757食目 超魔導騎兵ラグナロク
打倒女神マイアスを掲げ、宇宙要塞ASUKA中央コントロール室を目指すエルティナたち。
その突進力、火力、人員も生半可なものではなく、迎撃に来た魔導騎兵はことごとく粉砕、二度と動かないであろう鉄の塊と化す。
「エルティナ! 大丈夫かっ!?」
「もぐもぐ……大丈夫だ、問題ない」
「って、この期に及んで、何を食ってんだよ!?」
「腹が減っては戦はできぬぅ!」
「それは、戦をする前の台詞だろうがっ!」
ダナンは、エルティナの量産型GD・ラスト・リベンジャーの上で魔導銃を連射しつつ呆れた。素早くカートリッジを交換し、迫り来る魔導騎兵を撃ち貫く。
「……結構、進んだ感じだけど……」
「あぁ、こりゃあ、進んでねぇな」
ララァの呟きにエルティナは反応、違和感に同意する。そして、違和感の原因をいち早く見破ったのはヒュリティアであった。
「……エル、空間が歪んでる。これじゃあ、先に進めないわ」
「ヒーちゃん、その歪みに一撃ぶち込めるか?」
「……えぇ」
エルティナの要請に、ヒュリティアが黄金の弓でもって射貫く。光の矢は歪みに飲み込まれて消えた。
「……効果は無いようね」
「ふきゅん、でも、構造は分かった。決まったルートを辿らないと、中央には行けないみたいだ。面倒なことをするなぁ」
エルティナは、にんまりとほくそ笑む脳内の女神マイアスの額に【肉】と書き込んで差し上げた。女神マイアスは、めそめそと泣いて退散する。
「たぶん、全てを喰らう者も対策されているから、慎重に飛び込むしかないな」
「露骨な時間稼ぎですわ」
吸血鬼ブランナは、女神マイアスの小細工に眉を顰める。それを、エルティナは諫めた。
「俺たちに、すぐ来られては拙いことでもあるんだろ。しかし、これは参ったんだぜ」
エルティナは部隊を止め、暫し考えた。そして、今晩は満貫全席だな、と現実逃避する。
「よし、プリエナ、きみに決めたっ!」
「ほぇ?」
エルティナは、ルバールのGD・ラスト・リベンジャーに乗る狸女神プリエナを指名する。ここで、まさかの運頼みである。
しかし、この選択は極めて正しい。プリエナの運は既に強制力とも言えるものへと進化を果たしている。正解のルートを選択するのは当たり前、というインチキじみた剛運を発揮し、着実に中央コントロール室へと接近するだろう。
その様子を女神マイアスは静かに見守っていた。動揺はいまだ収まらないが、冷静さを失うまでには至らなかったようだ。
「まだ……大丈夫、私は諦めないわ。カーンテヒル、あなたもきっと分かってくれる」
それは、自分に言い聞かせる詭弁。女神マイアスも後には退けない場所にまで来ているのだ。数々の命を手に掛け、それでも我を通す彼女に撤退の二文字は無い。
「でも、エルティナ……あなたは、まだ早い。先に消えてもらわなくてはならない者が多過ぎるのだから」
一瞬、女神は俯いた。そして、顔を上げる。そこには、カオス教団の面々。
「女神マイアス、決着を付ける」
「カオスの残照が大きな口を叩く」
女神マイアスは黄金の玉座から立ち上がる。彼女の赤黒いオーラが可視化し、宇宙要塞ASUKAを震撼させた。
「力を取り戻していない不完全なおまえが、この女神マイアスに敵うと思うてか」
「思ってるさ。だから、ここまで来たんだ」
「笑止、私は地上のできそこないとは違うのですよ」
肌を引き裂かんばかりの陰の力が、桃吉郎に危機感を抱かせる。彼女の言うとおり、地上で相対した女神マイアスとは雲泥の差であり、こうして目の前で対峙できていること自体が奇跡である、と感じずにはいられない。
しかし、桃吉郎も退けぬ立場にあり、ここでなんとしても女神マイアスに勝利し、最後の神の欠片を揃える必要があった。
何故ならば、カオス神の復活こそがカオス教団の本懐なのだから。
「憎悪も、哀しみも、カオス神の前では、ただのエサに過ぎん。全てを喰らうことこそ、全てを喰らう者の使命なれば」
「そのために、愛する者をも喰らうというのか」
「……そうだ! そして、自らも喰らい、新しき世界を創造しよう!」
「その、歪んだ理想の押し付けで、私たちは歪んだのだ! それを分かれっ!」
カオス教団と女神マイアスの最後の戦いが始まった。八司祭は桃吉郎の魂に還り力を解き放つ。八頭の大蛇【八岐大蛇】が顕現した。古の女神フレイベクスは八岐大蛇に乗り彼をサポートする。
