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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
775/800

775食目 メイン盾

 元人面犬は女神ヘラから吸い上げる莫大な力を使用し、電撃とも光線ともつかない何かを放ってきた。それを見た瞬間に背筋に悪寒が走る。

 それは、ザインちゃんやライオットも同様だったらしく、しっかりとへにょへにょしている光線を避けた。


 抉れる機械の床、爆散する機械の壁。共通していることは、光線に当たった箇所が綺麗さっぱりと消失している点である。


「喰ったのか!?」

『あぁ、全てを喰らう者のエネルギーを感知。女神マイアスの研究データを吸収したらしいな』

「なんて、面倒臭いやつなんだ」

『それには同意だ』


 そんなわけで、後半は当たり前のように、全てを喰らう者の力をバンバン使ってくる敵が居過ぎて嫌になってしまいます。

 だが、それを乗り越えて、俺は【真なる約束の日】を迎えなければならない。したがって、こんなところで、まごまごしているわけにはいかないのである。


「ふきゅん、やむを得まい。これを使う!」

『そ、それは……!』


 俺はフリースペースから禁断の秘密兵器を取り出した。その恐るべき存在感は誰しもの視線を奪う。高々と掲げられたそれを手元に寄せて、俺は叫ぶ。


「カレーライス~!」

『仰々しいにも程がある』


 トウヤの華麗なるツッコミを頂戴した後に、カレーライスを頂戴する。これが、ダブルカレーというものか。今上手い事を言った。そして、カレーライスは美味い。


 これ、いけるんとちゃうか? 会場もどっかんどっかんやでぇ。


 などと一人ボケ、一人ツッコミを脳内で炸裂させながらカレーライスを美味しくいただく。これは決してサボっているわけではない、そのことを俺は強く主張したかった。


 このカレーライスは特別製だ。ゲームで言うところの【エリクサー】に相当するものである。

 数々のスパイスを吟味し黄金の配合をした後に、更に吟味した神級食材でもって丁寧に作り上げた一品だ。

 煮込みに丸一年も掛けただけあって恐るべき芳醇な味に仕上がっている。フレイベクス肉もトロトロやぞ。

 したがって、スプーンは加速度的に早まり、遂に音速を越え、光速の域に達する。


 うぉん! 今の俺は黄金闘士だぁ!


