766食目 ラスト・ドッキング
決戦の場へと集いつつある戦士たち。その中でも決着が付かんとしている戦場があった。決戦兵器ジャッジメントの攻防戦だ。
『見えた! ジャッジメントの最奥!』
「あれが……! 禍々しい力だ!」
「あれを斬ればいいんじゃな? 任せておけい!」
フォクベルトの駆るGDフライヤーの上に立ち、血に塗れたかのような妖刀を構える咲爛。
彼女の個人スキルは、ありとあらゆるものを切る能力を持っている。この場に置いては、彼女が勝利の鍵と言えた。
「いざっ!」
今まさに、咲爛の刀が振り下ろされんとした時、フォクベルトは直感にも似た電流が頭を走る感覚を覚え、GDフライヤーの軸を急いでずらした。
瞬間、彼らがいた場所を通り過ぎる巨大な光線。GDフライヤーの左翼の一部が蒸発した。
「うをっ!? 何事じゃっ!」
「やはり、すんなりとやらせてはくれませんか……!」
フォクベルトが眼鏡の位置を修正し見据える先には、ゆっくりと動き出す異形の巨人の姿。
「システムキドウ、シンニュウシャヲ、ハイジョシマス」
決戦兵器ジャッジメントの防衛システムにして最強の巨人、【聖獣ヘカトンケイル】が目を覚ましたのである。
元々は数多の頭と手、足を持つ異形の巨人であったが、女神マイアスはこれを鹵獲し改造、上半身のみを決戦兵器ジャッジメントのシステムとして組み込み、数多の頭と手でもってジャッジメント制御に当たらせていた。
更には、ヘカトンケイル自体がジャッジメントの守護者として機能する、という鉄壁の布陣を敷いたのだ。
機械の壁が次々に展開し、そこに納められていた巨大な魔導ライフルたちが姿を現す。
それを数多の手でもって受け取り、銃口を侵入者たちへと向ける。数多の頭から発せられる、おびただしい殺気はフォクベルトたちの感覚を鈍らせた。
『フォク!』
「分かってます! 咲爛、掴まっていて!」
「えぇい! せわしの無いことじゃ!」
無数の閃光がフォクベルトに集中する。ライオットを後回しにしているのには理由があった。現在の彼は外部からの干渉が不可能である、と判断したためだ。
その判断は正しく、現在のライオットは特殊な状態にあった。外部からの干渉を受け付けず、また自分からは干渉することができない、という状態になっているのだ。
『(なんにせよ、エルティナの下にまで行かないと、何も始められないか)』
全ての命の絆は。エルティナの下に届けられて、初めて全ての機能が発動される。
現在は命令権を女神マイアスから奪うに留まっており、それを維持するために、ライオットはほぼ全てのエネルギーを回している。したがって、戦闘に回せるエネルギーは無いに等しい。
「かわしきれないっ!」
「腕をぶった切ってしまえばよかろう!」
咲爛が構えた刀を振り下ろす。その斬撃は衝撃波を生み出し、ヘカトンケイルの巨椀の一つを切り落とすことに成功する。
「どうじゃっ!」
「やはり、効果が薄い!」
だが、おびただしい数の腕の前では、一本や二本を切り落としたところで効果は薄かった。更には、切り落とした腕が既に再生を始めている、という性質の悪さだ。
「なんじゃ、それはっ!? 反則であろう!」
「もう、この期に及んで、反則も何もないんですよっ!」
集中する閃光にGDフライヤーが削られてゆく。遂には被弾、最早これまで、と判断したフォクベルトは咲爛を抱えてGDフライヤーを放棄する。その直後に破壊光線がGDフライヤーに直撃し爆散した。
『フォク! もうすぐ皆が来る!』
「分かっています! 咲爛、あなたは僕が護り通します!」
「なんじゃ、不倫かえ?」
「今はそんな事言っている場合じゃ……うわわっ!」
フォクベルトはGDのスラスターが破損している咲爛を抱えて回避に専念、後続が到着するまで時間を稼いだ。その甲斐もあって、遂に後続が到着し一転攻勢に打って出る。
「遅くなったな! フォクベルト!」
「マフティ! 来てくれたのか!」
「けけけ、フォクベルトよぉ、嫁さんがいる前で不倫か?」
