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食いしん坊エルフ  作者: なっとうごはん
第十九章 鬼退治
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752食目 爆炎の別れ ~最後の出撃~

 遂に鬼の四天王・金童子を退治したプルルと熊童子であったが、一斉の感情は浮かんでこなかった。そこにあるのは空虚な心。彼女たちは心の支えを失ったのだ。

 唯一の肉親、その喪失は彼女たちに計り知れないダメージを与えている。しかし、状況は、そんな彼女たちに過酷な現実を知らせた。


『そっちは終わったのかしら?』

「ユウユウ……」

『なら、すぐにこちらに合流なさい。鬼たちが妙な事になってるのよ』

「なんだって?」


 ユウユウの知らせによれば、眠りに落ちたはずの鬼たちが変異し凶暴化。その力は鬼の四天王に匹敵する、とのこと。これは女神マイアスの干渉であることは言うまでもない。

 鬼には強烈な自我が存在する。その状態となれば、いかに女神マイアスとて干渉することは叶わない。

 しかし、自我を失った状態であればどうなるか、答えはユウユウたちの目の前にあった。






「うふふ、私からのプレゼントは気に入ってくれたかしらね?」


 女神アイアスは、強化した鬼に蹂躙される桃太郎たちの姿を巨大スクリーンで観賞していた。鬼との一騎打ちで活躍した二十代目桃太郎の首が、無残にも刎ね飛ばされる凄惨な場面が映し出される。


 しかし、女神マイアスは表情一つ変えることはない。何故ならば、それは定められた結果の一つに過ぎないからだ。


「結果が分かっている戦い、というものも滑稽極まりないですね。全ては私の手の平で起る茶番劇……視ているのでしょう、観察者」


 女神マイアスは虚空を睨み付けた。それは筆舌にし難い表情だ。


「おまえたちの好きなようにはさせない……未来は私が決める。例え、いかなる犠牲を払おうとも、全ての憎しみを私に向けられようとも!」


 それは凄絶極まる覚悟、彼女は何者かに抗っていた。悠久とも言える年月を、そのためだけに費やしてきたのだ。そして、世界が終わりを迎える今、最大にして最後の機会を迎えていた。


「これで、最後にする。もう、失うのはこりごりなのよ……!」


 女神マイアスの嘆き、それは自分に残る良心を吐きだす最後の儀式。こぼれ落ちる滴が彼女の膝を濡らした時、そこには与えられたプログラムを果たすだけの女神の姿があった。


「宇宙要塞ASUKA、最終プログラム発動。最終兵器【ジャッジメント】起動」


 女神マイアスの命令によって、宇宙要塞ASUKAから超巨大な砲台が姿を現す。その光景を目の当たりにしたモモガーディアンズたちは、ただ事ならぬ事態と判断。


「なんだありゃ!?」

「ふきゅん! でけぇ大砲だな……」


 そこまで言ったエルティナが、砲台に注がれるエネルギーを感知し嘔吐した。


「ちょっ!? どうした、エルティナっ!」

「な、なんてもんを大砲に注いでやがる! あれは、エネルギーなんて言えるもんじゃねぇ!」


 それは、濃厚な【死】であった。それは、芳しき【滅び】であった。全ての命が畏怖するエネルギーを熟成させ、濾過し、不純物を配した【至高の死】。それを砲台から撃ち出さんとしているのだ。


「モモガーディアンズ! アレを撃たせるなっ! 出れる者は全員出ろっ!」

「無茶を言うな! もう、いもいもベースはASUKAに取り付く態勢なんだぞ!?」

「あれを破壊しないと、生きとし生ける者が死んじまう!」

「なんだって!?」


 ダナンはエルティナの説明に絶句する。それを肯定するようにトウヤが細かな説明を付け加えた。


「エルティナの言っていることは事実だ、我々は選択を迫られる」


 それは、本来モモガーディアンズを集結させる案を破棄して、砲台破壊にメンバーを割くというものだ。

 これをおこなえば戦力は激減し、最悪作戦は失敗に終わる可能性がある。


「エルティナ……どうするんだ?」

「答えは変わらねぇ。俺たちは命を守るために命を張ってんだ」

「そっか……そうだよな」


 ダナンは力無い笑みを返す。そして、パンパンと自分の頬を数度叩き、気合いを入れ直した。


「おまえら、聞いたな? 出れるヤツは出てくれ! 突入は予め決まっている面子でおこなう! 頼んだぞ!」


 ダナンはエルティナの命令に変更がない事を告げた。戦士たちは疲れ果てた身体を鼓舞して再び宇宙へと飛び立ってゆく。その中には、これが最後の出撃になるであろう、と確信している者もいた。






