769食目 いつもどおりな俺たち
◆◆◆ エルティナ ◆◆◆
いやぁ、きついっす!
目の前の激烈異形幼女に俺は速やかに白目痙攣状態に至り、何もかも放り投げて牛丼チェーン店に引き籠りたい衝動に駆られる。確実に牛丼店は潰れるであろうが気にしない方向で進める俺は特別天然記念物だ。たぶん罪は免れるであろう。
「アザトース様、一つ聞いていいですか?」
「ナニカ、ヨウカナ?」
「触手……凄いですね」
「ソレホドデモナイ」
チラ。
そして、二人でとある人物を様子見る。ヤツは無防備な後姿をバッチリと晒していた。
「ひゃあ! たまんねぇ! 鬼は退治だぁ!」
「オレサマ、オマエ、マルカジリ!」
「な、何をするぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
この期に及んで仲間割れするわけねぇだろ、いいかげんにしろ。
これはアザトース様と打ち合わせ済みの、不意打ちからのだまし討ち、通称【ふいだま】である。効果、相手は死ぬ。
しかし、虎熊童子のセリフからして、これは読んでいたもよう。油断ならぬ相手だ。
「くっくっく、やはり、だまし討ちか! いいぞ、もっと俺を楽しませろ!」
「そこは、バッサリぶった切られるのが、お約束なんじゃないですかねぇ?」
「コノヘタレガ」
「言いたい放題言ってくれる」
「なんでもいいわい、さっさと滅びよ! タイガーベアー!」
あぁ、もう滅茶苦茶だよ。あ、そうそう、シリアスさんは死にました。これ重要な。
「な、何が起こってんだ!?」
「ダナン! トチに集中しろ! 早く、ヤツのケツにホースラディッシュを突っ込むんだぁ!」
「バカ野郎、ぢになんだろが!?」
「トチは、一向に構わん! かも~ん」
「「マジパネェな!?」」
「トチは、俺が育てた」
「自分の娘に何をしておるんじゃ、外道っ!」
「くっくっく、怖かろう」
お分かりいただけたであろうか。シリアスさんがお亡くなりになると、ご覧の有様になってしまうのだ。これがラスボス(仮)との決戦というのだから困ったものである。
でも、これが俺たちの戦い方なのだ。壊れるなぁ、物語。
「あぁ、もう! 滅茶苦茶になってきた!」
「ダナン、普段どおりになってきた、が正しいのではないでしょうか?」
「……そうともいうわね、ルドルフさん」
「流石はエル様でございますわ! このブランナ、感服でございます!」
はい、いつもどおりの、わたくしめでございます。というか、これ以外の俺がどこにいるのか教えてほしい。トウヤは答えてくれない。
『答える気も失せる、バカ者が』
『ひぎぃ』
そんなわけで、虎熊童子との決戦もいつもどおりだ。とはいえ、もう自重する意味など皆無であるので、俺、やっちゃうからね~?
「来たれ! 全てを喰らう者・雷の枝! ヴォルガー・ザイン!」
「我、主の呼びかけに応え、ここに見参!」
魂からザインを呼び出し雷の龍に乗り虎熊童子の頭上を取る。下からはアザトース様のうねうねが襲いかかり、ウォルガングお祖父ちゃんが逃げ道をシャットアウト。
ふははは、虎熊童子、きみはいいボスキャラであったが、女神マイアスが悪いのだよ。
「くっくっく! それでこそ、待った甲斐があるというものだ!」
虎熊童子は迫るうねうねを金棒を床に叩き付ける事により行動不能にし、続けてウォルガングお祖父ちゃんに金棒を突き付けることにより突撃を阻止、上空からの攻撃に備えたではないか。
ちょっと~、計画が狂うでしょうが? やめてよね、そういうの。
「来たれ! 全てを喰らう者・竜の枝! シグルド!」
「我の力、存分に振るってくれようぞ!」
というわけで、追加の投入でございます。流石の虎熊童子もシグルドの登場に警戒を露わにした。それもそのはず。
シグルドは枝と化しても桃力が使用できるチートキャラと化したのだから。
「マイク!」
「OK! 身魂融合!」
ここで、ロボコ……げふんげふん、桃先輩のマイクがシグルドと身魂融合を果たす。
