772食目 秘密兵器な連中
俺は小さな手を天に掲げ、そこはかともない凄そうなオーラを解き放つ。
そして、無駄のない無駄な動きに合わせて、仰々しいBGMをケツから流した。
「よし、きみに決めたっ! いけっ、ラングステンゼリー!」
「ぷるるるるるるっ」
そして、最後は他力本願。悲しいけど、これって食いしん坊エルフなのよね。
俺の魂から、どんどん飛び出してゆくラングステンゼリー。地上最弱の生物が狙うのは、宇宙最強クラスの戦闘能力を持つ魔導騎兵たちだ。
どう考えても、勝ち目などありはしないだろう。
「ちょっ!? なんで、ここで、こいつらなんだよ!?」
「ダナン、この場面だからこそ、だ!」
そう、まともな状況下であったなら、ラングステンゼリーはクソザコナメクジのお邪魔虫に過ぎない。しかし、この状況が彼らを対魔導騎兵【最凶兵器】へと変貌させるのだ。
大混戦の中、魔導騎兵の一体が黒い煙を吐いて停止した。また一体、また一体と同じ結末を辿る。
「な……これって、まさか!」
「……ダナン、ラングステンゼリーが、魔導騎兵の中に入ったのを見たわ……」
「ララァ、マジかよ、それ」
「……うん……」
そのとおり、隙間だらけのボディは軟体生物であるラングステンゼリーにとって、入ってくださいと言っているようなもの。
彼らは「おじゃまするわよ~」と魔導騎兵の内部に侵入、制御装置に纏わり付きショートさせているのだ。
その結果、彼らは一瞬で蒸発してしまうが、一瞬で俺の魂内に帰還し、再び元気に飛び出してゆく。
そっちがガンガン魔導騎兵を送り込んでくるなら、こっちも無限にラングステンゼリーをけしかけてくれる。果たして、増援が尽きるのは、どっちが先かなぁ?
暗黒微笑を浮かべる俺は更なる手を打つ。動かなくなった魔導騎兵にチユーズを向かわせたのだ。
「ふきゅん、いけそうか?」
『さんぷん』『くれ』『れんちゅう』『いいしごと』『してくれた』
チユーズの返答に、俺は更なる邪悪顔を披露する。
そう、増援が見込めないなら、増援を作ってしまえばいいのだ。トチの鬼仙術〈黄泉平坂〉のように現地調達で、だ。
やがて、GT・MTにそっくりな魔導騎兵は再起動を果たし、三連スコープをぐりぐり回して動作チェックに入った。
味方であることを示すために右肩を赤く塗る、という無駄な行為も三分でやってのける辺り、チユーズもだいぶ成長したと実感させられる。
『かくぶ』『いじょうなし!』『いいぞ!』
『じーてぃー・むせる・りふぁいん、きどう!』
そして、再起動を果たす魔導騎兵。その一体一体にはチユーズが乗り込み、戦場を縦横無尽に駆け回る。桃式戦闘機で慣らした腕前は健在だ。
「な、なんだ!? 何が起きている! 魔導騎兵、何故、逆らう!?」
『とち!』
「その声は……【レッドピクシー】か!」
最初に再起動を果たした魔導騎兵GT・M・Rを駆るのはチユーズの絶対エース【レッドピクシー】だ。
いつの間にやら個性を持ってしまった彼女であるが、数々の戦いを見てきたチユーズなら仕方のない部分もある。彼女らは俺と常に共に在り、共に成長してきたのだから。
「おまえとは、たたかいたくなかった!」
「今更……遅い!」
トチとチユーズは遊び友達だった。暇を持て余すとチユーズは彼女の下を訪れて変な遊びばかりをしていたのである。地獄のパンツ被りカーニバルなど、狂気の沙汰であった。
特にレッドピクシーとトチは相性が良かったらしく、トチがモモガーディアンズで短いながらも気楽に過ごしていた頃は、大抵、彼女の傍にはレッドピクシーの姿があった。
だからこそ、レッドピクシーは、この機会をものにするつもりなのだろう。
「なら、おれが、いんどうを、わたしてやる!」
「できるのか!? おまえが!」
トチが再度、鬼仙術黄泉平坂を行使する。再び屍の戦士たちが腐臭を撒き散らしながら顕現した。その中にはマフティたちの姿もある。
事情を知っている俺は一切の動揺を感じなかったが、事情を知らない連中はその限りではない。あからさまな動揺を見せた。
「あ、あいつらまで……!? 勝てるのかよ、この戦い!」
「……ダナン、しっかりして! 帰るんでしょう!? ダーナの下へ!」
「ララァ……! そうだ、帰らないと、俺たちの娘の下へ!」