対する女神マイアスは黄金の玉座のひじ掛けのスイッチを押す。すると、黄金の玉座は、ふわりと宙に浮き上がったではないか。
その後方に控えるのは白銀の巨大兵器、超魔導騎兵ラグナロクの姿。
「ドッキング・シークエンス! 超魔導騎兵ラグナロク……起動!」
開け放たれていた胸部コクピットに黄金の玉座が納まり胸部装甲ハッチが閉まる。命を吹き込まれた古の超魔導騎兵ラグナロクが何億年もの時を経て蘇った。その力に圧倒されるカオス教団。
『こ、これは……!? カオス神様の記憶に残るラグナロクでは……!』
「ウィルザーム、狼狽えるな。これだけ長い年月が過ぎているんだ、アップデートの一つや二つ、あってもおかしくはない」
桃吉郎の推測は正しい。ただ、アップデートは一つや二つではない。何万、何億、何兆もの改良を加えられた【対全てを喰らう者用決戦兵器】として存在しているのだ。
「この子は、もう一人の私の息子。いえ、私自身と言っても過言ではないわ。永遠の孤独の中、この子だけが私を支えてくれたの。共にカーンテヒルを守るためにね」
超魔導騎兵ラグナロクのツインカメラアイが赤く輝く。その両椀は赤黒く輝いた。
「さぁ、超魔導騎兵ラグナロクに抱かれて消滅するがいい! カオス!」
「消えるのは、おまえだ! 歪みし女神……マイアスっ!」
八岐大蛇の八つの首がそれぞれの属性に対応した吐息を吐きだす。いずれも一撃必殺の威力を秘めた死の息吹だ。
しかし、それを超魔導騎兵ラグナロクは腕を前方に突き出し軽々と防いでしまった。これには、流石の桃吉郎も驚愕するほかにない。
「なんだとっ!?」
「不完全な全てを喰らう者が、この子に勝てると思って? 考えが甘いのよっ!」
超魔導騎兵ラグナロクの手が真っ赤に燃えた。規格外のエネルギーが右手に注がれる。
「これが……【シャイニング・フィンガー】というものよぉ!」
禍々しく輝く超魔導騎兵ラグナロクの手が、桃吉郎の八岐大蛇へと迫る。いかに彼とて、この一撃を受ければひとたまりもないだろう。
「やらせないわ……この子は私が護る!」
古の女神フレイベクスが空間に干渉、超魔導騎兵ラグナロクの腕を包み込み、輝ける指たちを別の空間座標へと追いやる。
防ぐことはもとより考えてはおらず、いかにしていなすか、を優先した結果、上手く事が運んだ形だ。
「姉上、感謝っ!」
この隙を逃す桃吉郎ではない。迂闊にも接近戦を仕掛けてきた女神マイアスに、お返しとばかりに八つの頭が襲いかかる。しかし、女神マイアスもこの行動は予測済み。
「ふふ、面白いように誘いに乗ってくれますね」
超魔導騎兵ラグナロクのランドセルから無数の独立砲台が飛び出してきた。その攻撃は全てを喰らう者の能力を宿したもの。
迂闊なのは己の方だ、そう悟った桃吉郎であったが、既に時遅し。
「見え見えなんですよっ! あなた方の行動はねぇ!」
超魔導騎兵ラグナロクの砲撃は八岐大蛇を蹂躙、八つあるうちの一つが千切れ飛んだ。
「ジュリアナっ!」
千切れ飛んだのは雷怒のジュリアナが司る雷の全てを喰らう者だ。それを、超魔導騎兵ラグナロクは輝ける手で掴み握り潰した。
「ふふふ、これが何を意味するか……分かるでしょう?」
「マイアスっ! 貴様っ!」
超魔導騎兵ラグナロクの左腕に雷が纏われる。この光景に残る八司祭に動揺が走った。
『く、喰われたのか……ジュリアナっ!』
『母上っ!』
暴風のデミシュリスと閃光のバルドルは最愛の妻と母を奪われ、明らかに動揺した。
「落ち着け、全てを喰らう者同士の戦いとは、こういうものだ」
「そう、全てを喰らう者の戦いは、どちらか一方を喰らい尽して決着となる。食えば食うだけ有利になるのは理解できるでしょう?」
女神マイアスに支配されたジュリアナは雷の蛇となって顕現、桃吉郎に牙を剥く。そこに、彼女の意志は既になかった。
「喰われたら喰らい返す……行くぞ、おまえらっ!」
桃吉郎の八岐大蛇が超魔導騎兵ラグナロクに突撃した。ほくそ笑む女神マイアス。
「全ては運命のまま……桃吉郎、あなたは、やはり、真なる約束の子ではない」
超魔導騎兵ラグナロクの手刀が残る首を刎ね飛ばす。その際の衝撃で吹き飛ばされたフレイベクスは、その光景に目を見開いたのであった。