しかし、悲しいお知らせをしなくてはならない。彼は、死にました~。
『よぉし、久々の感覚に、俺っち大興奮!』
「妙な事を言うな、気持ち悪い」
『ひでぇよ、ブラザー! 俺っち、泣いちゃうんだから!』
「ふきゅん、そんなマイクさんに悲しいお知らせなんだぜ」
はい、ガチ泣きでした。ガチ亡きでもいいかもしれない。まぁ、誤差だよ、誤差。
『ファック! こうなりゃ、自棄だ! とことん付き合うぜ、ブラザー!』
「う、うむ」
「枝と身魂融合したら、こうなるのが分からなかった、とか致命傷なんだぜ」
やってしまったのは仕方がない。それに、どうせ……いや、それを言っちまったら、今やっていることが全て無意味になっちまう。
「よし、やるぞ、シグルド!」
「おう! 喰らえい!〈暴虐の音玉〉!」
シグルドが桃力で覆った爆音を虎熊童子に向かって放った。それを、こともあろうか虎熊童子は片手で受け止め消滅させる。恐ろしいまでの力だ。
「そういえば、俺の鬼力の特性を教えていなかったな」
「なに?」
「俺の鬼力の特性は【食】! おまえと同じだ!」
ヤツの言葉に俺は戦慄を隠せなかった。それはつまり、やつもまた、全てを喰らう者の力を有していることになるからだ。
「もともと俺の鬼力の特性は微々たる力しか持っていなかった。くっくっく、全てはカーンテヒルの眷属たる白エルフのお陰だ。奴らの力が、俺の特性をここまで引き上げたのだ」
「それが狙いで、白エルフたちを喰らい尽した、というのか?」
「白エルフどもを喰らったのは偶然に過ぎん。退屈しのぎに過ぎんかったからな」
ヤツの言葉に魂が騒めく。頼むから、まだ大人しくしていてくれ。
「美味かったぞぉ? 特に女王の肉は格別であった。やわらかくてなぁ」
瞬間、虎熊童子が吹き飛ばされる。風の魔法によるものだ。
「ぐはっ! くっくっく、やはり、【そこ】にいたか」
「外道め、この怒りと憎しみは、おまえを消滅させねば収まらぬ」
俺の胸から伸びる腕、それは俺のものではない。胸の輝きから飛び出した腕は細く、女性のものを思わせるが声は男性のもの。彼は俺からゆっくりと姿を現した。
「大賢者デュリーゼ! おまえもまた、俺を楽しませてくれるのか!」
「おまえを楽しませるつもりはない! エルティナが魂の守護者、デュリーゼが永久に葬り去ってやろう!」
あぁ、出てきちゃった。この人、結構短気なんだよなぁ。まぁ、出てきてしまったものは仕方がない。壮絶なネタバレになってしまったが、構へんやろ。
『それで、いいのさね?』
『いいんだよ、アカネ。おまえたちも、そろそろ準備しておいてくれ』
『おう。まったく……死んでおまえに食われた時はどうなることかと』
『ふきゅん、オフォール。きみは特に美味しかったです。げふぅ』
『鳴けるぜ』
現在、俺の魂内の大樹には戦死したモモガーディアンズたちが大集合していた。先住民の初代様たちは困惑していたが、パパンが合流すると、たちまちの内に再会の喜びで大宴会を決行、殆どの者たちがへべれけ状態に落ちいっている。バカ野郎。
取り敢えず、豪雨を降らせて粛清とした。反省しろぉ。
「デュリーゼさん、計画こわれる~」
「も、申し訳ございません、エルティナ様」
「くっくっく、固い事を言うな。最後の祭りぞ! 大いに盛り上がろうではないか!」
どんどん敵が増えても大喜びな虎熊童子は変態に違いない。そう確信した俺は月光輝夜を構え、ぽぽぽポ~ン、と幼女形体へと移行する。
先ほどから、おっぱいぶるんぶるん! して、戦いに集中できないからだ。やっぱり、幼女形体がいいんやなって。
「ふきゅん、ここからが、本気だぜ」
「さっきから、本気だったではないか」
「しっ! それ、言っちゃダメ!」
「うむ、なんか、すまん」
戦いは奇想天外、魑魅魍魎、焼肉定食な展開を見せ、油断ならぬ状況を俺たちに強いた。
果たして、勝利を手にするのはどちらか。それはたぶん、フィリミシア在住のハゲリーノ・ピッカリーノさん(七十八歳)も分からないことであった。誰だよ、この人。