 実際はよく味わって食べているので遅いです、と白状した俺は正直者だ。

 だが、そのおかげで【究極完全体カレーライス】の効果はバッチリであり、しょんぼりしていた俺のパゥア~も完全回復である。


「これならいけるぜ、げふぅ」

『汚い。なんで、おまえは人前で下品な行動ができるのだ』

「出るもの憚らず。それが俺の良いところ」

『悪いところだ』


 すっくと立ち上がる。ぶるるんと乳肉が揺れて鬱陶しいことこの上ないが、これも女として生を受けた宿命であろう。

 完全回復を成し遂げたなら、やる事は盛りだくさんだ。負傷者の回復に始まり、各戦場のサポート。そして、晩ご飯の支度と主婦は忙しいのだ。


 今日は何にしようかしらん。


「取り敢えずは〈ワイドソウルヒール〉で」

『居酒屋感覚だな』


 ツッコミの鬼と化したトウヤにもへこたれない。広域治癒魔法にて負傷者たちを纏めて治療する。これで、ダナンたちは益々勢い付くであろう。

 魔導騎兵というアドバンテージを奪われたトチは苦しくなる一方だ。であるなら、このビリビリ顔面をどうにかすれば俺たちの勝ち確である。


 それがまた面倒臭い。問題となるのは囚われている女神ヘラである。この一柱が放っているエネルギーはあろうことかカーンテヒル様の力。


 女神ヘラがゼウス様を庇ってカーンテヒル様に取り込まれた際に、なんらかの要因からか、彼女にカーンテヒル様の力が流れ込んでしまったらしい。

 恐らくは、それが原因でマイアスお祖母ちゃんに目を付けられてしまったのだろう。

 そして、全てを喰らう者の研究、そしてエネルギーの供給源として、今日まで利用され続けてきたのだ。


「見た目はふざけているが、厄介なことこの上ないな」

『そうだな。あれは、全てを喰らう者と同等と考えて差し支えないだろう』

「にしても……ぶっさいくだな」

『あぁ、見ていてげんなりする』


 トウヤも同じ見解を示したので、そのように行動を開始する。雑魚敵かと思ったら、大した化け物に進化して腹が立ちますよ。


「ライ、アレとはまだ繋がっているのか?」

「いや、アレがくそでけぇ顔だけになった瞬間に切られた」


「それすらも食うとなると、本格的な能力を持っていやがるな……ゼウス様」

「なんじゃ、エルティナ」

「俺がくそデカ顔面の気を引き付けるから、ヘラ様の奪還をゆっくり急いでくれ。マイアスお祖母ちゃんに、この事を悟られたら面倒臭い事になる」

「あい分かった……って、ゆっくり急げって、どっちじゃ!?」


 時間との戦いになるだろう。ゼウス様を見たが既に魂の半分が崩壊している。たった一人の女性のために、男はそこまでできる生き物なのだ。できることなら、完全に崩壊する前に女神ヘラと引き合わせてやりたいところ。


「ザイン、油断はできない。気を引き締めろよ」

「委細承知!」


「ライは、ザインちゃんと共にメインアタッカーを」

「任せろ!」


「俺は回復とメイン盾をやる! ユクゾッ!」

「「おう!」」


 枝と永遠の存在に回復とはこれいかに、となるであろう。しかし、永遠の存在であっても実は全てを喰らう者属性だと普通に負傷する。というか欠ける。


 欠けても存在が失われることがないが、肉体の六割を喰われると【所属】が相手に移ってしまうのだ。つまり、先ほどまでの味方が、いきなり敵になってしまう。


 したがって、こちらに所属権がある内に、治癒魔法という名の奪還方法で喰われた魂を奪い返す必要があるのだ。一発で丸呑みされた場合は意味ないが。


「よぉし、特訓の成果をみせるとき」

『しくじるなよ』

「わかってらい」


 全てを喰らう者同士の戦いに置いて防御という選択肢は愚かだと思われていた。

 しかし、俺は寝ながら考えたのだ。起きると殆ど忘れている、という欠点はあったものの、これで二十四時間考えることが可能なら安いもの。

 その、微妙に長きに渡る思考の結果、俺は全てを喰らう者の攻撃を防ぐ方法を樹立した。


「ふきゅん! おらおら! おまえのか~ちゃん、でか顔っ!」

「顔だけではない、全てが巨大であるわっ!」


 あぁ、そういや、こいつの母親って女神ガイアだったか。そりゃあ、デカいわな。


 だが、ヘイトは集めることに成功。これで、メイン盾は充実する。

 一人でヒーラーもこなさいないといけないのは辛いところだが、黄金の珍獣の塊は【引かぬ、媚びぬ、顧みぬ】の精神でこれを耐え忍ぶ。


『来たぞ、エルティナ!』

「応!〈連鎖魔法障壁〉展開!」


 これが、俺の答えだ。強力な魔法障壁を高速で張りまくる。全てを喰らう者とはいえども、捕食する際に一瞬だが停止する、という微妙な弱点があるのだ。

 その瞬間を目掛けて新しい障壁を連続で張る、とどうなるか。答えがこれだ。


「な、なんだと!? 全てを喰らう者の攻撃を防いだ!?」

「ふっきゅんきゅんきゅん! どやぁ……」


 ヤツの放った電撃っぽい全てを喰らう者は、俺の秘技によって完全シャットアウトされたのである。

 だが、誰しもが使えるものではない。俺のイカれた魔力量があってこそなのだ。


 ごりごり魔力が減っていきますよぉ、ひぎぃ。


「今だ!」

「承知っ!」


 この動揺に付け入るライオットとザインちゃん。共に人型から獣へと変じ、巨大な顔に襲い掛かる。両者とも俺と繋がっているので、全てを喰らう者にもダメージを与えることが可能だ。


 問題となるのはゼウス様である。流石に彼を食べてしまうと色々と計画が壊れてしまうので、【今】は食べることができない。なんとしてでも、生かしておかなければならないのだ。

 そして、ここで、ちょっとした問題が発生。


「エ、エルちゃん!」

「グリシーヌ、こっちに来たら危険がデンジャラス。極めてエキサイティングなんだぜ」

「よく分からないけど、けど。あの人が、私を呼んでるんだな、だなっ!」


 ぷるんぷるん、と柔らかな肉を揺らしながら荒い呼吸をするのは、意を決して弾丸が飛び交う戦場を駆け抜けてきたからだろう。意外と無茶をする娘だ。


 そんなグリシーヌが差した場所は女神ヘラが漂うカプセルだ。俺にはそのような声は一切聞こえなかった。

 だが、彼女の言う事が本当なら、女神ヘラには意識が戻りつつある、ということなのだろうか。


 しかし、事態は一行を争う展開へと移行する。女神ヘラの足先が崩壊し始めたのだ。

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