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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
753/800

753食目 援軍来たる

 戦場には、いまだ多くの戦士たちが留まっている。しかし、根性だけでは生き残ることは叶わない。弾薬、エネルギー切れを起こし、宇宙の藻屑と化す者も多かった。

 その戦場を駆ける白い影。鶏鳥人オフォールだ。


 あ、いや、失礼。鷲の鳥人だった。これは、うっかりである。


「弾薬欲しいヤツはいねがぁぁぁぁぁぁっ!?」


 まるでナマハゲのように声を掛けながら、戦場を光速で駆け回る姿はなんの冗談か。

 そして、彼はここが宇宙であることを理解して走っているのであろうか。小一時間ほど問い質したいところであるが、それが叶わないことは私も理解している。


『おい、オフォール! あんまりG・ラックから離れるなよっ!』

『単独行動はよくないです、ぷるぷる』

「分かってる!」


 オフォールは。ケイオックが操るトラック型のGD・ラックから離れ過ぎだ、と警告される。そのような事は彼も理解しており、返す言葉も少しばかり怒りが含まれていた。

 周辺に漂うかつての仲間を見れば、彼の急く気持ちも理解できよう。


「ちくしょう……ここは、地獄だ」


 彼の視線の先には宇宙要塞ASUKAに突入する、いもいもベースの姿。そして、そこから次々に飛び出してゆく仲間たちの姿があった。


「あ? なんだ? あんな行動、予定にあったか?」

『オフォール! ダナンから報告! 俺たちは、いもいもベースに乗り遅れた仲間を連れて月へ向かえって!』

「あ!? なんだよそりゃっ! 俺たちを馬鹿にしてんのか! いくら、戦力が乏しく起って、モモガーディアンズの一員なんだぞ!」

『ぷるぷる、落ち着いてください、オフォール。今、自由に動けるのは私たちだけなんです』

『そうだぜ、月に送りさえすれば、連中も治療と補給ができる! G・ラックだって無補給で動けるわけじゃないんだ!』

「……くそったれ、了解だ」


 オフォールは己の力の無さを嘆く。私からしてみれば、魔導騎兵の熱光線に焼かれても無傷な彼が力不足とは到底思えない。

 緑服の少年剣士が活躍する世界の最強生物のようなヤツが戦力外とは世も末である。


 吐き捨てるように了解したオフォールは、戦場に残る戦士たちをGD・Gラックへと誘導を開始。多くの戦士たちの命を救う事になる。

 この時、彼らは気付いていなかった。この行動こそ、後の奇跡を起こす事に繋がると。


 白い鶏だか鷲だかわけの分からない鳥人……いや、人ですら無い何かは黒き空間をひた走る。多くの命を救わんがために。






「いもいもベース、到達ゴールしたか」

「主様、もういいのでは?」

「そうだな、ベルゼブブ。俺たちは誠司郎の下へ向かう。どうも彼女プリンセスは、のんびり屋のようだからな」


 一度も帰艦せず、戦場に留まり続けたガイリンクードは、いもいもベースが宇宙要塞ASUKAに到達したことを確認し、いまだ到着しない超機動要塞ヴァルハラへと向かう。


「(このままじゃあ、エルティナは女神くそったれに勝てない。誠司郎はんしんが必要だ)」


 ガイリンクードは、何故、誠司郎に執着したかがようやく理解できた。

 彼女の覚醒が先になってしまったが、最終局面で覚醒を果たした彼は、彼女との関係をハッキリと理解したのだ。


「やれやれ、どこまでも因果だな。光と闇が合わさり最強に見える、だったか?」

「ケケケ、エルティナの嬢ちゃんの決め台詞だな」

「まさか、それをおこなう事になろうとはな」

「んあ? 主様、その姿、意外と気に入ってた?」

「ふん、十八年もこの姿でいれば愛着も湧く」

「ケケケ、俺もその姿の主様が好きだぜ」


 悪魔レヴィアタンは、悪魔王サタンガイリンクードに寄り添い、束の間の安らぎを得る。それを邪魔するのは他の大悪魔六名。この時ばかりはレヴィアタンも、自分以外は永遠に封印されたままでいればよかったものを、と思わずにはいられなかったとか。






