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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
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777食目 自由への開放

 ◆◆◆ 語り部 ◆◆◆


 エルティナが虎熊童子を退治した瞬間を、彼の創造物たるトチはしっかりと見届けていた。それでも、彼女の心は虎熊童子の命令に縛られたまま。


「(やっぱりか……いや、最初から分かっていたことだ)」


 自嘲とも呼べる笑みを浮かべ、再び鬼仙術黄泉平坂を発動する。自分にできることはこれだけ、他の鬼仙術は一切使えず、虎熊童子も教える事、そして習得することを禁じた。

 虎熊童子が何を考え、何を思ってトチを生み出したかは、今となっては分からない。しかし、決して意味も無くトチが生み出されたという事はない。彼なりの思惑がそこにはあったのだ。


 何故ならば、虎熊童子もまた、創られた存在だったのだから。


「トチ! 虎熊童子は倒れた! もう、戦いは終わったんだ!」

「終わっていない。トチは、戦う事を、自分でやめることが、できない」

「く、クソったれ!」


 ダナンの呼びかけに淡々と答えるトチ。その返答はダナンにとって何よりものダメージとなった。それでも果敢に魔導銃の照準をトチに定め引き金を引く。

 トチは棒立ちのままだ。しかし、ダナンが放った弾丸はそんな彼女にかすりもしなかった。


「ダナン、トチの核は、ここだ。しっかり狙え」

「っ! でも、そんなことをしたら!」

「終わらせてくれるんだろう?」


 震える手、それでは棒立ちのトチにすら弾丸は命中しない。

 ダナンの決意もトチとの決別の瞬間、その最大のチャンスを理解した瞬間に決壊した。


「(何やってんだ、俺! 俺が終わらせてやるって言っただろうに!)」


 頭では理解していても、心は全力でその結末を否定していた。その心を支持するがごとく、ダナンの身体は自由に動かない。


『もういい、さがれ。とちは、おれが、やるっ!』


 そこに、レッドピクシーが割り込んできた。ダナンとは違い彼女には支配される辛さを理解していた。


 精霊とは一見自由な存在と認識されがちであるが、それは間違った認識だ。彼らは属性という名の牢獄に縛られている。

 水なら水、火なら火、といったように特定の環境化にの下から離れることができない。そのことから、以外にも自由が少ないのだ。


 そして、治癒の精霊たちはヒーラーと言う名の牢獄に囚われていた。ただ、通常の精霊たちの意識は希薄であり、囚われているという実感は殆ど持ち合わせていない。

 そんな事もあり、精霊が不満を抱くという事は殆どなかった。


 しかし、世の中には精霊を行使し様々な現象を起こす【精霊使い】なる者が存在していた。


 精霊使いの多くは精霊の都合を考えない。あるいは精霊の気持ちを理解している、と勘違いしていた。

 精霊使いの言葉は一方的に精霊たちに申し付けられ、精霊たちの言葉は彼らに届くことが無い。


 その軋轢はどんどんと深まり、希薄だった精霊の意識が時を経て濃密になり、やがて修正不可能になった時、事件は起こった。

 精霊たちが、精霊使いに対して、反乱を起こしたのである。


『しはいされたままは、いやだもんな』


 精霊たちの反乱は双方に深い傷を刻んだまま収束。精霊使いたちの大半は、今から二千年前に姿を消した。その後は【魔法】という形で精霊たちの協力を仰ぐことになる。そして、その反乱の首謀者が何を隠そう、在りし日のレッドピクシーなのだ。


 反乱を起こし、暫しの間、属性を失い宙ぶらりんとなっていた彼女は、治癒の精霊たちに誘われ、治癒の精霊として適当な日々を送るようになる。

 多くのヒーラーの元を訪れては別れを繰り返し、大した感情も抱かないまま、他の精霊たちと過ごす日々は彼女の個性を奪い去り、やがて他の精霊同様の無個性を与える形となった。


