーレム、イシヅカは可も無く不可も無く、と平凡な石製のホビーゴーレムだ。
のんびりしてそうに見えるけど、ムセルとツツオウを良く纏めているのは、実のところイシヅカであるのは間違いないだろう。
あの子はそっちの才能が有るのかも知れない。
うん、イシヅカ。イシヅカか。
この子は、あの日生まれた三体の中で一番最初に生まれたゴーレムだ。
お兄さんとしての責任感が芽生えていても、おかしくはないのだろう。
僕はのっしのっし、と歩くイシヅカの頭を撫でた。
彼はキョトンとしたが、それでも嬉しそうな仕草を見せてくれたのであった。
「では、あちらの受付で名前とゴーレム、チーム名を登録してください」
受付案内役のお姉さんに誘導されて予選会場に辿り着く。
練習に来た、あの会場だ。
いつもは、ただ観戦に来ていただけだった。
それが今は大会に参加しに来ている。
全ては、この二人のお蔭だ。
ここで、食いしん坊が「あー!」と声を上げた。
「おいぃぃぃ! チーム名決めてねぇぞっ!」
「へ? てっきり、もう決めているもんだと思ってたぞ?」
ぬわぁぁぁぁぁぁっ! と頭を抱えて転がる食いしん坊。
綺麗な服が汚れるよ?
今日の彼女は赤と黒を基調とした服だ。
金色の装飾が映える。頭には黒い大きなリボン。
食いしん坊の綺麗なプラチナブロンドの髪に良く似合う。
この服を選んだのは両親だそうだ。
「ままま……まだ、あわてりゅ、じゅかんじゃもないぉん!」
「落ち着け、噛み過ぎだエル」
食いしん坊は、なんとか立ち上がり、腕をブンブン振って大丈夫とアピールする。
対するライオットは冷静に彼女を宥めている。
「んふふ。時間はまだあるから、今から皆で考えようじゃないか」
最近、僕は良く笑うようになった。
これも、きっとこの二人のお陰だねぇ。
そうか、他の誰かといるから笑えるのか。簡単なことだったね。
一人でいると笑う機会なんて殆どないしね。
成程、一人じゃないのも悪くはないかな。
僕はいつの間にか、そのように考えを改めるようになっていたのだった。