「わらわは、一晩の過ちを犯さねばならんのかえ?」
「フォクベルト君! 私というものがありながらっ!」
「違いますっ! ゴードンも変な事を言わないでっ! いたたっ! アマンダもっ!」
モモガーディアンズメンバーが集合した途端に、この有様である。しかし、これも彼らの強みであった。
適度に緊張が解れた彼らはヘカトンケイルに攻撃を仕掛ける。しかし、あまりに巨大すぎるヘカトンケイルには効果が薄かった。加えて、その驚異的な再生速度だ。
肉が弾け飛んでも数秒後には何もなかったかのように再生を果たす。宇宙要塞ASUKAからのエネルギー供給による超再生をおこなっているのである。
「再生速度が早過ぎる! きりがない!」
「攻撃を本体に集中させて、一気に撃破するんだ!」
フォクベルトの指示によりヘカトンケイルの胴体部分に攻撃を集中、すると心臓部分からコアらしき輝く球体が顔を覗かせた。それを当たりと踏んだフォクベルトは、咲爛に輝く球体を斬るように要請する。
「咲爛、恐らくはあれが、ヤツの急所です!」
「心得た! しかし、こうも離れていては斬撃の効果は薄い! あの異様な再生力では、切った瞬間に再生されてしまうわ!」
「どれだけ近付けばいいですか!?」
「最低でも、ヤツの腕が届く範囲!」
フォクベルトの額から汗が流れる。それは紛れもない死地だ。あの無数の腕が届く場所が、咲爛の有効攻撃範囲だというのだ。
飛び込むには危険過ぎる、かといって無暗の時間を掛けている場合ではない。既に純粋過ぎる死は臨界に達しようとしているのだから。
「フォクベルトっ! 時間がねぇぞ!」
「分かっています、マフティ!」
判断に困るフォクベルトの肩に置かれる手があった。血に塗れている大きな手の持ち主は、辛くも生き延びたガンズロックのものだ。
「フォクよぉ、ここが、勝負所だぜぇ?」
「ガンズロック! よく生きて……いえ、再会の喜びは後でですね」
「おうとも。まずは、やる事をやってからだぁな」
ガンズロックは半壊した両手斧を肩に掲げ、ヘカトンケイルを睨み付けた。
「出し惜しみは無しだぜぇ?」
「もちろんです。皆、聞いてください」
フォクベルトは作戦を〈テレパス〉にて、モモガーディアンズメンバーに伝える。それは、おおよそ作戦と言えるものではない。
フォクベルトと咲爛がヘカトンケイルの背後にあるであろうジャッジメントのコアを叩き切るために突撃するので、全力で援護してほしい、という作戦内容なのだ。
つまり、ヘカトンケイルを無視してジャッジメントのコア破壊を優先する、という無謀極まりないものである。
モモガーディアンズメンバーはフォクベルトの要請に困惑するも、時間がない、という認識でこれを了承。最後の突撃をおこなう覚悟を決めた。
「レディ」
「むせる、いっちゃえ~」
「うっし! やるとすっか!」
「けけけ、ほんと、飽きねぇ連中だぜ」
まずは、GT・MTと、マフティ、ゴードンのコンビが先陣を切った。それに続くのはクウヤとアマンダだ。そして、ガンズロック、フォクベルト、咲爛の順で突撃を開始する。
残ったのはゴーレノイド・クラークとシングルナンバーズたちだ。彼らは己の成すべきことを理解していた。
「みんな、よくここまで付いてきてくれた! これが、最後の合体だ!」
ゴーレノイド・クラークの合体シグナルに、シングルナンバーズが呼応する。
「シングルナンバーズ! 身魂合体!」
シングルナンバーズたちが変形を開始、次々と合体して行き、大いなる魂の騎士が姿を現した。
「「『大いなる魂の輝きに導かれ、【勇魂の騎士・ソウルレイトス】見参!』」
灰色の機体色は、クラークという魂が入り真紅へと染まる。全ての命を護る大いなる騎士は、ここに最後の合体を終えた。
「『いくぞ! ソウルレイトス!』」
ソウルレイトスのツインカメラアイが、クラークに応えるがごとく雄々しい輝きを見せた。宇宙すら震わせるその声に、ヘカトンケイルの注視が集まる。
遂に姿を現した勇魂の騎士は、最凶最悪の巨人との決戦に臨んだ。




