表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
762/800

762食目 虎熊童子

 木花桃吉郎と、覚醒した超魔動機兵ラグナロクが激しい戦いをおこない始めた頃、エルティナたちもまた、宿敵と対峙することとなる。


 プリエナのあり得ないほどの【運】は、本来辿り着くことが無かったであろう場所へと到達。

 そして、その広い空間には、金と黒とが混じり合った髪を持つ褐色肌の大男が、巨大な金棒を片手に、膝を突く天空神を見下ろしていた。


「虎熊童子……!」

「来たか……宿敵」


 禍々しい鬼力を放つ虎熊童子の背後には、透明のカプセルに納められた女性の裸体。薬液に満たされた内部に漂う女性の姿を見て、エルティナは眼差しを鋭くする。


「ふきゅん、女神ヘラか」

「そうだ、憎怨は彼女から神気を奪い、未来視を可能としている。そして、ここにいる男は彼女を奪い返さんとして、たった今、返り討ちに遭ったところだ」


 虎熊童子が膝を突く天空神の鳩尾に蹴りを入れ、エルティナの下にまで転がした。天空神は悶絶し、肺の空気を全て放出、それでも辛うじて意識は繋ぎ止めた。


「エルティナ、無念じゃ。幾つもの悲しみを作り出し、その末に得た力であっても、ヤツを超えることは叶わなんだ」

「ゼウス様、落ち着くんだ。いくら力があっても、気が動転してたら本来の力は発揮できないできにくい。だから、俺はヤツにこう言うだろうな」


 エルティナは天空神ゼウスを諭した後に、スッと息を吸い虎熊童子に宣言する。


「やろう、ぶっころしてやらぁ!」

「全然、冷静ではないではないかっ!」


 珍獣エルティナと天空神ゼウスは、共に迫真の集中線を用いたボケとツッコミを披露、これに虎熊童子は不敵な笑みを浮かべる。


「そうでなくてはな……今宵は最後の宴ぞ。最早、何も語る事はあるまい。その培った全ての力を我に叩き付けよ」


 虎熊童子は無骨な金棒を機械の床に叩きつけた。そして、紳士の装いを捨て去る。


「我こそは鬼が四天王、虎熊童子! 因果に導かれ、集いし戦士たちよ! 見事、この虎熊の首を打ち取って見せい!」


 金棒を構える虎熊童子の迫力に屈服する者はいたであろうか。答えは否、ここまで辿り着いた者に、そのような者は存在しない。


「上等だ、おるるぁん! 鬼を退治するのは桃使いのお仕事だって、それ一番言われてっから! ダナン、GD・ラスト・リベンジャーを頼むっ!」

「任されたっ!」


 エルティナはGD・ラスト・リベンジャーをダナンに託し、身一つで虎熊童子向かい合う。その様子を黄金のGDに身を包むウォルガングは見つめていた。


「(黒い男……我が宿敵!)」


 無意識に魔導光剣の柄に手が伸びる。そして、彼は待つのだ。開戦の時を。


「大将……」


 鬼であるマジェクトは迷いの中にいた。大恩ある虎熊童子に刃向かおうというのだ。

 女神マイアスに恨みはあれど、虎熊童子には感謝しかない。そんな彼に刃を向けるのは筋に反するのではないか。


「マジェクト、何を迷う」

「タ、タイガーベアー様……!」

「鬼は己の求めるものに従ってこそ……ぞ。戦い、食らい、蹂躙し、己の望むものを勝ちとれい」


 その真っ直ぐ過ぎる眼差しに、マジェクトは一生で使う全ての感謝を彼に捧げ、意を決して武器を構えた。

 彼に従う鬼たちも同様だ。アランを従えた虎熊童子は、彼らにとって神に等しい。しかし、彼らはマジェクトに全てを預けた。だからこそ、彼らは神に戦いを挑む。


「トウヤ、覚悟はできてるか? 俺はできてる」

『今更だな。できているに決まっているだろう』


 エルティナが莫大な桃力を解き放つ。それは、虎熊童子が想定した彼女の桃力を遥かに超えていた。


「(この力は……ふっふっふ、貴様もまた【鬼】ということか)」


 虎熊童子は、ほくそ笑む。かつて無いほど強大な力を持つ桃使いを前に。

 震える身体は武者震い、その力を全て出し尽くせるであろうという確信。


 吉備津システムが起動された。最後になるであろうシステムの起動に、トウヤは万感の思いで臨む。


「ふきゅん! 来たれ! 魂で結ばれし獣臣たちよ!」


 エルティナの呼びかけに応えるは三匹の獣臣。イフリートの炎楽、フェンリルの雪希、子雀うずめ。