いち早く立ち直ったのは、ダナン夫妻。やっぱり、子を持つ親は強い。
『……エル。カーンテヒル様を迎えに行ってくるわ』
『ヒーちゃん、頼む』
ここで、ヒュリティアが戦線を離脱。湾曲空間となっている通路をこじ開けに行く。かなりのしんどい作業になるが、カーンテヒル様が到着してくれないとお話にならない。
彼女が抜けた穴は、ラングステンゼリーとチユーズにがんばってもらう。マジェクトと鬼軍団も地味ながらいい仕事をしてくれている。
問題はゼウス様だ。どうやら、人面犬に苦戦しているもよう。相性がよろしくないもようである。こっちも面倒を見ないと厄介になる事は明白。さて、どうしたものか。
もたもたしていると、虎熊童子がこっちに向かってきてしまう。ウォルガングお祖父ちゃんが虎熊童子を退治してくれるのが最も好ましいのだが、そこまで期待するのも酷というものだ。もう齢八十やぞ。
「ふきゅん!? まぶしっ!」
その時、光り輝く獣が戦場を駆け抜け、俺の下に参じたではないか。俺はその獣が何者であるか瞬時に理解した。理解できないはずがないのだ。
『エル!』
「ライ! 来てくれたか!」
きたっ! ライオットきたっ! これで勝つるっ!
『待たせたっ! グネグネした空間を抜けるのに手間取っちまったぜ!』
「そんな事は、今はいいんだ! やるぞ、ライ!」
『おう! 身魂融合!』
輝ける獅子となったライオットを食べる。彼が持つ【全ての命の絆】は完全となり、【全ての魂の絆】へと進化を果たした。これで、マイアスお祖母ちゃんの呪縛は完全に無効化されたことになる。
「さぁ、反撃の時間だ」
『あぁ、長かったぜ』
俺は胸に手を当てる。ひと際高い鼓動が鳴り響き、戦場に立つものの注視を集めた。
さぁ、括目するがいい。新たなる守護者の誕生を。
「来たれ! 魂の守護者! ライオット・デイル!」
輝ける獅子は再び戦場へと降り立つ。今度は実体を伴い、漲る闘志を溢れさせての登場である。待ちに待った、彼の真の戦いが始まるのだ。
「魂の守護者、ライオット・デイル……見参っ!」
機械の床を踏みしめる。地震かという揺れが襲いかかった。バランスを崩す者、転倒する者、反動で天井に突き刺さる者、など様々……だれだぁ! 天井に突き刺さったヤツはぁ!?
「ライ、あの人面犬を頼む!」
「おう、任されたっ!」
閃光のごとく踏み込み、一瞬で人面犬の顔面に拳を突き入れるライオットは情け容赦がない。人面犬の顔が、梅干を食べた時の口になっていて、なんだか笑ってしまう。
あとはカーンテヒル様の到着を待つばかり。しかし、その前に、ここを片付けてしまいたい。本来なら予定に入れていなかったが、今ここで行使することにしよう。
大胆な予定変更は白エルフの特権って、それ一番言われてっから!
「アルア、それ、壊せそうか?」
「あはは! うまうま! あははは!」
食べるんかい。ちょっと、美味しそうだなって感じたので食べてみた。
「ふきゅん! これ美味いな。サクサクしてスナック菓子みたいで……」
「あはは! さくっく、くっく! あははは!」
近いところで【う〇い棒・コーンポタージュ味】だ。これは、やめれませんぞぉ。
サクサク、サクサク、ザクザク、サクサク、サクサク……。
「喰っとる場合かぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ふきゅんっ!?」
「あははははははははははっ!」
トウヤの怒涛のツッコミでお食事は中断。魅惑的な食感の光の檻は、結局アルアのお腹に収まってしまいましたとさ。ふぁっきゅん。
しかし、これで、とんぺーは回収できた。俺の全力を、全てを喰らう者の本気を見せる時がやってきたのだ。
もう許さねぇからな、おしっこ漏らす準備はできたか? でも、おっきい方は勘弁な?
俺は燃費の良い幼女形体を解除、大人形態へと戻る。残念ながら、幼女形体で奥の手が成功した試しがない。
あぁ、おっぱいが、ぽよんぽよんして鬱陶しいんじゃあ。
「枝よ! 戻れ!」
枝たちを緊急回収し、決戦に備える。
「虎熊童子……今、俺が、おまえを、全力で救ってやろう。その無限地獄から」
俺は大いなる力を解き放つ。それは、果たして異形の存在であった。