「桃吉郎様、船がもう持たないようです」

「そうか……よく俺たちをここまで運んでくれた。宇宙戦艦つくし三十番艦、感謝する」


 崩壊する最後の宇宙戦艦つくし、希望の芽は確かに希望を送り届けた。崩壊しつつ、魔導騎兵の発着所へと突入、大爆発を起こしドック内の魔導騎兵を全て破壊せしめる。


 その爆炎を食らい、カオス教団が威風堂々と姿を現す。その表情は決意に満ち満ちた顔ばかりだ。


「皆、長き苦しみに耐え、よくぞここまで来た。今こそ歪みし世界を正す時」


 誰一人として言葉を口にする者はいない。する必要がないからだ。


「カオス神の導くままに! いざ、出陣っ!」


「応」とういう掛け声と共に、カオス教団最後の戦いが幕開ける。泣いても笑っても最後の戦いだ。

 宿敵、女神マイアスまでの道は既に開けている。あとは、戦い勝利し、真なる約束の日を迎えるのみ。


「これで最後だ……これでっ!」


 迫り来る魔導騎兵を赤黒い大蛇で喰らい尽した木花桃吉郎は、真っ直ぐに女神マイアスの下を目指す。しかし、それは女神マイアスの思惑通りの行動であった。






『いもっ! いももっ!』


「いもいもベース、被弾! コントロールが効かないっ!」

「ふきゅん! なんとしてでも宇宙要塞ASUKAに取り付かせろっ!」

「……ダナンっ! 右前方に発着ドック……!」


 戦士たちの大半が【ジャッジメント】破壊に向かっているため、いもいもベースは既に丸裸同然であった。それでも前進を止めない。

 宇宙を飛ぶ巨大芋虫は満身創痍となりながらも、遂に宇宙要塞ASUKAに辿り着いたのであった。


 被弾ヶ所から炎上する、いもいもベース。もう、彼が宇宙に飛び立つことはないであろう。


『いもっ!』


 自分の死期を悟った、いもいもベースは戦士たちの退艦を促した。その声にエルティナたちは涙を流す。いもいもベースとて戦友の一人であるのだから。


「ありがとう、いもいもベース。俺たちは、おまえの事を決して忘れない」


 いもいもベースに乗艦していた全ての人員はカタパルトデッキに全員集合、そこにはドクター・モモによって製作された、量産型のGD・ラスト・リベンジャーが、ずらりと並んでいた。

 これに乗って女神マイアスの下を目指すことになる。


「まさか、再びおまえに乗る事になろうとなは」


 無論、幼き頃にエルティナを支えた、オリジナルのGD・ラスト・リベンジャーはいない。ここにあるのは、彼の遺したデータを元に建造された弟たちだ。


 しかし、彼らは己を誇っていた。兄同様にエルティナを送り届ける使命に。だからこそ、己の存在の全てを賭けて任務に当たる。


「エルティナ! 全員、搭乗完了だ!」

「あぁ、行こう。全てを終わらせるために」


 エルティナは、ダナンの促しに頷く。最早、いもいもベースに残る者はいない。彼との今生の別れは間近に迫った。


『いもっ!』


 いもいもベースの口が開かれ宇宙要塞ASUKAの内部が視界に入る。魔導騎兵の姿は見えない。出撃するなら今を置いて他にない。


「目標、女神マイアス! モモガーディアンズ、出撃!」


 一機、また一機と戦士たちを載せたGD・ラスト・リベンジャーたちが、カタパルトデッキを後にする。

 そして、最後にエルティナが量産型GD・ラスト・リベンジャーを身に纏い、タンク形態へと移行。ダナンたちブリッジクルーを載せて出撃する。


「エルティナ・ラ・ラングステン! GD・ラスト・リベンジャー! 出撃でるっ!」


 それは、絶叫だった。それは嗚咽だった。


 エルティナのGD・ラスト・リベンジャーが、いもいもベースから最後の出撃を果たす。いもいもベースは、その後姿を見送った。


「さようなら……いもいもベース」


 エルティナの絞り出すような声の後、いもいもベースから爆発が起った。


『いもっ……』


 それは別れの言葉だった。役目を終えた巨大芋虫は炎の中へと姿を消してゆく。


「沈む……俺たちの帰る場所が……」

「……いもいもベース……ありがとう……無理をさせて……ごめんね……」


 ダナンとララァは、いもいもベースの最期をエルティナの代わりに、目に、魂に焼き付ける。こんな戦いはもう終わらせる、その決意を新たにし彼らは決戦の場へと向かった。


 そんな彼らの前には、おびただしい数の魔導騎兵。しかし、もうエルティナを抑えつける枷は無い。


「今日の俺は凶暴だぞ、おるるぁん!」


 量産型GD・ラスト・リベンジャーの砲門が咆哮を上げる。それは戦士たちの雄叫びであった。

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