「ぐっ! こ、この程度っ!」

「フウタっ! 無茶だ! 一度、退け!」

「退けったって……アルフォンスさん、もう、戻る場所なんてないですよ!」


 副長の亡骸を抱えたフウタが魔導騎兵を切り捨てる。激化の一途を辿る戦場に、歴戦の戦士たちはその屍を晒した。

 情報は混乱し、同士討ちが始まった、という誤報さえも飛び交っている。


「取り敢えず、後ろにさがりゃあいい! なんとかなるだろ」

「そんな適当な」

「こういう時こそ、適当でいいんだよっ!」


 アルフォンスは残された魔力を使って六本の風の大剣を創造する。魔力枯渇による意識の断絶をなんとか堪え、フウタと共に戦場の一時離脱を強行する。


「そいつは置いて行け!」

「し、しかしっ!」

「死者が生者を道連れにするのは、そいつも本望とは思えんがね!」

「……くそっ!」


 フウタはアルフォンスに説得され、副長の遺体を手放す。彼の遺体は追ってきた魔導騎兵に向かって流れていった。


「くそったれ! 連中の方が早い! このままじゃあ、追い付かれちまう!」


 アルフォンスのGD・ラングスはスラスターは破損しており、本来の速度を出す事ができなかった。フウタのGDも同様であり、寧ろ今まで生き残っていたのが不思議なくらいだ。


 このままでは追い付かれることは明白、アルフォンスが風の大剣の一本を使用して魔導騎兵を撃退しようとした矢先、不思議なことが起った。


 アルフォンスたちを追ってきた魔導騎兵、それに向かって流れて行った副長の遺体の手にしていた魔導光剣が独りでに作動し光の刃を形成、魔導騎兵と相討ちになる形で突っ込んだのだ。


「ふ、副長っ……!」

「あいつも、俺たちに生きろってさ」


 副長が生きていたわけではない。彼は完全に息絶えていた。これは、魔導光剣の誤作動による事故だ。

 しかし、窮地に陥っていた彼らには、死せる副長が生ける彼らを救うべく起こした奇跡に捉えられた。


「いくぞ、フウタ。俺たちは。まだ死ねない」

「……はいっ!」


 彼らは行く、逃げ場などない戦場を。その行く先に待ち構えていた者は、果たして戦友の疲弊した姿であった。


「よぉ、ご両人。仲良くデートかい?」

「冗談は顔だけにしろよ、ガッサーム」

「なんで妻子がいるのに中年同士、しかも同性でデートしないといけないんですか」

「付き合いが悪いねぇ、疲労困憊で絞り出した渾身の冗談じゃねぇか」


 そんな軽口を叩いたガッサームであったが、彼は既に瀕死の状態だ。右足、左腕は失われ、腹には大穴が開いている。アルフォンス、フウタからしても、彼はもう助からないだろう、と理解できた。