 彼らは魂の導きにより、全てを越えて主の下へと馳せ参じる。その姿は光の粒子へと解れ、エルティナに力を与えるのだ。


「いざ征かん! 鬼退治っ! エルティナ、獣臣合体だ!」

「応! 努力の鉢巻き引き締めて!」


 炎楽が白き鉢巻きへと姿を変えてエルティナの額に装着された。その白い鉢巻きには桃の姿があしらわれている。

 これこそ、炎楽の弛まぬ努力が具現化した【努力の鉢巻き】なり。


「勇気の鎧に身を包み!」


 雪希が赤い武者鎧に姿を変え、エルティナに装着される。これによって彼女は見事な若武者へと変貌した。

 雪希の尽きぬ勇気が形になりしは【勇気の鎧】。たとえ、その身が小さくとも、内に秘めたる勇気は大いなるものなり。


「愛の羽織を纏いしは!」


 子雀が白銀に輝く羽織へと変異しエルティナに装着された。

 うずめの無限ともいえる愛情は、穢れなき白銀となりてエルティナを温かく包み込む。それは、あらゆる困難から大切な者を護る【愛の羽織】なり。


 この獣臣たちを身に着けし者こそ、桃使いの到達点。その名も……。


「日本一の桃太郎っ!」


 エルティナは神桃の枝・輝夜を構えた。そこに生じるは桃力の刃。彼女を彩るは八尺瓊勾玉。神桃剣月光輝夜の降臨である。


「百代目【桃太郎】、エルティナ・ラ・ラングステン、見参っ! 我らが桃使いの神【吉備津彦命】よ! 百代目の戦いを、とくと御照覧あれ!」


 虎熊童子は歓喜する。待ちに待った滅びが、そこに存在するのだ。

 しかし、ただで滅びてやるつもりもない。彼は鬼だ、それも特大級の鬼。鬼の矜持を存分に見せ付けなくてはならない。その名を、相対した者の魂に刻み付けなくてはならないのだ。


 ひり付くのは空気か、それとも両陣の放つ闘気か。そして、その時は訪れた。


「「いざ、尋常に……勝負っ!」」


 止まった時が動き出す。先手は虎熊童子。振りかぶった金棒を躊躇うことなく機械の床に叩き付ける。


「鬼戦技!【振虎緊縛撃しんこきんばくげき】!」


 鬼力を含む振動がエルティナたちに襲い掛かった。直感で跳躍し振動を回避した者、多数。

 しかし、対応しきれず振動によるダメージと拘束を受けた者は、あろうことか指一つ動かせなくなる。この鬼戦技の恐ろしさは、その効果範囲と拘束力にあった。


「続けて、第二技!【振破虎打撃しんはこだげき】!」


 金棒を持たない手の方で【空】を打診、跳躍したエルティナたちが空中で止まる。その姿は、まるで標本にされた昆虫のようだ。


「この、鬼戦技は……野郎、初っ端から!」


 エルティナの脳裏に蘇るのは、木花桃吉郎の残照に託された記憶。瞬間、エルティナは本能的に動いた。


「終の技!【振打終滅拳しんだついめつけん】!」

「桃仙術!【鬼滅桃封陣きめつとうふうじん】!」


 虎熊童子の拳に赤黒い輝きが灯る。そこから放たれるのは台風にも似た荒れ狂う破壊の螺旋。抉れる機械の壁と床。

 明らかなる必殺の一撃を、エルティナは輝ける桃色のヴェールでもって迎え撃つ。それは、明らかに頼りが無い物であった。


 しかし、輝けるヴェールは荒れ狂うものの侵入をことごとく防ぐ。両者が役目を終え、霧散した直後に、虎熊童子に切り掛かる者がいた。ウォルガング元国王である。


「タイガーベアー!」

「ウォルガング・ラ・ラングステン!」


 輝く刀身のが虎熊童子に振り下ろされる。それを、虎熊童子は金棒で受け止めた。


「おまえに奪われたものを……取り戻しに来たっ!」

「ふっふっふ……その怒り、悲しみ、憎しみ……香る! 極上だ!」


 ウォルガングの蓄積してきた感情は熟成に熟成を重ね、虎熊童子に極上のブランデーの香りを思わせた。そして、今こそが狩り時と判断させる。

 しかし、それは同時にウォルガングの限界を突破させる月日でもあった。


「この日を何度、夢見たことかっ!」

「我もだ! 堪えに堪え、熟すのを待っていたのだ!」

「滅びよ! 鬼!」

「贄になれ! 人間!」


 激しい応酬が始まる。煌めく光の刃、それを受け止める金棒からは、火の子が飛び散り二人の周囲を彩った。

 この隙にエルティナは治癒魔法【クリアランス】を行使、緊縛状態にあった者たちの戒めを解く。


 虎熊童子との戦いは始まったばかり、果たして勝利が微笑むのはどちらか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