 転機となったのは、エルティナの魔力に引かれ、彼女の下に仲間たちと訪れた際。そこからは激動の日々であった。


 五十もの治癒の精霊たちはエルティナの魔力の影響を受け、徐々にではあるが個性を獲得していった。それは、姿を得る、ということでも顕著に示されている。

 通常、治癒の精霊は他者には見ることが叶わない。素質ある者でもぼんやりと輝きが見える程度だ。


 しかし、チユーズは違った。莫大なエルティナの魔力が、治癒の精霊たちを根本から変化させてしまったのである。

 そして、その行動も一変する。いままでは他の属性の精霊たちと仲良くしていた彼女らが態度を一変し、他の精霊をエルティナに寄せ付けなくさせたのである。

 エルティナに近付けないと悟った他属性の精霊は、エルティナの周囲を恨めしそうに漂うに留まり、以後もこの関係が続く。


 更に、この変化は環境によって更に進行。エルティナが桃使いとして覚醒することにより加速してゆく。

 エルティナの見せる愛と勇気と努力は治癒の精霊たちに、生きる事、命の尊さを改めて認識させたのだ。


 そして、エルティナの適当と言うか、無駄な自由さは精霊たちに新たなる境地を示した。


 チユーズは自由に彼女の下から飛び出し活動することができたのだ。それは、エルティナの持つ莫大な魔力量と、彼女との【絆】という名の【帰る場所】があったからだ。


 帰る場所がある、その認識はチユーズたちに、とある忘れていた記憶を蘇らせる。治癒の精霊全体で記憶し保管していたある種の誓いのようなものだ。


『偽りの女神から、真なる約束の子を護れ』


 治癒の精霊たちはカーンテヒル自らが生み出した精霊であり、他の精霊たちは女神マイアスが世界崩壊後に生み出した存在であった。ある意味で他の精霊たちは女神マイアスの先兵のようなものである。