「さて、お客さんが来なすった。邪魔だから、とっとと行っちまいな」

「ガッサーム……また【会おう】」

「……へっ、やなこった。当分、会いたくもねぇから【来るんじゃねぇ】ぞ」


 そう言い残し、ガッサームは壊れかけたGDのスラスターを吹かし、魔導騎兵の一団へと突撃する。その姿を見届けることなく、アルフォンスとフウタはその場を離脱。

 直後に大爆発が起った。その爆発が何を意味するのか。彼らはひたすらに前を向き、戦場の離脱を試みる。


 かつて経験した魔族戦争が子供だましのように思える、と二人は感じた。それは、正しい。多くの友が失われ、また自分たちが生かされる。それは、死よりも辛い責め苦だ。


「俺たちは……生きる」

「生きて、生き抜いて、仲間たちの想いを繋ぐ」


 その言葉は自分に言い聞かせるもの。そして、死に向かおうとする意志を繋ぎ止める縄だ。


「でも、俺たちはどこに向かえば……」


 フウタの呟きはアルフォンスにとっての呟きであった。そんな彼らの視線の先に光。


「あ、あれは……!?」


 それは、何隻もの宇宙戦艦であった。所属は不明。そこから、やはり正体不明の戦闘兵器が出撃、魔導騎兵と戦闘を開始し始めた。

 その内の一機がアルフォンスたちの下へと接近、コンタクトを試みる。


『kじfヴぃslこfv……あー、あー、ことばが、つうじるか?』


 最初こそ何を言っているか理解不能であったが、やがてアルフォンスたちが理解できる言葉へと変わってゆく。自動翻訳機であった。


『我々は惑星ティエルからやってきた【ティエル宇宙連合艦隊】だ。地球のオーディン殿の盟約に従い、貴官らと共闘する所存だ』

「味方……と思ってもいいのか?」

『その考え方で正しい』


 顔を見合わせ頷き合ったアルフォンスとフウタは、援軍を名乗る戦闘兵器に身を委ねた。抵抗したところで無駄だろうし、何よりも先方は味方である、と意志を示していた。


 長高五メートルの人型戦闘兵器は二人を連れて、己の母艦へと帰艦する。その光景に超機動要塞ヴァルハラのオーディンは安堵を覚えた。


「間に合ってくれたか……他の艦隊連合はどうか?」

「現在、全速力でこちらの宙域に向かっております」

「よし、反撃に転じるぞ! モモガーディアンズが切り崩した敵陣を目指せ!」

「桃太郎たちはどうしますか?」

「捨て置け」

「いや……しかし」

「ヤツらには、ヤツらの戦いがある。我らが口を出すべき問題ではない」

「……了解です」


 オペレーターを黙らせたオーディンは、ようやく超機動要塞ヴァルハラを前進させる。鬼と戦闘中の桃太郎たちを迂回しての前進だ。


「(ゼウス……裏で動いていたのは、おまえだけではないのだよ。ようやく、おまえの思惑が読めたわ)」


 オーディンは親友ゼウスを裏切っていたのか、果たしてそうではない。ではゼウスはどうか、それも違う。

 彼は自らが苦難の道を征き、友を導かんとしていた。


「(どこまでも、不器用な男よな。何故、助けてくれ、と言えなんだか)」


 オーディンは、今回の終末がただ事ではないことを雰囲気的に察していた。それは、女の全てを喰らう者が誕生している時点でも理解できていた。


「高エネルギー反応! 宇宙要塞ASUKAから超巨大砲門出現!」

「……ちっ、やはり出してきたか。対カオス決戦兵器【ジャッジメント】」

「目標は惑星カーンテヒル! 射線軸に本艦もあります!」

「目的は惑星カーンテヒルに住まう者の命を回収することか。やり口がえげつないな」


 オーディンはかつて体験した終末を思い出す。全てを喰らわれる前に喰らい尽し、カオス神を倒すだけのエネルギーをカーンテヒルに与えた暴挙を。それを、今度は自らに施そうというのだ。


「全軍、ここが正念場ぞ。対カオス決戦兵器【ジャッジメント】を、なんとしてでも破壊せよ」


 超機動要塞ヴァルハラは一歩も引かぬ姿勢を見せた。これに、ティエル宇宙連合艦隊が呼応する。集結した艦は三百隻にも及び、搭載した機動兵器は一万近くに及んだ。


 こうして、全ての星々の戦士たちを巻き込んだ最終戦争は更なる混沌を生み出す。その果てに、戦士たちは何を見ることになるのだろうか。

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