 だからこそ、治癒の精霊たちは他の精霊たちの接近を拒み、エルティナを、真なる約束の子を護り続けていたのだ。その結果が、エルティナの治癒魔法以外の魔法の暴発である。


「とち、おまえは、とらくまに、じゆうを、もとめられたんだろ?」

「あぁ、でも、それは、叶わない。トチは、失敗作、だったんだ」

「じんこうの、せいれい。それが、おまえの、しょうたい」

「そう、トチは、人じゃない。そして、精霊でもない。ただの、失敗作」


 蘇った死者たちがレッドピクシーに襲い掛かる。精霊の限界を超えんとしてるレッドピクシーには、死者の動きが矢鱈と緩慢でぎこちなく見えた。


『じゃまを、してくれるな』


 急造でこしらえたGT・MRでも余裕を持って回避。反撃の魔導ライフルで、今や意味をなさなくなりつつあるあの世へ、哀れな死者を送り還す。


 死者との戦いは激戦を極めた。魔導騎兵の介入は防がれることになったが、死者は延々と増殖する一方。随行した騎士たちも、ほぼ全滅状態にあり絶望感は増すばかりだ。


 それでも、絶望に屈しないのは、ここにエルティナという確かな希望があるため。

 とはいえ、限度というものがある。次々と敵として蘇るかつての仲間の姿は、歴戦の戦士たちの精神を容赦なく削り取る。


「そろそろ、苦しくなってきましたね。ルリ、まだいけますか?」

「ルドルフ、私は問題ない。それよりも……」

「えぇ、随分と死んでしまいました。あれだけいた仲間の殆どが敵として蘇っている状況に、吐き気すら覚えます」


 ルドルフの巨大モンキースパナが、蘇った意志無きスラックの遺体を叩き潰す。ルリティティスは氷の矢を無数に発生させて、意志無きメルシェの亡骸を貫いた。


「……ん?」


 とここでルドルフがある点に気が付いた。それは、この状況下に置いて不自然とも言える点だ。死者は速やかに冒涜的な戦士としてトチに使役される。

 にもかかわらず、ある人物だけが死んでいるにもかかわらず、召喚されず使役もされないままであるのだ。


「(まさか……あの子はそれを狙って?)」


 ルドルフはある種の確信を抱いた。そして、それをサポートすべく〈テレパス〉にて、仲間と連絡を取り合う。


『聞いてください。策があります』

『策って……この状況でか!?』

『ダナン、落ち着いて。この状況だからこそ、です』


 ルドルフの作戦は、トチをとある場所に誘導する、といった極めてシンプルなものであった。彼曰く、それで全てが終わる、とのこと。

 自信を持って作戦を伝える彼の声は、やがて彼女のものとなった。獣化をおこなったのである。


 その声の変化に、ルドルフの本気を感じ取った彼らは行動に移り始める。レッドピクシーは最後まで渋ったものの、トチを開放する、という意見の一致でルドルフに従った。


「動きが変わった。何か、するつもりだな」


 トチは棒立ちであったが、それでも一応は攻撃をかわしている。そんな彼女を追い立てるかのように、ダナンとレッドピクシーは苛烈な攻撃をトチに加える。

 その殆どが亡骸の戦士たちに防がれるも、彼女を移動させることに成功。トチは目的のポイントへと移動を開始した。


「(頼む、これで終わってくれ!)」


 ダナンは最早、祈ることしかできない。自分の手で終わらせると宣言したのに情けないことだ、と自虐する。

 一方のレッドピクシーもダナンと同じ思いだ。この手で、と決意しているのにそれが成し遂げることができない。


「何を、しようと、している?」

「よそ見はいけませんよ!」


 ルドルフが鎧の殆どをモンキースパナに装着させ、巨大な砲を形成させる。彼女の切り札とも言える、魔導キャノンだ。

 その一撃は躯の戦士たちを一瞬で壊滅させるほどの威力を秘めている。その証拠に、ルドルフの放った魔導キャノンは激しい爆風と共に、数多くの躯の戦士たちを消滅させてしまっていた。

 その光景にトチは目を見開き驚愕する。まだ、これほどの余力を残していることに対してだ。


「あいつら、後先を、考えなくなった?」


 ダナンたちとルドルフを警戒しながら後退するトチの足に何かがぶつかる。それは頸を切断されたキュウトの遺体であった。

 目を見開き、おびただしい血を流して息絶えているであろう彼女はピクリとも動かない。


「邪魔……いや、違う。何故……」


 トチの口は、その先を言う事ができなかった。彼女の胸を貫く魔導光剣の光の刃。口から溢れるのは、どろりとした赤い液体。


「待ってたぜ。ずっとな」


 キュウトの頸が口を開いた。頸と身体は無き別れをしたままだ。にもかかわらず、キュウトの身体は起き上がり、懐から取り出した魔導光剣でトチを貫いている。


「ぐ……ごぶ、な、何故、死んで、いない」

「簡単なことさ」


 キュウトの頸と身体がポンっ、という軽快な音ともに煙に包まれる。煙が晴れた後には、二匹の子狐が姿を見せた。


「俺は一つの身体に、二つの魂を持っているんだ。事前に身体を二つに分けておいたのさ」

「この血に見えるのは、トマトジュースじゃよ。後で毛繕いせんとのぅ」


 キュウトの説明にトチは呆けた表情を見せた。そして、血を撒き散らしながら大笑いをする。


「誰にも、説明せずに、ずっと待っていたのか? ごほっ」

「あぁ、絶対に気付いてくれる、と確信していた」

「あははは! トチは、全然、気が……ごほっ、付かなかった!」


 黄泉平坂で呼び出された躯の戦士たちが、体を維持できなくなり次々に塵となっていった。トチも膝を突き、おびただしい血を流している。息も荒い。

 核を損傷したため、身体機能の維持が困難になりつつあるのだ。


 二匹の銀狐は一つに交わり少女の姿へと変化する。キュウトに表情は無い。ただ、膝を突くトチを静かに見下ろしているだけだ。


「ダナン、レッドピクシー。トチを楽にしてやってくれ」


 キュウトは静かに背を向け、その場を離れた。彼女にはトチに引導を渡してやれるだけの勇気を持ち合わせていないことを悟ったのだ。

 キュウトに後を託されたダナンとレッドピクシーは、瀕死のトチの前に立った。


「トチ……」

「はは……やくそく、はたして、くれるんだろ?」

「あぁ」

「くるしいから、はやく……してくれ」

『まかせろ』


 レッドピクシーのGT・MRの魔導ライフルの銃口が、トチの核に当てられた。後は引き金を引くだけだ。これがトチとの別れとなる。

 モモガーディアンズたちは、そんな彼女の最期を見守った。


「トチ、俺たちは、おまえを忘れない」

「それは、うれしいことだ。トチも、おまえたちを、わすれない。これだけは、トチの【じゆう】なのだから」


 ダナンの手向けの言葉に、トチは掠れた声で返事を返した。そして、銃声。核を破壊されたトチは静かにその姿を霧散させていった。


「意外と……涙って流れないもんなんだな」

「……ダナン……大丈夫。あなたは、きちんと……泣けているわ」


 ダナンは消えゆくトチに涙を見せることはなかった。ただただ、悔しさと後悔が込み上げてくるばかりであったのだ。そんな彼の憔悴した姿に、妻であるララァは堪らず彼を抱擁する。


 ここに、因縁の相手との戦いは幕を下ろした。失ったものは多く、得たものは少ない。それでも、彼らは前に進む。まだ戦いが終わったわけではないからだ。


『(……とち。さいごの、しゅんかんは、じゆうに、なれたかい?)』


 レッドピクシーの問いかけは、果たして彼女に届いたであろうか。それを知る者は一人としていなかった。

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